官公庁が必要とする見積書は2種類、見積もり合わせの方法と根拠法令

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官公庁の会計実務で必要になる見積書についての詳しい解説です。見積書の正しい知識、参考見積書との違い、見積書の法的な役割、見積書の依頼方法、見積書のチェック項目、見積もり合わせ等をわかりやすく詳しく解説します。

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見積書の正しい知識

 

官公庁の契約実務担当者向けの解説です。民間会社に対して見積書の提出を依頼する方法を詳しく説明します。

 

官公庁などの公的組織で契約実務を担当すると「見積書」(みつもりしょ)を取り寄せる仕事を任せられることがあります。契約手続きの基本となる仕事です。

 

そもそも「見積書」とは何でしょうか、どのように取り寄せ、どのように事務処理するのが正しいのでしょうか。

 

官公庁の契約手続きは会計法令等のルールに基づく処理が必要です。そしてルールについて正しい基礎知識を持っていることが重要です。十分に理解しないまま書類手続きを進めてしまうと、後に様々な矛盾や問題点が指摘され、運が悪いと公費の不正使用という事件に巻き込まれる恐れさえあります。

 

見積書と参考見積書

 

見積書はその使用目的によって大きく2つに分類されます。

 

契約手続に必要な「見積書」と予算要求を行なうときに参考資料として必要な「参考見積書」です。両方とも、日常業務の中では単に「見積書」と呼ばれていますが全く別物なので注意が必要です。「参考見積書」については後半で説明します。

 

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見積書は「契約の申込み」

 

最初に契約手続きに必要な「見積書」の解説です。

 

民間会社と契約を締結するために取り寄せる「見積書」は「契約の申込み」という位置づけになっています。契約実務担当者が契約を締結する前に取り寄せた「見積書」は、民間会社から提出された「契約の申込み」です。

 

当たり前の話ですが日本は法治国家です。契約(当事者の合意により成立)については民法で明確に定められています。

 

「契約の申込み」について民法を確認します。

 

民法 第二章、第一款 契約の成立

第五百二十一条  承諾の期間を定めてした契約の申込みは、撤回することができない。

 

この民法第五百二十一条により「契約の申込み」に対して「承諾」することで契約が成立します。日本の民法では当事者の合意によって契約は有効に成立し、文書の取り交わしや契約書の取り交わしを必要としません。契約に関する書類がなくても口頭でのやりとりで合意すれば契約が成立します。

 

ただし会計法が適用される国との契約の場合は、契約書の取り交わしが義務付けられているもの(150万円を超える契約、予決令第100条の2)は、契約書に記名押印しなければ契約は確定しません。(会計法第29条の8第2項)

 

会計法
第二十九条の八  契約担当官等は、(略)契約書を作成しなければならない。

2  (略)契約書を作成する場合においては、契約担当官等が契約の相手方とともに契約書に記名押印しなければ、当該契約は、確定しないものとする。

 

契約書の記名押印前(確定前)は、部分的に契約が成立している状態です。

見積書の依頼方法

 

次に見積書の依頼方法を具体例で説明します。

 

官公庁側(発注者)

 

ノートPCを1台購入する計画で内容を検討し機種を決定しました。メーカーと型式が決まったので、契約手続きのために販売会社へ見積書の提出を依頼します。

 

電子メールで次のように依頼します。あるいはFAXや電話でも同じです。

 

見積書依頼のメール例

○○○○株式会社
○○営業部
○○○○ 様

いつもお世話になっております。
○○省○○局○○課契約係の○○です。
私どもでは、次の物品の購入を計画しています。

 

今回は、御社の他にも数社、見積書の提出をお願いしています。提出頂いた見積書のうち、最も安価な金額を提示して頂いた方と正式に契約を締結する予定です。

 

つきましては、ご多忙中恐縮ですが、平成○○年○○月○○日(火)までに見積書の提出をお願いできますでしょうか。

なお、お手数ですが、受信確認のため本メールに返信(受信した旨の記載のみ)頂けますと幸いです。

 

購入物品の内容等

品名
ノートPC
型式(規格)(メーカー)製  ○○型

数量 ○台
納入期限 平成○○年○月○日( )
納入場所 ○○省○○局3F○○事務室

代金支払い条件 納品検査完了後、適法な請求書を受理してから2ヵ月以内に1回で支払う。

納入に必要な経費(運搬設置費)も見積金額に含めてください。

消費税は見積金額に含めて記載し、消費税額を区分表示してください。

例 本体 1,000円 消費税額50円 合計金額1,050円など

また、勝手なお願いで恐縮でございますが、見積書の提出にあたり、手数料などの作成費用が必要であれば、今回の提出は結構でございます。見積書作成費用無料での提出をお願いします。

以上、よろしくお願いいたします。

○○省○○課 契約係 担当 ○○ 電話○○

 

見積書の提出依頼は、正式契約の前段階の手続で「契約の申込みの誘引」です。見積書が「契約の申込み」なので、それを誘う行為として位置づけられています。入札公告も「契約の申込みの誘引」です。

