東京大学で入札前に不正、という内閣府の不思議な判断についての解説です。申し立てを行った会社が、自らの社員を訴えるという理解できない背景がありました。さらに、それを入札不正と判断した不思議な内閣府の判断です。過去を見ない意味不明の判断です。
東京大学で入札前に不正?
2013年1月、Yahooのニュースサイトで、東京大学で入札前に不正、との記事が掲載されました。
Yahooのニュースから抜粋
東大、入札前に不正 国先端研究ソフト、業者に仕様相談
朝日新聞デジタル 1月17日(木)8時59分配信
文部科学省が進める先端研究プロジェクトのソフトウエアの入札を前に、調達機関の東京大学が、応札する業者側の技術者を発注仕様書の策定に関与させていたことが分かった。朝日新聞の取材に対し、この技術者は事実関係を認めた。利害関係企業からの仕様書に関する助言を禁じた政府調達協定に反しており、内閣府政府調達苦情検討委員会は17日にも、東大に契約破棄を含む厳しい提案をするとみられる。
同委員会は世界貿易機関(WTO)の「政府調達に関する協定」の発効に伴い、1995年末に設置された。今回、不正競争の実態を詳細に認定するとみられ、極めて異例の事態だ。
問題となったのは、総予算23億円のプロジェクトの一部で、東大が昨年4月に入札を公告した「大規模第一原理電子状態解析ソフトウエア(PHASE)の最適化」事業。リチウム電池などの実用化に必要なシミュレーションソフトの開発で、ソフトウエア会社のV社が約2800万円で落札した。
この記事だけでは事実関係と詳細が不明です。さらに朝日新聞の紙面記事では次のような経緯でした。(私は、直接の関係者でなくニュースで知りました。事実が不明のため一部推測も含めて記載しています。)
入札不正と報道された経緯
問題とされた入札は、2012年4月に入札公告が掲載された、大規模第一原理電子状態解析ソフトウエアです。
入札前(2012年2月頃)に、東大の担当研究員が、入札に参加する会社側へ発注仕様書の事前チェックをメールで依頼したことが問題の原因らしいです。東大の担当研究員は、前年度まで4年間受注してきたA社の技術者でした。
A社の技術者チームは、2012年春にA社を移籍しV社へ出向しました。落札した会社はソフトウェア会社のV社(2800万円で落札)でした。
2012年9月、A社は自社のメールやり取りを調査、A社は苦情検討委員会に、東大側と業者側で談合があったとして申し立てました。
問題発覚のきっかけは、東大の研究員とA社技術者との間で交わされた電子メールです。これは社内調査でしかわからないものです。
A社は内閣府へ申し立てを行う前、9月に東大の契約担当部署へ指摘していたが、何の連絡もなく東大の対応に不透明な面があると考え、10月に内閣府へ苦情を申し立てたとのことです。
逆に言えば、東大の契約実務担当者が適切な対応を行なっていれば問題にならなかったことかも知れません。
まず今回の報道は、朝日新聞で3面と社会面に大きく掲載されています。「東大、入札前に不正」、「東大と業者、なれ合い」という大きな見出しになっていることから、朝日新聞は不正として報道しています。
入札の、どの部分が不正か
では、どこが不正に該当するのでしょうか。
今回の契約「大規模第一原理電子状態解析ソフトウェア(PHASE)の最適化 一式」は、下記にも記載してありますが、政府調達契約(1,200万円以上の国際入札)として、一般競争入札を実施しています。
一般競争入札なので、入札公告が一般公開され、誰でもが入札に参加することができます。競争の機会が十分に確保されている契約手続きです。
朝日新聞の記事は、政府調達協定に反していると記載されています。
政府調達協定を確認します。
「政府調達に関する協定」の抜粋
第六条 技術仕様
4.機関は、特定の調達のための仕様の準備に利用し得る助言を、競争を妨げる効果を有する方法により、当該調達に商業上の利害関係を有する可能性のある企業に対し求め又は当該企業から受けてはならない。
第七条 入札の手続
2.機関は、いかなる供給者に対しても、特定の調達に関する情報を競争を妨げる効果を有する方法によって与えてはならない。
政府調達に関する協定では、競争を妨げる効果を有する方法によって情報交換してはならないと明記されています。
つまり最初から、特定の企業を落札させる意図で、実質的な競争の機会を確保せずに入札を形骸化することを禁止しているのです。
賄賂を受け取って入札に関する情報を漏洩させれば、明らかな法律違反ですが、入札公告を掲載し、競争の機会を確保している入札であれば問題ないはずです。
今回の問題点が曖昧で、詳細が不明なまま報道しているとしたら如何なものかと思います。
不思議な申し立て
さらに、今回の申し立てが不思議です。
A社が談合として申し立てていますが、談合したとされる技術者は、もともとA社に所属していた技術者です。
東大の最先端の研究を受注する技術者ですから、相当高度な専門知識を持つ技術者です。A社にとっては、その技術者自身の頭脳こそが会社の財産だったのではないでしょうか。
その技術者が、A社から別の会社へ移籍してしまい、その出向先のV社が今回の契約を落札したのです。
独断と偏見に過ぎない推測ですが、A社は技術者を引き抜かれて、東大との契約も取られ、その腹いせに自ら社内のメールを調査し談合したと申し立てしたのではないかとも読み取れます。
そもそも今回の契約は一般競争入札なのですから、十分な技術力と価格競争力を有していれば、A社が落札できたはずです。今回の入札を不正と判断するなら、過去に4年間も落札している契約も問題になるはずです。過去の契約を見ずに今回だけ不正と判断するのは不思議です。
詳細が不明な報道ですが、もう少し具体的な記述を期待したいものです。
内閣府の政府調達苦情検討委員会の判断です。

以下は実際の入札関係の抜粋 ネットで検索した結果です。
入札公告の抜粋
入 札 公 告
次のとおり一般競争入札に付します。
平成24年4月16日
国立大学法人東京大学総長
◎調達機関番号 415 ◎所在地番号 13
○第6号
1 調達内容
(2) 購入等件名及び数量
大規模第一原理電子状態解析ソフトウェア
(PHASE)の最適化 一式
(4) 履行期間 平成24年6月28日から平成25年
3月21日
3 入札書の提出場所等
(4) 開札の日時及び場所 平成24年6月27日15
時00分 東京大学本部棟3階入札室落札者等の公示
○国立大学法人東京大学総長 (東京都文京区本郷7-3-1)
②大規模第一原理電子状態解析ソフトウェア(PHASE)の最適化 一式 ③購入等 ④
⑤24.6.27 ⑥V社 ⑦27,972,000円
⑧24.4.16 ⑪総合評価
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