事務簡素化、業務効率化の観点からすれば、見積もり合わせも省略したいものです。競争入札を簡略化した見積もり合わせも手続きに時間がかかります。見積もり合わせを省略する場合の根拠法令、1社のみの見積書の可否について解説します。
契約方式とは
官公庁が契約を締結するときに、相手方を選ぶ方法を契約方式といいます。契約方式は、会計法令で定められています。官公庁では、会計法令に基づいて契約の相手方を決定しなければなりません。(国の場合は、会計法 第二十九条の三、地方自治体は地方自治法 第二百三十四条です。)
会計法令を守らなければ、官製談合や業者との癒着、贈収賄事件などが発生してしまいます。特定の企業から賄賂を受け取り、不当な金額で随意契約を繰り返すことができてしまいます。
官公庁における契約手続きは、公平・公正でなければなりません。誰もが競争に参加できる公平性、最安値の入札をした者が契約を締結できる公正な手続きが重要です。
みんなの税金を使うわけですから、みんなから疑われないように行動しなければなりません。
官公庁の契約方式は、大きく分けると競争入札と随意契約になります。そして、さらに次のように区分できます。
官公庁の契約方式一覧
競争入札
一般競争入札・・誰もが参加できる入札です。
指名競争入札・・官公庁側が指名した企業のみが参加できる入札です。
随意契約少額随意契約・・見積もり合わせで相手方を決定する契約です。
競争性のない随意契約・・契約の相手方が1者に限定される場合です。
緊急随意契約・・自然災害から人命や財産を守るために緊急に締結する契約です。
秘密随意契約・・内容を公開できない契約です。
少額随意契約の根拠法令
上記の随意契約のうち、見積もり合わせを行う少額随意契約について解説します。
少額随意契約は、事務簡素化と業務効率化を目的として、見積もり合わせによって契約の相手方を決定します。根拠法令は次のとおりです。
少額随意契約の根拠法令(国の場合)
予算決算及び会計令 第九十九条 第一項
第九十九条 (略)随意契約によることができる場合は、次に掲げる場合とする。
(略)
二 予定価格が二百五十万円を超えない工事又は製造をさせるとき。
三 予定価格が百六十万円を超えない財産を買い入れるとき。
(略)
少額随意契約の根拠法令(地方自治体の場合)
地方自治法施行令 第百六十七条の二 第一項
(略)随意契約によることができる場合は、次に掲げる場合とする。
一 売買、貸借、請負その他の契約でその予定価格(略)が別表第五上欄に掲げる契約の種類に応じ同表下欄に定める額の範囲内において普通地方公共団体の規則で定める額を超えないものをするとき。
別表第五
工事又は製造の請負
都道府県及び指定都市 二百五十万円
市町村(略) 百三十万円
財産の買入れ
都道府県及び指定都市 百六十万円
市町村 八十万円
工事契約や製造契約であれば250万円(市町村は130万円)以内、物品購入契約であれば160万円(市町村は80万円)以内の場合に随意契約を認めています。国と都道府県の金額に対して市町村の金額は半分になっています。(ここも注意しておいてください。)
見積もり合わせとは
少額随意契約は、入札手続きを省略し、複数の見積書を比較することで契約の相手方を決定できます。複数の見積書を取り寄せて比較検討することを見積もり合わせといいます。漢字で表現するときは送り仮名で迷います。あまり実益のないことですが、見積もり合わせ、見積り合せ、見積合せは、いずれも同じ意味です。また「あいみつ・・相見積、合見積」ということもありますが、厳密には正しくありません。
一般競争入札は、契約を締結するまでに2か月以上必要です。一千万円を超える大きな契約では、国際入札に該当してしまい、契約締結までに半年以上かかることもあります。
一方、見積もり合わせなら2週間程度で契約を締結することができます。しかし2~3社の見積書を比較するだけなので競争性は弱くなります。契約金額についても、一般競争入札に比べて高くなることもあります。ライバル企業が多いほど競争意識が働き、値引率が大きくなります。つまり少額随意契約には、契約金額が高くなるデメリットがあります。(すべての随意契約が高くなるわけではありません。場合によっては入札より安くなることもあります。)
経済性のみを考えれば、契約金額の小さなものまで含めて、すべての契約を一般競争入札とした方が良いわけです。しかし現実的には人手が足りず不可能です。(仮にすべての契約を一般競争入札とするのであれば、契約担当職員数を20倍くらいに増員しなければなりません。)そのため事務簡素化・業務効率化を目的にした見積もり合わせが法令で認められているわけです。
見積もり合わせは、あらかじめ2〜3社を選んで見積書の提出を依頼します。提出された見積金額を比較して契約の相手方を決定します。
