官公庁が支払う会議費の支出基準です。税金を使って会議費を支払うときは、公私混同に注意が必要です。会議の際の弁当代や、接遇を目的とした会議費などの解説です。食事代は、旅費法の日当を目安に単価を設定します。接遇費は、役職や地位で判断します。
今回の内容は、税法上の会議費や交際費とは異なります。官公庁が公費で支払うときの会議費です。
会議費は公私混同に注意
2016年6月、東京都知事が公私混同問題で辞職に追い込まれました。政治資金の使い方に対して、国民が納得せず、都知事がついに辞職する事態になりました。政治資金の具体的な使途は、法令等で定められたものはなく違法ではありません。しかし国民の目は、都知事が想定する以上に厳しく、真実をはぐらかすような曖昧な説明を許しませんでした。今回の一連の騒動は、マスメディアが世論を正確に伝え、民主主義を守った良い例です。
公私混同を考えるときに思い浮かぶのが、税金を使用した飲食費です。多くの官公庁では、会議費という名目で支出しています。民間企業なら、得意先を接待するための交際費がありますが、ほとんどの官公庁には交際費がありません。また官公庁の会議費については、法令等で定めた支出基準も存在しません。各組織ごとに一定の基準を設け、そのルールの中で会議費として支払っています。
会議費については、会計担当者によってルールの解釈が異なることがあります。実際に支払うときになって、判断に迷う曖昧な部分が多いのです。会計担当者は、「ほんとに会議費で払って大丈夫かな?」と迷いながら支払手続きを行なっているのです。
官公庁の会議費支出基準
そこで会議費の支出基準について解説します。以下の説明は官公庁限定の会議費支出基準です。
最初に会議費の定義を明確にします。この解説での会議費とは、会議を行なう中で必要な飲食費部分です。実際の会議費は、飲食費の他に会場借料や、音響機器・マイク代なども含まれます。しかし今回は、支出の可否について判断に迷う飲食費部分のみとします。
飲食費は、主に次の2つに区分されます。
◯通常の食事代
◯儀礼(おもてなし)的な接遇費
食事代は、会議中の昼食代や夕食代です。社会通念上の価格基準として、国家公務員等の旅費に関する法律(旅費法)の日当から算出します。旅費法の日当は、単価の半分が昼食代と考えられているからです。
東京都内(行政職 3 級クラス)
日当 2,200 円(昼食代+交通費・雑費)
この場合、昼食代は日当の半額なので 1,100 円です。
そして食事をするときは、この他に味噌汁とお茶代として 200 円から 300 円程度かかります。デリバリーの弁当は、味噌汁とお茶は別料金です。そうなると合計で 1,500 円あれば昼食代として十分です。これを食事代の基準金額とします。
食事代を支出できる会議の範囲
次に、この食事代を支出できる会議の範囲です。
会議には様々な形態があります。多数の人が参加するものから、2 ~ 3 人程度の小規模な会議までいろいろです。そして参加する人の役職なども異なります。ただ会議という名目だけで、食事の時間帯に集まれば、会議費として支出できるという考え方は問題です。公私混同の典型になってしまいます。
仕事の仲間が集まれば、私的な食事中でも必ず仕事の話題になります。それを理由として会議費を支出すれば公私混同です。そうなれば、職場の友人との会食すべてが、税金による会議費の支払対象になってしまいます。そこで次の視点で会議費の対象を考えることになります。
会議を開催する時刻が、食事の時間帯に限定されるか。
昼食や夕食などの時間帯を避けて会議を行なえば、公費で会議費を支出する必要はありません。食事の時間帯にしか会議を開催できない明確な理由が必要です。あるいは3時間とか、継続して長時間の会議を行なわなければならない拘束性があり、自由に食事ができない場合に限定されます。つまり食事の時間帯に拘束されるか、という判断です。
食事代を会議費として支出する例として、センター試験など大学の入学試験業務があります。入学試験当日は、不測の事態に対応するため、教職員に対して1日中待機命令が発せられます。実際にも、昼食の時間帯などに受験生の具合が悪くなったり、不審者がいたり、試験会場へ爆弾を仕掛けたなどの犯行予告も頻繁に発生します。不測の事態には、教職員がすぐにかけつけなければなりません。
そのため教職員は、試験実施本部を設置した会議室や事務室で1日中待機となります。外出して食堂などに出かけられません。そのため待機命令を受けた人へは、会議費から弁当やみそ汁、お茶などが配布されます。寿司や刺し身を食べて腹痛を起こさないためにも、食事は支給された弁当に制限されます。試験中に教職員が腹痛になったら、笑い事では済まされないのです。
食事代が会議費として認められる条件
会議費として認められる条件をまとめると次のとおりです。
