官公庁の会計実務で日常的に取り扱う書類の日付に注意しましょう。見積書、納品書、請求書を「3点セット」として依頼すると、後日トラブルになり、不適切な会計処理を疑われてしまいます。それぞれの書類の意味を正しく理解することが重要です。
「3点セット」のリスクとは
官公庁で会計実務を担当していると、「3点セット」という言葉を聞くことがあります。3点セットとは、見積書、納品書、請求書のことです。契約代金の支払い手続きを行うために必要な書類です。3点セットという言葉は、官公庁側の契約担当者も、民間企業側の営業担当者も使うことがあります。
特に、ベテランの担当者になると、支払手続きを早期に処理するために、「3点セットでお願いします。」と依頼することが多くなります。
「3点セット」という言葉を聞いて、違和感を持つ人は、会計実務の基本姿勢が守られている人です。しかし残念なことに、極めて少数派になりつつあります。効率性を重視し、形式主義になりつつあるのです。多くの職場で3点セットという言葉が、当然のように使われ始めています。「書類さえ整えれば良い」という危ない考え方です。
民間企業の営業担当者へ3点セットを依頼するときは、そのほとんどが、納品後の代金支払時です。納品を終えるまでは口頭でやりとりし、納品確認後の代金を支払う段階になって、必要書類として3点セットを依頼します。あるいは支払担当者から催促があり、不足書類として指摘され、慌てて見積書、納品書、請求書の3点セットをまとめて揃えることになります。書類を依頼された営業担当者は、官公庁との取引経験が浅ければ、3点セットの書類を、依頼された日付で作成してしまいます。
すると、困った事態が発生します。
納品後の日付ですべての書類を作成してしまいます。見積書、納品書、請求書が同一の作成日になってしまうのです。
契約手続きについての正しい基礎知識がないまま、書類さえ整っていれば良いと考え、3点セットの書類を取り寄せて、支払手続きを行なってしまうのです。そして後日、外部の検査で指摘を受けることになります。例えば税務調査では、官公庁側の支払書類の日付と、民間企業側の実際の取引日(売上日)を照合するので、取引日が違っている、と指摘を受けることになります。会計検査では、納品後に見積書を作らせるのは、適正な事務処理ではないと指摘されます。
これらのリスクを避けるためには、書類の提出依頼を正しく行う必要があります。正しい依頼方法は、「3点セット」ではなく、「見積り、納品、請求書類をお願いします。」と伝えることです。また各書類の日付も、「実際の日、つまり口頭でやりとりした日付け」を確認して作成を依頼します。
見積書、納品書、請求書とは
見積書は、契約(正式な発注)を行う前に、金額や内容を確認する目的で、民間企業から官公庁側へ提出してもらう書類です。当然のことながら納品前に作成してもらう書類です。正式な発注前に、電話やメールで金額を確認したときに作成してもらう書類です。例えば、電話で次のようなやりとりがあったとします。
官公庁側 「〇〇製のパソコンは、いくらになりますか?」
民間会社側「定価の25%引き(あるいは〇〇円)で販売できます。」(ここが見積金額です。)
官公庁側 「それでは注文したいので、〇月〇日頃までに納品をお願いします。」
この例では、値引額(値引率や値引後の金額)を確認した時点が見積書の作成日です。少額な契約では、口頭で見積金額を確認することが多いです。そして後日、書面として提出してもらうのが見積書です。作成年月日は、実際に金額の提示を受けた日です。書類作成が後日になったとしても、実際には発注前にやりとりしているはずです。実際の日で作成してもらうのが、見積書の正しい日付です。もしメール等が残っていれば、最初に見積金額を提示してもらった日で見積書を作成してもらうのが正しいです。最初に金額を確認した日が、見積書の作成年月日になります。
納品書は、官公庁側が実際に物品等を受け取るときに、民間企業側から提出してもらう書類です。納品書は、納品した日に作成してもらいます。官公庁側の契約担当者は、納品検査(検収・・検査収納の意味)を行なうために、発注内容と現物が同一か確認して、納品書へ「検収サイン」します。納品書には、この検収サイン(受領年月日と検収者のサイン)が必須です。特に税務調査では、実際の取引日を示す重要な書類になります。(消費税の計算では、取引日で期間を区分します。)
また遅延防止法でも次のとおり納品書について定めています。
政府契約の支払遅延防止等に関する法律
第五条 (検収)の時期は、国が相手方から給付を終了した旨の通知を受けた日から工事については十四日、その他の給付については十日以内の日としなければならない。
官公庁側に契約代金支払いの債務が発生するのが検収日です。そして検収を行う時期は納品書の日付から10日以内になります。「・・給付を終了した旨の通知・・」が納品書を意味しています。つまり納品書の日付は、官公庁側に債務が発生する日に関係しています。消費税の計算や、支払債務に関係する重要な日付が、納品書の日付でもあるわけです。
