3月から4月にかけて、会計年度をまたいで出張するときは、支払いのときに会計年度所属区分を判断しなければなりません。旅費と同じく、給与や賃金、謝金も会計年度の判断が必要です。国と地方自治体では微妙に異なりますが、基本的な考え方は同じです。
会計年度所属区分とは
官公庁の会計実務では、3月に入ったら注意しなくてはいけない事務処理があります。歳出予算に基づく支出では、会計年度による制約があります。会計年度が切り替わる時期は、それぞれの度所属区分を意識しなくてはなりません。
3月31日までの旧年度予算を使うのか、4月1日からの新年度予算を使うのか、判断が必要になります。国の場合は予決令(予算決算及び会計令)第二条、地方自治体は地方自治法施行令第百四十三条で会計年度所属区分を定めています。
会計年度の判断方法を具体例で解説します。
旅費の会計年度区分
旅費を支給するときの会計年度所属区分は、国の場合、予決令第二条第一項第三号、地方自治体は地方自治法施行令第一項第二号です。
予算決算及び会計令
第二条
三 (略)・・旅費・・(略)はその支給すべき事実の生じた時の属する年度
「・・支給すべき事実・・」は、実際の旅行日程という意味です。旅行日程によって年度を区分します。原則としての考え方は、3月31日までの旅行日程に係る分と、4月1日以後の旅行日程で区分します。3月31日までは前年度予算、4月1日からは新年度予算、それぞれからの支出になります。
ただし、 外国旅行については例外があります。国家公務員等の旅費に関する法律附則第3項です。
国家公務員等の旅費に関する法律 附則
3 外国旅行については、当該旅行の期間とその旅行開始直前十日間の準備期間とを通じた期間が二会計年度にわたる場合の旅費は、当分の間、当該二会計年度のうち前会計年度の歳出予算から概算で支出することができる。
毎年度措置される経常予算であれば、この附則が適用されます。外国旅行で年度をまたぐ場合は、前年度予算から概算払いすることが可能です。任意規定なので、3月までと4月からを会計年度で区分して、原則どおりにそれぞれの予算から支出することもできます。
ここで注意したいことがあります。科学研究費補助金や政府系の委託費・補助金は、制約の厳しい単年度予算です。例えば科研費では、4月からの新年度分の旅費を、前年度予算から支出することはできません。政府系の競争的資金では、会計年度をまたぐ使い方は原則禁止です。やむを得ない場合でも、予算の配分元へ事前に確認する必要があります。
地方自治体では、会計年度をまたぐ旅費について、地方自治法施行令 第百四十三条第一項第二号、第二項で次のように定めています。
地方自治法施行令
第百四十三条 第一項
二 給与その他の給付(略)は、これを支給すべき事実の生じた時の属する年度2 旅行の期間(外国旅行にあつては、その準備期間を含む。)が二年度にわたる場合における旅費は、当該二年度のうち前の年度の歳出予算から概算で支出することができるものとし、当該旅費の精算によつて生ずる返納金又は追給金は、その精算を行なつた日の属する年度の歳入又は歳出とするものとする。
年度をまたぐ旅費は、国の法令とは異なり、地方自治体では前年度予算から概算払いできます。
旅費の会計年度所属区分について具体例で考えてみましょう。
例えば、3月25日から31日までの旅行日程の国内旅費を、旅行終了後の新年度4月に精算払いで支給するときは、前年度予算しか使用できません。 「・・支給すべき事実・・」は、実際の旅行日程を意味するので、3月末までの旅行にかかる旅費は、支給する時期が新年度になっても、前年度予算からの支出になります。
また、年度をまたぐ旅費を会計年度で区分するときは、次のように考えます。
日当は、昼食代と雑費です。3月31日までは旧年度、4月1日からの日程は新年度予算から支給します。
宿泊料は、宿泊代の他に、夕食代と翌日の朝食代が含まれています。3月31日夜の宿泊料を細かく考えると、旧年度と新年度が混ざっているようにも感じます。宿泊料自体が夜中の0時を過ぎるかどうかで支給可否を判断するので、新年度のようにも思えますが、単純に考えます。3月31日の宿泊料は、旧年度予算から支給します。3月31日夜の宿泊料は、世間一般でも「4月1日の宿泊料」とはいいません。4月1日の宿泊料は、その夜に宿泊する料金です。
つまり、旅費の会計年度は、次のように区分します。
