派遣契約の予定価格を作成する方法です。官公庁が作成する予定価格は、客観的な公表データに基づいて予定価格を設定します。派遣料金を積算し、参考見積書と比較することで、予定価格を決定します。また入札と随意契約を判断する方法も解説します。
派遣契約と雇用契約の違い
最初に基礎知識として、派遣契約と雇用契約の違いを確認します。
労働者派遣法に基づく派遣契約は、派遣会社を選ぶものです。派遣してもらう人を選ぶことはできません。派遣会社と契約を締結する前に、人を選ぶ面接は禁止されています。一方、雇用契約は、面接を行い人を選ぶ契約です。ここが派遣契約と雇用契約で大きく異なる点です。
派遣契約の条件(仕様書)として、ある一定のスキル(語学能力、PC操作能力など)を求めることは可能ですが、特定の人を選ぶことはできません。会社を選ぶのではなく、一定のスキルを持つ特定の人を選ぶのであれば、雇用契約です。
つまり、派遣契約と雇用契約の違いは次のとおりです。
会社を選ぶなら派遣契約
人を選ぶなら雇用契約
派遣契約で特定の人を選べないことが厚労省から通知されています。
派遣先が講ずべき措置に関する指針(厚生労働省告示)
令和2年厚生労働省告示第346号
3派遣労働者を特定することを目的とする行為の禁止
派遣先は、紹介予定派遣の場合を除き、派遣元事業主が当該派遣先の指揮命令の下に就業させようとする労働者について、労働者派遣に先立って面接すること、派遣先に対して当該労働者に係る履歴書を送付させることのほか、若年者に限ることとすること等派遣労働者を特定することを目的とする行為を行わないこと。
派遣会社を選ぶときは価格競争が基本です。物品購入契約や請負契約のように競争入札や見積もり合わせを実施して、派遣会社を選びます。
派遣契約の契約方式を判断する方法
次に、派遣契約の契約方式を判断する方法です。
国の会計法令では、契約方式を検討する際には、最初に予算決算及び会計令(予決令)第九十九条から判断します。派遣契約は、予決令第九十九条第七号(その他の役務契約)に該当します。
予算決算及び会計令
第九十九条 随意契約によることができる場合は、次に掲げる場合とする。七 工事又は製造の請負、財産の売買及び物件の貸借以外の契約でその予定価格が百万円を超えないものをするとき。
派遣契約の期間(単年度限りの予算であれば3月末まで、それ以外は派遣契約の全予定期間)を想定し、およその総額(時間単価×月の労働時間数 × 派遣期間の月数)を計算し、契約予定金額を把握します。契約予定金額が100万円以下なら少額随意契約の締結が可能です。100万円を超えるのであれば一般競争入札を実施します。
地方自治体の派遣契約の契約方式
地方自治体は、次のとおりです。都道府県と指定都市は、国と同じ100万円以下です。派遣契約の総予定金額が100万円以下なら少額随意契約可能です。市町村は、半分の50万円です。
地方自治法施行令
第百六十七条の二
一 売買、貸借、請負その他の契約でその予定価格(略)が別表第五上欄に掲げる契約の種類に応じ同表下欄に定める額の範囲内において普通地方公共団体の規則で定める額を超えないものをするとき。別表第五
六 前各号に掲げるもの以外のもの
都道府県及び指定都市 百万円
市町村 五十万円
派遣料金の参考見積書を依頼する方法
予定価格に使用するデータは、根拠が明確でなければなりません。客観的な資料に基づいて予定価格を積算します。客観的な資料とは、公的組織や業界団体が公表しているデータです。
派遣契約の予定価格の作成方法は、いろいろな方法がありますが、一般的な方法を解説します。
おおまかな手順は、最初に、複数社の派遣会社から参考見積書を取り寄せ、次に積算価格との比較(どちらが安いか)を行い、予定価格を決定します。
参考見積書を複数の派遣会社から取り寄せます。派遣会社は多数存在します。人材が多い派遣会社の方が安い傾向にあります。大手の派遣会社を含む2~3社の営業担当者へ参考見積書の提出を依頼します。派遣会社を選ぶ方法は、すでに契約実績のある派遣会社、あるいは全省庁統一資格サイトの有資格者名簿一覧で調べます。調べる方法は、最初にインターネットで大手の派遣会社を検索し、その派遣会社が全省庁統一資格の名簿に掲載されているか確認するのが効率的です。
依頼する派遣会社が決まったら、事前に電話で参考見積書の提出が可能か尋ね、その後にメールやFAXで依頼します。依頼するときの仕様書(求める内容)は、次のように記載します。
派遣契約の仕様書(主な項目)
目的 どのような業務を依頼するかの概略
人数 ◯人
必要な資格 語学能力(検定試験の証明)、PC操作のスキルなど
業務内容(主な内容を簡潔に箇条書き)
就業時間と就業場所(1日の勤務時間、休憩や休日)
超過勤務時間の有無(月10時間程度など)
派遣料金の支払方法(通常は、タイムシートなどで1日の業務時間を確認し、1か月分をまとめて翌月に支払います。)
就業規則の順守(派遣先の就業規則を順守すること)
参考見積書の記載方法を依頼する例です。
参考見積書には、次の内容で記載をお願いします。
消費税抜きの時間単価
超過勤務の時間単価
派遣期間全体の契約金額(消費税抜き)
参考見積書を複数の派遣会社へ依頼するときは、提出期限(2週間後くらい)を揃えて依頼します。
また参考見積書を提出してもらった後に、一般競争入札や見積もり合わせを実施するときは、事前にその旨を説明し、契約が前提でないことを明確に伝えます。
派遣料金単価の積算
一般的な派遣料金の調査を行います。
インターネットなどで、検索キーワード「派遣料金 相場」で多数の情報が取れます。その中でも厚生労働省の公表資料が、最も積算に適しています。民間企業の相場は、恣意的に数字が作成されている可能性があります。厚生労働省のデータを基にします。実際に予定価格を作成するときは最新のデータで作成します。
厚生労働省の公表資料「平成23年度一般労働者派遣事業報告書」
厚生労働省HP
報告書には、1日(8時間)あたりの職種別(政令26業務)派遣料金の全国平均時間単価が記載されています。
全体平均を基にして算出します。
17,147円 (1日8時間)
時間換算すると、17,147円 ÷ 8時間 = 2,143円/時間(消費税込み)
消費税(5%)を控除
2,143円 ÷ 1.05 = 2,040円/時間
この時間単価は全国平均です。地域別の補正を行います。(東京を例とします。)
厚生労働省「平成25年度地域別最低賃金改定状況」
全都道府県で地域別最低賃金の改定額が答申されました |報道発表資料|厚生労働省全都道府県で地域別最低賃金の改定額が答申されましたについて紹介しています。1時間当たりの金額
全国加重平均 764円(1時間当たり)
東京 869円(1時間当たり)
東京地区の補正係数 869円 ÷ 764円 = 1.137
上記の時間単価を補正
2,040円 × 1.137 = 2,319円/時間
積算単価 1時間当たり2,319円
派遣料金単価の予定価格設定
上記の積算単価2,319円/時間と、各社から提出された参考見積金額の時間単価を比較検討し、予定価格を設定します。
ここで、消費税を抜いてある単価かどうか、再度確認しましょう。
1時間あたり単価の比較
積算価格 2,319円
A社参考見積金額 2,200円
B社参考見積金額 2,500円
C社参考見積金額 2,400円
上記を比較検討し、最安値のA社2,200円を予定価格(税抜き)とします。契約単価は、消費税相当額を加算します。
以上が派遣契約の予定価格設定方法です。
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