見積書を官公庁が必要とする理由、見積書の役割と契約手続きの流れ

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随意契約
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 契約手続きに必要な見積書のわかりやすい解説です。契約手続きを担当していると、見積書を取り扱うことが多いです。見積書の役割、必要とする根拠法令など、契約担当者に必須の知識です。

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官公庁が見積書を必要とする根拠法令

 

最初に、会計法令の中で見積書がどのように定められているか確認します。見積書について定めている国の会計法令は次のとおりです。(地方自治体は後述します。)

 

財政法・・見積書についての条文はありません。

 

会計法・・見積書についての条文はありません。

 

予決令(よけつれい、予算決算及び会計令)は、第九十九条の六で定めています。

 

予算決算及び会計令

第九十九条の六  契約担当官等は、随意契約によろうとするときは、なるべく二人以上の者から見積書を徴さなければならない。

 

この予決令第九十九条の六は、「見積もり合わせ」についての条文です。3社から見積書を取り寄せて比較検討するのが「見積もり合わせ」です。いわゆる「相見積」とは違うので注意しましょう。

 

次に、支出負担行為等取扱規則の中で見積書に関する部分です。

 

別表甲号、支出負担行為の整理区分表7「物品費の類」の中で、支出負担行為に必要な主な書類として見積書が明記されています。

 

また会計検査院へ提出する書類のルールを定めた計算証明規則では、第二十四条です。

 

計算証明規則

第二十四条  随意契約によった財産の購入又は借入れその他の契約による支出については、予定価格及びその算出の基礎を明らかにした書類、見積書並びに契約書の附属書類を証拠書類に添付しなければならない。

 

これらを見ると、契約方式の中で随意契約を締結するときに見積書が必要になることがわかります。一般競争入札や指名競争入札などの競争入札では、見積書に相当するものが入札書です。

 

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地方自治体の見積書の根拠法令

 

国の会計法令は、適用対象が各省庁などの政府機関です。都道府県や市町村などの地方自治体はどうでしょうか?

 

地方自治法、地方自治法施行令、地方自治法施行規則・・見積書についての条文はありません。

 

地方自治体では、各自治体の規則で見積書について定めています。参考に東京都と大阪府の例です。

 

東京都契約事務規則

第三十四条 契約担当者等は、随意契約によろうとするときは、契約条項その他見積りに必要な事項を示して、なるべく二人以上の者から見積書を徴さなければならない。(略)

 

大阪府財務規則

第六十二条 契約担当者は、随意契約によろうとするときは、なるべく二人以上の者から見積書(略)を徴さなければならない。(略)

 

東京都も大阪府も、国の会計法令である予算決算及び会計令 第九十九条の六 と同じ内容であることがわかります。いずれも随意契約を締結するときに見積書を必要としています。随意契約を締結するときは、なるべく見積もり合わせを行うように定めています。「・・なるべく・・」とあるのは、「競争性のない随意契約」など、契約の相手方が1社しかないケースがあるためです。

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見積書の様式は定められているか

 

では、見積書の様式(フォーマット)は決められているのでしょうか。

 

民間企業が日常の取り引きに使用している見積書は、それぞれ独自の様式です。民間企業の会計原則である企業会計原則でも見積書の様式は定めてありません。

 

官公庁が使う見積書の様式も原則として自由です。しかし最低限、次の項目が必須です。契約の案件によっては、官公庁側で見積書の様式を指定していることがあります。記載もれや記載ミスを防止する目的で見積書の様式を定めています。

 

見積書の記載項目

 

〇見積年月日(実際に作成した日)

 

〇住所

 

〇法人の種類、法人名(または屋号)

 

〇代表者の役職名、代表者の氏名

 

〇会社印(四角の印など)

 

〇代表者印(丸印など)

 

〇見積金額と消費税、見積金額の内訳(品名、型式、数量、単価、金額、定価と値引き額がわかるよう記載します。)

