出張が重なったときの旅費支払い方法です。出張中に他機関から急に依頼され、別の出張が入ることがあります。使途が制限されている予算では、出張用務ごとに区分することになります。出張が重なったときに、どのように区分して旅費を支給するのか解説します。
出張が重なるケースとは
それほど多いケースではありませんが、出張が重なることがあります。研究者が出張するときに、別の出張用務が入ってしまうのです。
出張を計画した後になって、他の大学や政府機関から別の出張を依頼されるケースです。
自分自身で計画した出張の用務先を増やすような変更は、今回の説明では除外します。この説明では、自分で計画していた出張の他に、他機関から依頼を受けて別の用務で出張する場合です。公的組織の予算は、目的が限定されていることがあります。出張用務が異なる旅費を支払うときに注意が必要です。旅費予算の負担区分を明確にしないと、目的外使用になってしまうことがあります。どこからどこまでの出張旅費を自分の予算で支払うべきか解説します。
自分が計画していた出張と、他機関から依頼された出張が重なるときは、それぞれの線引きが難しいことがあります。基本的な考え方を解説します。
なぜ出張が重なるのか?
研究者が自分で計画する現地調査や研究会出席などでは、出張が重なることはありません。出張が重なるのは、他機関から依頼されるケースです。大きな会議や検討会、イベントなどへ参加を要請されるケースです。
日本中から人が集まるような大規模な会議は、早い時期から会場を確保するため半年以上前に開催日時が決定します。会議で発表などを行うゲストスピーカーも、数ヶ月前から準備を始めます。すでに開催日時が確定していて変更できないときに、他機関から別の会議や検討会などへの出席を急遽依頼されることがあります。特に研究会などの開催事例は多いです。
自分の出張計画が決定した後であれば、他機関からの依頼を断れば問題ありませんし、一番すっきりします。しかし他機関から依頼された用務が、自分の研究に密接に関係する内容で、かなり重要なケースがあります。自分が調査している研究テーマと同じ会合で、貴重な意見や情報を得られる機会だったり、相手との信頼関係を保つためにも断ることができないことがあります。自分の研究を進める上で、どうしても外せない出張です。
どちらかの日程をずらせるのであれば、開催日をずらすのが最善の方法です。しかし大きな会議や、著名な研究者が集まる研究会などは日程調整がむずかしく、開催日時を変更することは不可能です。著名な研究者ほど多忙なため変更できないのです。
2つの出張について日程がずらせないときは、出張先から、もう一つの出張先へ向かうことになります。1日の中で出張が重なってしまうのです。
東京から京都へ出張中に、別用務で名古屋へ
出張が重なるケースは様々です。多い事例は、出張先からそのまま続けて別の出張へ行くケースです。
例えば、東京で勤務している人が、京都へ出張するとします。半年以上前から日程が決定している国際会議で主催者として講演するとしましょう。多数の参加者が予定されているので、よほどのことがない限り欠席はできません。もしかしたら講演を聞くためだけに、遠くから参加する人がいるかもしれません。
宿やチケットの手配、旅費の請求手続きなど、京都への出張手続きも終えました。講演用の原稿やスライド資料を準備していたところ、他の国立大学から、名古屋で研究会を開催したいので、ぜひ参加して欲しいと出張依頼があるとします。名古屋の研究会でも講演してもらいたいと依頼されました。
名古屋の研究会が、京都の国際会議と同一日時であれば物理的に出席不可能です。当然断ることになります。しかし、どちらかが翌日であれば出席は可能です。新幹線を使えば、京都から名古屋まで1時間ほどです。京都の国際会議で講演した後には質疑応答や懇談会などもあり夜遅くまでかかります。しかし翌日であれば名古屋へ行って参加できます。
京都への出張は、主催者でもあり自分の研究のためなので、自分たちの旅費予算を使います。しかし名古屋への出張は、他機関からの依頼です。旅費予算は他機関が負担します。
用務が異なる出張の旅費を請求するときは、どこまでを自分の組織で負担するか明確にしなければなりません。国民の税金を原資とする予算は目的が限定されていることが多いです。あいまいな使い方は、不適切な会計手続きになってしまいます。税金を使う以上、予算の目的に沿って使わなければなりません。
依頼する側が旅費を負担する
官公庁の出張は、大きく2つに区分されます。旅行命令と旅行依頼です。自分の研究目的で旅行する出張は、旅行命令です。他機関から依頼されて旅行する出張は、旅行依頼です。(地方自治体も、ほぼ同じ内容が条例で定められています。)
国家公務員等の旅費に関する法律(旅費法)
第四条 左の各号に掲げる旅行は、当該各号に掲げる区分により、(略)「旅行命令権者」(略)の発する旅行命令又は旅行依頼(略)によつて行われなければならない。
一 前条第一項の規定に該当する旅行(自分の組織の出張) 旅行命令
二 前条第四項の規定に該当する旅行(他機関からの依頼出張) 旅行依頼
そして旅行命令や旅行依頼を行うときは、旅費予算が確保されていることが前提です。旅費予算が不足するなら出張できません。
国家公務員等の旅費に関する法律(旅費法)第四条 第二項
2 旅行命令権者は、電信、電話、郵便等の通信による連絡手段によつては公務の円滑な遂行を図ることができない場合で、且つ、予算上旅費の支出が可能である場合に限り、旅行命令等を発することができる。
つまり依頼する組織が、旅費予算を負担しなくてはいけません。依頼する組織の目的のための出張なので、当然、依頼する側が旅費を負担し支給するわけです。
注意したい点は、科研費などの政府系競争的資金による出張です。競争的資金は目的外使用が禁止されています。目的の違う予算を使ってしまうと不正使用になってしまいます。
別の用務の出張が重なるときは、どこまで負担すべきか
他機関のための出張は、他機関側が旅費を負担します。
では、どこまでの旅費を負担するのでしょうか?
