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1社入札は有効?それとも無効?1社入札を問題視するのは間違い

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ペトラで1社入札が有効なのか議論している 入札
ペトラで1社入札が有効なのか議論している
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1社入札を問題視するマスコミ報道や学識経験者の論評などがあります。いずれも「競争性が確保されていない、競争が形骸化している」などと批判しています。しかし1社入札は本当に問題なのでしょうか?契約実務経験者の視点からわかりやすく解説します。

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1社入札とは

 

官公庁が競争入札を実施するときに、悩ましい問題として、1社入札があります。1社入札の呼び方は、他にも、1社応札、1者入札、1者応札、1者応募など様々です。競争入札への参加者が1社のみで、開札時に「競争相手が存在しない状態」が1社入札です。

 

ここで注意したいのが、マスコミ報道などで、よく「入札」という用語が使われますが、官公庁の入札には、「一般競争入札」と「指名競争入札」の2種類があります。それぞれで1社入札が有効なのか解説します。両方とも「入札」という呼び方をしますが、全くの別物です。一般競争入札と指名競争入札を一緒に考えることはできません。

 

契約方式の原則は、一般競争入札です。例外として、契約金額が少ない場合や、入札参加者を制限する場合に指名競争入札が認められています。

 

 一般競争入札は、不特定多数の者が参加可能です。契約を獲得したいと思う人は誰でも参加できます。一方の指名競争入札は、官公庁側があらかじめ選んだ会社を指名して入札します。誰もが自由に参加できるわけではなく、選ばれなければ参加できません。そのため指名競争入札は、談合や業者との癒着などの危険性が常に存在します。指名競争入札はリスクばかりが目立つので、おすすめできない入札方式です。そのため物品購入契約などでは、一般競争入札がほとんどです。

 

では、一般競争入札を実施して、参加者が1社しかないときは、どう対応すべきでしょうか?

 

1社しか入札に参加しなくても、競争入札と言えるのでしょうか?

 

実は1社入札が有効かどうかは、昔から意見が分かれています。会計法令でも何も定められていません。

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1社入札を無効とする考え方

 

1社入札を無効とする考え方は次のとおりです。

 

 そもそも官公庁が実施する競争入札は、競争性を確保した上で、経済的な金額での契約締結を目指すものです。入札公告を公開し、不特定多数の者に対して参加機会を確保しても、その結果として参加者が1社だけであれば、その時点で競争性が確保されなくなったのです。競争できない状態は入札ではありません。

 

つまり、「1社入札が判明した時点で、入札を取りやめるべき」という考え方です。ライバルが存在しないのであれば価格競争できない状態なので、入札を取りやめにし、再度、仕様書などを見直し、複数の会社が入札へ参加できるようリセットしなくてはいけないというものです。競争できない状態であれば、もう一度最初から、入札手続きをやり直すべきだと考えます。

 

これは理論的に考えれば、一見、正しいです。

 

競争性を実質的に確保した入札のみを絶対条件とし、2社以上の入札参加者によって、実際に価格競争できる状態で開札するのが「入札」と考えます。「1社のみの入札は、そもそも競争相手が存在しないのだから、競争入札ではない」という判断です。

 

このような主張は、実務を経験したことのない人たちに多いです。自分で入札を担当したことがなく、仕様書や予定価格の作成経験がない学識経験者などが主張しています。

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入札をやり直す弊害

 

では入札の結果、1社のみの参加となり、入札をやり直す(仕切り直す)ことを現実的に想定しましょう。どれほどの手間と人件費が必要か考えます。

 

机と椅子を100セット購入する、総額500万円の入札を例にします。一般競争入札を取りやめて、最初から入札をやり直す場合の手続き期間は、およそ次のとおりです。

 

仕様書(必要とする契約内容を示す資料)を見直して再作成するためには、複数の販売会社から資料を取り寄せて検討するなどの調査が必要です。机と椅子の型式や類似商品、同等品を再検討するために資料を集め、営業担当者へ(なぜ参加できなかったか、どういう条件なら参加できるかなども)ヒアリングします。ヒアリングの日程調整や打ち合わせ資料の作成、取りまとめなどで少なくとも2週間以上必要です。