3月31日の昼食代を含む日当・・旧年度
3月31日の夜に宿泊する宿泊料・・旧年度
4月1日の昼食代を含む日当・・新年度
4月1日の夜に宿泊する宿泊料・・新年度
給与、賃金、謝金の会計年度区分
給与、賃金、謝金は、上記の旅費の考え方と同じです。支給の時期に関係なく、実際に勤務した日(働いた日、業務を行なった日)によって区分します。3月に働いた分を新年度の4月に支払っても、前年度予算で支払います。支払時期が翌月になっても関係ありません。ただ前年度予算の最終支出期限は、法令で定められています。国の場合は翌年度の4月30日まで、地方自治体は翌年度の5月31日までという制約があります。それ以後は過年度支出という複雑な手続きになります。
予算決算及び会計令
第二条 第一項
三 給与(略)はその支給すべき事実の生じた時の属する年度
地方自治法施行令
第百四十三条 第一項
二 給与その他の給付(略)は、これを支給すべき事実の生じた時の属する年度
歳出予算が支出できる期限です。
予算決算及び会計令
第四条 支出官において毎会計年度に属する経費を精算して支出するのは、翌年度の四月三十日限りとする。
地方自治法
第二百三十五条の五
普通地方公共団体の出納は、翌年度の五月三十一日をもつて閉鎖する。
コメント
大変勉強になり有り難く拝読させていただいております。
どうしても整理が分からず質問させてください。
業者への委託業務を令和3年度分と令和4年度分とで切り分けて精算する必要が今後ございます。業者には証憑書類を提出させ所要費用の精算を行なっております。
年度を跨る海外業務で、3月出発4月帰国の往復航空賃の請求が旅行会社から委託業者に4月に到来する場合、費用が発生するのは4月に入ってからなので、新年度分の委託費として精算していいものでしょうか。それとも往路分は旧年度、復路分は新年度と切り分ける必要があるでしょうか。
また、業者が現地で使用する機材のレンタル代も上記航空賃のように年度を跨ぐ場合、切り分けの考え方はどのように考えればいいでしょうか。レンタルの事実は3月から発生していますが、レンタル会社から委託業務への請求は4月以降になります。
どうぞよろしくお願い致します。
管理人です、コメントありがとうございます。
委託業務の詳細を知りませんので、年度をまたぐ業務と、部分払いが問題ないという前提で回答します。
国の会計年度所属区分を定めている予決令第二条では、委託業務の会計年度所属区分は第五号に該当します。
五 工事製造費、物件の購入代価、運賃の類及び補助費の類で相手方の行為の完了があつた後交付するものはその支払をなすべき日の属する年度
つまり業者への委託業務では、旅費やレンタルなどの年度をまたぐ「切り分け」という概念がありません。委託業務では、内訳についての年度区分は不要です。
予決令第二条第一項第三号の旅費は、出張者本人へ旅費を支給する場合に適用されるものです。委託業務の中に旅費相当の内容が含まれていても該当しません。
また予決令第二条第一項第四号のレンタル代についても、国がレンタル契約を締結するときに適用されるもので、委託業務の一部にレンタル代相当が含まれていても適用になりません。
委託業務の中に旅費やレンタル相当の内容が含まれていても、原則は上記第五号により、すべての業務が完了した日で年度区分されます。つまり年度をまたがる海外業務であれば、すべての業務を完了した後に、新年度予算から支払うことになります。例えば、3月1日から4月10日までの委託業務であれば、検収完了日は4月10日以後の新年度になるので、会計年度の所属区分は新年度です。旧年度予算からは支払えないのが原則です。
ただし数カ月間など長期間継続する業務委託であれば、人件費などの関係(労働基準法では給与は毎月支払う義務があります。)から毎月支払わなくてはならないことがあります。月払いなどのときは、契約時に各月の支払額を定めておくのが一般的ですが、3月分は旧年度、4月分は新年度と区分することもあります。最初の契約時に支払金額を定めずに月払いしなくてはいけないのであれば、その月までに終えた業務内容の分を支払います。旅費やレンタル代も、当該月の費用が判明していれば支払います。費用が未確定なら次月へ繰り越すこともあります。
最後に繰り返しになりますが、年度をまたぐ業務委託が可能か、業務委託の部分払が可能かは別問題です。一般的には会計年度を超えて契約できません。