分割発注の可否についての解説です。官公庁の契約手続きでは、金額が大きい契約は一般競争入札です。しかし一般競争入札は煩雑で、契約を締結するまでに2ヵ月も必要でます。一方、事務簡素化を目的にした少額随意契約なら簡単に契約できます。
少額随意契約の根拠法令
官公庁が実施する契約手続きの中に、少額随意契約があります。契約方式の原則である一般競争入札の例外として、事務簡素化を目的に認めているのが少額随意契約です。一般競争入札は、契約を締結するまでに2ヵ月以上かかります。そのため、すべての契約について、一般競争入札を実施することは物理的に不可能です。公務員を100倍くらい増員しなければなりません。そこで一般競争入札を行わずに、随意契約することが例外的に認められているのです。
実際に契約実務を担当すると、競争入札手続きの煩雑さが嫌になるほどわかります。随意契約の方がはるかに簡単なのです。すると、次のような疑問が沸いてきます。
分割して随意契約することができないか?
官公庁の契約手続きは法令に基づきます。一定の契約金額以上(例えば、物品購入契約なら160万円以上など)の場合、競争入札になります。入札対象となる契約について、数量を分けるなどして契約内容を分割できれば、入札対象金額でなくなり少額随意契約の範囲内になります。契約内容を分割して発注することができるのか解説します。
最初に、少額随意契約の根拠法令を確認します。官公庁の契約方式は、一般競争入札が原則です。例外的な取り扱いとして、契約金額が少額な場合や、契約の相手方が限定される場合に、随意契約や指名競争契約が認められています。
会計法
第二十九条の三 第五項
契約に係る予定価格が少額である場合その他政令で定める場合においては、第一項及び第三項の規定にかかわらず、政令の定めるところにより、指名競争に付し又は随意契約によることができる。
会計法第二十九条の三第五項の政令とは、予算決算及び会計令(略して予決令 よけつれい)を指します。
少額随意契約は金額で判断
少額随意契約は、予決令第九十九条が根拠法令です。
予算決算及び会計令(予決令)
第九十九条(部分的に抜粋)
会計法第二十九条の三第五項 の規定により随意契約によることができる場合は、次に掲げる場合とする。
二 予定価格が二百五十万円を超えない工事又は製造をさせるとき。
三 予定価格が百六十万円を超えない財産を買い入れるとき。
つまり物品購入契約の例なら、予決令第九十九条第一項第三号に基づき160万円以下であれば随意契約が可能です。事務簡素化を目的とする少額随意契約です。
地方自治体の少額随意契約
予決令第九十九条は、各省庁など国の組織を対象としています。都道府県や市町村などの地方自治体は、地方自治法、地方自治法施行令で定めています。
地方自治法施行令
第百六十七条の二 (略)随意契約によることができる場合は、次に掲げる場合とする。
一 売買、貸借、請負その他の契約でその予定価格(略)が別表第五上欄に掲げる契約の種類に応じ同表下欄に定める額の範囲内において普通地方公共団体の規則で定める額を超えないものをするとき。
上記の予決令に対応する別表第五を抜粋します。都道府県は予決令と同じ金額、市町村は50%です。
別表第五
工事又は製造の請負
都道府県及び指定都市 二百五十万円
市町村 百三十万円
財産の買入れ
都道府県及び指定都市 百六十万円
市町村 八十万円
違法となる分割発注とは
それでは、1台20万円のノートパソコンを10台購入すると仮定しましょう。総額200万円の購入契約です。
一般競争入札となるのでしょうか?
それとも契約を分割して、ひとつの契約を80万円以下にすれば少額随意契約が可能でしょうか?
1台20万円なので、4台づつに分割して契約すれば、1つの契約は80万円です。予決令99条第3号の少額随意契約の範囲です。これなら問題ないのでしょうか?