会議費(飲食代)支出基準
食事に行くことができない状況で、かつ、長時間の拘束性がある場合
食事代の単価は 1,500 円以内
食堂やレストランで行なう会議は、そもそも会議とはいいません、会食です。(下記で説明する接遇目的は別です。)
レストランなどは、公式な会議の場所として不適切です。そもそも飲食店ですから、会議ではなく単なる会食です。会食であれば食事代は自己負担です。何より会議の場所として、飲食店は適切ではありません。もし税金で会議費を支払えば、公私混同を疑われます。日本では、飲食店で会議を行うのは非常識です。もし居酒屋で会議を行い、会議費としての支出が必要という理由書でも作れば、どう見ても屁理屈としか考えられません。
会議は、職場の会議室で行うものです。また仕事中ですから、ビールやワイン、日本酒などのアルコール類も飲まないのが一般常識です。
接遇目的の会議費とは
次に、儀礼(おもてなし)として接遇するための会議費です。
ここで、接遇と接待の違いを簡単に整理しておきます。接遇は、相手に対して失礼にならないようにもてなす行為です。海外でいろいろお世話になった人が来日したときなどに、感謝の意味を込めて儀礼的に行うことが多いです。
接待は、お得意様に対して失礼がないようにふるまうことです。相手の方が立場が上になります。こちら側がへりくだってもてなすことです。接待する方が立場が下になります。接遇は、立場の上下はありません。官公庁は営利企業ではないので、接待のケースはほとんどないと思います。
接遇は、来賓・来客など外部の偉い人を招いて、ワインやビール、日本酒などのアルコールを飲みながら楽しく食事することです。いわゆる懇親会的な飲み会です。(しかし政府系の補助金などは、アルコール類の支出を禁止しています。アルコール類を支出するときは事前に資金配分元へ確認しましょう。)
外部の人を招いて、ワインやビールを飲みながら、夕食会(レセプションなど)を行なうことが認められる条件は、次のとおりです。
接遇費の支出基準
会議費として支払う予算が、アルコール類の支出を認めていること。
5人以上の公式な行事として、組織が儀礼的に対応する必要があるもの。(組織の長が必要と判断したもの)
つまり、組織の長や役員クラスなどが参加し、儀礼的に行なう会食で参加者が 5 人以上であることです。5人以下の少人数であれば、公式な行事とはいえません。一般的に考えて、仲間うちの会食と看做されます。
接遇目的の会議費単価
接遇目的の会議費は、公式行事であることはもちろんですが、可能な限り支出しない方が安全です。しかし、どうしても会議費として支出せざるを得ない場合には、ひとり当たりの単価を検討しなければなりません。次のようになります。
接遇費の単価
ひとり当たりの単価が、社会通念上の範囲内であること。
社会通念上とは、曖昧で判断が難しいです。時代と共に基準が変わります。その時代に、多くの人が納得できるということです。1人当たりの単価は、参加する人の社会的ステータスで異なりますし、判断は人によって変わるでしょう。
接遇目的の会議費の単価は、上記弁当代相当の1,500円では、あまりに少なすぎます。儀礼的なおもてなしにはなりません。むしろ、みすぼらしく失礼になってしまいます。日当の単価よりも高い、旅費法の食卓料を基準にして考えてみます。
大臣クラス 3,800円
一般 2,200円
しかしこれでも、やはりみすぼらしい気がします。実態社会と大きくズレています。若い人の飲み会でも、ひとり5千円は当たり前です。そこで役職や地位を考慮するために、ホテルの宴会コースの料金を参考にします。
大臣クラス(要人)であれば、食事の場所も帝国ホテルクラスです。帝国ホテルの普通の宴会コースは、1人当たり16,500円です。(2020年1月現在、着席ブフェスタイル、個室宴会場20名~)
実際の利用を想定すると、接遇費のひとり当たり単価は、次のようになります。
接遇費の単価上限
大臣等の政府要人 帝国ホテルクラス 17,000円
教授などの学者 東京ドームホテルクラス 11,000円
それ以外の人 湯島東京ガーデンパレスクラス 7,000円
また接遇費の基準は、居酒屋とホテルで単価が異なるなど、開催場所によっても変わります。ひとり当たりの単価を考えるときは、その人が、どのクラスのホテルに宿泊するか、そして、ホテルの宴会コースはいくらかで判断します。
しかし可能なら、接遇費は自己負担としたいところです。税金で会議費を支払うと、常に批判されてしまうリスクが残ります。しかし、どうしても公費で支出しなければならないときは、開催場所、単価などの検討資料を上述のような考え方で整理し、支払書類と一緒に保存しておきましょう。
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