1者入札は有効、無効とすれば新たな矛盾と不正を生むリスクあり

イギリスのロンドン
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1社入札を問題視する報道があります。競争性が確保されていないという理由によるものですが、本当に問題なのか詳しく解説します。1社入札を無効とする見解や有効とする見解、指名競争入札での1社入札の有効性など契約実務の視点からの解説です。

1社入札とは

官公庁が入札を実施するときに、契約実務担当者が悩む問題として「1社入札」があります。

「1社入札」という呼び方以外に次のものがあります。
1社応札、1者入札、1者応札、1者応募など多数です。

いずれも、入札に参加した会社が1社のみで、入札(開札)会場内に競争相手が存在しない状態が1社入札です。

新聞やテレビの報道で「入札」という言葉が使われますが、国の会計法令である「会計法」で定めている「入札」には、一般競争と指名競争の2種類があります。(会計法第二十九条の三)

入札の原則はもちろん一般競争です。例外として、契約金額の低い場合や入札参加者が限定されている場合に指名競争が認められています。

一般競争入札は不特定多数の者が参加可能です。

指名競争入札は、あらかじめ発注者側(官公庁の契約実務担当者)が選んだ会社を指名して入札します。そのため指名競争入札は、談合や業者との癒着などの危険性が常に存在します。あまり薦められない入札方式です。

現在は、物品調達契約などは一般競争入札がほとんどです。

では、一般競争入札を実施して参加者が1社しかないときは、どう対応するのが適正でしょうか。



1社入札が有効かどうか

そもそも一般競争入札において、1社入札は有効なのでしょうか無効なのでしょうか。

1社しか入札に参加しなくても「入札」と言えるのでしょうか。

実は1社入札が有効かどうかは意見がわかれています。会計法令でも具体的な規定は存在しません。



1社入札を無効とする見解

無効とする代表的な見解は次の考え方です。

そもそも官公庁が実施する入札は、競争性を確保して経済的な契約締結を目指すものです。入札公告を掲載し不特定多数の者の入札参加機会を確保しても、その結果として参加者が1社であれば、その時点で競争性が確保されなくなったのです。競争できない状態では入札にならないのです。

そして1社入札が判明した時点で、入札手続きを一旦取りやめにすべきと考えます。入札に参加できる条件(仕様書など)を再度見直し複数の会社が入札に参加できるようリセットします。もう一度最初から入札手続きをやり直すべきという考え方です。

これは理論的に考えれば一見正しいものです。

競争性を実質的に確保した入札が絶対条件と考え、2社以上の複数の入札参加者によって、実際に競争性のある状態で開札するのが入札という考え方です。

1社のみの入札は、そもそも競争相手が存在しないのだから競争入札ではないという判断です。

このような主張をする人は、実際に自分で入札を実施した経験がなく、仕様書や予定価格の作成経験もない学識経験者の人が多いです。

入札やり直しの効果

では、入札の結果1社のみの参加となり、入札をやり直す(仕切り直す)ことを現実的に想定し、どれほどの手間と人件費が必要か考えます。

机を100個購入する総額500万円の入札を想定します。

一般競争入札を実施する場合の手続き期間は次のとおりです。

  • 仕様書(発注者が必要とする内容を示す資料)を見直して再作成するためには、複数の販売会社から資料を取り寄せて検討するなどの調査が必要です。資料を集めたり、営業担当者に電話したり、少なくとも2週間以上必要です。
  • 次に、入札公告をインターネットのホームページに掲載するための入札伺いを内部で決裁する期間も1週間必要です。
  • 入札公告の掲載期間は最低でも4週間はとりたいところです。この入札公告期間が短いほど入札参加者が少なくなります。

このように入札手続きをやり直す場合は、開札(入札)までに7週間、およそ2ヶ月程度の手続期間が必要です。

1社入札をやり直すということは、参加する会社が2社以上入るように仕様書を見直して、内容の修正や市場調査のやり直しを行なうことになります。参加可能な会社を調べる調査期間が必要です。

つまり、1社入札を有効とすれば1ヶ月から2ヶ月で契約手続きを終える予定のものが、3ヶ月から4ヶ月余計に手間(手続期間と人件費)が必要になります。

1社入札を無効とする矛盾点

そして、さらに矛盾が生じてしまう点は、入札をやり直しても再び1社しか参加しない場合、さらに3度目の入札やり直しを行うのかという問題が生じます。

インターネットのWEB上に入札公告を掲載して、不特定多数の会社が誰でも情報を見ることができるように、競争参加機会を十分確保して手続きを進めたとしても、入札公告を見た会社が次のように考え判断することがあります。

「うちの会社も取り扱いできるが、今回は他に大型契約が進行しているので忙しいから辞退しよう。」

「今回はあまり値引きできないから、入札に負ける可能性があるので参加するのはやめよう。」

「○○省の入札は、いつも予定価格が厳し過ぎて、契約を獲得しても全く利益にならないので参加するのはやめよう。」

つまり、入札に参加する前の段階で会社側の経営判断として辞退するケースが存在するという事実です。

これでは何度入札をやり直しても、再び1社入札となってしまうのです。

入札をやり直すのは相当な労力と人件費の負担となります。入札を実施するのに2ヶ月の手続き期間が必要なのです。一度決定した入札条件を見直して、再度公告して入札するために4ヶ月から、(最悪、この繰り返しとなれば、)半年くらいの負担が必要となります。

