見積書と参考見積書の違いを正しく理解、契約が成立する時期とは

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基礎知識
2005年 グアム

官公庁の契約手続きに必要な見積書の解説です。そもそも見積書がなぜ必要なのか、見積書と参考見積書との違い、見積書の法的な役割、見積書の依頼方法などを具体例を用いてわかりやすく解説します。いつも使っている見積書の必須知識です。

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なぜ見積書の正しい知識が必要か

 

官公庁では、日常的に見積書を使う場面が多いです。さまざまな目的で見積書を必要とするので、正しい知識を持ってないとトラブルになることがあります。また営業担当者にとっては、見積書と参考見積書の違いを正しく理解していないと、契約を獲得する機会を失うことになります。

 

契約実務を担当すると、上司から見積書を取るよう指示されることがあります。見積書を取り寄せることは、契約手続きの基本中の基本です。しかし、そもそも見積書とは、どのような書類でしょうか、どのように取り寄せ、どのように事務処理するのでしょうか。

 

官公庁の契約手続きは、会計法令等のルールに基づいて事務処理を進めます。ルールについての正しい理解が必須です。十分に理解しないまま書類手続きを進めてしまうと、後になってから、様々な矛盾や問題点が指摘されてしまいます。場合によっては、公費の不正使用という事件に巻き込まれる恐れさえあります。

 

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見積書と参考見積書の違い

 

見積書は、使用目的によって大きく2つに分類されます。

 

契約手続きに必要な「見積書」と、予算要求を行なうときに使う「参考見積書」です。両方とも日常業務の中では、単に「見積書」といいます。しかし見積書と参考見積書は、使用目的が全く違うので注意が必要です。

 

見積書は、契約手続きに必要な書類です。一方、参考見積書は、契約手続きとは関係ありません。参考見積書は、金額を把握するためだけの書類です。

 

契約手続きの中で必要になるのが見積書です。

 

ただ見積書も参考見積書も、見た目は同じ「見積書」です。官公庁内部で「参考」という文字を付記して取り扱うのが参考見積書です。

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見積書は「契約の申込み」

 

最初に、契約手続きに必要な見積書の解説です。

 

民間企業と契約を締結するために取り寄せる見積書は、「契約の申込み」になります。当たり前の話ですが、日本は法治国家です。契約については民法で定められています。

 

2017年に、民法が120年ぶりに改正されました。1896(明治29)年から、ほとんど改正されていませんでした。2017(平成29)年5月26日、民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)が成立し、2020(令和2)年4月1日から施行されました。法律の改正部分がわかるよう、「新民法」と「旧民法」とわけて記載します。

 

新民法

第五百二十二条 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。

2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。

 

「申込み」と「承諾」が明確に表示されているので、だいぶ、わかりやすく改正されました。旧民法はわかりづらかったです。参考に旧民法も記載します。

 

旧民法

第五百二十一条  承諾の期間を定めてした契約の申込みは、撤回することができない。

 

旧民法では、撤回について定めているので、この条文だけを読んで「申込み」を「承諾」することで契約が成立すると理解するのは、とても困難でした。

 

新民法第五百二十二条により、契約の申込みに対して承諾することで契約が成立します。日本の民法では、当事者の合意によって契約が有効に成立し、契約書などの文書の取り交わしを必要としません。契約に関する書類がなくても、口頭でのやりとりで合意すれば契約が成立します。

 

ただし官公庁との契約の場合は、契約書の取り交わしが義務付けられているもの(150万円を超える契約、予決令第100条の2など)は、契約書に記名押印しなければ契約が確定しません。(会計法第29条の8第2項、地方自治法第234条第5項)

 

会計法
第二十九条の八  契約担当官等は、(略)契約書を作成しなければならない。

2  (略)契約書を作成する場合においては、契約担当官等が契約の相手方とともに契約書に記名押印しなければ、当該契約は、確定しないものとする。

 