契約担当者としては、手続きが簡単な随意契約の方が、仕事を効率的に進めることができると考えます。分割契約の方に心が動きます。
しかし正解は一般競争入札を実施すべきです。
契約金額が160万円未満となるよう、次のように分割して契約したとします。
80万円で9月15日にA社と契約
80万円で9月25日にA社と契約
40万円で10月15日にA社と契約
納品日もそれぞれで分けて納品されたとします。発注日も納品日もそれぞれ違います。ひとつの契約書類だけに着目すれば、少額随意契約が可能です。しかし、これは法令違反です。会計検査院や外部からの監査、あるいは内部監査などで指摘を受けます。指摘内容は、「一般競争入札を逃れるため、意図的に契約書類を分割し、特定の企業と随意契約を行った」となります。業者との癒着も疑われ、適正な契約手続きとは認められません。
不適切な会計処理と指摘され、マスコミ等でも問題になれば、信用失墜行為として懲戒処分の対象になります。契約担当者が行ってはならない違法な手続きです。
実際にマスコミで問題になった事例です。
朝日新聞社 2008年06月12日
「大阪市内3小学校の分割発注は「不適正」 職務審査委、調査を勧告 【大阪】 」大阪市公正職務審査委員会は11日、市内の3小学校が、応接セットや児童の名札など10万円を超える備品購入の際に意図的に発注を分割し、複数社に見積もりを求める必要がない10万円以下の「小額特名随意契約」にしていたことを明らかにした。
朝日新聞社 2017年11月21日
「入札→随意契約、勝手に変更 つくば市、中学修繕工事を中止 /茨城県 」市によると、工事は天井の修繕と塗装を一つにして一般競争入札する予定だった。地方自治法施行令では、契約金額が130万円を超える場合は一般競争入札にする定めがある。
教育施設課長は「競争入札では時間がかかる。夏休み期間中に工事を終わらせたい」として随意契約に変更。7月6日に修繕を126万3600円、塗装を128万5200円で分割発注した。二つの工事を市内の同一業者が受注した。
この他にも、毎年のようにマスコミで分割発注が問題視されています。
そして、もし契約年月日や納品日の日付を事実と異なるように変えてしまうと、さらに危険です。書類の日付を操作して、事実と異なる日にしてしまうと虚偽記載、書類偽造になります。契約書類を対外的に説明しやすいように変えてしまうのは、かなり危険で甘い考えです。虚偽の日付操作は、税金の不正使用になります。
特に、近年の国税専門官による税務調査(消費税の検査)では、反面調査権を駆使して、物品を購入した官公庁側の書類だけでなく、物品を販売した会社側の売上台帳のデータまで照合します。実際の契約日や納品日と、支払書類の日付チェックを行う検査手法が多くなっています。
事実と異なる日付の書類を作成すれば、すぐにバレます。故意に書類を偽造したとなれば不正使用です。
最初の事例に戻りますが、物品を販売した会社側で、ノートパソコンを10台まとめて納品した事実があるにもかかわらず、購入した官公庁側で契約書類を意図的に分割すれば、虚偽の書類を作成したと看做されてしまい、とても危険で不正な事務処理になってしまいます。謝って済むような軽い問題ではありません。関係者全員が懲戒処分を受けます。
官公需の分割発注の推進とは
一方で、分割発注を推進する法律があります。これを読むと上記と矛盾しているのではないかと思えてしまいますが・・参考に記載します。
官公需についての中小企業者の受注の確保に関する法律(昭和四十一年六月三十日法律第九十七号)に基づいて、毎年、次のように閣議決定されています。
平成23年度中小企業者に関する国等の契約の方針(平成23年6月28日閣議決定)抜粋
中小企業者が受注し易い発注とする工夫・・分離・分割発注の推進
国等は、物件等の発注に当たっては、価格面、数量面、工程面等からみて分離・分割して発注することが経済合理性・公正性等に反しないかどうかを十分検討したうえで、可能な限り分離・分割して発注を行うよう努めるものとする。
この分離・分割発注の推進を見ると、上記のノートパソコン200万円を分割して、契約手続きを行っても問題ないように思えてしまいます。しかし、これは大きな勘違いです。入札を回避するための分割発注は、やはり違法です。
中小企業を保護する目的の分割発注とは、分割することによって、複数の(多数の)中小企業が契約できるよう配慮することを目的としています。200万円の契約を分割しても、同じ会社との契約であれば適用できません。
分割した契約を、それぞれ違う会社と契約するなら問題ありません。同じ会社との契約は、中小企業の受注機会を確保しているとは認められません。
分割発注が認められる例とは
それでは、本当に分割契約はできないのでしょうか?
