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随意契約

相見積が危険な理由、見積もり合わせとの違いを正しく理解する

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見積もり合わせしている 随意契約
見積もり合わせしている
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官公庁が締結する少額随意契約では、複数の見積書を比較して契約の相手方を選ぶのが原則です。見積書を比較するときには、「見積もり合わせ」や「相見積を取る」という表現を使います。同じ意味で使われることが多いですが、官公庁の契約手続きで「相見積」という表現を使うと、談合を意味してしまうことがあります。

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会計検査院が相見積を取るように指摘?

 

官公庁の契約方式のひとつに少額随意契約があります。少額随意契約は、3 社の見積書を比較して、最も有利な相手と契約を締結するものです。この複数の見積書を比較することを「見積もり合わせ」(みつもりあわせ)といいます。見積合せ、見積り合わせ、見積合わせ、などとも表現します。送り仮名が紛らわしいですが、すべて同じ意味です。

 

ところが2014年頃から、「見積もり合わせ」のことを、「相見積」(あいみつ・・合見積も同じ。)と表現する人を見かけるようになりました。会話の中で、「相見積を取ってください」、「相見積もりを取りましたか?」などと言うことが多いです。どうやら会計検査院の調査官たちが、会計実地検査で「相見積を取るよう」指摘していることが原因のようです。私も実際に会計検査院の調査官が「なぜ、相見積を取らないのですか?」と指摘している場面を何度か目にしました。

 

民間企業同士の取り引きでは、「相見積」が問題になることは稀です。親会社と子会社、資本関係にあるグループ会社内での取り引きが多く、契約の相手方を選定する方法が問題になることはないからです。そもそも民間企業であれば、自分たちが努力して稼いだお金を、どう使おうが自由だからです。契約の相手方も、自由に選ぶことができます。自社の判断だけで問題ないのです。

 

しかし官公庁になると話が別です。国民の税金で運営している官公庁では、契約の相手方を選ぶときも公平・公正でなければなりません。官公庁が自由に契約の相手方を選んでしまえば、それこそ「業者との癒着」になります。国民の税金が、特定の企業へ流れてしまうのです。そのため官公庁では、会計法令によって複数社の見積書を比較することを原則としています。見積書を比較するときに、「相見積」という表現を使うと、契約手続き自体が問題になります。なぜなら「相見積」や「相見積もり」が、違法な談合を意味することがあるからです。

 

参考に見積もり合わせについては次の記事でも解説しています。

「相見積もり」と「見積もり合わせ」の違いとは?官公庁の契約手続きにおける正しい方法を解説
官公庁の契約手続きにおける「相見積もり」と「見積もり合わせ」の違いを法的観点から詳しく解説。談合を避ける正しい方法とは?専門家が明かす契約の秘訣。

 

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見積書は、誰が取り寄せるものか?

 

見積書は、契約の相手方を探すときに必要な書類です。民法上は「契約の申し込み」に該当します。

 

民法

(契約の成立と方式)
第五百二十二条 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。

 

契約を締結する前には必ず見積書を取り寄せます。書面でなく口頭で「いくらになりますか?」と聞いて「今回は税込み〇〇円でいいよ!」などの見積金額を提示してもらうのも「契約の申し込み」です。「契約の申し込み」に対して「承諾」すること(この金額でお願いします、と発注すること)で契約が成立します。

 

次のような流れになります。官公庁側から見た場合です。

 

「見積もり合わせ」による契約の流れ

 

1.見積書の提出依頼  (契約の申し込みの誘因)

 

2.見積書を提出  (契約の申し込み)

 

3.見積書を比較して相手方を選び注文   (契約の成立)

 

契約が成立する前段階で見積書が必要になります。そして見積書を比較して、最も有利な者と契約を締結します。つまり見積書が必要になるのは、契約を締結しようとするときです。契約を締結できる者が、見積書を取り寄せるわけです。

 

では契約を締結する権限を持っているのは誰でしょうか?

 

契約権限を持っているのは組織の長です。国の組織では◯◯大臣などです。しかし実際に大臣がすべての契約手続きを行うのは物理的に不可能です。膨大な契約件数ですし、細かい契約手続きを行うほど大臣は暇ではありません。そこで内部規則で契約権限を部下の職員へ委任しています。国の場合は支出負担行為担当官と契約担当官として、官職指定しています。そして契約実務を担当する職員へも、補助者として一定の範囲で権限を委任しています。地方自治体の場合も考え方は同じです。官職名は国と地方自治体で異なりますが、組織の長から部下の職員へ、契約権限を内部規則で委任しているのです。そして本来は、契約締結権限を委任されている者が見積書を取り寄せます。

 

