官公庁の電子入札についての解説です。多くの官公庁で契約手続きのデジタル化が進められています。政府電子調達システムやそれぞれの自治体で様々なシステムがあります。いずれも開札会場へ行かずに社内のパソコンからスマホ片手に談合もできてしまいます。
電子調達システムのメリットとは?
2020年7月現在、多くの官公庁で入札手続きがオンライン化されました。インターネットのWEB上による電子調達システムが導入されています。国の場合には 各省庁が共同利用する、政府電子調達 GEPS です。地方自治体は、それぞれの自治体で専用サイトを構築しています。例えば東京都では、東京都電子調達システム、都内23区では、東京電子自治体共同運営 電子調達サービスなどです。
電子調達システムは、官公庁へ行かなくても会社にあるパソコンから入札へ参加できます。こう聞くと、とても便利そうに思えます。しかしそれぞれの電子調達システムのサイトを見ると、あまりにも複雑な手続きなのでげんなりします。
まず利用を始める前の環境整備からややこしいです。利用者登録の方法も複雑すぎて、よくわかりません。たぶん一度だけ登録すれば大丈夫なのでしょうが、電子認証局などでお金もかかり大変そうです。電子認証は、本人かどうか契約権限を確認するための機能です。紙ベースの開札では委任状に相当します。
会社によっては国の組織だけでなく、市区町村など複数の自治体へ参加希望もあるでしょう。ひとつのシステムを覚えるだけでも大変でしょうから、想像を絶する複雑さかと思います。もし電子入札へ参加するための手続きが大変すぎて断念している人がいるとすれば、本末転倒です。本来、誰もが手軽に参加できるのが、官公庁が実施する一般競争入札の原則だからです。
電子入札の操作マニュアルを理解するだけでも大仕事です。読んでもよくわかりません。おそらくほとんどの人は、電子入札よりも、普通に紙ベースで昔のように入札したいと思っているはずです。マスコミでは報道されていませんが、電子入札のトラブルも起こっているのではと心配になります。
そもそも行政手続きのデジタル化とは
行政手続きのデジタル化は、かなり昔に検討が開始されています。驚くことに 1994年12月には、行政情報化推進基本計画が閣議決定されました。
なんと、1995年の Windows 95 発売前に、すでに検討が開始されていたのです。行政情報化推進基本計画の目的は、国民サービスの飛躍的向上と行政運営の質的向上を図ることでした。
2020年現在、未だ行政手続きのデジタル化が十分でないことを考えると、やはりどこかに大きな問題があるのです。デジタル化にふさわしくない手続きまで含めてしまったことが原因のひとつになっています。
そもそも行政手続きをデジタル化する目的は、利用者である国民へのサービスを向上させることです。官公庁へ行かなくても、手元のパソコンやスマホを使って、簡単に手続きができることです。つまり一般のひとたちが利用する行政手続きを簡単にすべきなのです。そして官公庁側としても、無駄な労力を省いて、事務手続きを効率化することです。行政改革の一環としても検討されてきました。
官公庁側だけが便利になれば良いわけではなく、多くのひとたちにとって便利なサービスであることが一番重要です。サービスを利用する側にメリットがないのであれば、そもそもデジタル化は必要ないわけです。
利用者にとって便利なものかという視点から、電子入札や電子調達システムについて解説します。
紙ベースの開札の意味、入札者を立ち会わせる目的
一般競争入札は、公正性・公平性が最も重要です。会計法令に基づく手続きによる公正性、特定の企業のみが有利に扱われない公平性が確保されていなければなりません。
非公開あるいは見えない部分があると不信感が生まれ、不正も起きやすくなるからです。見えない行為を許してしまうと、官製談合、贈収賄、癒着などの不正事件が横行してしまいます。
電子入札が導入され、開札が見えない状況になってしまいました。従来の紙ベースによる一般競争入札では、それぞれの入札参加者立会いのもとに開札が行われます。官公庁側の入札執行者、入札参加者、それぞれが緊張感を持ちながら開札会場へ入り、相互に監視する牽制効果が働いてました。厳格な雰囲気の中で行われる開札は、不正を許さないという強い牽制効果が発揮されます。入札会場の中にいるすべての人たちが、お互いを監視することができました。不審な挙動や表情は、すぐに誰かに感づかれます。誰かに顔を見られていれば不正はできないのです。
お互いが、不正を許さないという気持ちの中で開札をすれば、談合なども起こりません。目つきや表情からも不正は知られてしまうものです。不正を許さない開札会場内は、厳粛で緊張感に包まれていました。
従来の紙ベースの開札手続きは次のとおりでした。
入札妨害を防ぐため、権限を持つ入札者一人のみ参加
開札会場への入室は、入札権限を持つ会社の代表者1名のみに制限されています。権限のない人の不正行為を極力排除するためです。他社の入札金額を覗いたり、落札するつもりがないのにおしゃべりして他の人を妨害するような行為を防ぐためです。ひとりに制限し、私語を禁止して談合行為も防止していました。私は、入札中は世間話も禁止していました。厳粛な空気で不正を排除していました。