地方自治法

第二百三十四条 第5項

5 普通地方公共団体が契約につき契約書(略)を作成する場合においては、(略)契約の相手方とともに、契約書に記名押印し(略)なければ、当該契約は、確定しないものとする。

 

官公庁が締結する契約では、契約書の記名押印前(確定前)は、部分的に契約が成立している状態です。

 

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見積書の依頼方法

 

見積書の依頼方法を具体例で解説します。

 

官公庁側(発注者)が、ノートPC 1台を購入する例です。WEB上でいろいろなメーカーの機種を比較検討し、機種を決定しました。メーカーと型式が決まったので、契約手続きを進めるために販売会社へ見積書の提出を依頼します。

最初に、電子メールで次のように依頼します。あるいはFAXや電話でも同じです。メールの方が記録に残るので安全です。

 

見積書の依頼方法(メール文例)

〇〇株式会社
〇〇営業部
〇〇〇〇 様

 

いつもお世話になっております。
〇〇省〇〇局〇〇課契約係の〇〇です。
私どもでは、次の物品の購入を計画しています。

 

今回は、貴社の他にも数社、見積書の提出をお願いしてます。提出頂いた見積書のうち、最も安価な金額を提示して頂いた方と正式に契約を締結する予定です。

 

つきましては、ご多忙中恐縮ですが、〇〇年〇〇月〇〇日(火)までに見積書の提出をお願いできますでしょうか。

 

なお、お手数ですが、受信確認のため本メールに返信(受信した旨の記載のみ)頂けますと幸いです。

 

購入予定物品の内容等

品名
ノートPC
型式(規格)(メーカー)製〇〇型

数量 〇〇台
納入期限 〇〇年〇〇月〇〇日( )
納入場所 〇〇省〇〇局3F〇〇事務室

代金支払い条件 納品検査完了後、適法な請求書を受理してから30日以内に1回払い。

納入に必要な経費(運搬搬入・設置費)も見積金額に含めてください。

消費税は見積金額に含めて記載し、消費税額を内訳欄で区分表示してください。

例 内訳欄

本体 1,000円 消費税額50円 合計金額1,050円など

 

また、勝手なお願いで恐縮でございますが、見積書の提出にあたり、手数料などの作成費用が必要であれば、今回の提出は結構でございます。

 

以上、よろしくお願いいたします。

〇〇省〇〇課 契約係 担当 〇〇 電話〇〇〇〇

 

見積書の提出依頼は、正式契約の前段階の手続きです。提出依頼は「契約の申込みの誘引」になります。見積書の提出が「契約の申込み」なので、それを誘う行為と考えられています。入札公告も、「契約の申込みの誘引」です。

 

また見積書の提出依頼を行うとき、依頼する内容を「仕様書」という形式で別に作成することもあります。(上記は簡単な契約内容なので、メール本文に記載した依頼例です。)

 

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見積書を受け取ったときのチェックポイント

 

見積書の様式は、会計法令で定められていません。通常の営業取引で使用しているもので差し支えありません。しかし次の内容を含んでいるか、見積書を受け取った時にチェックが必要です。(場合によっては、官公庁側で様式を指定することもあります。記載もれなどのミスを防ぐために様式を指定します。)

 

見積書の日付が記載されているか

 

見積書の右上などに「〇〇年〇〇月〇〇日」と作成日付が記入されていれば問題ありません。複数の見積書を比較検討する「見積もり合わせ」では、日付が重要です。必ず確認しましょう。見積書の日付は、契約締結年月日にも関係します。

 

また見積書の有効期間が記載されている場合も、作成日付が影響します。

 

会社名と社印、代表者印

 

会社名(法人名)
会社の住所
会社の連絡先電話番号
代表者の役職名
代表者の氏名
会社印と代表者印

 

これらは必須の記載事項です。特に注意が必要なのは、代表者の役職名です。代表取締役社長など、法人のトップとして、契約権限を有している者であれば問題ないのですが、部長や課長などの場合には、契約権限を持っているか委任状で確認する必要があります。

 

