スーパーコンピュータの国際入札についての解説です。1991年の日米経済摩擦によって、アメリカ政府から日本の市場開放を迫られていました。しかし国際入札より随意契約の方が安い金額で契約可能でした。国際入札と随意契約でどちらにするか迷いました。
スーパーコンピュータの国際入札とは
2009年、民主党政権のときに事業仕分けでも話題になった、スーパーコンピュータの契約手続きについての解説です。
1991年頃のことです。当時からスーパーコンピュータの研究開発は、日本の科学技術を支える基盤でした。世界各国が処理スピードを競っていました。日本は、戦後の復興期から国の政策としてスーパーコンピュータの開発を進めてきました。2019年現在は、技術の進歩によって国産のスーパーコンピュータが世界的に認められる時代になってます。
日米経済摩擦の本当の目的とは
1991年当時、アメリカのクレイ社やIBM社などが、日本のスーパーコンピュータ市場が閉鎖的だとクレームをつけていました。アメリカ政府は日本政府に対して、スーパーコンピュータの市場を開放せよと強硬な態度で臨んでいました。日米経済摩擦が社会問題になっていた時代です。
アメリカ側の要求は、日本の政府関係機関がスーパーコンピュータを調達する場合は、外国の企業も入札に参加できるように国際入札を実施して門戸を開放せよというものでした。公平な競争性の確保、透明性の高い入札手続きをアメリカ側は表向き主張していました。しかしその裏では、自分たちアメリカが世界のコンピューターを支配したいという思惑が見えていました。特にスーパーコンピュータは軍事技術に直結する重要分野です。
ちょうどその頃、私が勤務する職場でもスーパーコンピュータの買い替えを検討してました。国際入札を前提としたレンタル契約です。契約手続きを始めるため、日本の各大手メーカーから参考見積書や性能のわかる資料を取り寄せていました。インターネットもないアナログの時代です。各メーカーへ電話で依頼し、ついでの時に資料を届けてもらったり郵送してもらいました。
スーパーコンピュータは、開発費だけで数十億から数百億円になる超高額な設備です。私の職場でも購入できるほどの予算はありません。レンタル契約を検討してました。月額 1 億円で年間 12 億円程度の計画です。外国企業の参加を認める国際入札を検討していました。
随意契約なら破格の値段?
国際入札の手続きを始める前に、予算が確保できるか検討が必要です。およそのレンタル料金を把握するため、各メーカーの営業担当者へ参考見積書を依頼しました。参考見積書を取り寄せてから一週間くらい経過したある日、あるメーカーの営業担当者から電話がありました。直接お会いして相談したいとのことでした。まだ契約できるかもわからず、入札手続きを始める前です。当然ながら仕様書も入札内容も決めてない時期です。
営業マン
このスーパーコンピュータのレンタル契約は、国際入札の手続きになるのでしょうか?
私
ええ、高額なレンタル契約ですから国際入札を計画しています。
営業マン
私どもの会社では、随意契約と国際入札では、見積金額の算定方式が異なります。
私
は?・・・どういうことでしょうか?
営業マン
随意契約して頂けるなら、破格なレンタル金額を提示できます。
私
え?・・・本当ですか?
営業マン
ご存知のとおり、国際入札では官報に入札情報や落札情報が掲載されます。日本のみならず世界中に契約金額が公開されます。
私
ええ、もちろん国際入札ですから。手続きの透明性や公正さを示すために公開しますが、何か?
営業マン
いやー、そこなんですよね。入札の情報が公開されると不当廉売、ダンピングで訴えられる可能性があるので思い切った金額を提示できないのです。特にアメリカでは、クレイ社やIBM社が世界市場を狙っています。極端に値引きした情報が外部、特に海外へ漏れることを考えると安い金額は提示できないんですよ。
私
・・・でも不当廉売、ダンピングは違法じゃないですか?
営業マン
公的な組織は国民の税金を使用するわけですから、安い方が良いのではないですか?国民の税金ですよ?安い方が国民のためになるのでは?
私
うーん、確かにそうですが・・・、具体的にどのくらいの安くなるのですか?
営業マン
ひとつの例として、おおざっぱな金額ですが、年間のレンタル料として随意契約なら 5 億円で提示します。しかし国際入札を行うのが前提なら 12 億円までしか提示できません。
私
おおお・・・年間 7 億円の差ですか・・確かに悩みますね・・・
私は、競争性を確保した国際入札を実施して、少しでも安く買おうと思っていました。随意契約なら破格の値段で契約できるという提案に対してかなり悩みました。なにしろ年間 7 億円の差があるのですから。
レンタル契約は通常 5 年間継続します。合計 35 億円安くなるのです。国民の税金を 35 億円節約できるのです。(もちろん、この時は入札前の会話です。そのとおり安く契約できるかわかりません。)
随意契約なら国内メーカーと安く契約できます。国内の需要を刺激することにも役立ちます。国内メーカーの技術開発に役立つかも知れません。
うーん、しかし不当廉売という違法の臭いがムンムンします。安さと公正さは矛盾するのか・・
数日間、上司と二人で悩みました。迷った結果、正式な国際入札手続きでスーパーコンピュータを調達しました。契約金額は高い方になりました。落札したメーカーは、随意契約で破格の値段を提示してきた会社とは別でした。入札参加者は 3 社でしたが、随意契約で提示されたような安い金額の入札はありませんでした。入札結果を見ると、やはり随意契約の方が安いと思いました。
この契約以後は、入札より安くなる随意契約の経験はありません。しかし今でも、入札だから安い、というのは、素人の考えと思っています。
公正な判断で 35 億円の損は後悔?
国民の税金を使用する以上、特定の会社との随意契約は注意しなければなりません。安ければ良い、という安易な考えではなく、法令を遵守した公正で透明な契約手続きが重要です。しかし、もし年間 7 億円損したとすれば、 5 年間で 35 億円損したことになります。
すでに 28 年経過した今(2019年)でも、時々、やはり、あの時は損したかなぁ、ダンピングでも安い方が良かったかもなどと思い出してしまいます。
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