前渡資金と前渡金、支出官と資金前渡官吏、官公庁の支払方法とは

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基礎知識
2020年9月 忍野八海

官公庁の前渡資金(ぜんとしきん)と前渡金(ぜんときん)の解説です。民間企業が簿記上で使う前渡金と、官公庁が使う前渡金では、意味する内容が異なります。官公庁の支払手続きに必要な前渡資金、支出官と資金前渡官吏の解説です。

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官公庁が使う用語の違いを意識する

 

官公庁で日常使っている用語は複雑です。同じ用語でも、国と地方自治体で微妙に違っていますし、各組織で意味合いが異なることもあります。例えば、随意契約、特命随意契約、1者随契、単独随意契約は、どれも同じ意味ですが組織によって呼び方が変わります。

 

中でも、わかりにくいのが、前渡資金(ぜんとしきん)、前渡金(ぜんときん)、資金前渡官吏(しきんぜんとかんり)、支出官(ししゅつかん)などの支払いに関する用語です。それぞれの言葉の違いを正しく理解していないと、事務処理を覚えるのが困難になってしまいます。法令や条文にも記載されていますが、具体的に理解するのは困難です。そこで、簡単にわかりやすく解説します。

 

なおこの解説では、わかりやすくするために国の支払処理を解説します。国と地方自治体では会計機関の名称が異なり、地方自治体はそれぞれの規則で条文が違うので、ややこしくならないよう国の法令を基に説明します。地方自治体も、考え方は基本的に同じです。

 

最初に注意したい点は、財務諸表を作成するための複式簿記における用語とは微妙に異なることです。官公庁の用語を調べるときに、簿記上の説明をイメージしてしまうと矛盾し混乱してしまいます。簿記上とは微妙に違っているのです。

 

例えば官公庁における前渡金(ぜんときん)は、事前に支払うお金です。しかし民間企業が取引で使う前渡金(まえわたしきん)と、官公庁の前渡金は意味が違います。官公庁では、前渡資金(ぜんとしきん)を省略して前渡金と呼びます。簿記上の前渡金は、取引相手に契約代金を支払うときに使いますが、国の支出官が支払う前渡金は、契約代金として取引相手に支払うものではありません。この後でくわしく解説しますが、微妙に意味が違うのです。この違いを理解するためには、「誰が誰に対して支払うものなのか」、「会計機関とそれぞれの権限」について正しく知る必要があります。

 

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そもそも会計機関とは

 

会計機関とは、ある範囲の権限を持っている役職のことを指します。例えば支出官であれば歳出予算を支払う権限を持っています。資金前渡管吏であれば前渡資金を支払う権限を持っています。逆にいうと、権限以外のことはできません。資金前渡管吏が歳出予算を支払うことはできません。

 

会計機関を定めて権限を明確にしている理由は、国民の税金を 正しく使うためです。法令に基づいた手続きによって、権限のある人だけが税金を扱うことができるのです。もし官公庁の職員誰もが、税金で自由に支払うことができてしまうと、予算の残額も把握できずにデタラメな執行になり、あっという間に破産してしまうでしょう。

例えば、国の支出官は次のように定められています。

会計法
第二十四条 各省各庁の長は、政令の定めるところにより、当該各省各庁所属の職員に、その所掌に属する歳出金を支出するための小切手の振出又は国庫金振替書若しくは支払指図書の交付に関する事務を委任することができる。
(略)
④ 各省各庁の長又は第一項(略)の規定により委任された職員は、支出官という。

 

次に資金前渡官吏(しきんぜんとかんり)も見てみましょう。

 

出納官吏事務規程(すいとうかんりじむきてい)

第一条 現金の出納保管をつかさどる出納官吏(以下「出納官吏」という。)の事務の取扱に関しては、他の法令に定めるものの外、この省令の定めるところによる。
② 前項の出納官吏は、これを収入官吏、資金前渡官吏及び歳入歳出外現金出納官吏の三種とする。

 

支出官は、歳出金を支出することができます。資金前渡官吏は、現金の出納保管ができます。つまり逆にいえば、支出官は、現金を扱えないわけです。この後、根拠法令を基にくわしく解説します。

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権限の委任について

 