請求書は、官公庁側の納品検査(検収)が終わった後に提出してもらう書類です。代金の支払手続きに必要です。会計法令で、請求書に基づかなければ支払いできないことが明記されています。
政府契約の支払遅延防止等に関する法律
第六条 (対価の支払の時期)は、国が給付の完了の確認又は検査を終了した後相手方から適法な支払請求を受けた日から工事代金については四十日、その他の給付に対する対価については三十日以内の日としなければならない。
第十四条 この法律(第十二条及び前条第二項を除く。)の規定は、地方公共団体のなす契約に準用する。
上記の遅延防止法第六条「・・適法な支払請求を受けた日・・」とは、請求書を受理した日です。また第十四条で、国の組織だけでなく、地方公共団体(都道府県や市区町村)も対象であることが明記されています。遅延防止法は、官公庁全体が適用対象です。
会計書類の正しい日付
官公庁の会計実務担当者は、これらの時系列的な流れを意識しながら、事務処理を行なうことが大切です。(事務処理とは、書類を取り寄せたり、作成したりすることです。官公庁では対外的な説明書類になります。)
見積書、納品書、請求書は、次の順番になります。
時系列的な流れ(会計書類の作成順)
見積書 → 納品書 → 請求書
実際の取り引きどおりに、時系列に沿って作成した書類を提出してもらわないと、契約手続きが適正に行われたことになりません。会計書類の日付は、事実(実際の日付)と合致していることが重要です。
これらの事実を無視してしまうと、取引相手である民間企業の売上台帳と、官公庁側が保存する会計書類の日付が合致せず、後日、(日付操作を疑われたり)問題になることがありますので注意しましょう。
特に年度末などに日付を操作してしまうと、不適切な会計処理(不正行為)と見做されてしまうリスクがあります。事実どおりの日付が正しい処理であり、そのためには会計書類の正しい知識を持つことが必須です。
コメント
宅配便など、納品書が発行されない場合の検収の日付についてご教示ください。
毎月〇日締めで月に一度発行される請求書について、最近になって部内で
これは請求書発行されてからでないと検収できないのではないか?
そのため検収日は請求書発行日以後が正しいのでは?
と、話題になりました。
宅配便に限らないと思いますが、この場合、検収日はどのような対応になるのでしょうか?
このケース、どちらかに記載されていましたら、確認不足で申し訳ございません。
コメントありがとうございました。
まず最初に「検収」について解説します。官公庁の契約実務に必要な検収とは、契約内容が履行されたかを確認することです。例えば、官公庁が物品を購入する契約であれば、納品になった事実を確認することです。検収作業は、品名や型式、機器の性能確認を行います。金額の確認は行いません。検収時には、請求額の確認までする必要はありません。
つまり、検収時には「給付の完了」を確認するだけです。金額の確認は、その後に請求書を受理した段階で、請求書に基づき実施します。
宅配便の発送を例にすれば、発送依頼を行った日が検収日になります。宅配便会社へ発送物を渡した日です。そして単価契約のように一定期間分をまとめて支払うときは、請求内容の締め日が検収日になります。その後に請求書が届いて、金額を確認することになります。
宅配便の発送であれば、発送伝票の控えがあるはずです。そこに発送日が記載されています。その発送日が検収日になります。
なお厳密に解釈すれば、宅配会社へ発送を依頼して、先方へ届いたことを確認できた時点が正確な検収日(依頼した行為が完了した日)なのですが、日本の宅配便の商慣習として2〜3日程度で間違いなく届くので、発送依頼した日(発送伝票の日)を検収日とすることが多いです。もし追跡サービスなので届いた日が判明するのであれば、届いた日を検収日とする方がより正確です。
支払金額の確認は、検収とは関係なく、請求書が届いた段階で金額を確認します。
よって宅配便を発送するときは、通常、請求書が届く前の発送時に検収します。
お世話になります。
お忙しいところ、早速の返信ありがとうございました。
同じ部内でも課によって解釈の違いがあり、悶々としていたところでした。
お陰様ですっきりしました。
たいへん勉強になる記事ありがとうございます。1点教えていただけたら助かります。
年度末が近づくと顧客から過去日付で見積書の発行をお願いされることがあります。当方はネット申込みで契約完了する業態のため、顧客から問い合わせがない限り事前打ち合わせなどありません。
要は「見積りとるの忘れてたから、つじつま合わせのために見積書発行してくれ」ということだと思います。
しかし1年も前の日付で有効期限切れの見積書を「新規発行」することに違和感があります。
改正電子帳簿保存方法がはじまり、タイムスタンプが必要になるので、過去日付の見積書を発行すると日付の乖離が生じます。それでも、問題ないか? そんな書類でも、官公庁は書類を整える必要があるのか?
