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スーパーコンピューターの国際入札と随意契約:安さと公正さの狭間で

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スーパーコンピュータの国際入札 入札
スーパーコンピュータの国際入札
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スーパーコンピューターの調達において、官公庁は国際入札と随意契約の間で難しい選択を迫られます。この記事では、日米経済摩擦の歴史的背景を掘り下げ、両契約形態の違いとそれぞれの利点・欠点を詳細に解説します。読者は、官公庁が直面する契約手続きの複雑さと、税金を効果的に節約するための戦略的な選択肢について深く理解することができます。この記事を通じて、公共の契約における透明性とコスト削減のバランスの重要性についての貴重な洞察を得ることができるでしょう。

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スーパーコンピュータの国際入札

 

2009年、民主党政権のときに事業仕分けでも話題になった、スーパーコンピューターの契約手続きについての解説です。

 

以下は1990(平成2)年頃の古い話です。当時からスーパーコンピューターの研究開発は、日本の科学技術を支える基盤でした。世界各国が処理スピードを競っていました。

 

日本は、戦後の復興期から国の政策としてスーパーコンピューターの開発を進め、計算速度世界一位を何度も達成しています。1990年から、すでに国産のスーパーコンピューターが世界的に認められる時代になっていたのです。

 

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日米経済摩擦の本当の目的

 

1990年当時、アメリカのクレイ社やIBM社などが、日本のスーパーコンピューター市場が閉鎖的だとクレームをつけていました。アメリカ政府は、日本政府に対して「スーパーコンピューターの市場を開放せよ」という強硬な姿勢でした。日米経済摩擦が社会問題になっていた時代です。

 

アメリカ側の要求は、日本の政府関係機関がスーパーコンピューターを調達する場合は、海外企業が入札へ参加できるように国際入札を実施して「門戸を開放せよ」というものでした。公平な競争性の確保、透明性の高い入札手続きをアメリカ側は表向き主張していました。しかしその裏では、自分たちアメリカが、「世界のコンピューターを支配したい」という思惑が見えていました。特にスーパーコンピューターは軍事技術に直結する重要分野です。

 

ちょうどその頃、私が勤務する職場でもスーパーコンピューターのリプレースを検討していました。国際入札を前提としたレンタル契約です。契約手続きを始めるため、日本の各大手メーカーから参考見積書や性能のわかる資料を取り寄せていました。まだインターネットやパソコンも十分に普及していないアナログの時代です。各メーカーへ電話で依頼し、ついでの時に資料を届けてもらったり郵送を依頼していました。

 

スーパーコンピューターは、開発費だけで数十億から数百億円になる超高額な設備です。私の職場でも、購入できるほどの予算はありません。レンタル契約を検討していました。借料は、月額 1 億円で年間 12 億円程度の計画です。海外企業の参加を認める国際入札を検討していました。

 

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随意契約なら破格の値段?

 

国際入札の手続きを始める前に、予算が確保できるか検討が必要です。およそのレンタル料金を把握するため、各メーカーの営業担当者へ参考見積書を依頼しました。

 

参考見積書を取り寄せてから一週間くらい経過したある日、あるメーカーの営業担当者から電話がありました。「直接お会いして相談したい」と頼まれたのです。まだ契約できるかもわからず、入札手続きを始める前です。当然ながら、仕様書も入札内容も決めてない時期です。次のようなやり取りがあったのです。

 

営業マン
このスーパーコンピュータのレンタル契約は、国際入札の手続きになるのでしょうか?

 


ええ、高額なレンタル契約ですから国際入札を計画しています。

 

営業マン
私どもの会社では、随意契約と国際入札では、見積金額の算定方式が異なります。

 


は?・・・どういうことでしょうか?

 

営業マン
随意契約して頂けるなら、破格なレンタル金額を提示できます。

 


え?・・・本当ですか?

 

営業マン
ご存知のとおり、国際入札になると、入札情報や落札情報が官報へ掲載されます。日本のみならず世界中に契約金額が公開されます。

 


ええ、もちろん国際入札ですから。手続きの透明性や公正さを示すために公開しますが、何か?

 

営業マン
いやー、そこなんですよね。入札の情報が公開されると不当廉売、ダンピングで訴えられる可能性があるので思い切った金額を提示できないのです。特にアメリカでは、クレイ社やIBM社が世界市場を狙っています。極端に値引きした情報が外部、特に海外へ漏れることを考えると、安い金額は提示できないんですよ。

 

 


・・・でも不当廉売、ダンピングは違法じゃないですか?

 

営業マン
公的な組織は、国民の税金を使用するわけですから、安い方が良いのではないですか?国民の税金ですよ?安い方が国民のためになるのでは?

 


・・・うーん、確かにそうですが・・・、具体的にどのくらい安くなるのですか?

 

営業マン
ひとつの例として、おおざっぱな金額ですが、年間のレンタル料、随意契約なら 5 億円で提示します。しかし国際入札を行うのが前提なら 12 億円までしか提示できません。

 


おおお・・・年間の借料で 7 億円の差ですか・・確かに悩みますね・・・税金を年間 7 億円安くできるわけですね。

私は、競争性を確保した国際入札を実施して、少しでも安く買おうと思っていました。ところが随意契約なら、破格の値段で契約できるという提案でした。これは、かなり悩みました。なにしろ年間 7 億円の差があるのですから。

 

レンタル契約は通常 5 年間継続します。合計 35 億円安くなるのです。国民の税金を 35 億円節約できるのです。(もちろん、この時は入札前の会話です。そのとおり安く契約できるかは入札してみないとわかりません。もしかしたら入札によって、もっと安い金額で契約できるかもしれないのです。)

 

随意契約なら、信頼できる国内メーカーと安く契約できます。国内の需要を刺激することにも寄与します。国内メーカーの技術開発に役立つのです。

 

(うーん、しかし不当廉売という違法の臭いがムンムンします。安さと公正さは矛盾するのか・・)

 

数日間、上司と二人で議論を重ねつつ悩みました。迷った結果、正式な国際入札手続きでスーパーコンピューターを調達することにしました。国際入札の結果は、契約金額が高くなってしまいました。落札したメーカーは、随意契約で破格の値段を提示してきた会社とは別でした。入札参加者は 3 社でしたが、口頭で随意契約を条件に提示されたような安い金額の入札はありませんでした。入札結果を見ると、やはり随意契約の方が安かったと思います。

 

この契約以後は、入札より安くなる随意契約の経験はありません。しかし今でも、「入札だから安い」という発想は、素人の考えだと思っています。

 

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公正な判断で 35 億円損した?

 

国民の税金を使っている官公庁では、特定の会社との随意契約には注意が必要です。法令に違反しても「安ければ良い」という考え方ではなく、法令を遵守した公正で透明な契約手続きが重要です。しかし、もし年間 7 億円損したとすれば、 5 年間で 35 億円損したことになります。

 

すでに 33 年経過した今(2023年)でも、時々、「やはり、あの時は損したかなぁ、ダンピングでも安い方が良かったかも」などと思い出してしまいます。

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