契約の確定とは、民法と会計法では契約成立日がなぜ違うのか

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会計法令の解説
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官公庁が契約書を取り交わすときの契約成立日の解説です。民法では、契約の申し込みに対して承諾すれば契約が成立します。しかし官公庁の契約では民法と異なります。会計法では当事者が記名押印しなければ契約は確定しません。なぜ民法と違うのか解説します。

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契約の確定とは

 

会計法第二十九条の八は、官公庁が契約書を取り交わす場合、当事者が記名押印するまで契約が確定しないという条文です。契約成立日の考え方が民法とは微妙に違います。

会計法

第二十九条の八  契約担当官等は、競争により落札者を決定したとき、又は随意契約の相手方を決定したときは、契約の目的、契約金額、履行期限、契約保証金に関する事項その他必要な事項を記載した契約書を作成しなければならない。ただし、政令で定める場合においては、これを省略することができる。

 

2  前項の規定により契約書を作成する場合においては、契約担当官等が契約の相手方とともに契約書に記名押印しなければ、当該契約は、確定しないものとする。

 

入札や随意契約で契約の相手方を決定したときは、原則として契約書を作成しなければならないと義務付けています。契約書の作成を省略できるのは、契約金額が150万円以下など次の予決令第百条の二に該当する場合です。契約金額が小さく、契約内容が簡単なものは契約書を省略できます。地方自治体は、それぞれの規則で定めています。都道府県は国と同じ金額のことが多いです。

 

予算決算及び会計令

第百条の二  会計法第二十九条の八第一項 ただし書の規定により契約書の作成を省略することができる場合は、次に掲げる場合とする。

一  一般競争契約又は指名競争契約若しくは随意契約で、契約金額が百五十万円(外国で契約するときは、二百万円)を超えないものをするとき。

(二号以下略)

 

会計法第二十九条の八第二項では、契約書を作成する場合においては、契約担当官等が契約の相手方とともに契約書に記名押印しなければ、当該契約は、確定しないものとすると定めています。民法の契約成立日と考え方が違う点に注意しましょう。

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民法における契約の成立日とは

 

民法では、当事者の意思の合意のみで契約が成立します。契約書などの文書による取り交わしを必要としません。民法では口頭のみの約束で契約が有効に成立することを定めています。

 

なお新しい民法が 2020(令和2)年4月1日から施行されました。1896(明治29)年から、ほとんど改正されていなかったので、なんと120年ぶりの改正です。

 

2017(平成29)年5月26日、民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)が成立し、2020(令和2)年4月1日から施行されました。改正された部分がわかるように、新民法、旧民法と表記します。

 

新民法 令和2(2020)年4月1日施行

第五百二十二条 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。

 

2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。

 

参考に、以下は改正前の民法です。旧民法は申し込み承諾の関係が少しわかりづらいです。新民法でスッキリしました。

旧民法

第五百二十一条  承諾の期間を定めてした契約の申込みは、撤回することができない。

 

2  申込者が前項の申込みに対して同項の期間内に承諾の通知を受けなかったときは、その申込みは、その効力を失う。

 

新民法では、契約の申込みに対して承諾することで契約が成立すると明記されています。旧民法を見ると、申込みに対して承諾するという明確な記載がなく、どの段階で契約が成立するかは文脈から読み取るしかありませんでした。わかりづらい表記が、新民法になりスッキリしました。

 

官公庁の契約手続きでは、契約締結前に民間企業から見積書を取り寄せます。この提出された見積書が契約の申込みです。

 

通常、見積書には有効期間(一ヶ月以内など)が記載されています。この見積有効期間が記載されている見積書は、下記の新民法 第五百二十三条、承諾の期間を定めてした申込みです。見積書の有効期間内に、官公庁側の契約担当者が承諾した時点で契約が成立します。承諾とは、見積書の内容でお願いしますと発注することです。口頭でも電話でもメールでも構いません。相手方が正式受注を理解できれば良いのです。日本の民法では、契約書などの書面による取り交わしを義務付けていません。新民法 第五百二十二条 第二項により、当事者同士の合意のみによって契約が成立します。

