仕様書をゼロから作る方法、新しい契約の仕様書を作るときの手順

入札
2007年 シンガポール

官公庁が一般競争入札を実施するときに必要な仕様書の作り方です。まったく新しい契約の仕様書を作成するときはかなり悩みます。仕様書の前例や雛形が存在しないため、どのように作るのかわかりません。そこでゼロから仕様書を作る方法を具体的に解説します。

 

この解説の仕様書とは、民間企業同士が使用する仕様書とは異なります。官公庁が一般競争入札を実施する際に、入札へ参加する人たちに対して提示するための仕様書です。官公庁側の要求要件を記載した書類です。入札説明書の中の書類です。

初めての契約とは

 

清掃契約や警備契約のように毎年実施する契約であれば、仕様書を作成するのは困難ではありません。前回の仕様書をベースにして作成できるからです。昨年から変わった部分を中心に見直せば、それほど悩まずに作成できます。

 

しかし今まで契約したことのない、初めての契約となると、とても悩みます。そもそもどのように仕様書を作り始めれば良いか検討がつきません。そこで前例がない契約について、白紙の状態から仕様書を作る方法を解説します。

 

仕様書の大まかな作成手順

 

過去に契約実績のない仕様書は、主に役務契約と製造契約になります。物品購入契約は、物品が変わるだけなので過去の仕様書を雛形として使えます。

 

今回は役務契約を例にして、ゼロから仕様書を作成する方法を解説します。役務契約は、何かの作業を行ってもらう契約です。物品を買ったり、何かを製造する契約とは異なります。

 

仕様書の作成手順は次のとおりです。

 

1.専門会社へのヒアリングが必要か検討する

 

官公庁側が実施していた業務を外部委託するのであれば、官公庁側だけで仕様書を作成することができます。実際に担当していた職員から業務内容を細かく記した文書を提出してもらえば、それを修正して仕様書を作成できます。

 

しかし全く初めての業務内容で、官公庁側も過去に実施した経験がなく、具体的に内容をイメージできないときは専門会社からアドバイスを受けることになります。業務内容がわからないときは専門会社へヒアリングして仕様書を作るしかありません。

 

ヒアリングは、専門会社を探すことから始めます。インターネットや取引会社の情報から専門会社を探します。

 

2.ヒアリング内容をわかりやすく整理する。

 

細かい作業内容については、実際の手順通りに記述するようにします。(この解説では、業務の中の細かい部分を作業と表現しています。)

 

3.契約に必要な条件を盛り込む。

 

業務実施期間、業務実施場所、代金の支払い方法などの契約条件を再度確認し漏れてないかチェックします。

 

ヒアリングするときに注意したいポイント

 

官公庁の契約手続きは、公平性・公正性が最重要です。国民の税金を使うので疑惑を持たれてはいけません。

 

特定の民間企業へ有利な情報を与えてしまうと、業者との癒着を疑われてしまいます。一般競争入札の内容を、公開前に知ることも有利な情報に該当します。また癒着を疑われないためにも、専門会社へのヒアリングは必ず複数の者で対応します。通常は契約担当係員と係長が同席します。主担当を係員として、係長が立ち会うことになります。もし係長が多忙な時は、他の係員に同席してもらいます。

 

官公庁側がひとりで対応してしまうと、後になって癒着を疑われたときに、否定できなくなってしまいます。ひとりは危険です。

 

次にヒアリングする専門会社は、必ず 2 社以上とします。 1 社のみからのヒアリングであれば完全な癒着になってしまいます。特定の民間企業へ便宜を図ったことになります。たとえ賄賂を受け取っていなくても疑惑を持たれます。仕様書自体も特定の民間企業に偏った内容になってしまいます。 1 社のみからのヒアリングは絶対に避けましょう。

 

もしこの業務内容は 1 社しか対応できないことが明白であるなら、業務内容自体を見直さなければなりません。国民の税金を使うなら、複数社が対応できる業務内容にしなければなりません。税金を使う契約は公平性が求められます。

 