 

〇納品予定日(契約締結後2週間以内など)

 

〇代金の支払方法(銀行振込の場合は振込先銀行名)

 

(2021年以降、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために、押印の廃止が進められています。官公庁によっては電子ファイルでの提出や、押印の省略を認めています。以下の説明は従来の考え方です。)

 

特に注意したい部分は、見積書の会社印と代表者印です。

 

会社印は、法人であることを証明する印です。代表者の役職名と氏名、代表者の印は、法人を代表して、取引権限(契約権限)を有していることを表しています。

 

例えば株式会社では、代表取締役が権限を持つことが会社法で定められています。官公庁なども、組織のトップが契約権限を持ちます。

 

会社法

第三百四十九条
4 代表取締役は、株式会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。

 

法人との取引では、代表取締役(社長)が契約権限を有しています。部長とか課長などの役職名の場合には、社長から契約権限を委任されているか、委任状で確認する必要があります。契約権限が委任されているか確認するときは、口頭での確認だけでなく、社長からの委任状を文書として提出してもらいます。これを怠ると、後日契約上のトラブルが生じた場合に損害を被ってしまいます。特に契約金額が大きいときは委任状が必須です。

 

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見積書は「契約の申込み」、契約成立までの流れ

 

次に見積書の法的な役割を考えてみます。

 

契約については民法で定められています。売買契約(官公庁でパソコンを購入する場合)を例にします。

 

民法では、売買契約について次のとおり定めています。

 

民法

第五百五十五条  売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

 

「商品を売ります、買います」という約束が売買契約です。

 

そして契約の成立は、民法 第五百二十ニ条です。

 

民法

第五百二十二条 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。

2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。

 

販売会社からの契約の申込み(見積書の提出)に対して、官公庁側が承諾することで契約が成立します。契約が成立するまでの流れは次のとおりです。

 

契約が成立するまでの流れ

 

1.官公庁側が見積書の提出を依頼 (契約の申込みの誘引)

 

2.民間企業が見積書を提出 (契約の申込み

 

3.官公庁側が見積書の内容を確認して正式発注 (承諾、契約の成立)

 

日本の民法では、契約書などの取り交わしがなくても契約が成立します。口頭による合意のみで契約を締結したことになります。「申し込み」に対して「承諾」すると契約が成立するわけです。見積書を受け取った官公庁側の契約担当者が、「この見積書でお願いします」と発注を依頼したときが契約の成立です。

 

パソコンを購入する例では、官公庁側の契約担当者が、欲しいパソコンの仕様書を作成し、販売会社へ見積書の提出を依頼します。見積書には、定価と値引き額、販売価格(見積価格)を記載してもらいます。提出された見積書の内容を確認し、販売会社に対して「この見積書でお願いします」と依頼することが承諾であり、この時点で正式に契約が成立します。

 

販売会社側へ仕様書を提示して見積書の提出を依頼すること(〇〇メーカーの型式〇〇のパソコンを3台買いたい、納期は1ヶ月以内で見積書をお願いします)は、「契約の申込の誘引」です。そして、販売会社が契約条件を確認して、この金額なら販売できると、官公庁側へ見積書を提出します。この見積書の提出が「契約の申込み」です。

 

官公庁の契約担当者は、販売会社から提出された見積書の内容を確認し、上司と相談して、最も有利な見積書を提出した会社を選びます。販売会社へ連絡し、正式に発注を依頼します。「契約の申込み」を「承諾」した発注時点で契約が成立します。

 

なお官公庁の契約手続きでは、契約金額が150万円を超えるときは、契約書の作成が義務付けられています。(予決令第100条の2、地方自治体はそれぞれの条例)契約書への記名押印前の段階は、完全な契約の成立ではなくて、契約の部分的な成立です。(部分的な成立という考え方は、官公庁独自の規定によるものです。民間企業同士の取り引きでは関係ありません。)

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