物価が高騰しているため、欧米の主要都市へ海外出張する場合、旅費法で定めた定額の宿泊料金を大幅に超えたホテル代や食事料金が必要になります。この記事では、物価高の始まりや主な原因、特にエネルギーや食品資源の価格上昇、そしてコロナ禍の経済回復に伴う需要増加などの背景も詳しく解説しながら、どのように旅費法を適用するのか考えていきます。
いつから物価高になったのか?
物価高の始まりは、2021年頃からと言われています。2021年3月の国内企業物価指数は前年同月比+9.5%になっています。この9%という数値は、第二次オイルショックの影響が残っていた1980年12月以来の高い水準です。
具体的には、2021年頃から、以下のようなものが値上がりし始めました。
* 原油や天然ガスなどのエネルギー価格
* 小麦やトウモロコシなどの穀物価格
* 鉄鉱石などの金属価格
これらの価格上昇は、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻によってさらに加速しました。ロシアとウクライナは、原油や天然ガス、穀物などの重要な資源の産出国です。両国の紛争により、これらの資源の供給が滞り、価格が高騰しました。
また、コロナ禍の経済回復(2023年)に伴う需要増加も、物価高の一因となっています。コロナ禍で落ち込んだ経済が回復し、モノやサービスの需要が急増しました。これにより、価格が上昇するケースが増えました。
このように、原油や穀物などの資源価格の高騰、円安による輸入コストの上昇、コロナ禍の経済回復に伴う需要増加などが、物価高の原因となっています。
2023年11月現在、物価高は世界各国で進行しており、日本でも消費者物価指数(CPI)の上昇率は2.3%と、1998年8月以来の約25年ぶりの高水準となっています。今後も、物価高が続く可能性は高いと考えられます。
欧米諸国の宿泊料金の値上がり
欧米諸国の宿泊料金は、2023年に入ってから大幅に値上がりしています。
特に、2023年3月以降の値上がり幅が大きくなりました。これは、ロシアによるウクライナ侵攻の影響によるエネルギー価格の高騰や、コロナ禍からの経済回復による旅行需要の拡大などが原因と考えられます。欧米諸国の宿泊料金は、今後も値上がりが続く可能性があります。
主な主要都市の1泊当たりの宿泊料金の額です。(2023年11月現在の概算金額です。世界各地の宿泊料金は、Googleマップなどで「ホテル」で検索すれば料金を簡単に見ることができます。)
ヨーロッパ
ロンドン:34,908円
パリ:45,001円
ベルリン:27,944円
ローマ:40,544円
アムステルダム:44,017円
北アメリカ
ニューヨーク:48,988円
サンフランシスコ:36,607円
トロント:52,424円
バンクーバー:54,611円
シカゴ:43,978円
東京都内のホテルは、素泊まりで1万円くらいからあるので、海外とは比較になりませんね。
旅費法の宿泊料定額を超えるときの根拠法令
旅費法(国家公務員等の旅費に関する法律)で定められている宿泊料を確認します。人数が最も多い、「六級以下三級以上の職務の級」で見てみましょう。旅費法の別表第一と第二です。
宿泊料単価(1泊あたり、単位:円)
国内 主要都市 10,900円 その他 9,800円
海外 主要都市 19,300円 その他 11,600円
国内であれば定額の範囲内で(2023年現在は)泊まれそうですが、海外は明らかに無理です。旅費法で定める宿泊料では泊まれません。
では、宿泊料が定額を超えた場合に支払うことはできるでしょうか?