 

また見積書の提出依頼を行うとき、依頼する内容を「仕様書」という形式で詳細に作成することもあります。(上記は単純な内容なのでメール本文に記載した依頼例です。)

 

見積書の様式は会計法令等で定められていません。通常の営業取引で使用しているもので差し支えありません。しかし次の内容を含んでいるか見積書を受け取った時にチェックが必要です。

 

見積書の日付を確認

 

一般的には見積書の右上などに○○年○月○日と日付が記入されていれば問題ありません。

 

見積書の有効期間が別に記載されている場合、上述した民法の規定から日付が重要になります、さらに見積書の日付は契約締結年月日に関係するので必須です。

 

会社名と社印、代表者印を確認

 

会社名(法人名)
会社の住所
会社の連絡先
代表者の役職名
代表者の氏名
会社印と代表者印

 

これらは必須の記載事項です。

 

特に注意が必要なのは代表者の役職です。法人のトップ(代表取締役社長など)として、契約権限を有している者であれば問題ないのですが、部長や課長、支店長などの場合には契約権限を確認する必要があります。

 

見積書作成者に契約権限があるか確認

 

法人として契約行為が可能な者は法人の長であるトップの人です。

 

それ以外の部長や課長などの場合には、契約権限を有しているかどうか、代表者(社長)から委任状を提出してもらい確認する必要があります。

 

かなり昔の事例ですが、ある会社の部長が詐欺を目的として、社長の了解を得ずに部長名で請求書や納品書や見積書を官公庁へ提出し、代金を横領した事件がありました。その会社は部長の詐欺を知らずに、後に官公庁へ正式に社長名の請求書を提出しました。官公庁側は代金を二重に支払わざるを得なくなりました。

 

当時の官公庁側の会計実務担当者が、社長から契約権限が委任されたかどうか確認せずに部長名の請求書に基づき支払いしたため、官公庁側に過失があるとの判断がなされました。

 

民法上の「表見代理」(普通に考えて会社の代表権を有しているだろうと誰もが信じる、という意味です、詳しくは民法第109条参照)が成立しない事例だったようです。

 

このような不幸な事例は宝くじ1等連番に当たるぐらいの確率で生じる出来事です。

 

支店長の場合は、通常、支店の業務範囲の契約権限を有しているので、社長から支店長に対する委任状がなくても表見代理が成立するので問題ありません。しかし部長や課長の場合は、正式に社内で契約権限を有しているかどうか確認するために委任状の提出を依頼する必要があります。

 

部長や課長は、誰が見ても会社のトップではないので、契約権限についての委任状を提出してもらい確認するのが正しい事務処理です。

 

見積書の社印と代表者印

 

会社印のみ、あるいは代表者印のみの場合はどうでしょうか。

 

官公庁は契約の財源が国民の税金であることを考えれば、より慎重に、正確な事務処理を行う必要があります。会社印のみ、あるいは代表者印のみの場合、まずは会社の営業担当者へ両方の押印(会社印と代表者印)を依頼する必要があります。

 

押印を依頼した結果、その会社から民間会社同士の取引でも、片方の印鑑のみを用いているとの申し出を受けたときは、実際の取引の写し、可能なら官公庁を相手とする他の取引に使用した見積書などの写しを提出してもらい確認します。確認した内容などをメモ書きして支払書類に保存しておくことが重要です。

 

見積書のあて名を確認

 

あて名は「○○省○○機関 御中」などの法人名を書いてもらいます。

 

発注担当者の個人名を記載してしまうと、公的組織として依頼したものでなく個人で買おうとしたプライベートなもの(公私混同)と疑念を抱かれてしまいます。組織の名称を宛名とするのが原則です。

 

事務処理上、担当者の個人名を入れる必要があれば「法人名 ○○省○○機関」の下欄に(担当 ○○課 ○○様)などと()書きで記入してもらいます。

 

見積書の内容記載例

品名、型式、数量、単価、金額、消費税額を明記してもらいます。オープン価格は別ですが、定価と値引き額が判明するよう表示してもらいます。後日、見積もり合わせを行なう時に必要なデータとなります。

 

見積書の記載例

ノートPC ○○社製 ○○型 定価100,000円
値引き額          △  30,000円
本体価格(税抜)         70,000円
消費税(5%)           3,500円
合計(税込)           73,500円

 

定価と値引き額を明示してもらうのは、見積もり合わせで他社と価格を比較するときに、定価が同一かどうか(同じ条件か)確認するためです。

 

同一の製品なのに、複数社の見積書を取り寄せたところ定価が異なっていた場合は、内訳の問い合わせを行います。まれに営業担当者が気を利かせて、余計なオプション品などを含めてしまうことがあります。そうなると比較するベースが異なってしまい同一条件での比較(価格競争)ができなくなってしまいます。

 

見積もり合わせの実施方法

 

2社以上の見積書を取り寄せ比較検討することを「見積もり合わせ」と言います。厳密には「見積もり合わせ」と「合見積書(あいみつもりしょ)」は全く違う意味ですが現在は同一に扱われています。