例えば日本全国を対象とした事業を実施するときに、全国展開できる民間企業が一社しか存在しないとすれば、全国展開自体を見直します。業務の基本要件さえ保持させれば、それぞれの地域ごとに多数の民間企業が参入した方が安全です。日本全国を網羅するような巨大な契約内容を 1 社へ任せてしまうと、結果的に多数の下請け会社を再委託として使うことになり、誰もコントロールできない契約になってしまいます。統制ができないために、誰も責任を持てない契約になってしまいます。責任の所在がわからないでたらめな契約になります。こうなれば官公庁が持つ個人情報さえも漏れまくります。

 

日本全国を対象とした業務を 1 社のみが行う契約は危険です。業界内も 1 社のみに権限が集中し歪んでしまいます。多数の下請け会社が生まれ、再委託の歯止めが聞かなくなり、結果的にトラブルが増えるだけです。地域ごとに多数の民間企業を参入させる方が公平で安全です。多数の民間企業が参入すれば地域によってバラツキがでますが、それは当然のことで問題にしてはいけません。例えば住民税の計算もすべてバラバラです。地域のサービスはそれぞれ違うのです。そもそも統一する必要がありません。

専門会社のヒアリングで最初に伝えること

 

専門会社からヒアリングする際には、最初に次のことを必ず伝えます。

 

一般競争入札を前提とする資料作りに協力してほしいこと。

 

一般競争入札になるので御社との契約は約束できないこと。

 

もし契約を前提としない状況で協力が困難であれば遠慮なく申し出てほしいこと、ペナルティのようなものは一切ないこと。

 

今回教えて欲しい内容は、〇〇業務の内容、入札の仕様書を作るために情報収集していること。

 

御社の他にも数社、同じようにヒアリングを検討していること。

(談合を排除するために他社の名前は伏せます。

 

つまり仕様書の作成に協力しても、契約は約束できないことを明確に伝えます。ここが極めて重要です。もし相手方が契約を前提にしたヒアリングと勘違いしてしまうと、大きなトラブルになります。最悪の場合は訴訟になります。契約を前提にしていれば、準備のために手配をかけてしまう可能性があります。また契約金額についても、一般競争入札より安く対応する可能性があります。参考見積書の金額も正確でないかもしれません。

業務内容の一般性を確認する

 

専門会社からのヒアリングでは、作業内容を頭の中でイメージしながら聞き取ります。簡単にイメージできる内容、あるいは様々な民間企業が対応できそうな一般的な内容であれば問題ありません。

 

しかし聞いたことのないような手法や、特殊な機器を使うときは注意が必要です。ヒアリングした会社しか対応できなければ癒着と同じ構図になってしまいます。ヒアリングした会社しか対応できないようであれば、他の代替手法を聞きます。いろいろな民間企業が参加できるよう一般的な手法がないか必ず確認します。特殊な内容のときはくわしく聞いて、他の専門会社からのヒアリングのときにも一般的な方法がないか再確認します。

 

一般的な内容を確認する聞き方

 

この内容ですと御社しか対応できませんか?

 

もし他の方法だと、どのようなデメリット(支障)が生じますか?

 

この方法を使わないで、同じようにできる方法はないですか?

 

自社しか対応できない、他の代替手法は存在しないとアピールするときは、次のように説明して一般的な手法を模索します。

 

御社しか対応できないとなると、逆に、御社と契約できなくなってしまいます。特定会社との癒着を防ぐために他社としか契約できなくなってしまうのです。一般的な手法で実施できませんか?

 

例えば、1,500万円以上の国際入札に該当する契約案件では、仕様書の作成に関わった会社は入札へ参加できません。法律よりも優先される国際協定で定められています。

 

政府調達に関する協定を改正する議定書

 

5 調達機関は、特定の調達のための技術仕様の立案又は制定に利用し得る助言を、競争を妨げる効果を有する方法により、当該調達に商業上の利害関係を有する可能性のある者に対し求めてはならず、また、当該者から受けてはならない。

 

この国際協定に違反すると入札自体が停止されてしまいます。

仕様書は複数の目でチェック

 

ヒアリング内容を基にして、業務内容を整理しながら仕様書を作成していきます。仕様書の素案を作成している段階で、必ず複数の目でチェックします。完成前の作成途中で、こまめにチェックするのがコツです。長い時間をかけて素案を作成し、最終段階で根本的なミスが見つかると致命的になります。特にヒアリングを終えた後では痛い状況になります。

 