新民法

第五百二十三条 承諾の期間を定めてした申込みは、撤回することができない。ただし、申込者が撤回をする権利を留保したときは、この限りでない。

 

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会計法における契約の成立日とは

 

一方、会計法第二十九条の八第二項では、さらに契約書への記名押印を契約確定の条件としています。

会計法第二十九条の八 第二項

 

契約担当官等が契約の相手方とともに契約書に記名押印しなければ、当該契約は、確定しないものとする。

では、この会計法は民法に抵触することになるのでしょうか?

 

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民法と会計法の契約成立日とは

 

民法は、私法上の契約について定めています。一方会計法は、国の会計手続きについて定めています。

 

会計法第二十九条の八で、契約書に記名押印しなければ契約が確定しないと定めている目的は、万が一、トラブルが起きたときに官公庁側が損害を被ることを防止するためです。国民の税金を運営財源とする官公庁では、民間企業同士の取引よりも安全な取り引きを求めています。そのために厳格な要式行為を定めてます。官公庁に損害が発生すれば、国民が損害を被ることになります。そのため民間企業同士の契約よりも、契約手続きの安全性を高めているのです。

 

つまり官公庁を契約の相手方とする契約手続きでは、民法と会計法の両方が適用されます。民法の上に、さらに会計法が加わっているイメージです。

 

民法と会計法における契約の成立は次のようになります。契約書を取り交わす場合です。

 

落札や見積もり合わせで契約の相手方を決定したときに、民法に基づき契約が部分的に成立します。その後、契約書を作成し契約当事者が記名押印を完了した時点で、会計法に基づき契約の全てが確定します。

 

契約書の記名押印が完了する前段階は、契約が部分的に成立している状態です。

 

長々と解説しましたが、実務上は、さほど意識せずに契約手続きを進めても支障はありません。お互いに信頼している当事者同士が合意した上で契約手続きを進めますので、発注段階で契約が完全に確定していなくても支障はありません。部分的な契約成立でも契約の成立と同じ扱いです。よほど悪質な不良会社に遭遇し、重大なトラブルにならない限り、必要のない知識かもしれません。

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記名押印が契約の確定になっている理由、悪質な違反例

 

なぜ、契約の確定をこのように厳格に定めたのか、次のような例を想定すると理解しやすいです。わかりやすいように悪質な契約の相手方を不良会社とします。

 

落札決定後、契約書の押印を依頼するため、不良会社へ契約書を2部送付。

 

不良会社は、官公庁を騙して不当に利益を得ようと、物品の型式を古いものへ書き換えて、押印した契約書2部を官公庁側へ提出。

 

返送された契約書の内容を官公庁側で確認したところ、契約書が不利な内容に書き換えられていることが判明。官公庁側は契約書の押印を保留。当初の約束どおりの型式へ修正するよう不良会社へ申し入れ。

 

協議の結果、不良会社は修正に応じない。悪質な詐欺のため契約書に押印せず、契約を破棄。法令上も契約は確定してないので、契約しないこととした。

 

(あくまで架空の話です。私は不良会社に遭遇したことはありません。)

 

会計法では、契約書への記名押印を根拠に悪質な会社からの詐欺行為を防止することができます。契約書への押印の順番(最後に官公庁側が押印することが重要)が大切なことも、わかると思います。

 

契約書の押印は順番が決められている、官公庁が先に押印できない理由
官公庁が取り交わす契約書の押印についての解説です。通常、契約当事者が集まって一緒に記名押印することはありません。契約書を郵送で送付したり、営業担当者が会社へ持ち帰って押印します。どちらが最初に押印すべきか迷うことがあります。会計法令で押印の順番が決まっているので注意しましょう。

 

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