悩ましい「端数処理」
入札を実施するときに必要な「予定価格」の作成中に、悩む部分があります。1千万円を超える「高額な入札」などで、予定価格を設定する際の「端数処理」です。千円未満を端数として切るのか、百円未満を端数とするのか、さらには積算途中で生じた「円未満の端数」をどう処理するのか、などです。
些細なことと思うかも知れませんが、予定価格の作成を担当する契約実務担当者としては、どの方法が正しいのか、頭を抱え込む悩ましい問題です。なぜなら「端数処理の考え方」によって、予定価格が変わってしまうからです。
予定価格を作成するときの「端数処理」は、どのような考え方で、どのように処理するのが正しいのか解説します。
会計法令では、予定価格の作成方法について、具体的に細かく定めた規定はありません。工事契約の積算方法は、国土交通省などで細かく計算方法を定めていますが、工事契約以外の契約は、端数の処理方法についてルールが存在しないのです。そのため契約実務担当者は、迷い、悩んでしまうのです。
組織の内部規則等で「端数の処理方法」を定めていれば、この解説によらず、その内部規則に基づいて作成することになります。今回の解説は、端数の処理方法が明確にルール化されていない場合です。
「適正な予定価格」を設定するためには、対外的に十分に説明可能な「予定価格作成(積算)の考え方」が重要です。「考え方」は、一定のルールに基づく必要があります。同じ組織の中で、担当者ごとに処理方法が異なると、恣意的になってしまいます。「適正な事務手続き」とは、個人の恣意的な判断を極力排除することです。「場当たり的に処理を変えることなく」作成することです。契約手続きの中に、「恣意的」な部分を含めてしまうと、「業者との癒着」を疑われることになります。
特に予定価格を作成するときは、恣意的な判断を含めてしまうと、「価格操作」など「特定の企業に便宜を与えた」と批判され、疑惑を招いてしまいます。
「端数処理」の考え方
実際に予定価格を作成するときの「端数処理の考え方」を解説します。
最初に、契約内容により、端数処理の考え方が異なることに注意してください。また、税金を使用する官公庁側に有利になるよう、一律に端数を切り捨ててしまうと、対外的な説明に矛盾が生じ、結果として「不適切な予定価格」になるリスクがあります。
端数処理の「基本的な考え方」を契約の種類ごとに考えてみます。
- 100万円を超える物品購入契約
- 人件費を含む役務契約、製造契約など
人件費が含まれる予定価格は、社会保険料の端数処理が法令等で規定されています。人件費の部分は、法令に基づいて作成する必要があります。物品購入契約などの売買契約は、一般的な商慣習を考える必要があります。
100万円を超える物品購入契約の「端数処理」
物品購入契約について、予定価格を設定するときの「原則的な端数処理」の例です。
定価 4,753,000円(消費税を含まない本体価格)
納入実績による値引率 18.55%
(値引率は小数点以下第3位を切り捨てます。18.559%でも18.55%とします。理由は後半で説明します。)
この場合には予定価格は、次のように考えます。
1.定価 4,753,000円
2.値引き額 881,682円(1円未満切り上げ)
3.予定価格(税抜き) 3,871,318円(1円未満切捨て)
値引率を適用した「値引き後の金額」を計算した段階(上記の3.予定価格)で、1円未満の端数を切り捨てます。消費税は切り捨てることができないので、消費税を加算する前の金額で、1円未満を端数処理します。これが「基本的な考え方」です。
次に、一般的な日本の「商慣習」として、100万円を超えるような高額な買物であれば、「千円未満の端数は切り捨てる」のが通常の取引という点です。(いわゆる、「おまけ」とか「サービス」と言われてます。)
ただし、ここで注意が必要です。過去の契約実績の取引金額を確認して、「過去に端数処理を行っているか」確認してから判断します。「納入実績一覧表」に記載してある過去の取引で、千円未満を切り捨てている実績が見られれば、千円未満の端数処理を行うことになります。(高額な契約なら1万円未満切捨てもあります。)
確認方法は、「税抜き」金額を計算します。税込みの契約金額を「税抜き」に換算します。
確認例(消費税8%の場合)
契約金額(税込み)3,407,400円÷1.08=3,155,000円(税抜き)・・千円未満切捨て
逆に、販売会社側で、「値崩れを防止」するため、端数処理をしない契約もあります。値引率を正確に厳守し「1円単位」まで価格を残して契約しているのであれば、千円未満の端数処理は行いません。
確認例(消費税8%の場合)
契約金額(税込み)3,407,519円÷1.08=3,155,111円(税抜き)・・千円未満の端数処理なし
1万円単位や百円単位などの端数処理も、同様に過去の実績を考慮します。
過去の取引実績を確認(分析)して「端数処理の方針」を決め、会社から提出された納入実績表の余白などに、その旨をメモとして記載しておきます。
メモの例
「過去の取引実績から千円未満の端数を調整する。」
そして、千円未満の端数を切り捨てるなら、上記の最終的な予定価格は次のようになります。
予定価格 積算内訳書(根拠資料は別添として添付)
定 価 4,753,000円
値引き額18.55% 881,682円(1円未満切上げ)
予定価格(税抜き) 3,871,318円(1円未満切捨て)
端数調整(千円未満切捨て) 3,871,000円
消費税等(8%) 309,680円
予定価格(税込み) 4,180,680円
入札の際の基準価格になる「予定価格調書」は、次のようになります。
予定価格調書
件名 ○○○○ 一式
予定価格 4,180,680円(税込み価格)
入札書比較価格 3,871,000円(税抜き価格)
支出負担行為担当官
○○省 作成者 ○○局長 印
人件費を含む「役務契約」や「製造契約」の端数処理
次に、人件費を含む「役務契約」や「製造契約」などの場合は、基本的な考え方として、積算途中の端数処理は、他の法令等に基づきます。人件費は、社会保険料の事業主負担分で端数処理があります。積算途中では、個々の端数処理は極力行わないで、金額を合計した後で、上述の物品購入契約と同じ端数処理を行います。(積算途中では、1円未満切捨ての端数処理は可能です。)
人件費部分の積算方法については、このサイトの、予定価格→原価計算方式に詳しく記載してあります。
参考 「健康保険料」の端数処理の例
「平成30年4月分(5月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表」下欄に端数処理の説明が記載してあります。
事業主が、給与から被保険者負担分を控除する場合、被保険者負担分の端数が50銭以下の場合は切り捨て、50銭を超える場合は切り上げて1円となります。
例 健康保険料(11.47%)の計算
50銭以下の場合
標準報酬月額 410,000円(保険料47,027円)
社員の負担額
23,513.5 → 23,513.0(切り捨て)
事業主(会社)側の負担額
23,513.5 → 23,514.0
50銭を超える場合
標準報酬月額 134,000円(保険料15,369.8円)
社員の負担額
7,684.9 → 7,685.0(切り上げ)
事業主(会社)側の負担額
7,684.9 → 7,684.0
社会保険料を納付するときの「納入告知書」の保険料額は、被保険者個々の保険料額を合算した金額になります。ただし、合算した金額に円未満の端数がある場合は、その端数を切り捨てた額となります。ここは、ややこしいです。
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