「相見積(合見積)」と「見積合せ」のわかりやすい解説です。官公庁(役所)との契約手続きでは、少額随意契約のときに、複数社の見積書で契約の相手方を決定します。ただし、「相見積(合見積)」は注意が必要です。昔は、談合に近い違法な手続きでした。
違和感のあるCM「相見積に参加」とは?
最近(2020年11月)、テレビ を見ていて、不思議なCMがありました。ある会社が「相見積に参加させてください。」と宣伝していました。私は、官公庁の会計実務を長い間担当してきた経験から、「かなり違和感」を感じました。そこで、あらためて解説することにしました。
「相見積に参加させてください」と、公の場で話すことは、「違法な談合に参加させて下さい。」と言ってるのと同じように聞こえる場合があります。「私の会社は、法律違反だって、平気ですよ。談合は必要悪ですから。」とアピールしてるようなものです。
つまり「相見積に参加させてください。」は、かなり「痛い CM 」なわけです。おそらく営業の人たちが、「相見積」の意味を正しく理解してないのだと思いますが。
もちろん、これは「官公庁との契約」に限定したことです。民間会社同士の取り引きであれば、「相見積」という表現で問題ないのかも知れません。しかし国民の税金を使う官公庁(役所)では、談合行為は、法律に違反した犯罪行為です。「必要悪」と言われているとしても認められないものです。官公庁の契約実務担当者が談合を行えば逮捕されてしまいます。契約実務担当者としては、一番注意しなくてはいけない行為です。
「相見積(合見積)」は、談合と同じ形態を意味することがあります。正確に表現すると、昔(1990年以前)は、官製談合と同じことを意味していました。正しい契約手続きは、「相見積(合見積)あいみつ」ではなく、「見積合せ(みつもりあわせ)」です。この違いは重要なので、この後詳述しますが、昔は厳格に使い分けていました。
現在(2020年11月)は、「相見積(合見積)」と「見積合せ」が、ごっちゃになって、ほぼ同じ意味で使われています。そのためテレビCMで、官製談合を匂わすような「痛い広告」が放送されているのかもしれません。法律に違反しない正しい表現は「見積合せに参加させて下さい。」です。
「相見積(合見積)あいみつ」とは
最初に、「相見積」、「合見積」それぞれの文字が持つ意味を確認します。
「相」・・・仲間、ぐる
「合」・・・揃える、くっつける、同じ
つまり、「相見積(合見積)あいみつ」という意味は、「見積書を、仲間うちで揃えること」を意味することがあります。
どういうことかと言うと、見積書を「誰が取り寄せるか」なのです。
例えば、官公庁(役所)が、30万円の高性能パソコンを購入するとしましょう。少額随意契約の範囲内なので、見積書を複数取り寄せて随意契約を締結します。
一般的には、官公庁側の契約実務担当者が、3社から見積書を取り寄せます。法令(予決令99-6)では2社以上と定められているので、2社でも問題ありません。しかし会計検査などの際に注意を受けます。3社であれば一般的なので問題ありません。
3社の見積書が集まり、その中の最安値の会社と随意契約を締結するのが原則です。
ところが、3社の見積書を取り寄せる方法が、「相見積(合見積)」と「見積合せ」で異なるのです。ここが大きなポイントです。
「相見積(合見積)」は、官公庁(役所)側の契約実務担当者が、事前に契約の相手方を決定し、その相手方に対して他社の見積書を取り寄せるよう依頼するのです。
正式契約の相手方がA社と仮定しましょう。最初に取り寄せたA社の見積書が、3割引きの21万円だったとします。契約実務担当者は、(これなら安いので問題ないと判断し)A社に対して、21万円で正式契約することを伝えます。他社の見積書を取り寄せる前に、正式契約としてA社を選定します。そして後日、他社の見積書を「相見積」として提出するようA社に対して依頼するのです。
「相見積」を依頼されたA社は、自社の子会社やグループ会社などへ、見積書の提出を依頼します。当然のことながらA社の21万円よりも高い金額の見積書を提出してもらいます。3社のうちA社が一番安いことを証明するための見積書だからです。B社もC社も、A社より高い見積書になります。
ときには、他社の見積書の様式だけを持っていて、(他社からの白紙委任として、)21万円よりも高い見積書を作成してしまうこともあります。あらかじめ他社の「社長印が押してある正式な見積書」を持っていることは珍しくありません。お互いに、信頼している会社同士であれば、「白紙委任」があり得るのです。
つまり、A社を通して、B社やC社の見積書が、官公庁側へ提出されるわけです。これは、すでに契約が確定しているA社が、B社、C社と談合しているのと同じ構図です。
官公庁側としては、見積書が3社あれば問題ありません。「誰が見積書を取り寄せたか」、「誰が見積書を作成したか」は気にしないのです。なぜなら結果的に、3社の正式な見積書があれば、会計法令に合致した形式になるからです。
このような方法で見積書を取り寄せる「相見積(合見積)」は、明らかに違法です。ほぼ談合と同じ構図になるからです。
参考 「公正取引委員会 入札談舎等関与行為防止法について QA」
「入札.競り売りその他競争により相手方を選定する万法」には.どのような契約方法が含まれるのですか。
「入札,競り売りその他競争により相手方を選定する方法」には. 一般競争入札及び指名競争入札のほか,随意契約のうち,複数の事棠者を指名して見積を徴収し.当該見積りで示された金額だけを比較して契約先を決定する形態のもの(指名見積り合わせ)が含まれます。このような形態の随意契約は, 実質的に競争入札と変わるところがなく,公正取引委員会においても従来から指名見積り合わせに係る事件を入札談合事件の一類型として扱っています。