 

上述の方法で複数の会社(3社程度)へ見積書の提出を依頼し、比較検討した結果、最安値の会社を契約の相手方として決定することを「見積もり合わせ」と言います。

 

見積もり合わせの根拠法令、見積書の根拠法令

 

官公庁が見積書を必要とする根拠法令と見積もり合わせの根拠法令です。

予算決算及び会計令

第九十九条の六  契約担当官等は、随意契約によろうとするときは、なるべく二人以上の者から見積書を徴さなければならない。

 

契約手続きで見積書が必要となるのは随意契約のみです。一般競争契約や指名競争契約は見積書ではなく「入札書」になります。

 

見積もり合わせの結果、3社のうち最も安価なA社に決まったとします。

 

B社、C社へ、御社は高かったから違う会社と契約することを伝えなければなりません。

 

見積もり合わせの結果通知

 

この時に注意が必要なのは連絡をする順番です。

 

見積もり合わせの結果を各会社へ連絡するときは、最初に不合格となった会社へ連絡し、最後に合格した会社へ連絡します。この順番が大切なのは、万が一、不合格となった者からクレーム等(錯誤などの理由で再提出したいなどの要望)の問い合わせがあった場合の対応を考慮してです。

 

不合格となった会社からのクレームを調べたところ、見積もり合わせの前提条件に勘違いなどのミスがあったことが判明すれば、見積もり合わせを中止して最初からやり直す事態になります。このような状況のときに、最初に一番安価なA社に連絡していると契約が正式に成立し、A社は仕入先などに発注を行います。後になって契約を取り消すことが不可能になったり違約金や損害賠償などの重大なトラブルになってしまいます。

 

各社から提出された見積金額は、契約の相手方を決定した後であれば、必要に応じて最安値の見積金額を他社へ教えても問題ありません。しかし契約の相手方を決定する前段階では、絶対に他社の見積金額を教えてはいけません。他社の見積金額を教えてしまえば、それよりも安い見積書の再提出を要求され官製談合へと陥ってしまいます。

見積もり合わせ結果通知のメール文例

○○○○株式会社
○○営業部
○○○○ 様

いつもお世話になっております。
○○省会計課契約係の○○です。

先日、見積書を提出して頂きました(品名)の購入につきまして、見積もり合わせを行った結果、今回は○○会社様と契約を締結することとなりました。

お忙しいところ、見積もり合わせに参加して頂き、誠にありがとうございました。

今後とも、何卒よろしくお願いいたします。
○○省○○会計課契約係 ○○

 

最初に不合格の会社へ連絡し、翌日など少し時間をおいて、最後に合格した会社(契約の相手方)へ送るメール文例です。

 

○○○○株式会社
○○営業部
○○○○ 様

いつもお世話になっております。
○○省会計課契約係の○○です。

先日、見積書を提出して頂きました(品名)の購入につきまして、見積もり合わせを行った結果、御社と契約を締結することとなりました。

つきましては、正式な発注(契約)となりますので納品準備を進めて頂き、納品日等について打合せをお願いいたします。

契約手続きは、後日ご相談させて頂きますが、取り急ぎご連絡いたします。

○○省○○会計課契約係○○

 

参考見積書とは

 

最後に「参考見積書」について解説します。

 

官公庁の運営財源(予算)は国民の税金で賄われています。国会の議決による予算成立が前提です。各省庁から財務省へ要求する予算資料や競争的資金のように随時各省庁へ提出する予算要求書の参考資料として見積書の提出が求められることがあります。

 

予算要求した結果、満額の回答(査定)を得られることは少なく、通常は7割とか8割など減額の査定を受けます。

 

予算要求の参考資料として依頼する見積書は、実際の契約時に提出してもらう最安値の見積書ではなく、通常の値引きでの概算の見積書とします。

 

予算要求の段階なので、当然のことながら満額認められるかどうか未定ですし、減額して予算措置される可能性が高いからです。

 

予算要求に必要な見積書は「参考見積書」です。契約を前提としない、あくまでも概算での見積金額です。「契約の申込み」としての「見積書」ではなく、通常の取引価格を客観的に確認する根拠資料として「参考見積書」が必要になります。

 

参考見積書の値引率は、契約を前提とする見積書の値引率よりも低くなります。ギリギリの価格でなく通常の取引価格です。これは予算査定の影響を吸収するためです。

 

会社へ依頼するときは予算要求用の「参考見積書」を提出してもらいたいと明確に伝える必要があります。また契約を前提としていないので、通常の(概算の)値引きで差し支えない旨を伝えると効率的です。

 

予算要求用の参考見積書なのに契約を前提とした見積書と同様に依頼してしまうと、気の利いた会社は特別値引きをしたり正式契約と勘違いして発注手配を行ってしまい、後日トラブルになるので注意しましょう。

 

「見積書」は、契約の前段階の「契約の申込み」

 

「参考見積書」は、契約を前提としない概算価格の確認資料

 

会計実務担当者や契約実務担当者は、この違いについて覚えておく必要があります。

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