実際に旅費を支給する手続きでは、予算ごとに支給する範囲を明確にしなければなりません。旅行経路に沿って具体的に判断することになります。
京都と名古屋への出張では、次のように旅行経路を区切ります。京都への出張の帰りに、名古屋へ出張するケースです。
出張が重なったときの経路の区分
東京 ⇒ 京都
京都 ⇒ 名古屋 他機関からの依頼
名古屋 ⇒ 東京
わかりやすいように、それぞれの位置関係を記載します。名古屋が途中に位置します。
東京 ━ 名古屋 ━ 京都
それでは、具体的に確認します。
東京 ⇒ 京都 自分の予算から
京都への出張は、そもそも最初から計画していた自分の出張です。自分の旅費予算を使います。
もし、名古屋出張を依頼してきた他機関の担当者から、京都出張の分もこちらで負担しますと申し出があっても断りましょう。相手方は親切心で言っているのかもしれませんが、公費の不正使用になるリスクがあります。相手方の旅費予算の内容まではわかりません。もし制約のある予算で目的外使用に該当すると危険です。特に会計実務を理解してない人が申し出ているなら断りましょう。はっきり言って危ないです。
京都 ⇒ 名古屋 他機関から
名古屋への出張は、他機関から依頼された旅行です。招いた側、依頼した側が負担します。他機関が旅費を負担します。
ここで、次の疑問が生じます。
そもそも、東京から京都までの往復旅費は、当初の出張計画で旅費予算を確保していたのだから、京都までの往復旅費は自分の予算から支出して問題ないのでは?
しかし、この考え方は間違っています。次の条文を理解する必要があります。
旅費法
第十条 私事のために在勤地又は出張地以外の地に居住又は滞在する者が、その居住地又は滞在地から直ちに旅行する場合において、居住地又は滞在地から目的地に至る旅費額が在勤地又は出張地から目的地に至る旅費額より多いときは、当該旅行については、在勤地又は出張地から目的地に至る旅費を支給する。
旅費法第十条は、すでに旅行している場合、旅行先から目的地へ旅行する場合の旅費について定めています。簡単に言えば、プライベートの旅行先から出発する場合でも、職場から目的地までの旅費を上限として支給することを定めています。ここでは次の2点に注意する必要があります。
旅費法第十条の趣旨
◯旅行先から出張可能であること
◯旅行先からの出張経費が多額の場合には、職場から目的地までの旅費額が上限になること
つまり、今回の例にあてはめると、すでに京都に滞在しています。京都から名古屋までの旅費を、他機関が支給すべきなのです。旅費法第十条の滞在先から出張できるという規定によって判断します。名古屋までの旅費を、自分の予算から支給してしまうと目的外使用になります。京都から名古屋への出張は他機関からの依頼です。
名古屋 ⇒ 東京 他機関から
名古屋での出張用務は他機関のものです。出張用務が終わり、職場へ戻るまでの旅費は他機関が負担します。当初の計画で、京都往復の予算を確保していても、他機関の用務完了後の旅費は自分の予算は使えません。
旅費は、職場から離れた場所へ行くまでの、行きと帰りの旅費を支給するのが原則です。しかし今回のケースでは、行きは自分の予算を使えますが、帰りは他機関の予算から支給されます。
なお経路によっては、途中下車できる場合と、新たに切符が必要になる場合があります。実際に必要とした交通費を支給することになるので、旅費を請求するときに出張者本人が申し出ることになります。旅費は実費弁償が原則です。
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