官公庁が契約の相手方を選ぶときは、一般競争入札を実施するか、それとも隨意契約で締結するか判断しなければなりません。入札と随意契約では、契約手続きや必要書類が全く異なります。契約担当者が契約方式を判断する手順を、わかりやすく解説します。
契約方式を判断する根拠法令
官公庁が契約の相手方を選ぶ方法を、契約方式といいます。官公庁は国民の税金を使って契約を締結するので、一般競争入札が契約方式の原則になっています。しかし入札手続きは、契約を締結するまでに数ヶ月を必要とし、極めて複雑な事務手続きになります。そのため入札手続きを実施するのは高額な契約に限られています。
実際の契約実務では、一件あたりの契約金額が100万円に満たない少額な随意契約がほとんどです。100万円を超えそうな契約が予定されるときは、手続きを開始する前に、随意契約できるのか、一般競争入札を実施しなければならないのか、契約方式を検討しなければなりません。
契約方式は、予算決算及び会計令(予決令・・よけつれい)に基づいて判断します。地方自治体は、地方自治法施行令 第百六十七条の二です。
地方自治体も国の規定とほぼ同じ内容が定められています。国の規定を例にして、契約方式を判断するための手順を解説します。
契約方式を検討するときは、まず参考見積書を取り寄せます。この見積金額が、およその予定価格になります。最初に、予決令 第九十九条(地方自治法施行令 第百六十七条の二)を適用して随意契約が可能か確認します。事務簡素化を目的とした少額随意契約を適用できるかを最初に検討するのです。
予算決算及び会計令(国の場合)
第九十九条 (略)随意契約によることができる場合は、次に掲げる場合とする。
(略)
三 予定価格が百六十万円を超えない財産を買い入れるとき。
(略)
地方自治法施行令(地方自治体の場合)
第百六十七条の二 (略)随意契約によることができる場合は、次に掲げる場合とする。
一 売買、貸借、請負その他の契約でその予定価格(略)が別表第五上欄に掲げる契約の種類に応じ同表下欄に定める額の範囲内において普通地方公共団体の規則で定める額を超えないものをするとき。
別表第五
二 財産の買入れ
都道府県及び指定都市 百六十万円
市町村 八十万円
上記は物品購入契約の例です。製造契約や請負契約などの他の契約についても予決令 第九十九条(地方自治法施行令 第百六十七条の二 別表第五)で定めている範囲内であれば随意契約が可能です。
条文にある予定価格は、おおよその金額で判断します。少額随意契約の判断基準は、参考見積書の税込み合計金額です。正式な予定価格を作成するときは、必ず参考見積書の金額以下になるため、参考見積書の金額を予定価格とみなして契約方式を判断します。
また、百六十万円を超えない、という表現は、百六十万円以下という意味です。超えない、という表現は、ふみこえないと読むと理解しやすいです。
予決令 第九十九条(地方自治法施行令 第百六十七条の二 別表第五)に該当しないときは、入札手続き(一般競争または指名競争)になります。
予決令第九十四条は、指名競争入札が可能な範囲です。指名競争入札は、指名基準が後日問題になることが多いです。そのため指名競争入札よりも、一般競争入札が一般的に行なわれています。手続きの煩雑さが一般競争入札とほぼ同じなので、あえて指名競争入札を実施するメリットはありません。
予算決算及び会計令
第九十四条 (略)指名競争に付することができる場合は、次に掲げる場合とする。
一 予定価格が五百万円を超えない工事又は製造をさせるとき。
二 予定価格が三百万円を超えない財産を買い入れるとき。
参考に物品購入契約の場合を例にして、随意契約と指名競争入札の金額範囲を比較しました。
物品購入契約の場合
随意契約 160万円以下(予決令99-1-3)
指名競争入札 300万円以下(予決令94-1-2)
指名競争入札は、一般競争入札と事務手続きがほぼ同じです。隨意契約のような事務簡素化のメリットもありません。しかも指名競争入札は、指名基準が後日問題になることがあるので避けた方が安全です。
契約方式を判断する手順
契約方式を判断する手順をまとめました。
契約方式の判断手順(国の場合)
予決令第99条(少額随意契約可能か)
⇩
予決令第94条(指名競争入札可能か、ここはあまり使いません)
⇩
予決令第74条(上記に該当しないなら一般競争入札の公告掲示)
契約方式の判断手順(地方自治体の場合)
地方自治法施行令で判断
第167条の2 別表第五(少額随意契約可能か)
⇩
第167条(指名競争入札可能か)
⇩
第167条の6(上記に該当しないなら一般競争入札の公告掲示)
契約方式の原則は一般競争入札です。国の場合は会計法、地方自治体は地方自治法が根拠法令です。
会計法(国の場合)
第二十九条の三 (略)「契約担当官等」は、売買、貸借、請負その他の契約を締結する場合においては、第三項(指名競争入札)及び第四項(随意契約)に規定する場合を除き、公告して申込みをさせることにより競争に付さなければならない。
地方自治法