組織内の事務分掌規程などで、「契約に関すること」を担当する係が見積書を取り寄せることになります。契約担当係が見積書を取り寄せる理由は、見積もりのための前提条件を公平に明示するためです。見積金額には、実際の業務内容だけでなく、代金の支払方法や業務実施場所、完了期限や納入方法の説明など、細かい契約条件(前提条件)が必要になるからです。

 

もし契約条件を間違えてしまうと、見積書を比較できなくなってしまいます。複数の見積書を取り寄せたとしても、それぞれの契約条件が違い、内容がバラバラであれば比較できません。そのため官公庁側の契約担当者が仕様書を作成し、契約内容や契約条件を書面で提示して見積書を提出してもらいます。

 

しかし市販されている小さな商品を購入する契約など、契約内容が単純な場合には、商品名と納入期限だけを伝えれば簡単に金額を見積もりできます。本体の値引き率だけ検討すれば十分です。それ以外の契約条件は特に必要ありません。簡単な契約内容であれば、契約担当者だけでなく、誰でも見積書を取り寄せることができます。さらに仕様書を作成せずに、口頭だけで契約条件を伝えるようなケースでは、その伝えた人しか見積書を取ることができません。どのように口頭で伝えたかは、本人しかわからないからです。

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見積書は、誰が取り寄せたかわからない

 

そしてもう一つ重要な点が、取り寄せた見積書は、後になって書類を見ても、誰が取り寄せたかわからないことです。

 

例えば、(これは違法になることですが、)仲の良い会社と契約するために、形だけ複数社の見積書を比較したように装うことが可能なのです。契約したい会社の営業担当者へ、「おたくと契約するから他社の見積書を取ってくれない?」と依頼してしまうケースです。

 

依頼された営業担当者は、自分のグループ会社や信頼できる会社、あるいは下請け会社に対して、見積書を依頼することになります。当然ながら自分の会社よりも高い金額の見積書を提出してもらいます。自社が契約するための比較材料として、他社の高い見積書を準備するのです。しかし、これは価格調整しているため違法な談合行為です。官公庁側が他社の高い見積書を提出するよう指示しているなら官製談合になります。

 

そして官公庁の契約手続きでは、契約できなかった他社の高い見積書を「相見積」と呼ぶことが多いのです。わかりやすくいえば、当て馬的な見積書が、相見積の中に含まれるのです。「相見積を取る」、「相見積もりを取る」という表現を使うと、価格競争を装うために他社の見積書を取り寄せることも含まれるので、とても危険です。特に注意したいのが次のケースです。

 

例えば会計検査や監査などの際に、「なぜ、相見積をとらないのですか」、「相見積を見せてください」あるいは「相見積を取ってください」と口頭で指摘した場合です。

 

相見積という表現を使ってしまうと、「契約した会社よりも高い、他社の見積書を取り寄せてください」ということを意味することにもなります。そうなると契約担当者としては、自分では見積書を取れなくなってしまうのです。

 

もし取り寄せた見積書が、契約の相手方である会社よりも安かったら困ってしまいます。契約の相手方をすでに決定しているのに、後になってから他社の見積書を取り寄せて、もし安かったら大変なことになります。契約を解除しなくてはいけませんし、違約金や損害賠償などの大きなトラブルが発生するかもしれません。何よりも、すでに締結している契約を解除することになれば、お互いの信頼関係が崩壊します。契約担当者としても、間違った契約をしたことになり、相手からの信頼もなくします。

 

つまり会計検査などで、すでに契約を締結しているのに「相見積を取ってください」と指摘することは、契約の相手方へ依頼して、「他社の高い見積書を取り寄せてください」という意味になってしまうのです。そうなれば当然のことながら、価格競争ではない、違法な談合を意味する相見積を揃えることになります。「相見積を取ってください」という指摘は、官製談合を指示しているのと同じになってしまうのです。契約の相手方が取り寄せる、価格調整した他社の見積書が、相見積になってしまうのです。

 

 会計実地検査では、契約の相手方以外の他社の相見積が揃っていれば、問題のない契約書類になります。しかし相見積として取り寄せてしまうと、違法になるリスクが極めて高いのです。

 

「相見積」(相見積もり)は、誰が取り寄せたのかわかりません。「相見積」という表現には注意が必要です。(幸い、私の周りの人たちはこれらを十分に理解していたので、違法な相見積は一切ありませんでした。しかし他の官公庁では、会計検査院の指摘を受けないよう、契約した後に相見積を取り寄せている事例も多くあるようです。)

 

繰り返しますが、厳密に表現すると、「相見積」は複数社の見積書を揃えることだけを意味し、「見積もり合わせ」は見積金額を比較する行為そのものを意味します。この違いを意識することが重要です。

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相見積は見積書自体を指す、誰がとっても関係ない?