その間の労力を考えた場合、(経済性を考慮すると)ほんとに得策なのか疑問です。

入札を実施するときは、予定価格という適正価格の基準があります。1社入札だとしても予定価格以下の金額でしか落札しません。予定価格によって経済性は担保されているのです。

つまり実質的に競争性が確保されない1社入札は無効であるという考え方は、机上の空論に過ぎず、現実社会を理解していない考え方です。

無効という考え方は、さらに不正の温床となる

さらに悲劇的なことは、例えば1社入札は競争性がなく無効だからという理由で、入札をやり直したり取り止めにした後で、厳しい上司から、「次は何が何でも入札を成功させなくてはならない、絶対に複数の会社が入札に参加できるようにしろ」との命令が下れば完全にブラックホールに落ちます。

契約実務担当者は複数の会社を入札に参加させることを任務と感じます。日常取引の多い顔見知りの営業担当者へ内緒で声をかけることになります。声をかけられた営業担当者は、たまったものではありません、いい迷惑です。

入札に参加しても、落札できるわけでもなく「当て馬」にされるだけです。

しかも、普段扱っていない商品の入札で、万が一、的外れの安い金額を書いてしまい間違って落札でもしたら大損です。

かと言って、お役所の契約実務担当者から依頼されたことを断るわけにもいきません。

仕方なく、当て馬とされた会社の営業担当者は、本命の業者を調べて連絡し落札予想金額を聞いたり、官公庁側の契約実務担当者へ入札予想金額を聞いたりします。こうなれば完全な談合であり違法です。典型的な官製談合の構図です。

つまり無理に競争を取り繕い、2社以上で競争したように見せかける入札は、完全な法律違反で入札自体が不正行為(犯罪行為)となってしまいます。

形式的に「競争性を確保すること」に執着した結果、「やらせ入札」が実現してしまい、これは悲劇的な結末を迎えることになります。

1社入札を有効とする見解

一方、1社入札を有効とする見解は「競争性を確保した時期」を重視します。

そもそも競争入札という形式は、誰でもが入札に参加できる機会(入札公告)を提供すれば十分なので、結果として1社のみの入札だったとしても、それは結果論と考えます。入札に参加する機会は、入札公告を掲載した時点で確保されているし競争性も同時に確保されたと考えます。

結果として1社だけの入札であったとしても、そのまま開札を実施します。予定価格の制限の範囲内であれば実質的な経済性も確保されていますから落札になります。1社入札は有効で適法と考えます。

この考え方が現実的で正しく一般的です。

今は、ほとんどの官公庁で1社入札を有効としています。適正な予定価格を設定すれば、1社入札でも再度入札(2回目、3回目と予定価格以下になるまで入札を繰り返す。)を実施し、安く契約できます。

入札公告を掲載した時点で競争性は確保されており、再度入札で経済性も確保できます。最も効率的な契約手続きです。

入札の目的

この競争性を確保するタイミングについては、入札の目的について考えると理解できます。

入札(一般競争契約)の目的は次の3点です。

  1. 機会均等
  2. 公正性
  3. 経済性

機会均等とは、納税者である国民が公平に入札に参加できるという競争への参加機会の確保という意味です。(入札公告の公開)

公正性とは、契約の相手方を選定するときに入札という公開された手続によって、客観的(予定価格の範囲内の落札金額)に選ばれるという意味です。ルールに基づく手続きということです。

経済性とは、最も有利な価格で契約できるという意味です。(予定価格以内の最安値で落札)

この入札の目的である機会均等は、競争の機会を確保すること・・入札公告を公開し不特定多数の会社が入札に参加可能となる機会を確保することが重要なのです。

官公庁は、国民の税金で運営されてますから、入札を行うときは誰もが参加できる公平な手続きが求めらます。

指名競争入札の1社入札は無効

では、指名競争入札の場合1社入札となったらどうでしょう。

入札公告の段階で競争性が確保されていれば、結果として1社入札でも一般競争入札では問題ありませんでした。

同じように指名競争入札の場合も考えられるでしょうか。

一般競争入札は、入札公告を公開することで不特定多数の者へ競争に参加する機会を公平に与えています。

しかし、指名競争入札は入札公告を公開しません。発注者側が事前に恣意的に選んだ会社へ指名競争入札を行なう旨を通知して、入札に参加してもらいます。

例えば、指名競争入札として10社を選び通知したところ、結果的に1社しか参加しなかった場合、これは明らかに会社の選び方(指名基準)に問題があったということになります。

指名する会社の選び方に問題があり、その結果として1社入札になったのであれば競争性が確保されなかったことになるのです。

つまり、指名競争入札は発注者側が恣意的に会社を選んでいるので、この段階では競争の機会が十分に確保されていないのです。

指名競争入札の開催通知を複数社に送ったにもかかわらず、結果的に1社入札であれば、指名方法に明らかに問題があり不適切な入札で無効と考えるのが正しい判断です。

指名競争入札での1社入札は、問題があるので取り止めとします。

当然のことながら指名競争入札を最初からやり直すか、あるいは一般競争入札に切り替えるなどの手続きが必要です。