第二百三十四条 売買、貸借、請負その他の契約は、一般競争入札、指名競争入札、随意契約又はせり売りの方法により締結するものとする。2 前項の指名競争入札、随意契約又はせり売りは、政令で定める場合に該当するときに限り、これによることができる。
しかし実際の契約実務では、事務簡素化の観点から、少額随意契約できるかを最初に判断します。少額随意契約ができなければ入札手続きになります。この契約方式の判断は、早い時期に行います。契約方式によって必要書類や契約手続きの進め方が変わってしまうので、最初に契約方式を決定します。もし途中で契約方式を変えてしまうと、それまでの手続きが無駄になってしまうのです。
競争性のない随意契約
随意契約は、競争性があるかどうかによって2つに分けられます。
競争性がある場合 事務簡素化を目的とした少額随意契約
競争性がない場合 契約の相手方が1者に限定される競争性のない随意契約
上記の予決令 第九十九条(地方自治法施行令 第百六十七条の二 別表第五)に該当する随意契約は、競争性がある随意契約です。事務簡素化の観点から金額の小さい契約を随意契約可能とするもので、少額随意契約と呼ばれています。(官公庁の業界用語です。)
一方、競争性のない随意契約は、契約先が1社に限定される場合です。特許権や著作権などによって排他的に独占販売権を有する会社と契約するケースです。他に契約できるところがない場合です。根拠法令は、予決令第百二条の四第一項第三号です。
予算決算及び会計令
第百二条の四 各省各庁の長は、契約担当官等が指名競争に付し又は随意契約によろうとする場合においては、あらかじめ、財務大臣に協議しなければならない。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。
(略)
三 契約の性質若しくは目的が競争を許さない場合又は緊急の必要により競争に付することができない場合において、随意契約によろうとするとき。
地方自治体は、地方自治法施行令です。
地方自治法施行令
第百六十七条の二 (略)随意契約によることができる場合は、次に掲げる場合とする。
二 (略)その他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき。
競争性のない随意契約を締結するときは、理由書と証明書類が必要になります。契約先が1社であることを証明する書類が準備できないときは、あえて一般競争入札手続を行い、開札の結果、1社入札として契約を締結することが多いです。最初から競争性を排除した随意契約とするよりも、競争性を確保した入札手続きを実施し、結果的に1社入札とした方が、対外的な説明責任を果たすことができるからです。一般競争入札は、契約方式の基本原則に基づいた公平・公正な手続きなので、一社しか参加できないとわかっていても、あえて一般競争入札を実施するわけです。一般競争入札を実施することで、一社であることを客観的に証明できるわけです。
随意契約の根拠法令が重複したとき
国の場合を例に解説します。随意契約と判断するときには次の2つの条文があります。
少額随意契約・・予決令第九十九条
競争性のない随意契約・・予決令第百二条の四第一項第三号
少額随意契約と競争性のない随意契約が重複した(両方の条文に該当した)場合は、どちらの根拠法令によるか迷うことがあります。
例
予定価格90万円の特許製品の購入契約で、製造・販売店は世界に1社しか存在しないとき(代理店なども存在せず、その会社と直接契約するしか方法がないケースです。)
この場合は、予決令第九十九条第一項第三号(160万円以下の少額随意契約)と予決令第百二条の四第一項第三号(競争性のない隨意契約)の両方の規定に該当するように見えます。しかし予決令第九十九条は、競争性のある少額随意契約を想定しています。予決令第九十九条の六を見ると、2社以上の見積書を取ることが前提になってます。(地方自治体は、それぞれの規則で定めています。)
予算決算及び会計令
第九十九条の六 契約担当官等は、随意契約によろうとするときは、なるべく二人以上の者から見積書を徴さなければならない。
参考に東京都契約事務規則です。
第三十四条 契約担当者等は、随意契約によろうとするときは、契約条項その他見積りに必要な事項を示して、なるべく二人以上の者から見積書を徴さなければならない。(略)
予決令第九十九条の随意契約は、2社以上の見積書を取り寄せることができる競争性のある随意契約です。見積もり合わせができる少額随意契約です。
競争性のない随意契約は、予決令第百二条の四第一項第三号(102-4-3)が適用され、競争性がないことを証明する書類と随意契約理由書が必要になります。
つまり競争性のない随意契約は、金額で判断しません。そして根拠法令は、予決令第百二条の四第一項第三号です。上記の例、90万円の特許製品は、競争性のない随意契約として、選定理由書を作成することになります。
本記事の内容を初心者向けに簡単にまとめてあります。復習として読むと理解を深めることができます。

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