次に、入札公告をWEB上へ掲載するための入札伺いを作成し、内部で決裁する期間も1週間必要です。入札公告の掲載期間は、最低でも4週間以上を確保します。この入札公告掲載期間が短いほど、入札参加者が少なくなります。実際に1社入札になってしまい、やり直すのであれば、可能な限り長期間の入札公告公開が必要です。

 

これらを集計(ヒアリング 2週間+決裁 1週間+入札公告 4週間)すると、入札手続きをやり直す場合は、開札までに7週間以上、つまり、およそ2ヶ月程度が必要になります。

 

1社入札をやり直すということは、参加する会社が2社以上になるよう仕様書を見直すことです。多数の会社が参加できるように類似品を調査し、複数メーカーを同等品に掲げ、メーカーを増やして内容を修正します。市場調査のやり直しを行なうことになります。参加可能な会社の情報を調べるのに多くの労力が必要です。

 

つまり1社入札を有効とすれば、2ヶ月で契約手続きを終える予定のものが、やり直しによって4ヶ月以上の手間(手続き期間と人件費)が必要になります。

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1社入札を無効とする矛盾点

 

そして、さらに矛盾が生じてしまう点は、入札をやり直しても、再び1社しか参加しない場合があることです。さらに3度目の入札までやり直しを行うのか、という問題が生じます。

 

不特定多数の会社が参加できるように、WEB上へ入札公告を掲載し、競争参加機会を十分確保したとしても、入札公告を見た会社が次のように判断することがあります。

うちの会社も取り扱いできるが、今回は他に大型契約を獲得しているので、忙しいから辞退しよう。

 

今回はあまり値引きできないから、入札に負ける可能性があるので、参加するのはやめよう。

 

〇〇省の入札は、いつも予定価格が厳し過ぎて、契約を獲得しても全く利益にならないので参加するのはやめよう。

 

ちょうど、他の大口契約が獲得できたので、そちらを優先するために参加はやめよう。

 

つまり、入札書を提出する前段階で、会社側の経営判断として辞退するケースが存在するという事実です。これでは何度入札をやり直しても、再び1社入札となってしまいます。

 

入札をやり直すのは、相当な労力と人件費の負担になります。入札を実施するのに、通常2ヶ月の手続き期間が必要なのです。一度決定した入札内容を見直して、再度公告して入札するために4ヶ月から、(最悪、この繰り返しとなれば、)半年くらい必要になってしまいます。その間の労力を考えれば、(経済性まで考慮すると)ほんとにメリットがあるのか極めて疑問です。

 

入札を実施するときは、予定価格という適正価格の基準があります。1社入札だとしても、予定価格以下の金額でしか落札しません。ライバル会社が参加しなくても、予定価格によって経済性は確保されているのです。

 

このように考えると、「実質的に競争性が確保されない1社入札は無効である」という主張は、机上の空論であることがわかります。現実社会を理解していない考え方です。(理論を否定するつもりはありませんが、実社会を知らない、意味のない理論です。)

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1社入札を無効とすれば、不正の温床になる

 

1社入札を否定する考え方は、さらに悲劇的なことを招きます。例えば、1社入札は競争性がなく無効と判断し、入札をやり直したり、取り止めにしたとします。その後で厳しい上司から、「次は、何が何でも入札を成功させろ、絶対に複数の会社が入札へ参加できるようにしろ」との命令があったとします。こうなると、完全にブラックホールに落ちます。

 

契約担当者は、複数の会社を入札へ参加させることが任務と受け取ります。いつも取り引きしている顔見知りの営業担当者へ、入札へ参加するよう内緒で声をかけることになります。声をかけられた営業担当者は、たまったものではありません、いい迷惑です。

 

入札へ参加しても、落札できるわけでもなく、当て馬にされるだけです。しかも、普段扱っていない商品などの入札で、万が一、的外れの安い入札金額を書いてしまい、間違って落札でもしたら大損です。かと言って、お役所の契約担当者から依頼されたことを断るわけにもいきません。