まず根拠法令を確認しましょう。
旅費法の中にある「調整」規定を適用することになります。調整は、実費を超えた旅費を減額する場合と、定額では不足する旅費を増額する場合を定めています。次のように、最初の第一項で減額調整を定めていて、第二項で増額調整を定めています。
国家公務員等の旅費に関する法律
(旅費の調整)
第四十六条 各庁の長は、旅行者が公用の交通機関、宿泊施設等を利用して旅行した場合その他当該旅行における特別の事情に因り又は当該旅行の性質上この法律又は旅費に関する他の法律の規定による旅費を支給した場合には不当に旅行の実費をこえた旅費又は通常必要としない旅費を支給することとなる場合においては、その実費をこえることとなる部分の旅費又はその必要としない部分の旅費を支給しないことができる。
2 各庁の長は、旅行者がこの法律又は旅費に関する他の法律の規定による旅費により旅行することが当該旅行における特別の事情により又は当該旅行の性質上困難である場合には、財務大臣に協議して定める旅費を支給することができる。
国家公務員等の旅費に関する法律の運用方針について
(略)
・・追つて、国家公務員等の旅費に関する法律(昭和二十五年法律第百十四号。以下「法」という。)の規定により各庁の長が財務大臣に協議して定めることを必要とされる事項についても、本運用方針によつて処理される場合には、所定の協議を経たものとして取扱うこととし、また、従前の運用方針に基いて決定された基準についても本運用方針の趣旨に反しない限り、なお、従前の例によつて取扱つて差支えないこととするから、併せて承知せられたい。
(略)
第四十六条関係
第二項
8国際会議等に出席するため内閣総理大臣、国務大臣、内閣官房副長官、副大臣、大臣政務官又は国会議員の外国旅行に同行する者が同一の宿泊施設に宿泊しなければ公務上支障を来たす場合、又は国際会議等において外国政府等より宿泊施設の指定があり当該宿泊施設以外に宿泊することが困難な場合には、宿泊料定額を超過して現に支払つた額を上限として、各庁の長が適当と認める額については、増額して支給することができるものとする。
地方自治体は、それぞれの条例で定めています。参考に神奈川県がわかりやすいので掲載します。
神奈川県 職員の旅費及び旅行に要する費用の弁償に関する条例
第34条 任命権者は、旅行者が公用の交通機関、宿泊施設等を利用して旅行した場合、その他当該旅行における特別の事情により又は当該旅行の性質上この条例の規定による旅費を支給した場合には、不当に旅行の実費を超えた旅費又は通常必要としない旅費を支給することとなる場合においては、その実費を超えることとなる部分の旅費又はその必要としない部分の旅費を支給しないことができる。
2 任命権者は、旅行者がこの条例の規定による旅費により、旅行することが当該旅行における特別の事情により又は当該旅行の性質上困難である場合には、その必要とする部分の旅費を支給することができる。
急激な物価高や、為替レートの変動によって、高い宿泊料金でないと泊まれないときは、この調整規定を適用して旅費を支給することになります。
なお財務省は、令和6年に定額部分の見直しなどを含めて旅費法を改正できるよう準備を進めているようです。
定額を超えた宿泊費を確認する方法
旅費法の定額料金では不足することが明らかなときは、次の書類を提出して旅費担当者に確認してもらいましょう。
(概算払いの場合)
航空賃とホテル代の明細がわかる、旅行代理店の見積書
近隣ホテルの料金一覧(旅行代理店へ近隣のホテルの宿泊料金の資料をもらったり、Googleマップなどで「ホテル」で検索すれば料金入りの資料が手に入ります。)
(精算払いの場合)
ホテルの領収書(金額の内訳がわかるもの)
上記と同じ近隣のホテル料金一覧
ホテルの領収書の金額を確認するときは、アルコール代は除外しなければなりません。通常の食事代は含めて構いませんが、ビールやワインなどの酒代を除くこと(〇〇円は自己負担とすること)を領収書に付記して提出しましょう。
定額を超えた旅費を請求するときは、出張者本人が資料を揃えて旅費担当者へ提出しなければなりません。必要な費用の証明義務は、出張者本人です。当然のことですが、外貨については日本円へ換算してから提出します。組織内でレートの基準日が定めてないときは、出張時のレートを出張者本人が調べて、外貨の隣へ鉛筆書きで日本円へのレート計算をメモしてから提出します。クレジットカードであればレートも請求明細に記載してあります。
海外出張では、旅費担当者にわかりづらい書類を提出してしまうと、後回しになり、旅費支給が数か月遅れることがあります。(わかりやすい資料が揃った旅費書類を優先して支払処理するからです。)
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