官公庁の会計実務の基本として「会計年度独立の原則」と「総計予算主義の原則」があります。具体例でわかりやすく解説します。書類を作るときに直接役立つわけではありませんが、日常業務で意識しておく必要があります。
財政法とは
財政法は、国の予算について定めた法律です。書類作りに影響する基礎知識になります。地方自治体は、地方自治法とそれぞれの条例で定めています。国の予算と考え方は同じです。
財政法
第一条 国の予算その他財政の基本に関しては、この法律の定めるところによる。
「国の予算に関する基本ルール」ということです。財政法を受けて、会計法や予算決算及び会計令などで、より実務的に定められています。
「収入・支出」と「歳入・歳出」
財政法
第二条 収入とは、国の各般の需要を充たすための支払の財源となるべき現金の収納をいい、支出とは、国の各般の需要を充たすための現金の支払をいう。
国に入ってくるお金が収入、出ていくお金が支出です。「・・各般の・・」とは、いろいろなという意味です。
財政法 第二条 第四項
歳入とは、一会計年度における一切の収入をいい、歳出とは、一会計年度における一切の支出をいう。
「収入・支出」と「歳入・歳出」の違いは、会計年度という期間での区分です。4月から翌年3月までの1年間という会計年度の期間で集計したものが「歳入・歳出」です。
会計年度とは
財政法
第十一条 国の会計年度は、毎年四月一日に始まり、翌年三月三十一日に終るものとする。
地方自治体も同様な法令があります。
地方自治法
第二百八条 普通地方公共団体の会計年度は、毎年四月一日に始まり、翌年三月三十一日に終わるものとする。
4月から翌年3月までが日本の会計年度です。学校の学年と同じなので、これはもう常識ですね。なお外国の場合は期間が異なります。アメリカなどは10月から翌年9月までです。
会計年度独立の原則
財政法
第十二条 各会計年度における経費は、その年度の歳入を以て、これを支弁しなければならない。
地方自治体も同じ内容です。
地方自治法
第二百八条
2 各会計年度における歳出は、その年度の歳入をもつて、これに充てなければならない。
予算は、会計年度ごとに歳入予算と歳出予算が決められています。財政法の「・・支弁しなければならない。」とは、同じ年度の歳入予算を使って支払いをしなければならないという意味です。歳入予算の範囲内で歳出予算を組むわけです。そして次の条文とともに「会計年度独立の原則」になっています。地方自治法も財政法と同じです。
財政法
第四十二条 (略)毎会計年度の歳出予算の経費の金額は、これを翌年度において使用することができない。 (略)
地方自治法
第二百二十条
3 (略)毎会計年度の歳出予算の経費の金額は、これを翌年度において使用することができない。
少しわかりにくいと思うので、具体例で解説します。
歳出予算とは、支払いに使えるお金のことです。歳出予算から支払いができるのは、その会計年度内の経費に限られるという原則です。翌年度に繰り越して歳出予算を使うことができないわけです。
例えば、パソコンが古くなり、100台入れ替えるとします。総額1,000万円の購入です。ところが捻出できる歳出予算は、400万円しかありません。購入するための予算が不足しています。そこで、とりあえず先にパソコン100台を納入してもらい、支払いを2回に分けて、400万円を当年度で払い、残りの600万円を翌年度の歳出予算から支払うことにしました。
このように、予算不足を理由として、翌年度の歳出予算を使うのは法令違反になります。
正しい購入方法は、契約を2回に分けることです。歳出予算が400万円しかないのであれば、400万円の範囲内で入札を行い、400万円分のパソコンだけ納入してもらいます。残り600万円分のパソコンは、翌年度になってから改めて入札を実施し、納入してもらうのです。当然ながら全く別の契約になるので、納入会社もそれぞれ変わるかもしれません。つまり、各会計年度内に納入されたパソコンの契約代金は、それぞれの会計年度の歳出予算からしか支払いできないのです。
総計予算主義とは
会計年度独立の原則の他に、もうひとつ総計予算主義の原則があります。この2つの考え方が、官公庁の予算制度の基本になります。
総計予算主義の原則は、 歳入予算と歳出予算は、それぞれ全額を予算に計上しなければならないということです。予算を相殺してはならないということです。
財政法
第十四条 歳入歳出は、すべて、これを予算に編入しなければならない。
地方自治法
第二百十条 一会計年度における一切の収入及び支出は、すべてこれを歳入歳出予算に編入しなければならない。
極端な例ですが、収入は1,000万円になるけれど、収入を得るための費用が990万円かかるとします。収入と支出を相殺すれば、差し引き10万円の支出だけになります。歳出予算へ10万円だけを計上してしまうと、全体の事業規模が見えなくなり、予算を正しく審議することができなくなるのです。この場合であれば、歳入予算へ1,000万円計上し、歳出予算へ990万円計上しなければなりません。990万円と10万円では事業規模が全く違ってしまうのです。
また、収入として収納した現金を、すぐに支払いに充てることも禁止しています。例えば100万円の収入があったときに、その現金でパソコン90万円を買うことは許されないのです。
会計法
第二条 各省各庁の長(略)は、その所掌に属する収入を国庫に納めなければならない。直ちにこれを使用することはできない。
歳入と歳出は、それぞれを別々に考えなければいけません。相殺したり、混ぜて使うことを禁止しています。歳入と歳出を差し引き計算し、差額だけを予算へ計上してしまうと、内容が見えなくなってしまうからです。
ただ、ここで注意が必要なことは、相殺できないのは官公庁内部の予算処理だけです。例えば、官公庁と企業との取り引きで、相殺して差額だけを支払うことは問題ありません。
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