官公庁が競争入札を実施するときの予定価格は、秘密扱いが原則です。しかし再度入札を繰り返しているときなどに、予定価格を教えてと依頼されることがあります。どのように対応すれば良いか解説します。また予定価格を秘密にする根拠法令も確認しましょう。
予定価格は落札上限価格
競争入札で開札するときは、予定価格が落札の上限価格になります。予定価格以内の入札があったときに落札決定します。予定価格がないと落札できません。
入札から落札までの流れは、次のとおりです。
入札公告(仕様書等)→ 入札 → 開札 → 予定価格以内であれば → 落札決定
落札を判断する際の上限価格を予定価格としている根拠法令は次のとおりです。
会計法
第二十九条の六 契約担当官等は、競争に付する場合においては、政令の定めるところにより、契約の目的に応じ、予定価格の制限の範囲内で最高又は最低の価格をもつて申込みをした者を契約の相手方とするものとする。
そして開札するときは、仕様書等によって作成した予定価格調書を、秘密扱いにして、開札場所に置くことが義務付けられています。
予算決算及び会計令
第七十九条 契約担当官等は、その競争入札に付する事項の価格を当該事項に関する仕様書、設計書等によつて予定し、その予定価格を記載し、又は記録した書面をその内容が認知できない方法により、開札の際これを開札場所に置かなければならない。
「内容が認知できない方法」とは、外部から見えないよう秘密扱いにするという意味です。実際には、厚手の封筒に入れて密封し、漏洩を防ぐため封筒の糊付け部分に押印しておきます。
開札は、入札者が立ち合いの上で行います。入札者が立ち会うのは、官公庁側も公正に実施することを見届けるためです。入札参加者、入札執行者、お互いが相互に監視して公正に開札します。入札後に金額発表するときに、落札しているか判断するため、予定価格の入った封筒を開封します。
予定価格を開封するときは、法令に基づいて進めているという公正さを示すため、開封前に予定価格の入った封筒を入札参加者へ見せます。予定価格が入った中身は隠したまま、参加者全員へ封筒が見えるように高く掲げます。そして予定価格を開封することを宣言します。
「それでは、当方で作成しました予定価格を開封させて頂きます」と宣言してからハサミで開封します。
開封後も、予定価格の金額が入札参加者へ見えないように注意します。予定価格調書を見るときは、机に平らにして置き、入札参加者に見られないようにします。予定価格調書を立ててしまうと、透けて金額が見えてしまいます。必ず机に平らに置きます。そして入札金額との比較を終えたら、裏返すか封筒の中にしまいます。
2020年頃から電子入札が普及し始めてしまい、会計法令で定められている開札手続きは行われなくなりました。本来の開札手続きは、官公庁側の入札執行者と、入札に参加する民間企業側が、相互に目で見て監視することを目的にしています。開札から落札までの経緯を確認できるものでした。官公庁側だけでなく、民間企業側も含めて、お互いの不正を許さないための手続きでした。不正は表情を見るだけでわかるものです。
電子入札になってしまい、お互いを監視できない現状は、厳格な手続きとは乖離しています。残念な世の中になってしまいました。
予定価格を秘密にする理由
予定価格を秘密にする理由は、類似の入札手続きがあったときに、予定価格を類推されないためです。事前に予定価格を知っていれば、値引き率を抑えることができます。無理な価格競争を行わずに落札できます。予定価格を事前に知ることができれば、最大限の利益を確保できるのです。そのため予定価格を秘密扱いにして競争効果を高めています。
また予定価格を事前に知れば、談合も容易にできてしまいます。第三者にわからないように談合することができます。
競争性という観点からすれば、予定価格を秘密にした方が有利です。しかし一方で、大規模な入札になるほど、予定価格漏洩などの不正行為が発生するリスクが高まります。予定価格漏洩による贈収賄事件や、必要悪とまで言われている談合事件は、頻繁に発生しています。
2020年現在、官公庁の入札では、予定価格の事後公表が行われています。また地方自治体では予定価格の事前公表も行っています。予定価格の事前公表の目的は、職員が予定価格漏洩などの事件に巻き込まれないようにすることです。
