営業担当者向けに、官公庁へ提出する見積書について、わかりやすく解説します。官公庁へ提出する見積書には、2つの種類があります。契約の申込みとなる見積書と、予算要求などに使用する参考見積書です。この違いを理解しておくことで営業成績も変わります。
見積書を依頼されたとき
官公庁の契約担当者から、「見積書をお願いします」と依頼されることがあります。営業初心者は素直に嬉しいと思います。同時に少し不安になるかもしれません。いつも取り引きしているベテラン営業担当者であれば、官公庁向けの書類作りに慣れているので悩みません。しかし営業初心者にとっては、お役所へ提出する書類は、何かと形式にうるさい、という固定観念もあり、少し不安になるのです。
提出する書類の形式については、民間企業に比べて、官公庁はややこしいです。日付や印鑑にこだわることもあります。今回の解説は形式面だけでなく、もっと深く、見積書の本来の意味をわかりやすく解説します。
見積書は、私法上の取り引きに必要
まず、取り引き(契約)について、基本的な部分を確認しましょう。官公庁と民間企業の取り引きは、私法上の取り引きです。私法上とは、対等の関係という意味です。官公庁の方が偉い(立場が強く強制力がある)ということはありません。
私法に対する概念として公法があります。公法とは、法律に基づいて公益のために相手の行動(権利)を制約するような、強制力を持つ行為のことです。統治関係にある状態です。所得税などが典型です。国が税金を徴収することを一方的に決めています。本人が、所得税を払いたくない、嫌だ、と言っても拒否できません。
一方、私法は、お互いが対等な立場にある関係です。官公庁と民間企業との契約は、私法上の対等な関係です。見積書を提出する際に、わからない部分があれば遠慮する必要はありません。不明な部分はすぐに尋ねましょう。基礎的な知識を持っておくと理解が早くなります。
官公庁に必要な見積書は2つの種類がある
官公庁が必要とする見積書は、大きく2種類にわかれます。ひとつは、予算要求や事業の費用を見積もるための参考見積書です。もうひとつは契約締結を目的とした、見積もり合わせのための、見積書です。
契約担当係が依頼する見積書は、契約を目的としていることが多いです。予算用の参考見積書は、必要とするケースが限定的です。官公庁側の担当者から、予算用、あるいは参考のために依頼している、との説明があれば参考見積書を意味します。
見積書と参考見積書は見た目が同じですが、使用目的が全然違います。両方とも書類名は見積書として提出します。
参考見積書は、積算金額を確認する資料
参考見積書は、財務省や上級官庁へ予算を要求するときに使うことが多いです。積算の根拠資料として必要になります。契約を締結するという目的はありません。予算を獲得するための見積資料です。金額を客観的に知るために使う書類です。
予算要求では、100%満額で認められることは稀です。事業の内容にもよりますが、80%程度に減額査定されることが多いです。予算要求に使用する参考見積書は、通常の取引価格や標準価格で提出します。利益を極力抑えた、思い切り値引きしたギリギリの見積金額で提出してしまうと、その金額が100%認められなかった場合、現実には契約できない予算額になってしまいます。
見積書は、契約手続きに必要な書類
見積書は、契約の締結を目的とした書類です。一般的に見積書と言えば、参考見積書ではなく、契約を締結するための見積書を意味します。定価や標準価格が設定されていれば、値引き金額を記載して、契約が可能な見積金額で提出します。そして官公庁へ提出する見積書は、民法第五百二十二条の契約の申込みになります。
民法
第五百二十二条 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
民法は、2020年4月1日に大きく改正されました。参考に古い民法を「旧民法」として記載しました。
参考 旧民法
第五百二十一条 承諾の期間を定めてした契約の申込みは、撤回することができない。
見積書を受け取った官公庁側の契約担当者が、内容を確認して承諾することで契約が成立します。承諾はメールでも電話でも有効です。官公庁側の契約担当者から、この見積書で正式な契約をお願いしますと連絡があれば、契約の申込みが承諾され、契約が成立します。
見積書の様式と必須項目
官公庁へ提出する見積書は、会社で日常的に使用している様式で問題ありません。ただし次の項目は必須です。(官公庁によっては記載ミスを防止するために様式を指定することもあります。)
日付(作成年月日)
会社印と代表者印
(代表者印は、代表取締役社長などの印です。部長職等は、別途、社長からの委任状が必要になります。)
消費税を含むかどうかの明示