官公庁に限らず、組織の中で最終判断の権限を持っているのは組織の長です。国の組織であれば各省各庁のトップである大臣や長官です。民間企業なら代表取締役社長が権限を持ちます。しかし実際には、大臣ひとりですべての意思決定ができるわけはありません。膨大な事業を実施しているので、現実的に不可能です。そこで、さまざまな権限を部下の職員へ委任しています。契約を締結する権限や支払いに関する権限などを委任しているわけです。

 

権限を委任するには、対象とする範囲と内容を明確にしなければなりません。委任方法は様々で、内部規則で定めていたり、その都度文書で委任することもあります。官公庁の事務事業は法律に基づき実施するので、その権限についても明確にしているわけです。権限以外のことは実施できないのは言うまでもありません。官公庁の職員は税金を扱うので、勝手な判断は許されていません。

 

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前渡資金がなぜ必要か

 

国の支払いは、支出官によるのが原則です。

 

会計法

第十五条 各省各庁の長は、その所掌に属する歳出予算に基づいて支出しようとするときは、現金の交付に代え、日本銀行を支払人とする小切手を振り出し、(略)若しくは日本銀行をして支払をなさしめるための支払指図書(略)を日本銀行に交付しなければならない。

 

この条文では、「現金の交付に代え」と定められています。つまり支出官は、現金を扱えません。現金ではなく、国の予算を保管している日本銀行に対して支払いのための手続きを行うことになっています。イメージとしては、あなたが現金を持たずに、預金を預けている銀行に対して振込手続きを行うようなものです。そのため対応できないケースがあります。日本銀行の窓口が近くにない場合、支出官の勤務地から離れた場所での支払い、銀行振込が使えずに現金でしか支払いできない場合です。

 

支出官による支払手続きでは、係員が支出決議書を作成して支出官までの決裁を終えた後に支払います。官公庁の支払い手続きは、毎日膨大な数を処理しています。少し大きな官公庁になると、毎日千件以上の代金を取引先へ支払っています。そして支払処理のためには、ひとつひとつ支出決議書を作成して決裁を受けなければなりません。

 

決裁処理は、係員 → 係長 → 課長補佐 → 課長 → 部長などの承認になります。決裁が必要になるのは、会計法令に基づく処理が適正に行われているか、それぞれの役職の立場からチェックするためです。官公庁では、この決裁システムによって不正が起こらないように厳重にチェックしています。

 

決裁処理には、通常1週間ほど時間がかかります。早い場合で一週間です。年末や年度末などの繁忙期は3週間ほどかかります。係員が、「この請求書で支払おう」と支出決議書を起案してから、最低でも一週間はかかるわけです。これが通常の支出官による支払いです。(支出官による支払は、支出といいます。)

 

支出官と一緒の建物内にいる係でさえも、支払処理で1~2週間かかります。組織によっては会計担当係のある建物から遠く離れた場所に附属施設があったり、外国出張などの出先で事業を行うこともあります。支出官のいる建物から数百キロも離れた場所から、支出決議書の決裁を行うのは現実的でないことがあるのです。オンライン決裁が導入されていても、実際の書類を見たり、現物を見て確認しないと正確な判断ができず決裁できないことがあります。離れた現場でしかわからないことは、現場の判断で支払を可能とした方が現実的で効率的なわけです。

 

海外に拠点を設けて一時的に活動する海外事業などもあります。海外から支出決議書を日本の支出官へ送るのは無理があります。海外では、日本銀行が対応できない地方も多いです。そうなると支出官からは、支払不能になってしまうのです。

 

さらに、銀行振込に対応していない現金払いもあります。田舎の小さなお店やガソリンスタンドでは、現金払いしか受け付けてません。

 

このように、支出官が対応できない支払いについて、資金前渡官吏がカバーしているのです。あらかじめ支払いに必要なお金を、前渡資金(前渡金)として資金前渡官吏へ渡しておき、資金前渡官吏が現地で支払うわけです。前渡資金は、資金前渡官吏の勤務地近くの銀行口座や、職場の金庫の中で現金として保管されています。前渡資金を認めている根拠法令は次のとおりです。

 

会計法
第十七条 各省各庁の長は、交通通信の不便な地方で支払う経費、庁中常用の雑費その他経費の性質上主任の職員をして現金支払をなさしめなければ事務の取扱に支障を及ぼすような経費で政令で定めるものについては、当該職員をして現金支払をなさしめるため、政令の定めるところにより、必要な資金を交付することができる。

