仕様書を書く前に知っておきたいことです。実際に仕様書を作成するときに、どのような表現で記述すれば良いのか、どこまで詳しく書く必要があるのか悩みます。仕様書は、相手に求める内容を書類としてまとめたものです。契約の中心になる書類です。
仕様書の必要性
官公庁の契約手続きでは仕様書が必要になることがあります。競争入札や見積もり合わせ、工事契約や製造契約、役務契約では、仕様書が必須です。仕様書によって、契約内容を把握することができ、金額の積算が可能になります。なお、この記事で解説する仕様書は、官公庁側(発注者)が求める内容をまとめた書類です。
一般的な社会で用いている「仕様」は、製品の性能を表すことが多いです。スペックや諸元表などともいいます。しかし官公庁の契約手続きで使用する仕様書は、相手方へ求める契約内容や契約条件を意味します。製品の性能ではなく、物品購入契約や工事契約、製造契約、役務契約(清掃や警備など)の契約内容を表す書類です。契約内容が複雑なときや、価格競争するために条件を同一にするときは、必ず仕様書を作成します。
仕様書の目的
仕様書は、お互いに守る約束をまとめた書類です。契約条件を記載します。契約は、お互いに約束を守ることです。お互いが守るべき内容は、わかりやすく、誤解しないように理解できなくては意味がありません。理解が困難な内容や、むずかしい表現では、約束を守ることができません。
つまり仕様書は、契約当事者が、わかりやすい内容であることが最重要です。法律の条文のように一字一句を厳格に表現し、かえって何を言っているかわからない内容ではいけません。法律家、弁護士しか理解できないような内容であれば、全く役に立ちません。仕様書は、誰が読んでも同じように解釈し、理解できることが理想です。
仕様書の書き方と表現方法
契約内容をわかりやすく表現することが、仕様書を書くときに一番重要です。読んだ人が理解しやすいように、誤解しないように記述します。仕様書は、法律や規則と異なります。法令のように、表現方法が定められているわけではありません。
法律用語という言葉があリますが、法律の条文では、使う用語が厳格に決められています。「AまたはB」と「AかつB」では意味が全く違います。法律の基礎知識がないと、正しく理解できないのが条文です。難解な条文も多く、法律家以外は理解できないこともあります。
官公庁の契約手続きに必要な仕様書は、法律の条文とは全く違います。むしろ法律の条文のように難解な表現で記述することは避けなくてはいけません。仕様書は、誰が読んでも理解できる文章であることが重要です。イメージとしては、普段会話している言葉と同じように表現することです。仕様書の書き方や記載方法についてのルールは何もありません。わかりやすく、誤解されない表現であれば、どのように書いても良いわけです。
条件を詳細に書くのは間違い
相手方へ求める内容を書くのが仕様書です。相手方は、仕様書に書いてあることを行います。逆にいえば、仕様書に書いてないことは行わなくてよいわけです。そのため仕様書には、「すべてのことを詳細に書かなくてはいけない」と思うかもしれません。
しかし、あまり細かく記載してしまうと、かえって内容が狭くなってしまいます。法律や規則などを作るときも同じですが、細かく記述すればするほど、対象範囲が狭くなってしまうのです。ある程度、抽象的な記述にしておかないと、必要な内容が漏れてしまうことがあります。仕様書には、必要なことは書きますが、最少限に留めて記述する(余計なことは書かない)のが正しい書き方です。
仕様書に記載がないとトラブルになるという誤解
「仕様書にすべてを記載しておかないと、契約途中でトラブルになったり、契約不履行などの問題が発生する」と考えてしまう人がいます。しかし、そもそも契約というのは、相手方を信頼して締結するものです。信義誠実の原則が、契約の原則です。相手が誠実に履行してくれるものと信じて契約するわけです。最初から信用できない相手とは、そもそも契約しないわけです。
日本の民法では、口頭のみで契約が成立します。契約書などの書類の取り交わしは必要としていません。しかし官公庁が締結する契約は、国民の税金を使っています。国民の財産を守るという意味で、一定金額以上の契約については、安全のために請書を取り寄せたり、契約書の取り交わしを行います。
しかし実際のところ、仕様書をどれほど細かく書いても、契約書へ細かい条文を入れても、トラブルになるときはトラブルになるものです。契約でトラブルが生じるのは、相手方へ不信を抱くときです。「いくら電話しても留守電で返事がない」、「依頼したのに無視された」、「言葉使いや態度が乱暴」などの不満が積もって不信感になります。不信感が積み重なってトラブルになります。
反対に、仕様書や契約書を大雑把に書いても、お互いが誠実に対応していれば、トラブルになりません。つまり仕様書や契約書は、いくら細かく書いても、トラブルになるときはトラブルのです。
もし完璧な仕様書を作成したとしても、契約の相手方と意見が対立して、相手が約束を守らなくなることもあるのです。契約金額が大きければ裁判になってしまいます。どれほど完全な仕様書や契約書であっても、トラブルは防げないのです。トラブルが起きないよう、すべての内容を網羅しようとして、何がなんだか意味のわからない仕様書になるのは本末転倒です。
極端な言い方にはなりますが、仕様書に記載してあっても、記載してなくても、トラブルとは関係ないということです。仕様書を作成するときに、あまり神経質になる必要はありません。実際の仕様書の作成方法については次の記事で解説しています。
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