官公庁の契約手続きの原則である「一般競争入札」についての解説です。一般競争入札の目的、競争入札の種類、契約手続きの流れ、「見積もり合わせ」との違いを把握しておきましょう。
官公庁の契約手続きの原則「一般競争入札」
入札(にゅうさつ)とは、札(ふだ・・入札金額を書いた紙)を提出することです。入札金額を書いた入札書を封筒に入れて、入札箱へ入れます。選挙の投票のようなイメージです。入札金額は、消費税額を含めない税抜金額です。稀なケースですが、非課税事業者が参加した場合に、課税事業者が不利にならないよう配慮されています。
入札書には、入札金額と会社の住所、会社名、代表者名を記載し、代表者の印を押して提出します。(電子入札は、会社のパソコンから入札金額を入力して送信します。この記事は電子入札ではなく、紙ベースの入札について解説します。)
官公庁が、契約の相手方を選ぶ契約方式は、一般競争入札が原則です。一般競争入札は、一般競争契約、公開入札などともいいます。いずれも調達情報を公開して、希望者が参加できる契約手続きです。官公庁は税金を使用しているため、誰に対しても公平・公正でなければなりません。一般競争入札の目的は次のとおりです。
一般競争入札の目的
〇広く参加機会を確保すること
〇契約の相手方を公平・公正に選ぶこと
〇適正な価格競争を行うこと
一般競争入札は、ひとつひとつの手続きが会計法令で細かく定められています。法令に基づきながら進めることで公正さが保たれるわけです。しかしその分、手続きが厳格なために、契約の相手方を決定するまでに 2 ヶ月くらいかかってしまいます。誰もが参加できる公平性、法令に基づく公正性、それと適正な価格競争が一般競争入札の目的です。
民間会社が入札へ参加しようとするときは、入札公告を見て、仕様書などの入札関係書類を確認しながら入札金額を積算します。そして入札期限までに、封書に入れた入札書を提出します。開札前に入札書の提出期限を設けることもあり、その場合は提出された入札書を金庫などで厳重に保管します。
入札金額は、見積金額と同じです。入札書も見積書も、民法上の「契約の申込み」です。
競争入札の種類は「一般競争入札」と「指名競争入札」
競争入札は、不特定多数の会社が参加できる「一般競争入札」と、あらかじめ参加できる会社を選定する「指名競争入札」があります。実務上の入札手続きはほとんど同じです。異なる部分は、「入札公告」と「指名通知」だけです。
そのため実務上は、工事契約を除き、ほとんどが一般競争入札です。指名競争入札で事前に会社を選んでしまうと、後日、指名基準が問題になることがあります。例えば、契約内容が簡単で、どの会社でも対応可能なのに、官公庁側が 3 ~ 4 社のみを指名してしまうと、会社の選び方が不適切と指摘を受けます。「意図的に他の会社を排除した」と疑われてしまいます。品質を確保する必要がある場合など、契約内容が複雑で、履行できる会社が少数のときのみ指名競争入札を実施します。
一般競争入札の具体的な手順
一般競争入札の手順は次のとおりです。通常、契約締結までに 2 ~ 3 ヶ月必要です。
(官)は官公庁側の手続き
(民)は入札参加会社側の手続き
一般競争入札による契約手続きの手順
仕様書作成(官)
⇓
入札公告公開(官)
⇓
入札説明書と仕様書を入手(民)
⇓
契約金額を積算し、入札金額を決定(民)
⇓
入札・開札(官、民)
⇓
再度入札(予定価格に達しないとき、官、民)
⇓
落札決定(官)
⇓
落札内訳書提出(民)
⇓
契約書の取り交わし(官、民)
⇓
納品・検収(官、民)
⇓
代金の支払(官)
入札へ参加する方法
入札へ参加するためには全省庁統一資格(国の場合)が必要です。地方自治体は、それぞれの自治体ごとに参加資格を定めています。国の資格審査では、会社の規模別(売上高や従業員数など)に A ~ D 等級の格付けがなされます。ただ、この等級格付けは、ほとんどの入札で全員が参加できるようになっています。なるべく多くの会社に参加してもらい、競争性を高めるのが原則なので等級制限しない入札が多いです。資格審査は、毎年1月に定期審査があります。それ以外でも臨時の資格審査が可能です。
官公庁との契約を希望する場合は、事前に資格審査を申請しておくことをおすすめします。等級が決定されると有資格者名簿に登載されますし、名簿を見て依頼してくる官公庁もあります。営業のチャンスが広がります。