 

仕方なく、当て馬とされた会社の営業担当者は、本命の会社を調べて連絡し、落札予想金額を聞くでしょう。内緒で官公庁側の契約担当者へ、落札予想金額を聞くかも知れません。こうなれば犯罪になってしまいます。予定価格漏洩や官製談合せざるを得なくなるのです。

 

つまり無理に競争を取り繕い、2社以上で競争したかのように見せかける入札は、完全な法律違反です。入札自体が不正行為(犯罪行為)になってしまいます。1社入札を避けるために、書類上だけの見せかけの競争に執着した結果、やらせ入札が実現します。最悪の場合、逮捕されてしまうでしょう。1社入札を無効と判断すれば、悲劇的な結末を迎えることになります。

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1社入札を有効とする考え方

 

一方、1社入札を有効とする考え方は、競争性を確保した時期を重視します。

 

 そもそも一般競争入札という契約方式は、入札公告を公開して誰もが入札に参加できる機会を確保すれば十分と考えます。結果として1社のみの入札だったとしても、それは、ただの結果論と捉えます。入札へ参加する機会は、入札公告を公開した時点で確保されているので問題なく、競争性が十分確保された手続きと判断します。もし参加しようと思えば、参加できる状態だったのです。参加できる機会は提供していたのです。(ただ、当然ながら入札公告期間は長期間であることが前提です。最低でも2週間以上は必要でしょう。)

 

結果として1社だけの入札であったとしても、そのまま開札を実施します。予定価格の範囲内であれば、経済性も十分ですから落札になります。1社入札は有効で適法と考えます。

 

この1社入札を有効とする考え方が、現実的で正しく一般的です。

 

ほとんどの官公庁で1社入札を有効としています。適正な予定価格を設定すれば、1社入札でも再度入札(2回目、3回目と予定価格以下になるまで入札を繰り返す。)を実施し、安く契約できます。

 

入札公告を公開した時点で、すでに競争性は確保されます。そして予定価格を上回れば、再度入札を実施することで経済性も確保できます。一般競争入札での1社入札は問題なく、適正な手続きです。

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一般競争入札の目的

 

1社入札を無効とする考え方は、入札時に複数の者が参加していないことを問題にしていました。一方、1社入札を有効とする考え方は、入札よりも前の段階、つまり入札公告を公開した時点で競争性が確保されているので問題ないと判断しています。

 

競争性を確保する時期を、入札公告を公開した時点とするのか、入札時とするのかで判断が別れていました。1社入札を有効とする考え方は、一般競争入札の目的を考えるとわかりやすいです。

 

一般競争入札の目的は、次の3点です。

一般競争入札の目的

  公平性

公正性

経済性

 

公平性(機会均等)とは、納税者である誰もが、公平に入札に参加できるという、参加機会の確保という意味です。入札公告の一般公開を意味します。誰もが入札の情報を得ることができ、参加できることです。

 

公正性とは、官公庁が契約の相手方を選ぶときに、法令で定められた一般競争入札という手続きによって選ばれるという意味です。契約担当者の恣意的な判断を排除し、法令に基づく厳格な手続きを経ているということです。

 

経済性とは、最も有利な価格で契約するという意味です。購入契約であれば、予定価格以内の最安値で落札することです。競争意識が働けば、より安くなります。

 

特に最初の目的である公平性(機会均等)は、競争の機会を確保することで一番重要です。入札公告を十分な期間一般公開して、不特定多数の会社が入札へ参加できる機会を確保することです。官公庁は、国民の税金で運営されてます。一般競争入札を行うときは、誰もが参加できる公平な手続きが必要です。

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指名競争入札の1社入札は無効

 

では、指名競争入札の場合、1社入札となったらどうでしょう?

 

一般競争入札では、入札公告を公開した時点で競争性が確保されていました。結果として1社入札でも、競争性には問題ありませんでした。

 

同じように指名競争入札の場合も考えられるでしょうか?