なお、2020年から新型コロナウィルスの感染防止対策として、押印の廃止や電子ファイルでの提出が認められている官公庁も増えています。

 

見積書を作成する人の契約権限

 

法人として契約行為が可能な者は、法人の長であるトップの人です。それ以外の部長や課長などの場合には、契約権限を有しているか確認が必要です。代表者(社長)から、契約締結権限を委任した旨の委任状を提出してもらいます。

 

かなり昔の事例ですが、ある会社の部長が詐欺を目的として、社長の了解を得ずに、部長名で請求書や納品書、見積書を官公庁へ提出し、契約代金を横領した事件がありました。その会社は部長の詐欺を知らずに、その後、官公庁へ正式に社長名の請求書を提出しました。官公庁側が契約権限を確認していなかったため、結果として、官公庁側は代金を二重に支払わざるを得なくなりました。当時の官公庁側の契約担当者が、社長から契約権限が委任されたか確認せずに、部長名の請求書に基づき支払いしたため、官公庁側に過失があるとの判断がなされました。

 

この事件は、民法上の「表見代理」が成立しなかった不幸な事例だったようです。表見代理とは、普通に考えて、会社の代表権を有しているだろうと誰もが信じる状況のことで、次のように定められています。

 

新民法

第百九条 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。

 

このような不幸な事件は、「宝くじ1等連番」に当たるぐらいの確率ですが、注意した方が安全です。支店長の場合は、通常、支店の業務範囲の契約権限を有しているので、社長から支店長に対する委任状がなくても表見代理が成立するので問題ありません。しかし部長や課長の場合は、正式に社内で契約権限を有しているか確認するために、委任状の提出を依頼する必要があります。部長や課長は、誰が見ても会社のトップではないので、契約権限を確認しなければなりません。

 

社印と代表者印が押されているか(押印省略が認められている場合は確認不要です。)

 

会社印のみ、あるいは代表者印のみの場合はどうでしょうか。

 

官公庁は、契約代金の支払財源が「国民の税金」であることを考えれば、より慎重に、より正確に、事務処理を行う必要があります。会社印のみ、あるいは代表者印のみの場合、まずは会社の営業担当者へ、両方の押印(会社印と代表者印)を依頼します。

 

押印を依頼した結果、その会社から「通常、民間企業同士の取引でも、片方の印鑑のみを用いている」との申し出を受けたときは、実際の取引の写しを参考資料として提出してもらい、陰影等を確認します。できれば官公庁を相手方とする過去の取引書類の写しが良いです。取引に使用した、実際の見積書の写しを提出してもらい、印鑑部分を確認します。そして押印のない見積書が、正式なものであることを確認した経緯をメモ書きして、支払書類と一緒に保存しておきます。

 

見積書のあて名は組織名

 

あて名は「〇〇省〇〇機関 御中」などの法人名を書いてもらいます。

 

発注担当者の個人名を記載してしまうと、公的組織として依頼したものでなく、個人で買おうとしたプライベートなものと疑念(公私混同)を抱かれてしまいます。組織の名称とするのが原則です。まれなケースですが「支出負担行為担当官」や「契約担当官」宛てとすることもあります。このような会計機関名は、官公庁側から指示があったときだけ記載します。

 

事務処理上、契約担当者の個人名を記載する必要があれば「法人名 〇〇省〇〇機関 御中」の下欄に(担当 〇〇課 〇〇様)などと()書きにします。

 

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見積書の記載例

 

品名、型式、数量、単価、金額、消費税額を明記してもらいます。オープン価格は別ですが、「定価」と「値引き額」が区別できるよう記載してもらいます。見積もり合わせを行なう際に必要な情報になります。

 

見積書の記載例

ノートPC 〇〇社製 〇〇型 1台

定価              100,000円
値引き額          △  30,000円
本体価格(税抜)         70,000円
消費税(10%)          7,000円
合計(税込)           77,000円

 

