随意契約は、競争性の有無で2つに分かれます。競争性のある随意契約は、少額随意契約といいます。競争性のない随意契約は、競争しないと判断した経緯を理由書として残す必要があります。それぞれの根拠法令と随意契約理由書の解説です。
少額随意契約とは
随意契約を競争性の有無で区分すると2つの種類になります。競争性のある随意契約と競争性のない随意契約です。(この他にも緊急性による随意契約などがあります。)
競争性のある随意契約は、少額随意契約ともいいます。契約金額が一定金額以下の契約です。根拠法令は、予算決算及び会計令 第九十九条です。地方自治体は、地方自治法施行令 第百六十七条の二です。契約金額が少額な場合は、事務簡素化を目的として、時間のかかる競争入札手続きを省略できます。
予算決算及び会計令
第九十九条 (略)随意契約によることができる場合は、次に掲げる場合とする。
・・・
二 予定価格が二百五十万円を超えない工事又は製造をさせるとき。
三 予定価格が百六十万円を超えない財産を買い入れるとき。
・・・
地方自治法施行令
第百六十七条の二 (略)随意契約によることができる場合は、次に掲げる場合とする。
一 売買、貸借、請負その他の契約でその予定価格(略)が別表第五上欄に掲げる契約の種類に応じ同表下欄に定める額の範囲内において普通地方公共団体の規則で定める額を超えないものをするとき。
別表第五
二 財産の買入れ
都道府県及び指定都市 百六十万円
市町村 八十万円
少額随意契約は、契約方式を判断するときに、最初に検討する条文です。
少額随意契約は、見積もり合わせが必須
少額随意契約は、競争性があることが前提です。見積もり合わせを実施して契約の相手方を選定することになります。見積もり合わせは、3社から見積書を取り寄せて比較検討して相手方を選ぶ手続きです。いわゆる相見積とは違うことに注意が必要です。
予算決算及び会計令
第九十九条の六 契約担当官等は、随意契約によろうとするときは、なるべく二人以上の者から見積書を徴さなければならない。
通常は、3社から見積書を取り寄せ、最も有利な会社と契約します。
地方自治体の場合は、それぞれで同様の内容を定めています。参考に東京都と大阪府の例です。
東京都契約事務規則
第三十四条 契約担当者等は、随意契約によろうとするときは、契約条項その他見積りに必要な事項を示して、なるべく二人以上の者から見積書を徴さなければならない。
大阪府財務規則
第六十二条 契約担当者は、随意契約によろうとするときは、なるべく二人以上の者から見積書(略)を徴さなければならない。
競争性のない額随意契約とは
もうひとつの随意契約として、競争性のない随意契約があります。
一般的に随意契約という場合は、この競争性のない随意契約を指すことが多いです。競争性のない随意契約は、最初から契約の相手方が一社に限定される場合です。他社との価格競争ができないので、契約金額が妥当なのか、価格交渉を行い契約を締結します。
競争性のない随意契約は、特許権や著作権などの排他的権利を理由とすることが多いです。
少額随意契約と随意契約の違いは、競争性の有無です。販売店(契約の相手方)が複数あるかどうかの違いです。
随意契約理由書が必要な理由
少額随意契約は、複数の会社から見積書を取り寄せ、その中から最も安い会社を選んで契約します。契約の相手方を選んだ理由は、最も安いからであり、各社の見積書を見れば一目瞭然です。会社を選んだ理由についての説明は必要ありません。安いところと契約した、ことについて疑問を持つ人はいないでしょう。(ただし機種を指定する場合は、機種選定理由書が必要です。)
一方、競争性のない随意契約は、最初から1社のみと契約するものです。契約方式の原則である競争入札を実施しません。1社のみの見積書を見ても、なぜその会社を選んだのか、わかりません。そのため随意契約理由書が必要になります。
随意契約理由書は、会計法令などに規定がありません。官公庁によって、様式も書き方もさまざまです。呼び方も、随意契約理由書、選定理由書、業者選定理由書、特命契約理由書など多数です。いずれも競争性がないことを説明する理由書です。
官公庁の運営財源は、国民からの税金で賄われています。税金の使用方法は、説明責任が常に求められます。
官公庁が選ぶ契約の相手方に対しては、代金の支払いとして税金が使われます。何故その会社と契約するのかを、具体的に説明しなければなりません。その説明資料として随意契約理由書が必要になります。
価格競争による一般競争入札であれば、各社から提出された入札書の中で、一番安価な入札金額を提示した会社と契約します。一番安かった、という誰が見ても納得できる手続きです。誰もがわかる手続きであれば、理由書は必要ありません。
価格競争を行なった入札結果について、その理由を説明せよと言われても、一番安いからとしか言えません。また官公庁の契約手続きの原則によるものです。説明する必要もありません。契約関係書類に綴られている入札公告や、各社の入札書を見れば事実を確認できます。
随意契約理由書を必要とするのは、価格競争で契約の相手方を決定していない場合です。特別な理由により事前に競争性を排除した場合、競争できない理由を説明しなければなりません。