公共工事の入札及び契約の適正化を図るための措置に関する指針の一部変更について(平成26年9月30日閣議決定)
・・・入札及び契約に係る情報については、事後の契約において予定価格を類推させるおそれがないと認められる場合又は各省各庁の長等の事務若しくは事業に支障を生じるおそれがないと認められる場合ににおいては、公表することとする
地方自治体における予定価格の事前公表
各省庁などの国の組織は、上記の予決令第七十九条に基づき、予定価格は秘密扱いになっています。例外的に公表することが認められています。地方自治体は、そもそも予定価格を秘密にするという法律は存在しません。各地方自治体で独自に定めることができます。
地方自治法では、次のとおり、落札の基準価格として予定価格を用いることのみを定めています。
地方自治法 第二百三十四条 第三項
3 普通地方公共団体は、一般競争入札又は指名競争入札(略)に付する場合においては、政令の定めるところにより、契約の目的に応じ、予定価格の制限の範囲内で最高又は最低の価格をもつて申込みをした者を契約の相手方とするものとする。
参考として東京都の例です。例外として予定価格を事前公表することが定められています。
東京都契約事務規則
第十二条 契約担当者等は、一般競争入札により契約を締結しようとするときは、その競争入札に付する事項の価格を、当該事項に関する仕様書、設計書等(略)によつて予定し、その予定価格を記載した書面(略)を封書にし、開札の際これを開札場所に置かなければならない。ただし、財務局長が別に定める契約においては、当該入札執行前にその予定価格を公表することができる。
予定価格を教えて、と言われたら
国の会計法令では、予決令第七十九条のとおり、原則として、予定価格は秘密扱いです。落札決定後も公開しません。
2020年現在は、予定価格を公表するケースもあります。公表している入札では、予定価格を聞かれれば、公表している予定価格を教えても問題ありません。しかし、予定価格を秘密扱いにしているときは、予定価格を教えると、予定価格漏洩事件として犯罪に巻き込まれます。最悪、逮捕されてしまいます。
官公庁で契約実務を担当していると、再度入札を繰り返す場面で、予定価格を教えてもらえませんか?と尋ねられることがあります。
1回目の入札で、予定価格の範囲内に達せず、2回目、3回目と再度入札を繰り返すとき、入札参加者から、予定価格以下の入札をしたいので、予定価格を教えて欲しいとの要望が稀にあります。特に1社のみで再度入札を行っているときに多いです。しかし秘密扱いの予定価格は教えることはできません。次のように説明することになります。
すみませんが、予定価格は教えられません。
今後実施される入札で、競争性を十分に確保できなくなるので、予定価格は公表していません。入札金額は、予定価格を目安にするのではなく、御社で可能な限りの、思い切った金額で入札をお願いします。(これ以上無理そうであれば、辞退札を提出してもらい、入札を打ち切ることも検討します。)
予定価格を事前公表することの弊害
予定価格は、原則として秘密扱いです。地方自治体では例外的に事前公表するケースもあります。
事前公表の目的は、契約担当者が犯罪に巻き込まれないようにするためです。予定価格漏洩を防ぐためです。大規模な入札案件では、稀に、入札参加者が、官公庁側の担当者から予定価格を聞き出そうとします。そして贈収賄事件や談合事件などが発生します。入札へ参加しようとする営業担当者へ予定価格を漏らし、その見返りに現金などを受け取る贈収賄事件が後を絶ちません。予定価格を事前公表することで、予定価格漏洩による事件を防止しているのです。
しかし予定価格の事前公表は、次のようなデメリットが指摘されています。
予定価格が目安となり、価格競争が阻害されてしまう。
談合が容易に行なわれる。誰にもわからないよう談合ができてしまう。
経費積算のできない、履行能力のない会社が参入してしまう。
2021年7月現在、予定価格を必要とする競争入札制度では、不正事件を防止することは不可能です。予定価格というブラックボックスが存在するために、不正を防止できません。筆者の提唱する透明契約・透明入札制度のみが、あらゆる不正を排除できるシステムです。

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