定価と値引き額を明示してもらうのは、見積もり合わせを実施し、各社の価格を比較するときに、定価が同一かどうか確認するためです。同一の製品なのに、複数社の見積書を取り寄せたところ、定価が異なっていた場合は、内訳の問い合わせを行います。まれに営業担当者が気を利かせて、余計なオプション品などを含めてしまうことがあります。そうなると比較するベースが異なってしまい、同一条件での比較ができなくなってしまうからです。

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参考見積書とは

 

官公庁の運営財源は、国民の税金です。そして事業を実施するためには、国会や議会での議決による予算成立が必要です。各省庁から財務省へ予算を要求する資料や、補助金などを獲得するための申請書の参考資料として、見積書の提出が求められることがあります。積算金額を裏付ける資料として、見積書が必要になるのです。

 

一般的に、予算要求した結果、満額の回答(査定)を得られることは少なく、通常は7割とか8割など減額の査定を受けます。予算要求の参考資料として依頼する見積書は、契約手続きのときに提出してもらう「最安値の見積書」ではなく、通常の値引きでの概算の見積書になります。予算要求の段階なので、当然のことながら満額認められるかどうか未定です。むしろ減額して予算措置される可能性が高いからです。

 

この予算要求に必要な見積書を「参考見積書」といいます。契約を前提としない、あくまでも概算での見積金額です。「契約の申込み」としての見積書ではなく、通常の取引価格を、客観的に示す根拠資料としての参考見積書になります。

 

参考見積書の値引率は、契約を前提とする見積書の値引率よりも小さくなります。ギリギリの価格でなく、通常の取引価格です。通常の取引価格とは、誰に対しても「この金額なら販売できる」という利益を十分に含んだ安全圏の金額です。これは予算査定の影響を吸収するためでもあります。

 

会社へ依頼するときは、予算要求用の「参考見積書」を提出してもらいたいと明確に伝える必要があります。また契約を前提としていないので、通常の(概算の)値引きで差し支えない旨を伝えると効率的です。

 

予算要求用の参考見積書が必要なのに、契約手続きに必要な見積書と同様に依頼してしまうと、気の利いた営業担当者は、特別値引きしたり、正式契約と勘違いして発注手配を行ってしまいます。後日トラブルになるので注意しましょう。

次のように覚えておきます。

 

〇見積書は、契約の前段階の「契約の申込み」

 

〇参考見積書は、契約を前提としない概算価格の確認資料

 

見積書と参考見積書の違いを理解しておくことは、とても重要です。余計なトラブルも防げます。

コメント

  1. 匿名希望 より:

    参考見積書について質問がございます。

    『一般的に、予算要求した結果、満額の回答(査定)を得られることは少なく、通常は、7割とか8割など減額の査定を受けます。』

    上記の件について、減額の査定とは歩切りとどのように違うものなのでしょうか?

    お手数をおかけ致しますが、ご教授いただけますでしょうか。

    • 矢野雅彦管理人 より:

      管理人です、コメントありがとうございました。

      「歩切り」と「予算の査定」は、確かに「適正な価格を無視した値引き」という意味では同じように見えるかもしれません。

      しかし予定価格を設定するときの「歩切り」は、公共工事の発注の時には違法行為です。無理やり安い金額で契約することは、手抜き工事などの温床になってしまいます。

      一方「予算の査定」は、個々の契約を査定するものではなく、事業費全体の予算を対象に減額するものです。事業費の中には、職員の人件費や光熱費の他に、多数の契約が含まれています。要求額よりも予算の査定が厳しければ、いくつかの契約を断念したり、経常予算(使用目的が限定されていない予算)から補填して契約することになります。(歩切りしないように契約することになります。)

      一般的に、予算を配分する対象数が多ければ、査定は厳しくなり、予算額は少なくなります。

      つまり、同じように値引きを意味しますが、「歩切り」は実際の工事契約のときに問題になります。「予算の査定」は、契約とは直接関係なく、事業費全体が減額されるものです。実際に契約するときは、どの契約を優先するか検討することになります。