物品の売買契約で「所有権が移転する時期」、根拠法令と解説

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基礎知識

物品の購入契約で「所有権」が移転する時期についての解説です。所有権の移転については、明確な法令が存在しません。民法や会計法令の中にも所有権の移転時期を定めた条文がありません。過去の判例等から考えられている所有権移転時期について説明します。契約実務の参考情報です。

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物品売買の「所有権移転時期」

 

売買契約で物品を購入するときの所有権移転時期についての解説です。日常の契約実務の中では、特に気にしなくても大きな支障はないのですが、基礎知識として理解しておくと役立ちます。

 

最初に民法の「所有権」移転時期に関する条文を確認します。

 

民法

(物権の設定及び移転)
第百七十六条  物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。

 

民法ではこのように定められています。

 

物権とは、所有権や占有権、地上権、地役権など様々です。今回は物権の中の「所有権」です。

 

民法の条文では、「当事者の意思表示のみによって」と定められています。簡単に言えば、売主と買主の契約締結時に所有権が移転することになります。

 

契約は、契約書などの書面による取り交わしは必要なく「売ります、買います」という当事者間の口頭での意思表示だけで契約が成立します。

 

(えっ、契約締結と同時に所有権が移転?)

 

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契約締結と同時に「所有権」が移転する?

 

ここで疑問が生じます。

 

例えば、20万円くらいの大型冷蔵庫を購入し、自宅へ届けてもらう売買契約を想定します。

 

大型電気店に展示してある、いろいろな冷蔵庫を見比べて、値引き後の販売価格にも納得し、店員さんへ正式に注文します。一週間後に自宅に配送されるとします。

 

民法の「契約締結と同時に所有権が移転」と考えると、どうでしょうか。

 

自宅に届く冷蔵庫は、店頭に見本として展示されていた冷蔵庫ではなく、倉庫に保管してある新品の冷蔵庫が届くはずです。配送するときに、店側が倉庫の中から同じ型式の「新品の冷蔵庫」を選んで自宅へ届けます。(展示品を購入することもありますが、話がややこしくなるので、ここでは除外します。)

 

つまり店頭で契約を締結した時点では、自宅に届く冷蔵庫は具体的に「どの冷蔵庫なのか」特定できていません。売買契約の「目的物が特定できていない」状況では、買主に所有権が移転するといわれても、実際に「どの冷蔵庫なのか」わからないのです。冷蔵庫が特定してないので所有権を主張することは事実上不可能です。

 

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「所有権」は民法で具体的に定められてない

 

実は、「民法では、所有権を明確に定めた条文は存在しない」と一般的に言われています。そのため過去の判例等に頼らざるを得ず、所有権移転時期についての解釈も複数存在しています。

 

判例などから通説となっている考え方は、次のとおりです。

 

所有権移転の時期は「特定物」と「不特定物」で異なります。

 

「特定物」の売買では、契約締結の時に所有権が移転し、引き渡しによって、占有権だけが売主から買主に移転します。「特定物」とは、中古物品や不動産など、代わりになる「同じ物が存在しない」という意味です。「不特定物」とは、カタログ製品など同じ物が多数存在することです。

 

「不特定物」の売買では、目的物が特定した時に売主から買主に所有権が移転します。つまり納品時に、買主が物品を確認する「納品検査」によって目的物が特定し、納品検査が完了した時点で「所有権」が買主に移転すると考えられています。

 

ただし不動産などは法務局への「登記」が第三者対抗要件となるなど、話が複雑になるので今回は不動産は省略します。

 

次に、官公庁の契約手続きの中で所有権に関係する会計法令を見てみましょう。

 

財政法 規定なし

 

会計法
第二十九条の十一第二項

契約担当官等は、(略)請負契約又は物件の買入れその他の契約については、(略)、自ら又は補助者に命じて、その受ける給付の完了の確認をするため必要な検査をしなければならない。

 

予決令(予算決算及び会計令)

第百一条の四(検査の方法)

会計法第二十九条の十一第二項 に規定する工事若しくは製造その他についての請負契約又は物件の買入れその他の契約についての給付の完了の確認をするため必要な検査は、契約担当官等が、自ら又は補助者に命じて、契約書、仕様書及び設計書その他の関係書類に基づいて行なうものとする。

 

第百一条の九(検査調書の作成)

(略)契約担当官等から検査を命ぜられた補助者(略)は、検査を完了した場合においては、(略)検査調書を作成しなければならない。
2  前項の規定により検査調書を作成すべき場合においては、当該検査調書に基づかなければ、支払をすることができない。

 

検査の方法については、契約事務取扱規則(政令)でも具体的に定めています。しかし所有権に関することは記載されていません。

 

納品時の「検査の時期」は法律で定められています。

政府契約の支払遅延防止等に関する法律(遅延防止法)

(給付の完了の確認又は検査の時期)
第五条  (検査)の時期は、国が相手方から給付を終了した旨の通知を受けた日から工事については十四日、その他の給付については十日以内の日としなければならない。

 

会計法令では納品時に検査を行わなければならないことが明確に定められています。遅延防止法第4条では、契約書の記載事項として検査を行う時期や代金の支払時期を明記するよう定めています。

 

政府契約の支払遅延防止等に関する法律

第四条
政府契約の当事者は、(略)その契約の締結に際しては、給付の内容、対価の額、給付の完了の時期その他必要な事項のほか、次に掲げる事項を書面により明らかにしなければならない。

(略)

一  契約の目的たる給付の完了の確認又は検査の時期
二  対価の支払の時期
(略)

 

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所有権移転時期についての「まとめ」

 

国の会計法令が適用される売買契約では、上述のように納品検査を行うことが義務付けられています。納品検査の方法や時期についての定めはありますが、所有権に関しては明確な法令等がありません。そこで民法に基づく所有権移転時期の考え方によることになります。

 

一般的な売買契約は、「不特定物」の売買です。目的物が特定した時に、売主から買主へ所有権が移転します。目的物が特定する時期は、「納品検査」のときです。

 

予決令第百一条の九第二項では「検査調書に基づかなければ、支払をすることができない。」と定められています。つまり納品検査(給付の完了の確認検査)が完了した時点で「所有権」が国側(買主)に移転するので、支払いの債務が発生すると考えられています。

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