ご教示いただければと思います。
管理人です、コメントありがとうございました。
官公庁から、過去の日付で見積書を発行するよう依頼されるとのことですが、おっしゃる通り違和感を持つのは当然のことと思います。
書類を整える目的のためだけに依頼していると思います。会計法令に基づく正式な事務手続きを経ていないです。以前に発行してもらった見積書を不注意により紛失し、再発行を依頼することは稀にありますが、過去の日付で見積書を新規発行することは、官公庁の事務手続きではありません。
そもそも見積書の発行日は、相手方へ見積金額を提示する日で記入すべきものです。電話などで見積金額を伝えた後に見積書を発行するときは、数日間だけ遡及することはありますが、事実に合わせるために遡及するだけです。事実に基づかずに遡及するのは、かなり危ない(偽装に近い)行為です。
日付を遡及する理由が怪しければ、見積書の発行を断った方が安全だと思います。
おそらく官公庁の担当者が正しい知識を持ってないことが原因ですが、1年も遡って見積書を新規発行することは、あり得ません。
お返事ありがとうございます!
とてもすっきりしました!
お客様は「官公庁の指示で」とおっしゃいますが、事実はご自身が見積りとるのを忘れていた、、、という場合も多いと思います。
または、3点セットであることにこだわる官公庁の担当者が多いのかもしれませんね。
いずれにしても、今回の回答で自信をもって上司にも相談できます。ありがとうございました!
※管理人様
ご回答誠にありがとうございました。
>正式契約のときに原紙を提出してもらう取り扱いだと思います。
こちらに関しては、根拠となる法令や勧告等はございますでしょうか。
もしあればご教示いただけますと幸いです。
※管理人様
大変わかりやすい解説ありがとうございました。
今後ともよろしくお願い申し上げます。
※管理人様
大変わかりやすい解説ありがとうございました。
今後ともよろしくお願い致します。
管理人様
いつも参考にさせていただいております。
2点お聞きしたことがございます。
①見積書の形式について
当方の部署では次のような形式でもらうように上司より指導を受けております。
・比較見積もりで不採用になった見積書・・・PDFのコピー
・比較見積もりで不採用になった見積書・・・原紙
果たしてこれは正しいのでしょうか。
②日付について
残念ながら、当方の部署では3点セットで依頼するよう上司より指導を受け
これまで納品時に3点セット「見積書(原紙)」「納品書」「請求書」を契約依頼書の決裁日より後の同じ日付で貰っていました。
今後は、
見積書(発注前に郵送でもらう) → 納品書(納品時にもらう) → 請求書(納品後、検収完了してからもらう)
のタイミングで日にちをずらして貰ったほうが良いのでしょうか。
コメントありがとうございます、管理人です。
①について
従来から実施しているのであれば問題ないと思います。
PDFと原本の取り扱いについては、会計法令での定めはありません。100万円以下などの金額の少ない見積もり合わせ(比較見積もり)では口頭見積もり可能です。電話で見積もり金額を聞きメモすることもあります。そして一番有利な会社と正式契約するときに見積書原紙を提出してもらいます。おそらくPDFレベルで比較検討し、正式契約のときに原紙を提出してもらう取り扱いだと思います。
②について
見積書、納品書、請求書の日付については、実際の日付で作成してもらいます。例えば、極端な例ですが、近くの販売店で小さな物品を購入し、その場で請求書を発行してもらえれば、見積書、納品書、請求書は同じ日になります。即納品は同日のことが多いです。
発注から納品までに数日間必要なときは、見積書は発注日以前、納品書と請求書が同日のこともあります。
いずれも、実際の日で処理します。事実と異なる作成日を指定すると「不正」になります。
見積書=発注日以前
納品書=納品日(購入日)
請求書=検収確認後に提出してもらいます。
取引相手の会社へ「請求書の提出は、当方での納品確認後に連絡があってから提出して欲しい」旨の協力依頼をしておくと効率的です。