年度末の 3 月から 4 月にかけて出張する旅費を、会計年度で区分する方法です。単年度予算の科研費では、年度をまたぐ支出が認められていません。旅費法では、年度をまたぐ出張のときに前年度予算から概算払い可能ですが、科研費には適用されません。宿泊料の年度区分など旅費についての解説です。
基金化された科研費とは
科学研究費補助金(科研費)は、ほとんどが単年度予算です。平成 23 年度からは一部が基金化され、年度に関係なく使用することが可能になりました。しかし基金化された科研費は、ごく一部だけです。
年度の制約なく基金化された主な科研費
基盤研究C、挑戦的萌芽研究、若手研究B、若手研究、研究活動スタート支援、特別研究促進費、国際共同研究加速基金
ただし、科研費の交付決定を受けた年度により取り扱いが異なります。自分の科研費が基金なのか確認しておきましょう。科研費は制度が複雑すぎて誰も把握できない状況です。
これ以外の多くの科研費は、従来どおりの単年度予算です。会計年度( 4 月 1 日から 3 月 31 日までの 1 年間)ごとに使用しなければなりません。単年度予算の科研費は補助金分といわれています。そもそも科研費が科学研究費補助金なので、正式にいうと科学研究費補助金の補助金分になります。早口言葉になりそうでわけがわかりません。
科研費の研究期間は 3 年間などの複数年です。海外で現地調査するために年度末の 3 月に出発して 4 月に帰国する、年度をまたぐ出張では注意が必要です。単年度予算の科研費で、年度をまたぐ出張旅費を支払うときの注意点を解説します。
国の旅費に関する法律では次の規定があります。
国家公務員等の旅費に関する法律 (旅費法)
附則の3
外国旅行については、当該旅行の期間とその旅行開始直前十日間の準備期間とを通じた期間が二会計年度にわたる場合の旅費は、当分の間、当該二会計年度のうち前会計年度の歳出予算から概算で支出することができる。
旅費法では、年度をまたぐ海外出張の旅費を、前年度予算から概算で支出することができると規定されています。しかしこの旅費法は、科研費では適用されません。
科研費で年度をまたぐ出張の具体例
科研費や政府系の委託研究などは、ほとんどが単年度予算です。そのため、この旅費法が適用されないという矛盾が生じています。一般的な法律が適用されないなど、科研費が使いにくい研究費になっている最大の原因でもあります。
科研費FAQ H30.9.版 から抜粋
【Q4439】 年度をまたいでの出張を行う場合に、科研費から旅費を支出できますか?
【A】 科研費(補助金分)にあっては、年度をまたぐ旅費のうち当該年度分を支出することはできますが、次年度に係る出張の経費を、前年度の補助金から支出することはできませんので注意してください。
一方、科研費(基金分)にあっては、年度をまたぐ支出について制約はありませんので、旅費を年度によって分けて支出する必要はありません。
つまり、補助金分の科研費で、年度をまたぐ出張の場合には、それぞれの会計年度ごとに区分して支払わなくてはなりません。具体例で説明します。
科研費(補助金分)で 3 月 30 日から 4 月 3 日まで海外出張のケース
3月30日 成田出発、外国到着
3月31日 外国で会議
4月 1日 外国で会議
4月 2日 外国出発
4月 3日 成田到着
前年度の科研費から支払うもの
- 行きの航空賃、鉄道賃
- 3 月 30 日 ~ 31 日までの日当と宿泊料
日当は昼食代なので悩みませんが、宿泊料は夜数、午前0時が基準なので前年度か新年度か迷います。3月31日夜の宿泊料は前年度として支払います。宿泊料には夕食が含まれていること、ホテルでのチェックインは夕方行われ、その時点で宿泊することが明白だからです。
新年度の科研費から支払うもの
- 4 月 1 日の日当から、 4 月 3 日までの日当、宿泊料、帰りの航空賃、鉄道賃です。
旅費法では、年度をまたぐ旅費全額を前年度から概算払いで支出可能です。しかし補助金の科研費には旅費法が適用されないので注意しましょう。
宿泊料の年度区分とは
3 月 31 日から 4 月 1 日にかけての年度をまたぐ出張のときに、 3 月 31 日夜の宿泊料は旧年度なのか、あるいは 4 月 1 日の朝食代が含まれているので新年度になるのか判断に迷います。 3 月 31 日夜の宿泊料の年度区分について解説します。
旅費法における宿泊料の規定は次のとおりです。
国家公務員等の旅費に関する法律
第六条
7 宿泊料は、旅行中の夜数に応じ一夜当りの定額により支給する。
結論からいうと 3 月 31 日夜の宿泊料は、旧年度予算から支払います。ただ法令では明確に定められていません。
宿泊料の構成内訳は、ホテル代と夕食代、それと翌日の朝食代です。しかしチェックインは夕方で、前金払いであればその場で支払います。夕食代も考えると宿泊料の構成内訳のほとんどが前年度に属するからです。
しかし新年度と判断する考え方もあります。宿泊料の条文にある夜数に応じという意味は、午前 0 時を 1 秒でも経過すれば一夜とみなします。真夜中の午前 0 時を過ぎた時点で判断するとなると翌日です。つまり宿泊料は午前 0 時を経過したときに発生するので翌日の宿泊料と考えます。 3 月 31 日夜の宿泊料は、午前 0 時を経過した 4 月 1 日に入ってから一夜とみなされます。そのため新年度の宿泊料とも考えられるのです。しかし実際には宿泊するかどうかは前日に判断していますし、チェックインしています。前年度と考える方が一般的です。
間違えやすいのは、旅費法第十二条で旅行中に年度が経過したときは、最初の目的地に到着するまでの分を前年度予算と定めている条文です。電車や飛行機に乗っているときは、ずっと動いているので明確に年度区分できません。そのため目的地までの料金で区分しています。一方宿泊料は、構成内訳を考えれば明確に区分できます。
国家公務員等の旅費に関する法律
第十二条 鉄道旅行、水路旅行、航空旅行又は陸路旅行中における年度の経過、職務の級の変更等のため鉄道賃、船賃、航空賃又は車賃を区分して計算する必要がある場合には、最初の目的地に到着するまでの分及びそれ以後の分に区分して計算する。
旅費の計算は、判断基準などが複雑です。特に科研費や政府系の委託費は旅費法が適用されないことがあるので、十分に理解したいです。
出張の行程日時は、現地時間で記載する
海外出張の行程を確認するときに、初心者がミスしやすい部分があります。出発時刻や到着時刻などの行程の年月日を、日本時間で考えてしまうのです。これは大きな間違いです。
海外出張では、日当や宿泊料を計算するときは、現地時間で判断します。行程表やスケジュール表は現地時間で記載します。日本時間ではありません。
例えば、成田空港を昼 13 時に出発して、飛行機に 12 時間乗って、日付変更線を超えたとします。現地時間では同日の朝10時に海外へ到着したとします。日本時間では翌日到着ですが、現地時間では当日です。この場合、日本時間の行程を記載してしまうと、日本時間では夜中の午前 0 時を過ぎたので宿泊料を加算してしまいます。しかし実際は、海外の現地には同日に到着してます。機中泊なので宿泊料は不要です。実際にもホテル代は払ってません。
海外出張の行程は、全て現時時間で記載します。通常、旅行会社から、往復の航空便発着時刻が記載された行程表が提出されます。旅行会社が作成した行程表を基に旅費を計算します。
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