官公庁の契約手続きが、落札率で批判されることが多くなりました。「落札率が高いと談合が疑われる」、「競争性が確保されていない」などと指摘されています。しかし落札率を正しく理解していないために、的外れな批判も多いです。落札率のわかりやすい解説です。
そもそも落札率とは
2013年10月、ここ数年の話です。落札率という言葉を新聞やテレビで見かけるようになりました。市民オンブズマンなどが、行政を監視しチェックするときのキーワードとして、落札率を使っています。官公庁が実施する入札に絡んで発生する談合事件などのときに、落札率を頻繁に耳にします。
2009(平成21)年の政権交代前、民主党が自民党を攻める際の資料として、各官庁等へ落札率一覧表の提出を要求していたのを思い出します。
そもそも落札率とは何でしょうか?
官公庁の契約手続きでは、競争入札を実施するときに予定価格を作成します。予定価格は落札の上限価格です。入札金額が予定価格よりも有利であれば落札になります。例えば、官公庁側が物品を購入する契約であれば、予定価格が 500 万円のとき、入札金額が499 万円であれば落札になります。501万円なら落札しません。
入札へ参加する企業は、自社の利益を多く獲得したいと考えます。なるべく上限価格の予定価格に近い金額で落札するのが理想です。一方、発注者である官公庁側としては、少しでも安く買いたいので、予定価格よりも安い入札金額を期待します。ここが競争入札のかけひきです。
落札率は、予定価格に対する落札金額の割合です。
例えば予定価格が 100 万円で、落札金額が 95 万円のときは落札率が 95 %です。
落札率 95 % = 落札金額 95 万円 ÷ 予定価格 100 万円
談合や癒着が起こる原因
競争入札の多くは、予定価格を事前に公表しません。予定価格がわからないので、落札価格のかけひきを行うことになります。ライバルとの価格競争が行われるわけです。(一部の地方自治体では、予定価格を事前公表しています。公表することで予定価格漏洩事件を防ぐことができます。ただ価格競争は弱まります。)
仮に予定価格が1千万円だとすれば、民間企業側は1千万円に近い金額で、かつ、他社よりも安い金額で入札できればベストです。予定価格に近ければ、最大の利益を確保できます。民間企業側は、最大限の利益を確保しつつ落札したいので、予定価格の情報を知りたくなります。ここが談合や癒着などのリスクが生じやすい部分です。
予定価格がわかれば、入札へ参加しようとする企業は、事前に入札金額の調整を行うことができます。自社の利益を最大にできます。落札者を事前に話し合いで決め、見せかけの競争を偽装できるのです。そのため官公庁側の契約担当者から予定価格を聞き出そうと、接待など様々な手法で近付こうとします。これらは、いずれも予定価格というブラックボックスが原因です。
談合が疑われる入札の例
談合が疑われる例として、予定価格が1千万円のとき(事前に予定価格が公表されてない場合)を考えてみましょう。
A社、B社、C社で談合し、事前に入札金額を調整したとしましょう。
(予定価格1,000万円の売買契約)
1回目の入札金額(予定価格に達せず再度入札)
A社 1,200万円
B社 1,250万円
C社 1,400万円
2回目の入札金額(予定価格に達せず再々度入札)
A社 1,010万円
B社 1,100万円
C社 1,030万円
3回目の入札金額(A社に落札)
A社 900万円
B社 950万円
C社 990万円
3回目でA社に落札し、落札率は 90 %です。
上記は予定価格が秘密にされていて、入札者が予定価格の金額を知らない場合です。事前に談合していると、一番安い入札をした企業が固定され、毎回同じになります。この例では3回目で落札ですが、仮に5回くらい繰り返しても最安値の企業が同じなら、極めて談合の可能性が高いです。
なぜなら一番安い会社を入れ替えてしまうと、もし予定価格以下になったら、その時点で、その入札者が落札してしまうからです。事前に落札する会社を調整して決めていた場合、一番安い入札金額の会社を固定しておかなければならないのです。
あるいは、もし予定価格を事前に知ることができれば、2回目や3回目の入札書の偽装も簡単です。落札しないことがわかれば、最安値の企業を入れ替えることができます。事前に予定価格を知っていれば、入札結果から談合を疑われるリスクもありません。自社の利益を最大限確保できます。そのため高額な入札ほど、予定価格漏洩による贈収賄事件のリスクも高まります。
予定価格の事前公表
予定価格の漏洩を防止するために、一部の地方自治体では予定価格を事前に公表しています。予定価格がわかれば、談合によって限りなく予定価格に近い金額で落札することが可能です。落札率が 100 %近くになります。当然のことながら競争性は弱まります。
落札可能な入札金額を知ることができれば、無理に価格競争する必要はありません。談合することができれば容易に落札者を調整できます。談合によって、最大限の利益を確保することが可能になります。
予定価格の事前公表は、予定価格漏洩事件は防げますが、談合を助長させるだけともいえます。見えない談合が増え、さらに価格競争力が失われてしまうわけです。
現行の入札制度は、談合、癒着、予定価格漏洩などの不正事件を回避することはできません。入札手続きの欠点と言えます。
落札率が 95 %以上でも問題ない
マスコミ報道などで「落札率が 95 %以上の場合は、談合の疑いが強い」といわれていますが、これは公共工事など一部の契約だけの話です。積算基準が公開されていて、積算金額で入札する場合のみです。物品の売買契約では該当しません。
例えば特殊な研究用設備などの入札では、落札率100%が多いです。十分な市場調査に基づいて、適正に予定価格を設定すれば、落札率は自然と100%に近くなります。(落札率が低いということは、予定価格との開きが大きいことです。十分な市場調査を行わなかったことを意味します。)
物品の売買契約では、直近の取引実例価格を調べるために、参考見積書を取り寄せて予定価格を作成するからです。過去の取引価格と、直近の参考見積書を比較して、参考見積書の方が安ければ予定価格とします。参考見積書の金額を予定価格と設定すれば、落札率100%が多くなるのです。
売買契約の予定価格は、実際の取引価格を設定するものです。「安ければ良い」という短絡的な考えで作成するものではありません。無理な値引き率を設定し、買い叩くような予定価格の方こそ問題です。会社の正当な利益を含む「適正な予定価格」であれば、落札率100%で自然に取り引きが成立します。つまり落札率が低ければ適正というわけではないのです。
むしろ、研究用設備などの特殊用途の売買契約では、落札率100%の方が適正になります。落札率が低ければ、逆に、市場調査が不十分だったことになります。
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