国立大学の教授が自分の書籍を出版するときの注意点、公費負担の可否

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基礎知識
イギリス コッツウォルズ

教員や研究者が研究成果を個人で出版するときの印税や、印刷経費の負担方法の解説です。個人で出版するなら印税を受け取ることができます。しかし出版経費が不足するときに大学の予算を使用するときは注意が必要です。利益相反や癒着などのリスクが生じます。

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研究成果の出版とは

 

最近(2015年)は、インターネットの普及によってネット上で論文を公表したり、研究成果を電子書籍化することが多くなりました。理系では研究成果を一般書籍として販売することは、必須でない時代になってきました。一方、文系の研究業績は、学会で発表する論文だけでなく、市販された書籍の数で評価される伝統的な慣習があります。

 

国立大学の教授などの教員や研究者は、自分の研究成果を書籍として市販し、その印税を個人の収入にできます。(ほとんどの印税は微々たるものですが。)

 

ここで、ふと疑問に感じると思います。

 

国立大学は、国民の税金で運営されています。国立大学の教員や研究者は、みなし公務員として副業を禁止されているのでは・・・と考えてしまいます。国立大学の研究費は国民の税金で賄われています。国民の税金で行った研究の成果を販売して、研究者個人が利益を得るのです。

 

しかし本務である研究成果を書籍として市販化し、個人で印税を得ることは次の理由から問題ありません。

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そもそも印税とは

 

まず印税とは何か確認します。

 

Googleでキーワード「印税とは」で調べた結果です。

 

印税

著作権者が著作権使用料として出版者などから受けとる金銭。定価・発行高に基づく歩合で定められる。

 

著作権者という、むずかしい表現になっています。簡単に言うと、書籍を執筆した作家やライターなどが著作権者です。研究成果を広く普及させるために市販化するのであれば、その書籍を実際に執筆した教員や研究者が著作権者です。

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研究成果と印税

 

国立大学の教授や研究者などの研究活動に必要な研究費は、国民の税金から予算が配分されています。教授たちの給与も国民の税金から支払われています。国民の税金で研究しているのだから、その研究成果を書籍として販売するなら、印税として受け取る利益を国庫へ入れるか、あるいは大学の収入とすべき・・・と考えるのも自然です。

 

国の税金で活動したのだから、その結果である研究成果を市販した利益も国へ返すべき。

 

これは正しいように見えますが、少し違います。

 

そもそも著作者は、実際に書籍を執筆した個人です。頭の中で考えたことを表現した個人が、著作者の原則です。そして例外的に、法人著作(職務著作)が法律で定められています。

 

著作権法

第十五条  法人その他使用者の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。

 

この著作権法第十五条の要件を満たす法人著作の場合のみ、個人でなく組織の著作になります。法人著作であれば印税も大学の収入になります。

 

法人著作の要件(文化庁HPより一部抜粋)は、次のとおりです。

 

(a)その著作物をつくる企画を立てるのが法人 (例えば、国や国立大学など) であること

(b)法人等の業務に従事する者が創作すること

(c)職務上の行為として創作されること

(d)公表する場合に法人等の名義で公表されるものであること

 

文化庁のHP

著作者について | 文化庁
政策について

 

教員や研究者が、自分の研究成果を執筆する書籍は、個人が自由な発想で書くものです。通常は、上記(a)の法人が企画したものに該当しません。また公表する名称も個人名であれば(d)に該当しません。

 

つまり国立大学の教員が、自分で行った研究成果を個人名で出版するなら、著作権法第十五条に該当せず法人著作になりません。研究成果を執筆した書籍は個人の著作となり、印税も個人の収入になります。

 

しかし例えば、「国立◯◯大学◯◯学部発行」など組織名で発行するのであれば、法人著作(職務著作)となり得ます。

 

あまり多くないケースですが、「◯◯大学100周年事業」などで、過去の多数の研究者の論文などを取りまとめて、組織として出版することがあります。組織として出版すれば法人著作になり、印税は大学の収入になります。(あまり売れないですが。)

 

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個人著作の出版経費の負担方法

 

では国立大学の教員や研究者が、個人で出版する市販書籍について、出版するための製作費用を大学の予算から支出できるでしょうか。

 

大学の予算、つまり税金である運営費交付金や寄附金で、個人書籍の出版は可能でしょうか?

