仕事で使う「見積書」の解説です。
社会人になると、「見積書」を取り扱うことが多くなります。「知っていて当たり前」の書類ですが、正しく理解している人は意外に少ないです。
恥をかかないためにも、これだけは知っておきたい「見積書の基礎知識」です。
なぜ見積書を使う?
社会人になると日常の仕事の中で「見積書」を使うことが多くなります。特に営業担当であれば、見積書の知識は、基本中の基本になります。
普段、それほど深く考えずに使う見積書ですが、どのような目的で使っているでしょうか。
ビジネスの場面では、「金額を知る」ために使います。物を買ったり、何かを依頼するときに、「値段がどのくらいか」知るために見積書を使います。
また見積書は、誰かに提出するための書類です。必ず「提出する相手方」が存在します。つまり相手方との「取引に使う書類」です。「見積書を作成し提出する側」と「見積書を受け取る側」に分かれます。
「金額」と「価格・値段」を正しく使い分ける
見積書は、社会人にとって、お金を取り扱うときの基本的な書類になります。そこで、お金に関する基本的な知識も把握しておきましょう。
金額、価格、値段という言葉は、どれも同じように感じます。しかし、厳格に使い分ける場合もあります。意識して使い分ける必要があるときは、次のように考えましょう。
金額・・数値そのものを指す、すべてを包括する言葉です。使い分けがわからないときは、金額を使います。
価格、値段・・価値を示す金額です。通常、値引きを含む金額です。定価ー値引=価格(値段)です。
見積書を扱うときには、見積金額、見積価格という表現が多いです。見積という言葉自体に、値引きという意味が含まれています。「見積金額が知りたい」と依頼されたときは、定価ではなく、値引き後の金額を提示します。
見積書とは?法的根拠まで知ろう
見積書は、ビジネスで使うものです。相手との取引に使用する書類です。
そもそも見積書は、どこに法的な根拠があるのでしょうか。
「相手との取引に使う書類」ということは、「契約」に使う書類という意味になります。契約とは、簡単に言えば「お互いに約束を守ること」です。例えばパソコンを購入することを想定してみましょう。
パソコンを購入したいと思っている顧客側から見れば、「いくらで購入できるか」知りたいわけです。お店の人に対して、「このパソコンはいくらですか」と尋ねます。
お店の人が、「思い切って値引きして、7万円です」と見積金額を答えます。
顧客は、7万円という見積金額が、自分の予想していた金額であり、予算の範囲内であれば購入を決断します。顧客は、お店の人に対して「それでは7万円で購入します」と正式に発注することになります。
提示された見積価格に対して、承諾し正式に注文することで契約が成立します。
契約の成立については、民法で明確に定められています。
民法
第五百二十二条 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。
見積書を提出すること、見積金額を相手方に示すことが「契約の申込み」になります。
その前段階の「見積金額を聞くこと」、「見積書の提出を依頼すること」は、「契約の申込みの誘引」になります。「誘引」とは、相手を誘うこと(依頼すること)です。
契約が成立するまでの流れは、次のとおりです。
見積書の提出依頼 (契約の申込みの誘引)
見積書提出 (契約の申込み)
発注 (承諾、契約の成立)
つまり見積書は、相手方と取引(契約)するために必要な書類です。
日本の民法では、当事者間の口約束のみで契約が成立します。契約書などの書面まで必要としません。(官公庁との契約などの例外もありますが。)
契約の成立について、書面の取り交わしを必要としないのは便利なのですが、逆に、注意しなければならない点もあります。
気軽に「承諾(注文)」してしまうと、契約を取り消しできなくなったり、違約金や損害賠償が発生してしまうことがあるのです。例えば、受け取った見積書を十分に確認せず、「これでお願いします」と伝えれば、契約が正式に成立してしまいます。後になって上司に反対され「やっぱりやめたい」と思っても、違約金や損害賠償の対象になってしまいます。見積書の内容を確認するときは、上司などの関係者へ相談するなど、注意が必要です。
見積書を作成する前の注意点
見積書の作成を依頼されたときの注意点です
まず、見積書を依頼されたときは、「依頼目的」を把握する必要があります。
一般的に使う見積書は、契約の前提になる「契約の申込み」としての見積書です。提出した見積書について、相手方が納得すれば、契約が成立する書類です。
しかし時々、契約を前提とせずに、ただ単に「見積金額が知りたい」というだけで依頼することがあります。予算を確保するための資料などに使うケースです。通常「参考見積書」と呼び、あまり値引きしない金額で提出します。
契約を前提とした見積書であれば、思い切った値引きで提出します。ところが、契約を前提としない「参考見積書」は、値引きしない金額で提出することが多いです。この点は注意する必要があります。
見積書の提出依頼を受けたときは、契約を前提としたものか、そうではなく単なる参考程度に必要なものか、見極めることが大切です。また契約を前提とした見積書の提出依頼は、自分の会社以外にも数社依頼していることが多いです。他社への見積書依頼状況も把握できるとなお良いです。
ライバルが多ければ、思い切った値引き金額で見積書を提出しましょう。
もし見積書の依頼目的が不明のときは、担当者へ聞いても問題ありません。次のように尋ねましょう。
「もし、御社の要望どおりの見積金額であれば、契約は可能でしょうか?」
または
「弊社以外にも、見積書の提出を依頼されてますでしょうか?」(他社の社名は絶対に聞いてはいけません。談合を疑われ、さらに卑しい会社だと思われてしまいます。)
見積書を作成するときのチェックポイント
見積書は、受け取った相手方が、簡単に内容を理解できることが重要です。見積書の内容がわからないのは論外です。誰が見ても内容を理解できる見積書が理想です。
作成時のチェックポイントです。
見積金額には、消費税が明記されているか。
品名や数量は、具体的に記載してあるか。
作業員などの人件費が必要な項目は、内訳が記載してあるか。
(例えば、3人×4時間×時間単価 など、積算内容がわかるように記載してあるか)「一式」表示が可能なのは、諸経費(一般管理費や利益)だけです。
宛先、会社の住所、社名、代表者の役職、氏名、社印、社長印、見積年月日が漏れてないか
見積書を受け取ったときのチェックポイント
見積書を受け取ったときに、チェックしたい点、注意したい点です。
見積金額が、確保されている予算の範囲内か(消費税が含まれているか)
品名や数量、内容に不明な点がないか
金額が妥当か
(物品の単価は、ネットでも調べられます。また、人件費の単価も、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」の公表データなどで推定可能です。)
履行期間(納入期限)の確認
見積年月日、見積有効期間、社長印が押されているか
正式に発注する前に、必ず上司へ相談しましょう。
見積書の様式や記載項目
見積書の様式は任意です。法令で定めたものはありません。ただし官公庁(役所)が実施する契約では、様式が定められていることもあります。
必須の記載項目は次のとおりです。
見積年月日
宛先
会社の住所、電話番号、社名、代表者の役職名と氏名、社印と代表者印
見積金額、消費税額
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