官公庁が支払った契約金額を秘密にできるのでしょうか?官公庁の運営財源は国民の税金です。税金がどのように使われたのか、国民には知る権利があります。官公庁が締結した契約で、金額を公開できないのはどのような場合なのか解説します。
官公庁の契約金額は公開できない?
2021年3月現在、すでに1年経過しましたが未だに新型コロナウイルスが終息していません。自粛生活も限界に近付いています。3月中旬から、ようやくワクチン接種が開始されました。しかし外国製のワクチンは、自国優先のために輸入制限される可能性もあり、なかなか安心できない状態が続いてます。
そんな中、新型コロナに関係した気になるニュースがありました。官公庁の会計実務にも直接関係します。
2021年3月24日付、朝日新聞デジタルの見出しです。
ワクチン接種タブレット積算根拠示さず 平井デジタル相
記事によると、ワクチン接種用タブレット端末のレンタル料金が高すぎると指摘されたようです。参議院予算委員会で、野党側がレンタル料の積算根拠や内訳を質問しても、デジタル改革相は、「予定価格が類推され国の財産上の利益を不当に害するおそれがある」として答えなかったとのことです。
ここは注意したい点です。会計法令で秘密にすることが義務付けられているのは予定価格だけです。予定価格を秘密にする理由は、公開してしまうと、その後の予定価格が類推され、競争が阻害されるからです。予定価格は落札上限価格です。予定価格以下であれば落札になります。そのため事前に予定価格を把握できるなら、無理に価格競争する必要がなくなるわけです。
しかし予定価格は、実際の契約金額ではありません。予定価格と契約金額は全く別です。むしろ官公庁が締結した契約金額であれば、内訳も含めて積極的に公表すべきものです。2022年現在、(昔も今も)すべての官公庁で、さまざまな契約金額を公開しています。
公開できない予定価格
では、なぜ今回は積算根拠を明らかにしなかったのでしょうか?
これは質問として、積算根拠を求めたことが原因です。国側の積算根拠を示すということは、秘密扱いの予定価格を公開することです。まさしく、その後に実施する入札の競争原理を阻害することになります。予定価格が類推できる積算根拠は公開できません。
では、質問が次の場合はどうでしょう。
契約金額を判断するための質問例
〇契約金額の内訳を教えてください。
この質問であれば、秘密扱いの予定価格とは関係ありません。予定価格を類推される恐れもありません。実際に締結した契約金額について、内訳を確認し、高すぎるかどうか議論できるわけです。そもそも公開できない予定価格の積算根拠について議論できるわけないのです。法令で秘密にすることが義務付けられているのですから。法令に違反する質問に答えられないのは当然のことです。
官公庁の契約金額は秘密なのか?
契約金額を公開すれば、予定価格まで類推されるのではないか、と思うかもしれません。しかし、予定価格と契約金額は、全く別のものです。競争入札では、予定価格が落札上限価格になります。しかし予定価格と同額で落札するケースは少ないですし、予定価格を公表しない限り積算方法はわからないのです。そもそも予定価格は公開しないので、同額なのかさえもわかりません。落札率という言葉もありますが、多くの契約では予定価格を下回る金額で落札します。(落札率自体が何を目的にしているのか不明で怪しいですが・・)
つまり契約金額を公開しても、予定価格を類推される恐れはありません。逆に契約金額は公開すべきものです。国民の税金を使っている以上、その使い道を国民は知る権利があります。税金がいくら使われているかわからない、税金の使い方を公開しないという行為は、国民を無視するのと同じです。
おおげさに言えば、契約金額を隠すのは、民主主義をも破壊しかねない危険行為です。当然ながら、官公庁と契約を締結する民間企業側も、税金を使った契約であれば公開されることを覚悟しなければなりません。国民の税金を受け取るということは、誰であっても説明責任を伴うのです。
本来、官公庁の契約手続きは公開されることを前提にしています。外部の人に対して説明できるように書類を整理保存しているのです。法令で秘密扱いになっている予定価格を除いては、すべて公開できるのです。公務員はそのために日夜仕事をしています。国民に疑念を持たれないように書類手続きを進めるのが、官公庁の契約担当者の役割です。
契約金額を秘密にする場合とは
くどくなりますが、官公庁の運営財源は国民の税金です。税金がどのように使われたのか、国民は知る権利があります。原則として官公庁の契約金額は公開すべきものです。しかし場合によっては、契約金額を公開することで大きな支障が生じることがあります。官公庁が契約金額を公開できないケースは主に次のとおりです。
発明に関する契約
発明は、特許権が認められるまで公開できません。公開してしまうと特許権の要件である新規性が喪失し認められなくなってしまいます。そのため発明に関係する契約書については秘密扱いにします。ライバル会社に内容が漏れることで損失にもなってしまいます。国立大学と民間企業の間で締結する特許に関する契約が該当します。
人命に関わる契約
人命にかかわる外交上の取り引きなど、契約内容が知られてしまうと、人命が危険に晒されるようなときは公開できません。外交や警察の捜査に関係する契約が該当します。
これらは、契約金額や契約内容を公開することはできません。ただ、ほとんどの官公庁では該当しません。
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