入札への参加資格の審査は、なんだか自分の会社の成績をつけられるように感じ躊躇するかもしれませんが、そんなことはありません。審査というよりも、事前登録制度に近いです。そもそもが、幽霊会社や詐欺会社などの悪質な業者を排除するための制度なので、真面目に営業している会社であれば資格を得ることができます。
開札と落札の違いを知る
開札は、官公庁側の入札執行者(副課長など官職指定されている入札責任者)が、入札会場で入札書の入った封筒を開封することです。封筒から入札書を取り出して、入札金額を読み上げます。入札書の提出期限は、開札日の 1 ~ 2 週間前に設定することが多いです。まれに開札当日に、入札会場で直接入札書を提出することもあります。
入札執行者が開封した後、入札金額を口頭で発表して、予定価格と比較します。
落札は、官公庁側が作成した予定価格の範囲内で、最も有利な入札金額を提出した会社を、契約の相手方として決定することです。予定価格以内であれば「落札者と決定します」と宣言し、契約締結手続きへ移行します。
開札の結果、予定価格を超えているときは、すぐに再度入札を実施します。再度入札は、入札書の様式を配布し、その場で入札金額を手書きし、押印して提出してもらいます。再度入札を実施するためには、入札金額を判断できる権限を持つ人に参加してもらう必要があります。通常、会社の社長から入札についての権限を委任された営業担当者が参加します。再度入札を3回ほど繰り返しても、予定価格との金額差が大きいときは、「入札不調」として入札を終えることになります。
「一般競争入札」と「見積もり合わせ」の違い
「一般競争入札」と「見積もり合わせ」の違いを簡単にいえば、不特定多数の会社が参加できるかどうかです。一般競争入札は誰でも参加できます。官公庁側の契約担当者も、どこの会社が参加してくるのか事前にわかりません。
一方、見積もり合わせは、官公庁側の契約担当者が選んだ会社(通常 3社)のみで競争を行います。事前に信頼できる会社へ依頼し、見積書を提出してもらいます。提出された見積書だけを比較して契約するのが見積もり合わせです。見積もり合わせは、業務の効率化(事務簡素化)を優先しているため、契約金額の小さいものに限定されています。
また、それぞれ根拠法令が異なります。一般競争入札は、会計法 第二十九条の三 第一項、地方自治体は、地方自治法 第二百三十四条 第二項です。見積もり合わせは、予算決算及び会計令 第九十九条、地方自治体は、地方自治法施行令 第百六十七条の二です。
提出する書類も異なります。競争入札では、契約を希望する金額を記載した入札書を提出します。見積もり合わせでは、見積書を提出します。
見積もり合わせの手順は次のとおりです。手続きは2週間くらいの短期間で完了します。事務手続きを簡素化し、業務を効率化することを目的にしています。ただ見積もり合わせによる少額随意契約は、契約手続きの例外です。原則はあくまで一般競争入札になります。
見積もり合わせの手順
仕様書作成(官)
⇓
仕様書を入手(民)
⇓
見積金額を計算(民)
⇓
見積書を提出(民)
⇓
見積もり合わせ(官)
⇓
契約を締結(官、民)
⇓
納品・検収(官、民)
⇓
代金の支払(官)
コメント
こんにちは。
いつも勉強になる記事をありがとうございます。
行政書士試験勉強をしている中で、以下の例は分割発注に当たるかどうか気になったので質問させていただきます。
官庁がある目的を果たすため、規格が違う複数の商品x、y、zを購入するとします(例:執務を目的に大型机・中型机・小型机の購入を行うなど)。
ここで官庁が見積書を業者a業者bから徴収したところ、合計金額は業者aが優位であったが、1つの商品xについてのみ業者bが格段に安かった。
このことを踏まえ、商品xのみと商品y、zで分け、再度見積もり依頼を業者a,bに依頼し、見積合せの結果商品xは業者b、商品y,zは業者aに発注することとなった。
この結果、業者aから複数商品の全てを購入するよりも安く購入できた。
以上の例は分割発注に当たりますでしょうか。またこれは違法性がありますか。
ご教示のほど宜しくお願いいたします。
管理人です、コメントありがとうございました。
安くするために、分割発注して、それぞれ別の会社と契約するのであれば、問題ありません。入札を避ける目的などの違法性もないと思います。
違法性があるのは、分割発注したのに、同一会社と契約することです。例えば、実態は、ひとつの契約なのに、書類上分割して、入札対象から外すような行為です。