見積書の有効期限
納入期間(発注から納品までの期間)
正式に契約を締結した後は、納入期限に遅れると、履行遅滞として損害金などを支払うことになります。余裕を持って確実に納品できる期間を設定します。発注後1ヶ月以内のように書きます。
見積書と参考見積書の区別(判断)
営業担当者の悩みの種です。見積書を提出する際に、いくらの金額を提示すれば良いかです。
契約を目的とした見積もり合わせ用に提出する場合は、利益を最少限に抑えた思い切った値引き金額で見積書を提出します。官公庁側の契約担当者は、複数の会社へ見積書の提出を依頼し、その中から最安値の会社を契約の相手方として選びます。
見積もり合わせの、チャンスは一度だけです。
見積もり合わせでは、見積書の再提出は認めないことが多いです。契約を獲得したいときは、他社より安い金額で見積もるという気持ちで提出します。しかし、他社の見積金額を聞いてはいけません、談合という犯罪行為になってしまいます。
一方、契約を目的としない見積書は、参考見積書です。
契約の申込みではないので、金額もそれほど安くする必要はありません。査定の厳しい予算要求に使うときは、定価で提出して欲しい、と依頼されることさえあります。
しかし、この判断が困難なときは、どう対応すれば良いでしょうか。
見積書なのか、参考見積書なのか、迷ったとき
値引き金額を大きくした方が良いのか、値引きしない方が良いのか、迷うことがあるかもしれません。
もし判断に迷ったときは、官公庁側の担当者へ、次のように口頭で尋ねてください。(電話が良いです。メールでは答えられないことが多いです。)
見積書なのか参考見積書なのかを尋ねる方法
「この見積書は、見積もり合わせ用でしょうか?」
あるいは、次のように尋ねると確実です。
「他社に比べて、一番安い金額を提示できれば、契約を締結することが可能でしょうか?」
見積もり合わせ用です、あるいは、一番安ければ契約しますという説明であれば、契約の申込となる見積書です。思い切った値引き金額で提出します。
予算用なので、あるいは、事務処理上の参考として、などの説明であれば、契約を目的としていません。参考見積書として、通常の取引価格あるいは定価に近い金額で提出します。
契約を目的としない場合は、談合とかのリスクもないので、具体的に、定価で提出した方が良いでしょうか、と聞くのも問題ありません。単なる参考資料なので、次のように質問しても大丈夫です。
「定価で提出した方が良いでしょうか?」
「参考見積書として、通常の値引きで提出した方が良いでしょうか?」
本サイトでは、官公庁への営業方法について、コンサルティングも受け付けています。管理人が実際に契約を担当していた立場からアドバイスします。官公庁側の契約担当者の考え方を理解すると営業が効果的になります。
コメント
管理人様
ご回答誠にありがとうございました。
2社分以上必要な相見積もりと違い、
「参考見積もり」は1社分でも良いのが一般的なのでしょうか。
私の部署では、契約依頼書の作成時に「参考見積もり」を最低1枚添付せよと
言われていますが、これは法令等で決まっているわけでなく慣習なのでしょうか。
管理人です、コメントありがとうございます。
契約の事務手続きについては、各組織の慣習的な取り扱いがあると思います。一概に過去の手続きについて、良い悪いを判断することはできません。
しかしながら、「参考見積書」は、本来、契約を前提としていない書類です。会計法令で「参考見積書」の添付を義務付けている条文はありません。もし、組織の中で明確な内部規則がなければ「慣習」と判断できます。
ただ、官公庁における契約手続きは「明確なルール」に基づいて処理しないと、対外的な説明が困難になります。「適正な会計手続き」とは「公正なルール」に基づくものです。そして「公正なルール」は、組織の中でオーソライズされたものです。(就業規則や内部規則などは、一定のルールで作成されているはずです。)
いつも参考にさせていただいております。
1点お聞きしたいことがございます。
随意契約において、購入したい物品が「消耗品か」「備品」になるか微妙な価格帯のときに
参考に見積書が欲しいときがあります。
そのときは電話・メール等で「参考見積書」をくださいといえばよいのでしょうか。
管理人です。
コメントありがとうございます。
ご質問のとおり、物品の価格を調べるために取り寄せる書類は、契約締結を前提としない「参考見積書」です。できれば電話で「契約は予定してないのですが、取引価格を調べたいので参考見積書の提出をお願いできますか?」と尋ねるのが良いです。そのときに消費税を記載してもらうと良いです。また、価格調査の後に、契約を締結するための「見積もり合わせ」を行うこともあります。