 

「見積もり合わせ」は、官公庁の契約担当者が 3 社へ依頼し、見積書を取り寄せて比較する手続きです。見積書を取り寄せて、 3 社を比較するために「合わせる」のです。イメージとしては、机の上に 3 社の見積書を並べて置き、それぞれを比較している姿です。実際に昔は、このように見積もり合わせが行われていました。大きなテーブルの上に 3 社の見積書を並べて、担当者と係長が内容を比較し、意見交換しながら契約先を決定していました。公正性を確保するために、周りの人たちにも見てもらいながら、複数の者で、複数の目で決定していたのです。(2023年現在は、電子入札や電子調達が増えつつあります。WEB上で実施するので、契約の相手方を決定するまでのプロセスが見えなくなってしまいました。実際に誰が見積りしているのか見えないこともあり、昔のように公平・公正に決定しているのかわかりません。)

 

「見積もり合わせ」は、複数の見積書を比較することを意味します。「相見積」は、他社の高い見積書を意味します。単に複数の見積書が揃っていれば良い、あるいは、誰が見積書を取り寄せても関係ないということを意味してしまうのが「相見積」なのです。

 

契約の相手方でない、不合格となった見積書を相見積と呼ぶことが多いです。実際には複数の見積書を意味しますが、誰が取ったかわからない怪しい見積書も含んでしまうのです。

 

一方、「見積もり合わせ」は、不合格となった見積書を指す言葉ではありません。見積書を比較検討する行為自体を指します。

 

このように「相見積」という言葉が怪しく使われているのは、複数社の見積書が揃っていれば良いという形式主義に基づく指摘が原因です。この考え方からすれば、誰が見積書を取り寄せても問題ないわけです。ときどき民間企業のWEBサイトで「官公庁向けに相見積も用意できます」という素敵な宣伝文句も見かけます。まるで談合するかのような、かなり怪しい企業です。他社の見積書を用意できるという会社は、当然ながら自社よりも高い金額で見積書を用意します。これらは「相見積さえあれば良い」という困った考え方です。

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相見積が違法になるケース

 

最近は、「相見積」と「見積もり合わせ」を混同して使っていることが多いです。そして相見積を、他社の高い見積書を揃えることと勘違いしている風潮さえあります。(会計検査院が相見積を取るように指摘しているので無理もないことなのですが・・)

 

しかし本来は、官公庁側の契約担当者が、見積書の提出を直接依頼して取り寄せる「見積もり合わせ」が正しい契約手続きです。

 

相見積が違法になるのは、次のケースです。

 

 最初から契約の相手方を決定し、その相手方に対して他社の高い見積書を依頼することです。つまり価格競争をしたように装うことです。「相見積を揃える」という言い方をすれば、当然この違法な手続きを意味します。見せかけの価格競争は、官製談合になり違法です。

 

公正取引委員会「入札談合等関与行為防止法について」リーフレットでも談合事件であることが明記されています。

「入札談合等関与行為防止法について」リーフレット | 公正取引委員会

該当部分を抜粋します。

参考 「公正取引委員会 入札談舎等関与行為防止法について QA2」

 

「入札.競り売りその他競争により相手方を選定する万法」には.どのような契約方法が含まれるのですか。

 

「入札,競り売りその他競争により相手方を選定する方法」には. 一般競争入札及び指名競争入札のほか,随意契約のうち,複数の事業者を指名して見積を徴収し.当該見積りで示された金額だけを比較して契約先を決定する形態のもの(指名見積り合わせ)が含まれます。このような形態の随意契約は, 実質的に競争入札と変わるところがなく,公正取引委員会においても従来から指名見積り合わせに係る事件を入札談合事件の一類型として扱っています。

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なぜ相見積が横行してしまったのか

 

違法な相見積が横行してしまった背景には、現実を無視した契約体制があります。

 

「見積もり合わせ」による少額随意契約は、本来、事務簡素化を目的にしています。事務の負担を軽減するためのものです。ところが「見積もり合わせ」自体が大きな負担になってしまっている本末転倒の実態があるのです。組織の予算規模や契約担当者の人員配置数を考慮せずに、金額の低い契約まで見積もり合わせの対象にしてしまっているのです。

 

もし無理のある契約手続きであれば、それぞれの組織の人員配置に応じて、見積もり合わせを必要とする基準額を引き上げるべきです。公務員の定員削減を進めるなら、同時に見積もり合わせの基準額も、(100万円以上とするなど)引き上げるべきなのです。電子調達のような見えない契約制度は、不正の温床になるリスクがあります。それよりも、きちんと見積もり合わせできるように基準額を設定すべきです。

 

一般競争入札の基準額と、見積もり合わせの基準額を引き上げて、無理のない契約体制を確保することが、公平で公正な契約手続きには必須です。事務簡素化の目的は、仕事をサボることではありません。きちんと公平・公正な事務手続きを行うためのものです。

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