入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律(平成十四年七月三十一日法律第百一号)
第二条
4 この法律において「入札談合等」とは、国、地方公共団体又は特定法人(以下「国等」という。)が入札、競り売りその他競争により相手方を選定する方法(以下「入札等」という。)により行う売買、貸借、請負その他の契約の締結に関し、当該入札に参加しようとする事業者が他の事業者と共同して落札すべき者若しくは落札すべき価格を決定し、又は事業者団体が当該入札に参加しようとする事業者に当該行為を行わせること等により、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和二十二年法律第五十四号)第三条又は第八条第一号の規定に違反する行為をいう。
「相見積」は、見積書を比較して契約の相手方を決定するのではなく、相手を決定した後で、形式的に(見せかけのように、談合と同じように)他社の見積書を、契約の相手方から取り寄せることを意味することがあるのです。
なぜ、このようなことが起こるかと言うと、「誰が見積書を取り寄せたか」は、その時の当事者以外、誰にもわからないのです。契約実務担当者と営業担当者以外、誰にもわかりません。
「見積合せ」とは
上述した「相見積(合見積)」は、談合と同じように違法な契約手続きが含まれます。複数社の見積書を比較する前に、契約の相手方を決定してしまうことがあるのです。
正しい契約手続きは、「見積合せ」(みつもりあわせ)です。「見積り合わせ」と表記することもあります。
「見積合せ」は、価格競争を実施するために、契約実務担当者が見積書を取り寄せます。公平性に配慮しながら3社へ「見積書」の提出を依頼します。依頼するときには「仕様書」(官公庁側が求めたい内容)を添付します。「仕様書」には契約内容・契約条件を明示し、依頼を受けた会社側が見積書を作成できる条件が網羅されています。「仕様書」を提示して見積依頼しないと、正確な見積金額が算出できません。
「見積合せ」は、官公庁側の契約実務担当者が、直接、各社から見積書を取り寄せます。各社の見積書が出揃った後に、最安値の見積金額を提示した会社を選定し、契約の相手方として正式に随意契約を締結します。
通常、契約の相手方に選定された会社の見積書には「合格」と表示し、他社の見積書には「不合格」と表示します。(官公庁内部での処理です。)不合格になった会社に対しては、「他社の方が安かったこと」、「今回は契約できなかったこと」を伝えます。文書で通知することもありますし、メールや電話で伝えることもあります。
官公庁の契約手続きでは、「見積合せ」という表現を使わないと、上述したように、違法な談合と間違われてしまうことがあります。
特に、官公庁との契約を長く経験している「ベテラン営業担当者」になると、「私の方で、相見積を用意できますので、契約をお願いします。」と宣伝してくることさえあります。
契約実務担当者にとっては、複数の会社から見積書を取り寄せることは、かなり負担になります。そのため「相見積(合見積)」に頼ってしまうことがあるのです。
もし「相見積(合見積)」を受け取ってしまったら
私自身も経験がありますが、(気が利いた?)営業担当者は、依頼しなくても、見積書と一緒に「相見積(合見積)」を提出してきます。当然、違法に近い(談合に近い)見積書のはずです。
そこで、「相見積(合見積)」を含めた3社の見積書を受け取ったときは、次のように対応するのが安全です。
「相見積(合見積)」を含む3社分の見積書は、そのまま受理します。書類を返してしまうと「角が立ち」ますし、「融通の利かないヤツ」と思われる(変な噂を流される)可能性があります。ただし、この時に、次のように正式契約を待つよう伝えます。
「他の製品や、予算状況などを検討したいので、少し契約を待ってください。正式契約できそうなら後日連絡します。」
そして、提出された見積書の会社とは、まったく違う会社を探して、直接、「見積書」の提出を依頼します。(この段階で、正式な「見積合せ」になります。)
もし、「見積合せ」を依頼した会社の方が安ければ、「相見積(合見積)」を提出した会社に対して、契約を断ることを伝えます。
「すみません、今回は、契約を見送ることになりました。他の会社で(〇〇円で)契約することにしました。また次回よろしくお願いします。」
このときに、「いや待ってください。もっと安い金額で契約します。」と申し入れがあっても、受けてはいけません。もし受け入れてしまえば、談合と同じになってしまいます。「今回は、他社とすでに契約済なので、残念ながら無理です。」と断りましょう。
つまり、違法に近い「相見積(合見積)」に対して、さらに新たに見積書を加えることで、適正な「見積合せ」へ変えるのです。結果的に、見積書が4社になっても問題ありません。会社数は多い方が良いわけです。
官公庁(役所)で契約実務を担当するときは、「相見積(合見積)」と「見積合せ」の違いを正しく理解しましょう。昔は、「相見積(合見積)」はダメだったのです。
どうやら大昔に、建設業界では、下請け会社から「相見積(合見積)」を提出させることが一般化していて、そこから広まったようです。
コメント
いつも参考にさせていただいております。
文章の中の「昔は」という文言が少し気になりました。
今は相見積は「官製談合」にならないということでしょうか?
それとも今も変わらず「官製談合」に該当するのでしょうか?
管理人です。コメントありがとうございました。
今(2020年11月)でも、価格競争を避ける目的で、特定の会社の見積金額より高くなるように「価格調整」すれば、談合となり、違法です。
本記事にも記載しましたが、公正取引委員会のQAでも、入札談合事件の一類型となっています。