官公庁の契約手続きに必要な請書の解説です。請書とは、どのような書類なのか、請書の根拠法令、契約書と請書の違い、請書の強制力、請書による契約の変更方法をわかりやすく解説します。官公庁の契約担当者、官公庁向け営業担当者に必須の知識です。
そもそも請書とは
請書の読み方は「うけしょ」です。「せいしょ」ではありません。言い間違えると恥ずかしいので注意しましょう。
請書は、「契約をお請けします。」という誓約書です。民間企業側が、官公庁の契約担当者側へ提出します。契約当事者間で、お互いに義務を負う契約書とは異なります。
契約書は、当事者間の契約内容を文書で取り決めて、お互いの義務(債権)と権利(債務)を約束します。相手に対して、何を求める権利があるのか、何をしなければならない義務があるのかを約束します。もし、契約内容が守られなければ契約違反となり、違約金や損害賠償の対象になります。契約書は、当事者同士がお互いに「契約内容を遵守します」と証明した書面です。法的な効力(約束を破ったときの強制力が民法で認められている)を持つ書類です。
一方の請書は、契約書と異なり、契約の相手方に対して強制力はありません。そもそもが、契約書のように、相手方へ義務を課すほど重要でない契約のときに使用するものです。契約内容を履行しないときに、重大な支障が生じるなど、大きなトラブルが発生する可能性があれば、契約金額に関係なく契約書の取り交わしを行うべきです。
そうは言っても、ほとんどのトラブルは予期せずに発生します。そこで、請書の相手方に対する強制力について解説します。その前に基本的な根拠法令も確認しましょう。
請書を必要とする根拠法令
官公庁の契約手続きで、請書が必要になる根拠法令を確認します。国の場合は契約事務取扱規則、地方自治体はそれぞれの規則で定めています。
契約事務取扱規則
第十五条 契約担当官等は、契約書の作成を省略する場合においても、特に軽微な契約を除き、契約の適正な履行を確保するため請書その他これに準ずる書面を徴するものとする。
東京都と大阪府の規則を抜粋します。
東京都契約事務規則
第三十九条 契約担当者等は、(略)契約書の作成を省略する場合においても、知事が指定する契約を除き、契約の適正な履行を確保するため、請書(略)その他これに準ずる書面を提出させるものとする。
大阪府財務規則
第六十六条 契約担当者は、(略)契約書の作成を省略する場合においても、別に定める場合を除き、契約の適正な履行を確保するため請書その他これに準ずる書面を徴するものとする。
契約書の作成を省略する場合に、契約の相手方から提出してもらう書類が請書です。つまり契約書を作成するほど重要(複雑)でない契約のときに、請書を提出してもらいます。契約書の作成を省略できる基準額は、予算決算及び会計令や地方自治体の各規則で定めています。国の場合は、150万円以下なら契約書の作成を省略できます。
予算決算及び会計令
第百条の二 (略)契約書の作成を省略することができる場合は、次に掲げる場合とする。
一 (略)契約金額が百五十万円(外国で契約するときは、二百万円)を超えないものをするとき。
二 (略)
また上記の契約事務取扱規則第十五条の「・・特に軽微な契約を除き・・」という部分にも注意しましょう。契約金額が一定以下の小さい契約なら請書も必要ありません。
請書の強制力
請書は、契約の相手方に対して一方的に提出する書面(誓約書)です。官公庁との契約では、民間企業が官公庁へ提出します。一方的に提出する書面なので、請書の提出を理由として、相手方を強制させることはできません。(くどいですが、強制することが必要なら契約書を取り交わすべきです。)
例えば、官公庁側が請書を受け取っているのに、民間企業側の怠慢で、納入期日が遅れて履行遅滞になったとします。官公庁側が、債務不履行(履行遅滞)として民間企業を強制しようとしても次のように主張されてしまうことがあります。
「請書を提出したのに、官公庁側から返事がなく、正式な発注(契約成立)なのか不明だった。」
「いつものように書類を提出しただけで、正式に契約が成立したとは思わなかった。」
このように主張されると、民間企業側に対して納入を強制できません。本当に契約が成立していたのか不明になってしまうのです。契約当事者が合意していないわけです。