 

上記の法人著作(職務著作)であれば、大学が著作者ですから大学の予算で出版することは当然です。印税も大学の収入となります。しかし組織としての出版でなく、個人として出版するなら印税は個人のものになります。個人で出版するための経費に、大学の予算を使えるか悩みどころです。

 

結論から言えば、自分が管理する大学の予算を使って、自分の書籍を出版することはできません。

 

自分が管理する大学の予算で出版した書籍(市販本)の印税を、自分の収入としてしまうと、公私混同や利益相反と看做されます。

 

大学の予算を、自分の懐(ふところ)に入れたのと同じことになります。極端な表現をすれば、大学の予算を私物化したことになるのです。国民の税金の一部を、印税という形にして懐に入れてしまうわけです。

 

研究者個人の著書の出版経費の取り扱いについては、法律や規則などで定められていません。個人の倫理観や道徳観によるものです。これは、いわゆる利益相反とも関係します。大学の予算(税金や寄附金)を、自分が利己的に(印税という形で)懐に入れてしまうわけです。

 

印税の受け取りを禁止している例として、科学研究費補助金の研究成果公開促進費には、次の遵守事項が明記されています。研究成果公開促進費は、研究成果を刊行するための印刷経費を補助する公的な制度です。

 

研究成果公開促進費「学術図書」補助条件(平成30年度)から抜粋

 

【印税の取扱】
5-1 補助金による刊行は無印税とし、著者・編者・著作権者等に一切の利益が生じないようにしなければならない。

 

出版を目的とした研究成果公開促進費でさえ、印税を認めていません。まして通常の科研費を使用してしまうと、出版自体が法律に違反し目的外使用になります。通常の科研費は研究費であり、出版経費ではありません。

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個人出版と利益相反

 

国立大学における利益相反は比較的新しい言葉です。法律で具体的なケースが定められていません。(民法第108条で自己契約及び双方代理の禁止があるだけです。)

 

利益相反とは、世間一般の多くの人が見たら、いかがなものか?と疑問に思うことです。利益相反の典型は、自分の研究成果を親族に利用させ、ガバガバ稼ぐようなことです。多くの人に疑問に思われるような行為は、国立大学などの公的組織で働く人は慎まなければなりません。

 

教員個人の判断で大学の予算を使用して、自分の書籍を出版し印税を受け取る状況を考えてみます。これは自分の利益を優先させるため、個人出版の経費を大学に負担させ、大学に損害を与える状況です。利益相反を問題視されるリスクが高いです。さらに馴染みの出版業者なら、業者との癒着も疑われます。ダブルでまずい状況です。

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書籍の出版に大学の予算を使うリスク

 

では印税を受け取らないように出版社と契約すれば、大学の予算を使用して個人で出版して良いでしょうか?

 

教員が個人で出版する書籍であれば、個人の研究業績を広めるための行為です。印税を受け取らないとしても、大学の予算を個人のために使用したという、私物化の疑惑は払拭されません。世間一般から見ても公的組織では認められないでしょう。また特定の(馴染みの)出版会社へ大学の予算を意図的に流し、その出版社との取引関係を緊密にし(実際に出版会社へ製造代金を支払えば、その出版会社の利益になります。)、将来、他の自分の書籍を格安で出版することが出来てしまいます。

 

大学の予算を使用して、出版社と癒着していると見られてしまうでしょう。

 

つまり大学の予算を使用して、個人で市販する書籍を出版することは適切ではありません。法律で禁止されていませんが、怪しまれる行為です。

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個人で出版する書籍の印刷経費に大学の予算を使う

 

学術書は、教員や研究者の知識が集約されたものです。市販すれば社会で役立つことは間違いありません。しかし実際には人気小説のように多くは売れません。出版社も印刷製造費用をペイできないので、著者自身へ費用負担を求めてくるケースが多くなっているようです。これらを解決する方法があります。

 

組織(大学単位あるいは学部単位)として、個人で出版する書籍の支援制度(大学の予算で出版費用を負担すること)を制度化するのです。公式な制度として内部規程を整備し、一定の選定基準を設けます。大学の予算を使用して個人の書籍を出版することを内部規程で制度化します。

 

この制度があれば、出版する個人書籍の費用負担を、第三者が審査します。第三者が客観的に必要性を審査しているなら、個人で出版する書籍に対して、大学の予算を使用しても問題ありません。(印税の個人受け取りも認めるなら、内部規程の中で明文化しておきます。)個人出版に対して助成する額、補助する予算の種類、対象となる書籍の選定方法など、公正に第三者が審査します。

 

組織として内部規程に基づき、個人出版の経費を補填(あるいは全学支出)するなら、私物化や利益相反というリスクは払拭できます。

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