国立大学の教員が個人で出版する書籍の経費負担、公費で支出は問題

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研究成果の出版

 

最近は、インターネットの普及によって、ネット上で論文を公表したり、電子書籍化することも多くなり、理系では研究成果を市販用の書籍とすることは、必須ではないような時代になってきました。一方、文系の研究成果は、学会で発表する論文だけでなく、市販された書籍の数で評価される伝統的な慣習があります。

 

国立大学で働く教員(教授、准教授、講師、助教)や研究者は、自分の研究成果を書籍として市販し、その印税を自分の収入とすることができます。(ほとんどの印税は微々たるものですが。)

 

ここで、ふと疑問に感じることがあります。

 

国立大学は、国民の税金で運営されていますから、国立大学の教員や研究者は「みなし公務員」として、副業は禁止されているのでは・・・などと考えてしまいますが、本務である研究内容について、書籍として市販化し、印税を得ることは、次の理由から問題ないのです。

 

 

印税とは

 

まず、印税とは何か考えてみます。

 

Googleでキーワード「印税とは」で調べた結果です。

 

印税

著作権者が著作権使用料として出版者などから受けとる金銭。定価・発行高に基づく歩合で定められる。

 

むずかしい表現になっていますが、簡単に言うと、書籍を執筆した人が「著作権者」です。一般的には作家やライターなどです。

 

研究成果などを広く普及させるために市販化するのであれば、その書籍を実際に執筆した教員や研究者が「著作権者」です。

 

 

研究成果と印税

 

国立大学の教員や研究者は、本務として行う研究活動自体が、国民の税金を研究費として使用しています。給料も国民の税金から支払われています。

 

国民の税金で研究しているのだから、その研究成果を書籍として販売するなら、印税として得る利益は、国庫へ入れるか、あるいは大学の収入とすべきでは・・・と考えることもできます。

 

国の税金で活動したのだから、その結果である研究成果を市販した利益も国へ返すべき。

 

 

これは、正しいように見えますが、実は違うのです。

 

 

そもそも、著作者は、実際に書籍を執筆した個人です。頭の中で考えたことを表現した個人です。これが著作者の原則です。

 

そして例外的に法人著作(職務著作)として認められる場合が法律に定められています。

 

著作権法
(職務上作成する著作物の著作者)
第十五条  法人その他使用者の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。

 

この第15条の要件を満たす場合のみ、個人でなく組織の著作となります。

 

法人著作の要件(文化庁HPより一部抜粋)は、次のとおりです。

 

(a)その著作物をつくる「企画」を立てるのが法人 (例えば、国や会社など) であること

(b)法人等の「業務に従事する者」が創作すること

(c)「職務上」の行為として創作されること

(d)「公表」する場合に「法人等の名義」で公表されるものであること

 

教員や研究者が、自分の研究成果を執筆する書籍は、個人が自由な発想で書くものですから、通常は、上記(a)の法人が企画したものに該当しません。また、公表する名称も個人名であれば(d)により該当しないのです。

 

国立大学の教員や研究者が、自分で行った研究の成果を、個人名で出版するなら、この著作権法第15条に該当しないので、法人著作(職務著作)に該当しません。

 

研究成果を執筆した書籍は、個人の著作となり、印税も個人収入になります。

 

しかし、例えば、国立○○大学○○学部発行 などと組織として発行するのであれば、法人著作(職務著作)となり得ます。

 

少ない例ですが、○○周年事業などで、過去の多数の研究者の業績を取りまとめて、組織として発行することもあります。組織として刊行すれば、法人著作ですから印税も大学の収入となります。(あまり売れないですが。)

 

 

個人著作の出版経費の負担方法

 

では、国立大学の教員や研究者が、個人で出版する市販書籍について、その書籍の製作費用を大学の予算から支出できるでしょうか。

 

大学の予算、つまり運営費交付金や寄附金での出版は可能でしょうか。

 

上記の法人著作(職務著作)であれば、大学が著作者ですから大学の予算で出版することは当然ですし、その印税も大学の収入となります。

 

しかし、組織でなく、個人として出版するものは、その印税は個人のものになりますから、大学の予算を使用することはできません。

 

大学の予算で出版した書籍(市販本)の印税を個人の収入としてしまうと、大学の予算を個人の懐に入れたこと(公私混同)になってしまうのです。極端な言い方をすれば、大学の予算を私物化したとも言えます。

 

研究者の著作の財源については、法律などで定められているものではなく、個人の倫理観や道徳観によるものになります。いわゆる利益相反とも関係します。

 

例えば、税金を原資とする科学研究費補助金での出版経費補助として、研究成果公開促進費がありますが、次の遵守事項が明記されています。

 

4 補助金にかかる利益等の取扱い
(1) 印税の取扱いについて【補助条件:4-1】
科学研究費補助金の補助を受けて刊行する図書にかかる印税の取扱いは「無印税」とし、著者・編者・著作権者等に一切の利益が生じないようにしなければなりません。

 

出版を目的とした研究成果公開促進費でさえ、印税を認めていません。まして、通常の科研費では出版自体が研究目的とは異なります。

 

 

個人出版と利益相反

 

利益相反という言葉は比較的新しい言葉です。

 

法律で明確に定められていないけど、世間一般の人が見たら、いかがなものかと疑問に思う部分です。多くの人に疑問に思われるような行為は、国立大学などの公的組織で働く人は慎まなければなりません。

 

教員個人が自分の判断で、大学の予算を使用して、自分の書籍を刊行し、印税を得る状況は、自分の利益を優先させ大学に対して損害を与えることです。利益相反を問題視されるリスクが高いです。

 

 

書籍の出版に大学の予算を使う

では、印税を受け取らないように出版者と契約すれば、個人の出版物に大学の予算を使用して良いのでしょうか。

 

教員が個人で出版した書籍であれば、個人の研究成果をアピールするための行為ですから、金銭は受け取らないとしても、大学の予算を個人のために使用したという、私物化の疑惑は払拭されませんし、世間一般から見ても公的組織では認められないでしょう。

 

さらに、特定の(自分のお気に入りの)出版会社へ大学の予算を流し、その出版社との取引関係を緊密にし(実際に出版会社へ製造代金を支払えば、その出版会社の利益になります。)、将来、他の出版物を有利に販売することが出来てしまうからです。

 

大学の予算を利用して、出版社と癒着したと見られてしまうでしょう。

 

つまり、大学の予算を使用して、個人で市販する書籍を出版することは適切とは言えないのです。

 

 

解決手法

学術書は、教員や研究者の知識が集約されたもので、社会に役立つことは間違いないのですが、実際には多く売れません。出版社も製造費用をペイできないので、費用負担を求めてくるケースが多くなっているようです。

 

これらを解決する方法として、次の方策があります。

 

組織(大学単位あるいは学部単位など)として、個人で出版する書籍の支援制度(大学の予算で費用負担すること)を制度化するのです。組織として内部規程を整備し、公式な制度として、一定の選定基準を設け、大学の予算を用いることを明確化(内部規程を制定)するのです。

 

この制度を構築してあれば、個人で出版する書籍に対して、大学の予算を利用しても問題ありません。(印税の受取も認めるなら、内部規程の中で明文化しておきます。)

 

個人出版に対して助成する額、使用する予算、対象となる書籍などを選定して、公正に第三者が審査し制度化します。組織として内部規程に基いて実施するなら、私物化や利益相反というリスクは払拭できます。

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