請書を提出してもらうだけでは、正式な「契約の成立」が確認できないのです。そのため請書を受理したときには、必ず「正式に発注します。」ということを、相手方へ確実に伝えて、納入予定時期などを再確認する必要があります。
請書を提出してもらう契約は、簡単なものだけです。契約書を取り交わすほど重要でない場合に、相手方から請書を提出してもらいます。契約金額が小さいものや、契約内容が簡単で、契約不履行が想定できないもの・・日用品や文房具の購入などです。
ミスが許されないような内容の契約であれば、契約金額が小さくても、請書の提出ではなく、契約書を取り交わすべきです。(例えば、現金の収集運搬などは、1円でも紛失すれば大変です。税金なので、1円くらい、どうでもいいやとはなりません。契約金額が20万円と少額であっても、重要な契約になります。)
請書に貼る収入印紙
2021年頃から、電子メールに添付して請書を提出することも多くなってきました。官公庁側からの依頼で、請書をPDFにして電子メールで送信するときは、印紙税は不要です。紙に印刷して提出したものだけに印紙税が必要になります。
国税庁のタックスアンサーには次の回答事例があります。
「請負契約に係る注文請書を電磁的記録に変換して電子メールで送信した場合の印紙税の課税関係について」
Q
注文請書は、申込みに対する応諾文書であり、契約の成立を証するために作成されるものである。しかしながら、注文請書の調製行為を行ったとしても、注文請書の現物の交付がなされない以上、たとえ注文請書を電磁的記録に変換した媒体を電子メールで送信したとしても、ファクシミリ通信により送信したものと同様に、課税文書を作成したことにはならないから、印紙税の課税原因は発生しないものと考える。ただし、電子メールで送信した後に本注文請書の現物を別途持参するなどの方法により相手方に交付した場合には、課税文書の作成に該当し、現物の注文請書に印紙税が課されるものと考える。
A
標題のことについては、ご照会に係る事実関係を前提とする限り、貴見のとおりで差し支えありません。
官公庁側は、契約書類の一部として印刷して決議書に添付しますが、電子メールで送られてきたものであれば収入印紙は不要です。請書と一緒に、メール本文も印刷して保存しておきましょう。官公庁側でメール受信した請書を印刷しても、(相手から紙の現物を交付されていないので)収入印紙が不要になります。
なお、現在は物品の売買契約は印紙税が不要です。請負契約などで収入印紙が必要になります。
また官公庁側は非課税ですが、民間企業側から問い合わせを受けたときは国税庁のHPで確認するのが安全です。わからないときは税務署へ直接電話相談するよう伝えましょう。まれに委託契約などで、会社側が共同開発契約と判断していることもあります。契約内容によって印紙税は変わります。
参考情報ですが、契約書や請書に収入印紙を貼り忘れても、契約の効力とは関係ありません。ただし収入印紙を貼り忘れると、過怠税として3倍払わなければなりません。
請書の様式
請書の様式例です。実際の契約内容にあわせて作成します。以下は物品売買契約の例です。多くの官公庁では、請書の様式を公開しています。
請 書
件名 〇〇システム一式
内訳(品名、メーカー名、型式、数量を記載します。)
本体 〇〇株式会社製 〇〇型 1台
付属品 〇〇2台
付属品 〇〇1個契約金額 金〇,〇〇〇,〇〇〇円
(うち消費税及び地方消費税相当額 〇〇〇,〇〇〇円)
上記の物品供給契約について、次の条件により契約した証として、この請書を提出します。
1.納入期限 平成29年〇〇月〇〇日(水)
2.納入場所 〇〇省〇〇課
3.検収確認 発注者は物品の納品時に検査確認を行う。
4.契約代金 発注者の検査確認後、適法な請求書を受理してから1回払い。
5.書類の提出場所 納品書、請求書は〇〇省〇〇課〇〇係に提出するものとする。
6.物品の無償保証期間は、納品検査確認後1年間とする。
7.この契約について必要な細目は、〇〇省が定めた物品供給契約基準による。(契約の細目を定めている場合の記載です。)
8.その他定めのない事項については、発注者と協議のうえ定めるものとする。
令和 年 月 日
発注者
〇〇省〇〇課 御中受注者
住所
会社名
代表者役職名 氏名 印
特に軽微な契約とは