予定価格の存在を証明
1回目の入札で落札しなかったときは、公表しない予定価格であっても、入札者の目の前で予定価格調書を開封し、予定価格が現実に存在していることを全員に確認してもらいます。
これは不正防止のために重要なことです。もし予定価格を作成せずに開札してしまうと、特定の会社を恣意的に落札させることが可能になってしまいます。落札の基準価格が存在しないので、入札執行者の恣意的な判断で落札できてしまうのです。お気に入りの会社が最安値の入札したときだけ落札したと言えばいいのです。
これらの不正行為を防止するために、予定価格調書を入札参加者の前で開封します。開札会場に予定価格調書を置くことが、会計法令で義務付けられています。
予算決算及び会計令
第七十九条 契約担当官等は、(略)予定価格を記載し、又は記録した書面をその内容が認知できない方法により、開札の際これを開札場所に置かなければならない。
再度入札を公平に判断
開札会場に入札者全員が集まっていれば、予定価格を超えたときの再度入札の判断を、入札者と一緒に公平に検討することができました。
開札した結果、予定価格以内の入札がなければ、再度入札するか、あるいは入札を打ち切るか判断が必要です。これ以上の入札は無理と判断して、入札を打ち切り不落随契とするのは入札状況によります。入札結果を見ながら入札参加者の目の前で公平に判断できました。
一般競争入札で重要なことは、手続きの透明性です。落札決定までの経緯を、入札者全員が目の前で確認できることが最重要です。落札決定までの経緯を、目の前で知ることが不信を払拭できる唯一の方法です。
電子入札で談合が簡単になった理由
電子入札システムを使わない紙ベースの入札では、入札から落札決定までの一連の手続きを、入札者の目の前でお互いに確認できます。不正がないことを目で確認できます。不思議なことに嘘や不正などは顔の表情でわかるものです。
しかし電子入札では、これらの不正を防ぐ牽制機能がなくなっています。官公庁側だけの判断で、落札決定も再度入札も決定できるシステムです。落札基準価格の予定価格が実際に存在しているのかもわかりません。予定価格がなければお気入りの会社を落札できてしまいます。再度入札を実施する判断も見えません。落札に至る途中経過が全く見えないのです。
電子入札が導入され、手続きの透明性がなくなったわけです。あまり思いたくはありませんが、自分のお気に入りの会社を落札させるため、落札させずに再度入札繰り返すことができてしまいます。
さらに、こんなことはないと信じたいですが、オンラインで会社から入札できるということは、いくらでも談合できることになったわけです。多くの一般競争入札は、業界の人たちはどの会社が参加するか予想できます。スマホ片手に他社と入札金額を調整しながら入札できてしまうのです。電子入札は恐ろしいシステムです。見えない場所から入札できてしまうわけです。誰にも談合のわからない完全犯罪が可能なシステムです。
紙ベースの入札では、予定価格調書の存在、再度入札の判断などが、常に入札者の目の前で行われます。当然のことながら緊張感もあり、お互いに不正を許さないという姿勢が保持されます。人の目により、厳格な入札手続きが監視されるわけです。官公庁側も民間企業側も、相互に牽制効果が期待できるわけです。会計法令でも、入札に立ち合いが必要なことを明確に定めているわけです。
これらが電子入札ではなくなってしまいました。入札の結果しかわからない状況です。途中経過がわからず、透明性が消滅しました。一番重要な落札決定までの経緯や判断がブラックボックスに包まれてしまったのです。
一般競争入札は透明性が最重要
そもそも行政手続きのデジタル化は、多数の利用者にとって便利なものでなければなりません。パソコンやスマホから、ボタンひとつで手続きが完了することが理想です。労力を省略し手数料も不要になるようデジタル化を進めるべきです。
しかしはっきり言って、入札手続きはデジタル化すべきものではありません。見えない部分が増えてしまい、いくらでも不正ができてしまいます。さらに入札へ参加する人たちの負担も膨大になっているでしょう。むずかしいマニュアルを読むのも大変なはずです。手続きが煩雑になり不正を放置してしまう電子入札は廃止すべきです。
本来、入札手続きの開札は、官公庁側を監視する目的があります。予算決算及び会計令第81条で明確に定められています。開札手続きは、会計法令が厳格に守られていることを証明するための行為のはずです。
予算決算及び会計令
第八十一条 契約担当官等は、公告に示した競争執行の場所及び日時に、入札者を立ち会わせて開札をしなければならない。この場合において、入札者が立ち会わないときは、入札事務に関係のない職員を立ち会わせなければならない。
つまり入札手続きの中で一番重要なのは、落札決定までの状況が目の前で見えることなのです。
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