分割契約が認められる例です。正確には分割契約ではなく、別契約として認められるケースです。
(前提条件)
最終的にノートパソコン 単価20万円を10台購入するケースを想定。
分割は、3回に分けて契約。(上記の例と同じ)
まず、分割発注になる正当な理由が必要です。事実でないことや屁理屈では駄目です。具体例は次のとおりです。
ある研究を実施するために、研究の進展に応じてノートパソコンの性能を検証し、その結果をフィードバックしながら、さらに研究(仕様変更)する場合です。研究の進展に応じて仕様変更する必要があり、一度に購入契約を締結することができないケースです。
第1ステップ 4台購入(基礎データ処理)
研究テーマのスタート部分を処理するために、4台を相互にネットワーク化し、研究データの分散処理を行う。基礎データの収集、データ出力フォーマット、通信規約の検証を行う。
第2ステップ 4台購入(発展データ処理)
第1ステップで処理、出力できる状態を確認しながら、さらに研究を進展させるため、上位の性能の検討を行い、ソフトの機能追加を行い契約する。
第3ステップ 2台購入(応用データ処理)
第2ステップのデータを、さらに応用技術に結びつけるためのソフトを開発する。第2ステップまでのデータを利用して、さらに上位のステップへデータを渡すためのソフト開発を実施する。パソコンの性能も、さらに上位機種を検討しつつ導入する。
つまり一度に発注できないことが明白な場合です。これらの理由であれば分割して購入する正当な理由になります。先に一部を購入してからでないと、次の機種(仕様)を決められない場合です。ただし契約は、分割発注ではなく、別契約という概念になります。性能が変わる(進化)ので、別のノートパソコンを購入することになります。
分割発注が認められるのは、当初購入するときに全パソコンの仕様を決定できないこと、その理由が、進捗状況に応じて仕様を変更する必要があるときです。
実際には、データやソフトの互換性などから、結果的に10台全てのノートパソコンが同一メーカーになることもあり得ます。しかし、それは結果論であり、契約手続きを別契約としても問題ありません。もちろん、ほんとの事実があることが前提です。
コメント
官公庁の敷地内舗装について、予算の都合上全ての区画を一年度内で実施出来ないので、例えば年度ごとに区画を分けて舗装することは、不適切な分割発注に該当しますか?
コメントありがとうございます。
次の2つを前提にしている分割発注であれば問題ありません。
◯舗装工事全体の計画が仕様書に記載されており、年度ごとに区画を分けて舗装することを公開していること。
◯全区画の舗装工事全体の予定金額に基づき契約方式を判断し、その契約方式で毎年度実施すること。
例えば、年度ごとの工事が少額であっても、毎年度、一般競争入札で実施するのであれば問題ありません。
ただ舗装工事の場合、施工業者が途中で変わったり、部分的に工事してしまうと、ツギハギだらけになり、綺麗な舗装になりません。品質面を考えれば、舗装工事の予算全体を複数年度で使えるよう措置して、全体の舗装工事を一回で一般競争入札すべきです。継続費として予算承認した方が良いです。
逆に問題となる分割発注は次のとおりです。
入札手続きを回避するために、書類上だけ契約を分けて少額隨意契約とする場合です。例えば、実際には受注業者へ複数年度にわたる全ての舗装工事を隨意契約で発注し、書類上だけ年度ごとに相見積を揃えるような場合です。これは法令違反になり、業者との癒着や官製談合などを疑われることになります。
一般企業勤めですが、行政書士の勉強中で興味があり質問させていただきました。
分割発注についてですが、仕様内容や購入目的が違うことは分割して発注した合理的理由になるでしょうか。
たとえば、大阪市の例で、とある部署で仕様の異なるパソコンbとパソコンcが一緒に必要となり、購入の積算したところ、パソコンb・パソコンcそれぞれ単体では見積もり合わせをする必要がない小額特名随意契約の額だったが、合計額では複数社見積もりが必要な小額随意契約の額だったとします。A社とB社に見積り合せを依頼したところA社はパソコンbとパソコンcを取り扱っており、B社はパソコンbのみ取り扱っていると回答があったとします。この場合、パソコンbとパソコンcを分けてパソコンbを見積り合せすべきだと思いますが、結果的にA社のほうが安かった場合、ぱっと見はパソコンb・パソコンcの発注を分割したように見えてしまう、といった問題が出そうな気もします。
管理人です。
コメントありがとうございました。
分割発注については、仕様内容が違うことで、「参加できる販売会社が異なる」のであれば、分割しても問題ありません。しかし「入札を避ける目的」ですと問題になります。また購入目的は関係しません。
仕様が違う契約について、見積合わせに参加する会社もそれぞれ違うのであれば、問題ないです。分割しないと参加できない会社があるなら、分割も良いと思います。「官公需についての中小企業者の受注の確保に関する法律」でも分離・分割発注を推進しています。保存する契約関係書類の中で、経緯が明確にわかるようにしておきます。
問題になるケースは、契約を2つに分割しても、「見積合わせに参加する会社が同一の場合」です。この場合は「入札を避ける目的」で分割したことになり、違法と見做されます。どの会社も2つの契約を受注できるなら分割発注すべきではありません。
「分割発注」のポイントは、違う会社しか参加できない、ところです。