 

一般競争入札は、入札公告を公開することで、不特定多数の者に対して競争に参加する機会を公平に確保しています。しかし指名競争入札は、入札公告を公開しません。また発注者である官公庁側が事前に選んだ会社へ、指名競争入札を行なう旨を通知して、入札へ参加してもらうだけです。

 

例えば、指名競争入札として10社を選び、指名通知を郵送したとします。結果的に1社しか参加しなかった場合、これは明らかに、会社の選び方(指名基準)に問題があったことになります。指名する会社の選び方に問題があり、その結果として1社入札になったのです。これでは競争性が確保されたことになりません。

 

つまり指名競争入札では、官公庁側が会社を選んでいるので、この段階では競争の機会が十分に確保されていないのです。

 

指名競争入札の開催通知を複数社へ送ったにもかかわらず、結果的に1社入札であれば、指名方法に問題があったのです。指名競争入札における1社入札は無効と考えるのが正しい判断です。指名競争入札での1社入札は取り止めとし、一般競争入札へ切り替えます。

 

指名競争入札は、ほとんどメリットがありません。可能な限り一般競争入札とすべきです。

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コメント

  1. 質問 より:

    私の自治体では、ネットワーク機器及びPC類などの数百万〜数千万の指名競争入札において、A社が出した仕様書がそのまま採用され、細かい箇所でA社以外応札できないような仕様が組まれています。

    例えば、あるPCメーカーしか満たすことができない必要とは思えない仕様を盛り込み、質問状でそれを指摘しても回答は常に不可です。

    既存システムがA社から納入されているため、担当者がA社に仕様書を依頼し、A社が縛った仕様書でA社が落札するという大変不健全なループに陥っています。

    このような状況下での一社入札は問題ではないかと市の担当者に掛け合った事もありますが、問題ないとの回答です。

    当記事を拝見し、やはり指名競争入札における我が市の現状は正常ではないと思います。

    何か打開できるようなアイデアはないでしょうか。大変不躾ですが、このままでは弊社含めA社以外の競合他社はジリ貧です。

    なお、さらに言うとA社の役員には副市長も名を連ねている上、A社は第三セクターです。

    • 矢野雅彦 矢野 雅彦 より:

      コメントありがとうございました。
      管理人です。

      ネットワーク機器やPC類の入札で、お困りのようですね。

      おっしゃるとおり、仕様書の中で「不必要と思える条件」で縛られてしまうと、競争入札ができなくなってしまいます。また、契約実務担当者は、お気に入りの会社へ、仕様書の原案を丸投げすることもできてしまいます。(国際入札では、明確に禁止しているので、正式に苦情相談窓口へ訴えることが可能です。)

      内閣府の相談窓口

      https://www5.cao.go.jp/access/japan/chans_main_j.html

      実際の仕様書を見てない状況では、正確に答えることは難しいので、一般的な答えになります。

      A社と、自治体の契約担当者が癒着してない限り、自治体の職員は(良識があるなら)、「複数社で競争して欲しい」と思っているはずです。(もしA社以外を排除しようとしているなら、癒着している可能性ありです。)

      自治体の担当者へ質問するときに、次のいずれかの方法を試してみてください。

      ◯入札方法や、仕様書の記載内容を批判するのではなく、「代替手法」や「代替機能」を提案する。仕様書の目的は、本来、機能を求めるものです。同じことが実現できるなら他メーカーでも問題ないはずです。そして、もし実現できなければ、仕様書どおりのものに、無料で入れ替えるなどの保証までつければ、拒否できないはずです。

      ◯次回の契約更新(機器入れ替え)のときに、仕様書の原案作りに参加させてもらう。そして、「もっと安く良いシステム」の仕様書の原案を提示できることを説明する。

      つまり、入札に関することを批判してしまうと、「問題ない」という回答しか得られません。結果的に門前払いになります。そもそも、官公庁の契約担当者は、問題ないと判断して入札を実施しています。

      なお、最後の手段としては、地元の議員へ相談する方法や、公益通報制度を利用して、癒着が疑われていることを通報する方法もあります。ただし逆に、クレーマーと間違われ「取引停止」になるなど、かなりリスクがあります。ホントに最後の手段です。

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