もし基本的な重要部分の記載もれが見つかれば再ヒアリングになります。官公庁側だけでなく民間会社側にも大きな負担をかけてしまいます。ヒアリングは少なくとも 3 回以上です。大規模な契約では 10 回以上ヒアリングすることもあります。再ヒアリングするとなれば手続きが間に合わなくなります。ヒアリングを終えた後は毎回複数の目でチェックしましょう。

 

最初のうちは、とりあえず聞いた内容を文章化するだけでOKす。徐々に仕様書の形に直していくことになります。担当係員が仕様書の案を作成し、係長がチェックします。もし可能であれば他の係員にも見てもらうと安心です。なるべく第三者に見てもらうことが大切です。

 

仕様書を作成した本人は、ミスを見つけられません。どんなに優秀な人でも、自分のミスには気付きません。不思議なことに自分ではミスを見つけられません。頭の中でイメージして書いているので、不足した表現でも自分では理解できてしまうのです。第三者が見てわからない部分を、早い段階で見つけて修正しておくことが重要です。

仕様書に盛り込む内容

 

仕様書には、会計法令で定めている契約書の記載事項のうち、重要な部分を盛り込みます。

予算決算及び会計令(契約書の記載事項の条文)

第百条 (本文略)

一 契約履行の場所

二 契約代金の支払又は受領の時期及び方法

三 監督及び検査

(以下略)

 

契約書の記載事項は、入札説明書や契約書の案文で明記します。仕様書の中で記載する項目は、それらの中でも重要な部分を再掲することになります。

 

仕様書へ最低限盛り込みたい内容は次の通りです。

 

業務の目的

 

この契約が何を行うためのものか簡潔に記載します。目的がわからないと、複数の作業手順があるときに、どれが最適な方法なのか判断できないからです。あまり細かく記述する必要はなく 3 〜 4 行で記載します。

 

業務実施期間

 

契約期間を記載します。特に事前準備が大変な業務については、落札決定から業務を開始するまでの期間が重要になります。十分に期間があれば問題ないですが、短期間のときは準備作業自体に多数の人員を投入しなくてはなりません。自社だけで対応できないときは人員を確保するだけでも大変な作業です。業務開始日によって契約金額が変わります。

 

業務実施場所

 

実際に業務を行う場所を明記します。

 

官公庁側の資料やデータを使うのであれば、官公庁側の作業場所も明記します。そして、そのデータを入力したり加工する場所が民間会社側になるのであればその旨も明記します。作業場所の確保も契約金額に大きく影響するからです。自社内に作業スペースがなければ、費用をかけて新たなスペースを確保しなければなりません。また官公庁が持つ個人情報の管理のためにも、具体的に業務を行う場所を記載します。

 

契約代金の支払い方法

 

人件費が主な内容となる契約であれば、長期間の契約では月ごとに代金を支払う必要があります。なぜなら給与は、毎月支払うことが労働基準法第24条で定められているからです。長期間の契約にもかかわらず、契約代金をまとめて支払うことは民間企業側へ無理な負担を押し付けることになります。最悪、契約途中で資金ショートしてしまうかもしれません。契約が途中で不履行になってしまうリスクもあります。

 

月ごとに契約代金を支払うのであれば、月ごとの代金計算方法を明記します。例えば、 1 日いくらとするのか、処理件数 1 件いくらとするのか、あるいは作業人数によって計算するのかなどを明確にします。契約代金の支払い方法によっても契約金額が変わります。また代金を計算できるように仕様書へ記述する必要もあります。

 

監督及び検査の方法

 

高額な役務契約では、契約を実施している途中で進捗状況を確認した方が安全です。作業内容の確認を行うことができるよう仕様書へ明記しておきます。

 

官公庁側の契約担当者が、契約内容を確認するために立ち入り検査を行うことがあること、立入検査の際には協力しなければならないことを記載しておきます。

 

また業務がすべて完了した後、給付の完了の確認検査を行うことも義務付けます。

 

監督と検査は、いずれも官公庁側だけでなく、民間企業側も立会いの上で実施します。発注者と受注者双方の担当者が実際に目で見て確認しなければなりません。

 

業務内容

 