見積書を依頼する前には仕様書を作成します。見積金額は契約内容によって変わります。例えば物品購入契約であれば、本体の他に付属品やオプション類、納入期間や設置場所などで見積金額が変わります。そのために契約の前提条件を仕様書に記載して、前提条件を明確にしなければなりません。
仕様書を作成せずに、口頭だけで見積書を依頼してしまうと、必要な部分を言い忘れたり、余計なことまで含めてしまうことがあります。契約内容が変わってしまえば、見積金額を比較することができなくなります。前提条件を揃えるために仕様書の作成は必須です。
見積もり合わせに必要な仕様書とは
仕様書の作成自体は(何も起こらなければ)簡単です。見積もり合わせ用の仕様書は、半日あれば十分作成可能です。簡単な内容なら1時間で仕様書を作成できるでしょう。
民間企業側は、官公庁側から示された仕様書に基づいて見積金額を積算します。当然ながら自社に有利な仕様が望ましいわけです。それぞれの企業によって得意分野が異なります。
そこで(稀ですが)、仕様書に対して修正要望を受けることがあります。民間企業側としては自社に有利な、値引率の高い同等品などの仕様を望みたいわけです。そうなると、かなり大変な作業になってしまいます。修正要望を取り入れることで、逆に他社が不利にならないか調査が必要です。調査せずに仕様を変更すると、最悪の場合、自社に不利な仕様変更だとクレームが入ることもあります。修正要望を認めない場合にも明確な説明が必要になります。もし修正要望を取り入れるのであれば、見積りをやり直すことになります。
見積書を提出してもらうには、提出期限を設定して依頼します。2週間以上の提出期限が望ましいですが、修正要望を認めるなら、見積もりをやり直すため、さらに2週間必要になってしまいます。そうなると1か月くらい見積もり合わせを行うことになってしまうのです。
長期間の手続きであれば、競争入札と同じくらい大変な手続きになってしまいます。仕様書の作成は、本来、それほどむずかしくないのですが、要望などが入ると、時々厄介な手続きになってしまうのです。そのため契約担当者としては、できるなら見積もり合わせも省略したいわけです。
見積もり合わせの根拠法令
見積もり合わせの根拠法令は次の通りです。
見積もり合わせの根拠法令 国の場合
予算決算及び会計令
第九十九条の六 契約担当官等は、随意契約によろうとするときは、なるべく二人以上の者から見積書を徴さなければならない。
地方自治体の場合は、それぞれで同様の内容を定めています。参考に東京都と大阪府の見積もり合わせの根拠法令です。
東京都契約事務規則
第三十四条 契約担当者等は、随意契約によろうとするときは、契約条項その他見積りに必要な事項を示して、なるべく二人以上の者から見積書を徴さなければならない。
大阪府財務規則
第六十二条 契約担当者は、随意契約によろうとするときは、なるべく二人以上の者から見積書(略)を徴さなければならない。
見積もり合わせは一社のみで良いか
見積もり合わせは、2社以上の見積書を比較して契約の相手方を決定します。一般的には3社の見積書を比較します。
では、一社のみの見積もり合わせも可能でしょうか?
当たり前の話になりますが、一社のみでは見積もり合わせになりません。見積もり合わせは複数の見積金額を比較するものです。一社のみの見積もり合わせという状態自体が存在しません。一社のみであれば、見積もり合わせをしなかったことになります。
一般競争入札と比較すれば見積もり合わせは簡単な手続きですが、それでも仕様書の作成や待ち時間などで意外と大変な手続きになることがあります。契約担当者としては、見積もり合わせを省略して最初から信頼できる民間企業へ発注できないものかと思うのです。
見積もり合わせを省略できる場合
少額随意契約では、見積もり合わせによって契約の相手方を決定します。
しかし見積もり合わせを実施する場合でも2週間程度の期間が必要になります。事務簡素化・業務の効率化を考えれば、見積もり合わせも省略したいのです。
見積もり合わせを省略できる場合は、各組織によって様々です。組織によっては内部規則で、一定金額以下の契約は見積もり合わせを省略できると定めている場合もあります。
見積もり合わせを省略する場合の「基準額の考え方」は次のとおりです。
100万円以下の見積もり合わせを省略する場合
古い運用通知ですが、昭和44年の大蔵省(現在の財務省)通知を基準とする考え方です。参考に通知を掲載します。
随意契約による場合の予定価格等について
(昭和44年12月17日蔵計第4438号 大蔵省主計局長から各省各庁会計課長・各財務局長あて)随意契約による場合の予定価格の取扱いについては、昭和二五年七月五日付計発第四九二号「随意契約よる予定価格についてL(大蔵省主計局長通達)によって運用されているところであるが、今回、左記のとおり同通達の内容を整備するとともに、あわせて随意契約による場合の見積書の徴取について取扱いを定めることとしたので通知する。