 

くどいですが、前渡資金を省略して前渡金(ぜんときん)といいますが、簿記上の前渡金(まえわたしきん)とは違います。両者を区別するために、官公庁では「まえわたしきん」とはいいません。

 

支出官、資金前渡官吏、前渡資金の手続きの流れと関係は次のようになります。わかりやすくイメージするため、田舎にある附属施設近くの小さなガソリンスタンドで現金払いするケースを想像してください。

 

支出官が資金前渡官吏へ、歳出予算からお金を事前に渡します。渡すお金を、前渡資金(前渡金)といいます。支出官が前渡資金を渡す行為が資金前渡です。

本省の支出官 → 附属施設の資金前渡官吏(前渡資金の交付)

 

資金前渡官吏 → ガソリンスタンドへ代金支払い(支出官から事前に渡された前渡資金から、現金や銀行振込で支払います。)

資金前渡管理が支払う場合でも、当然ながら内部の決裁処理が必要です。しかし資金前渡官吏が設置される施設は、地方の小さな職場がほとんどです。決裁手続きも2~3人だけです。小さな職場の資金前渡官吏であれば、決裁処理から支払いまで、1時間程度で終わります。

 

上記のガソリン代を支払うケースの場合、次のように理解するとわかりやすいです。

 

支出官が、資金前渡官吏に対して必要な資金をあらかじめ渡しておくのが前渡資金です。つまり支出官は、ガソリンスタンドへ支払っているわけではありません。ガソリン代を債権者へ支払っているわけではなく、資金前渡官吏へ支払っているだけです。資金前渡官吏から見た場合は、支出官から事前に振り込まれていた前渡資金を使って、取引先のガソリンスタンドへ支払いを行っているわけです。

 

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支出官が現金を払えない理由

 

歳出予算から支払うときは、支出官が小切手を振り出すか、日本銀行あてに支払処理の依頼を行います。再度、会計法を見てみましょう。

 

会計法

第十五条 各省各庁の長は、その所掌に属する歳出予算に基づいて支出しようとするときは、現金の交付に代え、日本銀行を支払人とする小切手を振り出し、又は財務大臣の定めるところにより、国庫内の移換のための国庫金振替書(以下「国庫金振替書」という。)若しくは日本銀行をして支払をなさしめるための支払指図書(以下「支払指図書」という。)を日本銀行に交付しなければならない。

 

ここで素朴な疑問ですが、なぜ支出官は現金で支払えないのでしょう?

答えは簡単です。

支出官は現金を持っていないからです。現金を持っていないので支払えないのです。

 

国のお金(現金、現ナマのこと)は、日本銀行が持っています。支出官は持っていません。

 

例えば、自分の家庭を考えてください。ほとんどの人は、銀行に預金があります。毎月の給与も銀行振込にしている人が多いです。一般の人が銀行へ現金を預けているのと同じように、国の各組織も現金を日本銀行へ預けています。少し大きな組織になると、年間予算が100億円を超えます。そんな大金を現金で金庫へ置いておけません。大金が入った金庫を管理する責任者は、盗まれたらどうしようと心配し、夜も眠れなくなってしまいます。

 

つまり、支出官は現金を持たず、現金は日本銀行へ預けているのです。そのために小切手を振り出したり支払指図書を交付して、日本銀行へ依頼して支払いしているわけです。大きな買い物をしたときに、自分の預金口座から支払うのと同じイメージです。

 

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前渡資金、前金払、概算払、それぞれの違い

 

前渡資金は、離れた附属施設などの資金前渡官吏へ渡すお金です。1ヵ月分とか、3ヵ月分とか、必要な金額を事前に支出官が渡します。支出官が資金前渡官吏へ渡すのが前渡資金(前渡金)です。

 

一方、前金払(まえきんばらい)と概算払(がいさんばらい)は、契約代金の支払いなど、債権者(取引先)に対して支払うものです。前金払いが確定金額なのに対して、概算払いはおよその金額を事前に渡し、後日精算手続きが必要になります。支出官も資金前渡官吏も、前金払いや概算払いで取引先へ支払うこともあります。

 

 前渡資金・・支出官が資金前渡官吏へ支払うお金

前金払・・債権者へ確定金額で履行前に支払うこと

概算払・・債権者へ概算で支払うこと

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