競争性のない随意契約の根拠法令は、予決令第百二条の四第三号です。地方自治体は地方自治法施行令第百六十七条の二です。
予算決算及び会計令
第百二条の四
三 契約の性質若しくは目的が競争を許さない場合又は緊急の必要により競争に付することができない場合において、随意契約によろうとするとき。
競争を許さない場合とは
判断に迷う部分なので、上記の予決令第百二条の四第三号を詳しく解説します。
契約の性質若しくは目的とは
性質と目的は、分けて考える必要はなく、契約の内容全体から考えます。
競争を許さない場合とは
この部分が重要ですので、わかりやすく解説します。
競争ができない場合でなく、競争を許さない場合と表現されています。
国語の授業的になりますが、できる、できない、という言葉は、自分の意思により行おうとしたが、その結果として、できた、できなかった、という結果になります。
一方、許さない場合とは、行おうとしたけどできない、という状況ではなく、意図的に「しない、させない」という強い否定の意志が内在しています。官公庁側の発注者が、契約の基本原則である競争手続きを否定する、という明白な意思が加わっています。
簡単に言うと、競争を許さない場合とは、最初から競争の機会を確保しない契約手続きを行うものです。事前に競争を排除するのですから、それ相応の理由が必要になるわけです。
逆の言い方をすれば、競争性を確保した契約手続き(同一条件で複数の会社と価格競争した結果1社になった)であれば、それらの書類を保存することで随意契約理由書は不要です。
近年(1990年頃から)では、価格競争だけでなく総合評価方式やコンペ方式(企画提案型競争)による競争も行われています。これらは競争原理を取り入れているので、随意契約理由書は必要ありません。競争性を排除して一社と契約したわけではなく、価格以外の競争の結果一社になったものです。関係書類により契約の相手方を選定した経緯が明らかであれば、随意契約理由書は必要ありません。
ただし総合評価やコンペ方式は、評価の方法を事前に公開し、恣意的な判断を極力排除した手続きでなければなりません。
コメント
少額随意契約についてご教示のほどよろしくお願い致します。
予決令第99条第5号を適用し、50万円を超えない財産を売り払う随意契約の場合、
第99条の6により、2社以上の見積書が必要でしょうか?
財産の売り払いを見積依頼する場合は、資格を持った業者に対して、事前に購入希望できるか
どうかメールや電話で確認し、購入希望できる業者のみに見積依頼すればよろしいでしょうか?それとも、資格を持った業者に対して、購入希望の事前確認はせずに、過去実績等を考慮して、見積依頼を郵送することでよろしいでしょうか?
基本的には、第99条第3号の予定価格が160万円を超えない財産を買い入れるときと同様の考え方で進めればよいでしょうか?
事前確認により、見積依頼する業者が1社のみになった場合や、複数に見積依頼したが、見積辞退し結果的に1社になった場合でも、第99条第5号は適用されますでしょうか?
競争性を確保した契約手続き(同一条件で複数の会社と価格競争した結果1社になった)
という解釈でよろしいでしょうか?
こうした経過も決議書に記載した方がよいでしょうか?
管理人です、コメントありがとうございます。
はい、そのとおりです。
財産(物品など)の売り払いは、50万円(税込)以下であれば、予決令第99条第5号に基づき、随意契約可能です。そして、第99条の6に基づき、2社以上の見積書を取り寄せることになります。事前に、電話やメールで、購入希望を聞いてから依頼するのが効率的です。見積依頼を一方的に郵送するのは、あまり好ましくありません。
予算決算及び会計令
第九十九条 (略)随意契約によることができる場合は、次に掲げる場合とする。
(略)
五 予定価格が五十万円を超えない財産を売り払うとき。
第九十九条の六 契約担当官等は、随意契約によろうとするときは、なるべく二人以上の者から見積書を徴さなければならない。
おっしゃる通り、基本的には、「財産を売る場合も、買う場合も」、考え方は同じです。
また、予決令第99条第5号を適用し、2社以上へ見積依頼した結果、1社のみしか見積金額を得られなかったとしても問題ありません。ただし、見積書を提出しなかった経緯(事実)は、記録として必要です。見積書を入手できなかった事実を残しておかないと、2社以上へ提出依頼したことも証明できません。経緯の記載を忘れると、後日、予決令第99条の6を無視したことになってしまいます。
例えば相手方から、「今回の契約は辞退したい」との要望があれば、見積書に「辞退」と記載して提出してもらいます。あるいは、メール本文などに、その旨を記載して返信してもらいます。いずれも理由を聞いてメモしておくことが大切です。
予決令第99条の6では、「なるべく」2社以上と記載されています。結果的に(他の会社が辞退などで)1社でも問題ありません。ただ1社しか見積書を入手できないときは、できれば5社以上へは声をかけたいです。
一般的に辞退する理由としては、利益にならない、取り扱っていない、他の大口契約を優先したい、などがあります。その時々の会社の経営判断があります。官公庁だからと言っても、私法上の契約を強制できるわけではないですし、仕方ないです。
回答ありがとうございました。
後日寄付させていただきます。