仕様書の中心部分です。実際の作業手順を誰もがイメージできる文章で記述します。話し言葉でわかりやすく説明するように記述します。仕様書は法令と違います。決められた語句は存在しません。日常用語でわかりやすいように記述します。複数の条件を設定するときには箇条書きにしてわかりやすい表現にします。写真や図形、表などを用いてわかりやすくします。法律の条文のような難解な文章は避けましょう。仕様書は誰が見ても理解できることが理想です。幼稚な文章の方がわかりやすいです。

 

また業務内容を記述するときは、どのデータを使い、どのように処理するのか、結果として何ができあがるのかインプットとアウトプットを明確にします。

 

例えば講演会やセミナーなどの大規模なイベント業務の仕様書を考えてみます。

 

開催案内を郵送で送付するのであれば、次のようになります。

 

開催案内発送業務部分の仕様書 記載例

 

◯◯地区の自治体の住所と庶務担当係を調査し、それぞれの担当係宛に開催案内を郵送する。開催案内文の原稿は、送付開始の10日前まにで発注者が別途指示する。開催案内を必要部数印刷し、発注者が支給する封筒に入れ郵送する。印刷費、郵送費も本契約代金に含むものとする。

 

ウェブサイトで参加者を受け付ける方式であれば次のようになります。

WEBサイトで参加申し込みを受け付ける仕様書の記載例

イベント開催の専用サイトを構築する。サイトのデザインについては発注者のサイトデザインを例にし公開前に了承を得ること。専用サイトで申し込みを受け付け、参加者リストを作成する。参加申し込み画面での入力項目はメールアドレス、氏名、電話番号とする。参加者総数は500名程度を予定しているので、サイトへのアクセス数も想定して堅牢なサイトを構築すること。発注者のサーバーを利用することもできる。

 

上記は一例ですが、このような記述になります。実際には作業内容を専門会社に聞きながら、同時に仕様書への記述方法も考えておきます。記述がむずかしいときは専門会社からアイデアを出してもらうこともあります。

仕様書への記載を忘れた場合の対応

 

一般競争入札の仕様書は、イメージした内容をできるだけ盛り込むようにします。落札決定後には、仕様書にないことを相手側へ強制することはできません。業務内容を追加すれば別途費用が発生します。

 

しかし実際には、 100 %すべてを満たした仕様書を作ることは不可能です。特に数千万円の契約では、実際に業務を始めてから、仕様書と異なる部分が見えてきます。契約を締結した後に変更しなければならない内容が判明したときは、官公庁側も民間企業側も、相互に歩み寄る姿勢で協議します。契約は対等な立場で締結するものです。双方が合意できないのであれば、契約内容も変更できません。

 

仕様書へ記載し忘れた場合の対応は、入札前と後で大きく変わります。

入札実施前の仕様変更

 

入札書の提出期限前に、仕様書の記載漏れや修正が必要になったときは次のように対応します。

 

入札参加者全員へ変更部分を文書で周知します。

 

新旧対照表のような形で、わかりやすく通知するのが安全です。

 

文書やメールで通知した後には、必ず確認します。入札参加者が理解したか確認します。電子メールであればメールの返信で内容確認したことを返信してもらいます。

 

そして変更部分が、契約金額の積算にまで影響するようであれば入札書の提出期限も延期します。場合によっては契約の業務実施期間も延期しなければなりません。いずれにしろ、変更によって新たな負担が生じないようにしなければなりません。

入札実施後の仕様変更

 

入札した後で、契約金額が変わるような仕様書の変更は原則できません。もし仕様書の内容を大きく変えなくてはいけない状況であれば、入札を取りやめにするしか方法はありません。入札を取りやめて、また最初から入札手続きをやり直すことになります。

 

契約金額に影響しない仕様書の変更は可能です。契約の相手方が快く変更を承諾してくれれば問題ありません。ただ繰り返しになりますが、契約金額の変更は原則認められないことです。契約金額が変更になるようであれば、一般競争入札の前提が変わってしまうからです。もしかしたら他の会社が落札できたかもしれません。

 

例外的に契約金額を変更できるのは、発注者の都合で数量を減らして減額する場合と、当事者に責任のない不可抗力の場合です。契約金額を減らす変更契約は問題ありません しかし契約金額を増加させる変更契約は、自然災害などで原料が値上がりしたなどの不可抗力の場合のみです。

 

つまり仕様書の変更については、入札前と入札後で対応方法が変わります。

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