国の契約手続きでは、上記のように150万円以下は契約書の作成を省略できます。そして、さらに契約事務取扱規則第十五条によって「特に軽微な契約」に該当すれば請書も必要ありません。では「特に軽微な契約」とは何を指すのでしょうか。
「特に軽微な契約」については、法律や政令では定めておらず、各省庁などの運用通知や内部規則で一定金額を定めています。これは、組織によって基準が変わるからです。予算規模や職員の配置人数で異なります。参考にいくつかの例です。
国土交通省【別添】標準請書の運用基準について(抜粋))
・・・国土交通省所管会計事務取扱規則(平成13年国土交通省訓令第60号)第46条の規定により、金額が100万円を超えない契約については、契約事務取扱規則第15条に規定する軽微な契約として取り扱うことができる・・・
環境省所管契約事務取扱要領
第三 契約締結
5.契約担当官等は、令第100条の2第1項の規定により契約書の作成を省略する場合において、当該契約金額が50万円以上であるときは、契約の種類に応じ、別記書式第1号、第2号又は第3号の請書を徴取するものとする。
釧路市契約規則の施行について
同条中「特に軽微な契約」とは、契約金額が30万円未満のものをいう。
網走市契約に関する規則の運用について
第4条(請書等の徴収)関係
1 「特に軽微な契約」とは、契約金額が10万円以下のものとする。
請書の変更契約
正式に契約を締結し、請書を提出してもらった後に、契約内容を変更せざるを得ない状況になることがあります。契約の変更は、発注者である官公庁側が不利にならない内容であれば可能です。税金を使用している官公庁の契約では、契約後に、官公庁側が不利なる変更(理由もなく契約金額を増額するなど)は、原則として認められません。
契約金額を減額する変更契約や、当初の契約時に想定していなかった事態が発生し、やむを得ず変更したいケースは多いと思います。契約書の取り交わしを行った150万円以上の契約は、「変更契約書」を新たに作成し取り交わします。請書を提出してもらった契約の場合は、次のように契約を変更します。
請書は、一方的に提出する誓約書です。双方で記名押印して取り交わす契約書ではありません。請書に基づく契約の変更は、請書を提出し直すことで変更契約が可能です。
契約の相手方と変更内容を双方で確認し、契約内容を変更したときは次のように対応します。
変更後の請書を、変更日で再度作成し提出してもらいます。当初の請書と、変更後の請書の両方が契約書類になります。両方を一緒に保管しておきます。当初の請書の余白に「〇〇年〇〇月〇〇日付け変更請書あり」の表示をしておくと、わかりやすく効率的です。表示を忘れると、後日ややこしいことになります。
あるいは当初の請書を相手方へ返送し(返す場合はコピーをとっておく)、当初の請書の日付で変更後の請書を再提出してもらいます。これは、当初の請書を差し替えることになります。返送した当初の請書のコピーに、契約変更の処理経緯を簡単にメモしておきます。
いずれの処理方法も、契約の相手方と合意の上、請書を提出し直す方法で処理可能です。なお変更後の請書も事前に決裁手続きは必要です。変更しようとする内容と交渉経緯を簡単にメモして決裁します。
変更請書の記載例
もうひとつ古風な方法として、変更後の契約内容を「変更契約書」のように記述する方法もあります。変更請書の例です。
請書(契約変更)
令和〇〇年〇〇月〇〇日に提出した件名〇〇〇〇の請書について、次のとおり変更します。これ以外については、当初に提出した請書のとおり契約をお請けします。
変更部分
当初の〇〇〇〇〇〇を〇〇〇〇に変更する。平成〇〇年〇〇月〇〇日
発注者
〇〇省〇〇課 御中受注者
住所
会社名
代表者 氏名 印
「当初の請書」の余白部分へ、「令和〇〇年〇〇月〇〇日、変更請書受理」とメモしておきます。メモしておけば、後日悩まなくてすみます。小さな契約変更は、時間の経過につれて忘れやすいものです。特に、人事異動で担当者が変わると、変更の経緯がわからなくなります。契約を変更した場合は、「当初の請書」にメモしましょう。
請書の変更は、事実どおりに書類を整えれば問題ありません。
本記事の内容を初心者向けに簡単にまとめてあります。上記の内容の復習として読むと理解を深めることができます。
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