競争性がないと判断できる具体例、代理店や販売店が1社の場合に随意契約する場合の注意点です。会計法令では、契約の相手方が1社しかないときは随意契約が認められています。特許製品で独占販売している場合などが典型例です。
「競争性がない随意契約」の根拠法令
随意契約は、競争性の有無で2つに分けられます。「競争性がある随意契約」と「競争性がない随意契約」です。「競争性がある随意契約」は、見積もり合わせを行い、価格競争によって契約の相手方を決定します。この解説では、もうひとつの「競争性がない随意契約」を解説します。根拠法令は予算決算及び会計令第百二条の四第三号(予決令102-4-3)です。地方自治体は、地方自治法施行令 第百六十七条の二第一項第二号です。
予算決算及び会計令
第百二条の四 各省各庁の長は、契約担当官等が指名競争に付し又は随意契約によろうとする場合においては、あらかじめ、財務大臣に協議しなければならない。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。
三 契約の性質若しくは目的が競争を許さない場合(略)において、随意契約によろうとするとき。
地方自治法施行令
第百六十七条の二 (略)随意契約によることができる場合は、次に掲げる場合とする。
二 (略)その他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき。
上記の予決令の方は、少しまわりくどい条文になっています。 契約方式の原則である一般競争入札によらず、指名競争入札や随意契約を行う場合には、財務大臣への協議を義務付けています。そして、ただし書きに該当すれば財務大臣協議が必要ないという条文です。
条文だけを読むと、財務大臣協議の必要性を判断するための内容です。しかし実務上は、「競争性のない随意契約」の根拠法令です。
契約手続きの中で、財務大臣協議を行なうのは、とてもハードルが高いのです。協議のために準備する書類が多く、協議が終わるまでに数ヶ月を必要とします。もし前例もなく内容が複雑なら1年以上かかるかもしれません。財務大臣協議に該当するような契約案件であれば、実務上は断念せざるを得ないのです。むしろ契約内容を根本的に見直した方が早いくらいです。
つまり「契約の性質若しくは目的が競争を許さない場合」であれば、財務大臣協議は不要なので随意契約できることになります。地方自治法施行令の方は「・・性質又は目的が競争入札に適しないもの・・」は随意契約できるとストレートに記載されています。
競争性の有無を判断する方法
競争性のない随意契約の上記条文を、くわしく見てみましょう。
国
「・・契約の性質若しくは目的が競争を許さない場合・・・・」
地方自治体
「・・その性質又は目的が競争入札に適しないもの・・」
両方とも、「性質と目的」で判断するよう定められています。この性質と目的は、別々に考える必要はなく、契約内容全体で考えます。性質と目的を、それぞれわけて考えると余計にむずかしくなります。
「・・競争を許さない場合・・」、「・・競争入札に適し・・・・」この部分の判断が重要になります。具体例でくわしく解説します。
国の方は、「競争ができない場合」ではなく、「競争を許さない場合」と表現されていることに注意してください。基本的な言葉の解釈ですが、「できる、できない」という言葉は、自分の意思により行おうとして、その結果として「できる、できない」ということになります。
つまり「競争しようとしたが、できない」というニュアンスです。
一方、「許さない場合」とは、「しようとしたけどできない」という、結果的にできない状況ではありません。最初から「意図的にしない」という強い否定を表しています。官公庁側の契約担当者が、契約の基本原則である競争手続きを最初から否定しているのです。
簡単にいうと、「競争を許さない場合」とは、明確な意思を持って、最初から入札手続きを行なわない状況です。明確な意思を持つためには、当然のことながら合理的な理由が存在します。誰もが納得する客観的な理由に基づいて、契約の相手方1社のみと契約する場合になります。
競争性を最初から排除するので、予決令102-4-3を適用する場合には、対外的に説明できる合理的な理由が必要です。そのため選定理由書(機種選定理由書、業者選定理由書)を作成することになるのです。
地方自治体の条文は、「競争入札に適しない」なので、国の条文よりも緩やかです。地方独自の事情を考慮して判断することになりますが、考え方は同じです。
「競争性がない随意契約」の具体例
では、競争性がないと判断できる具体例です。競争性がないということは、他に契約できる相手方が存在しないということです。
典型的な例は、特許製品で販売店が1社しかない場合です。製品を製造販売する特許を持っていて、独占販売している状態です。
発明により特許が認められれば、20年間、市場での独占が特許法で認められます。特許権を持っている会社が、代理店や販売店を置かずに直接販売するケースです。法律で認められた独占であるため、競争性がない随意契約に該当します。随意契約と判断した資料として、特許関連資料を提出してもらいます。なぜ契約しなければならないのか、選定理由書を作成し随意契約することになります。特許権のほかに、プログラムなどの著作権も該当します。
代理店や販売店との随意契約
判断に迷う事例は、代理店や販売店が1社しかない場合です。
30年ほど前(1990年頃)までは、インターネットが普及していませんでした。現在(2022年)のようにWEB上で簡単に会社の情報を調べることは不可能でした。販売のための流通機構も整備されてない状態だったのです。実際の販売店を調べる手法がなかったので、代理店や販売店と随意契約する事例が多かったです。
インターネットの普及によって、市場の流通機構も飛躍的に発達しました。ネット販売や、ネットを通じての業者間の取引も活発に行われています。
メーカーであれば、販売網を拡大したいのは当然です。自社の製品を多数の代理店を経由して販売したいのです。そのため製造メーカーが1社しかないという理由だけでは、販売会社が他にないという証明にはなりません。
販売会社が複数あるのかどうかは、実際に一般競争入札しないとわかりません。WEB上へ入札公告を掲載し、広く競争の機会を確保して、その結果、参加した会社が1社のみであったときに客観的に証明できることです。最初から競争性を排除すべきではありません。
特殊な製品で代理店が一社だけでも、競争性がないと判断するのではなく、一般競争入札した方が安全です。メーカーは、販売網を増やすために新しく代理店を設置することがあります。極端な例ですが、入札公告を見て、入札へ参加するために新しく代理店になるケースさえあります。
そのため、入札へ参加できる会社が1社と予想できても、少額随意契約に該当しなければ、一般競争入札を実施するのが適正な契約手続きです。競争性がないと判断する随意契約は、極めて稀です。物品の売買契約なら、少額随意契約の範囲を超えていれば、一般競争入札です。
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