なお、「随意契約よる予定価格について」(前記通達)は、廃止する。記
1 次に掲げる随意契約については、予定価格調書その他の書面による予定価格の積算を省略し、又は見積書の徴取を省略してさしつかえないこととする。
(1)法令に基づいて取引価格(料金)が定められていることその他特別の事由があることにより、特定の取引価格(料金)によらなければ契約をすることが不可能又は著しく困難であると認められるものに係る随意契約
(2)予定価格が100万円をこえない随意契約で、各省各庁における契約事務の実情を勘案し、各省各庁の長において契約担当官が予定価格調書その他の書面による予定価格の積算を省略し、文は見積書の徴取を省略しても支障がないと認めるもの
2 上記1により処理することとした場合においても、次に掲げる措置を講じ契約事務の適正化を図るものとする。
(1)契約担当官等は、予定価格調書その他の書面による予定価格の積算を省略することとした場合においても、必要に応じ、補助職員をしてあらかじめ書面による予定価格の積算を行わせ、その積算資料を当該契約に係る決議書に添付させるよう措置するものとする。
(2)契約担当官等は、見積書の徴取を省略することとした場合においても、必要に応じ、補助職員をして口頭照会による見積り合せ、又は市場価格調査等を行わせ、その結果を記載した資料を当該契約に係る決議書に添付させるよう措置するものとする。
この運用通知では、100万円以下の随意契約は見積書を省略できると通知しています。実際には、各組織の実情に応じて基準額を定めることとしています。100万円を上限として、各組織で見積もり合わせを省略する基準額を定めることとしたわけです。
50万円以下の見積もり合わせを省略する場合
物品管理法では、50万円以上の機械及び器具を重要物品としています。この考え方を基にして基準額を設定する方法です。
物品を適正に管理するための重要物品として50万円という基準があります。ただ物品管理法では物品の取得価格です。厳密に考えると契約金額とは異なります。
物品管理法で50万円を重要と位置付けているので、それを基準にして50万円未満は見積もり合わせを省略するという考え方です。請書も同様に考えることもあります。
軽微な契約の見積もり合わせを省略する場合
契約事務取扱規則では、特に軽微な契約という規定があります。
契約事務取扱規則
第十五条 契約担当官等は、(略)契約書の作成を省略する場合においても、特に軽微な契約を除き、契約の適正な履行を確保するため請書その他これに準ずる書面を徴するものとする。
請書を省略できる基準として特に軽微な契約を設定しています。この規則に基づいて各省庁などで独自の基準額を設定しています。軽微な契約は、事務簡素化を目的にして書類を省略しています。軽微な契約を見積もり合わせを省略する基準にすることもあります。
なぜ一律に、見積もり合わせ省略を定めないのか
上述したように見積もり合わせを省略するための基準額は様々です。一律に定められていません。各組織の実情に合わせて決めることになります。組織の予算額、年間の契約執行額、配置されている契約担当職員の数、大規模契約の件数などの契約実務の実情から総合的に判断することになります。
事務簡素化の基本的な考え方は、重要な契約手続きに十分に労力をかける、ということです。一般競争入札などの重要な契約手続きに対して、厳格に会計法令を適用させるために、金額の小さい契約は簡略化するものです。重要な手続きに時間をかけるために事務簡素化があります。サボるために事務簡素化があるわけではありません。
官公庁の契約方式は、一般競争入札が原則です。競争入札の趣旨からすれば、できるだけ競争原理を導入して経済性を追求することが望ましいわけです。購入契約であれば安いものを購入する、売り払い契約であれば高く契約するのが理想です。そのために一律に基準額を設けずに、組織の実情に応じてできるだけ競争原理を取り入れることを求めています。この趣旨からすれば見積もり合わせ省略の基準額を定めない方が良いのです。
しかし現実には、見積もり合わせでも2週間以上の手続きを必要とします。小さな契約まで全て見積もり合わせすることは適当とは言えません。例えば、わずか千円程度の金額差を確認するために、2週間もの期間を費やすとしたらどうでしょうか?費用対効果、業務の効率性という観点からしても問題です。
つまり見積もり合わせを省略できる基準は、一定ではなく、組織によって異なります。
少額随意契約の基準金額でさえ、上述したように都道府県の半額が市町村の基準になっています。予算の規模によって基準額を変えているわけです。そして、その判断は時代によっても変わります。ただ契約担当者が悩まないよう、適正な契約手続きが可能となるように、見積もり合わせを省略できる内部規則を作っておく方が望ましいです。
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