一般競争入札は、公平・公正でなければなりません。入札手続きを例にして、公平性と公正性をわかりやすく解説します。特に、入札関係書類を配布するときに、名刺をもらい忘れると大変です。仕様書の修正は全員へ公平に伝えなければなりません。
公平公正な開札手続き
官公庁が実施する競争入札は、公平・公正でなければなりません。開札のときには、公平・公正に行われていることを証明するため、入札者の立会いが必要です。入札者が立ち会わない場合は、第三者を立ち合わせなければなりません。
予算決算及び会計令
第八十一条 契約担当官等は、公告に示した競争執行の場所及び日時に、入札者を立ち会わせて開札をしなければならない。この場合において、入札者が立ち会わないときは、入札事務に関係のない職員を立ち会わせなければならない。
地方自治体も同様に定めています。
地方自治法施行令
第百六十七条の八 一般競争入札の開札は、(略)公告した入札の場所において、入札の終了後直ちに、入札者を立ち会わせてしなければならない。この場合において、入札者が立ち会わないときは、当該入札事務に関係のない職員を立ち会わせなければならない。
入札を執行する官公庁側も、入札へ参加する民間企業側も、お互いに不正が行われないよう、チェックしているのです。目の前で入札を実施することで不信感を払拭しているわけです。
入札を実施するときは、開始時刻も厳守します。私は秒単位で厳格に開始時刻を守っていました。入札会場内で厳格に振舞えば、空気も張りつめて不正はおこりません。
また入札金額と開札結果は、参加者全員へ聞こえるよう、大きな声で読み上げます。入札参加者全員へ金額を知らせることが重要です。(WEB上で行う電子入札では、相手の顔が見えないので、以下のような厳格な入札は実施できません。)
「公平」と「公正」の違い
公平と公正は似ているように感じますが、意味は違います。比較の対象が異なるのです。
公平とは、比較の対象が存在し、取扱いに差がないことです。平等と似ていますが、誰に対しても平等であるのが公平です。「公」は、多くの人が感じるという意味が含まれています。誰もが平等であると感じることです。特定の企業を優遇しないことです。
開札手続きであれば、入札へ参加した全員に対して、平等に扱うことです。えこひいきしないことです。
入札結果を発表するときに、最も安い入札金額だけを読み上げることがあります。しかし公平性の観点からすれば問題です。入札者全員の金額を発表できる状況であれば、全員の入札金額を発表すべきです。
入札者が50社とか多い場合は、時間を節約する意味で、事前に参加者全員の了解を得た上で、最安値のみを発表する方法でも問題ありません。しかし、数社程度なら発表すべきです。ライバル会社の入札金額は知りたいものですし、その後の営業にも役立つ情報です。参加者全員の入札金額を発表しないと、本当に入札しているのか不信感も生まれます。価格競争が正しく行われたのか疑念が生じてしまいます。
もし入札者が多数で、全員の入札金額を読み上げるのに時間がかかり負担になる状況であれば、事前に全員の了承を得てから、最安値の入札金額だけを発表します。この場合には、入札参加者全員に対して、「今回の入札は50社と多数なので、皆さんの負担を軽減するために、最も安い金額だけを発表することにしたいと思うのですが、よろしいでしょうか?」と事前に了承を求めます。1社でも全員の入札金額を知りたい人がいれば、たとえ時間がかかっても発表するべきです。(私は、実際に4時間くらいかけて開札したことがあります。後半には参加者全員が意識朦朧となるほどでした。特に狭い会場だと、熱気で酸欠状態になります。)
次に、公正とは、比較の対象がなく、あることに対して誰もが正しいと思い、納得できることです。多くの人が、会計法令どおりに進めていると感じることです。
開札手続きを例にすれば、会計法令に基づいて、厳格に手続きが進められていることです。この厳格さは、張りつめた雰囲気の中で、お互いをチェックすることで生まれます。開始時刻を秒単位まで厳格に守ったり、入札金額の発表を威厳のある大きな声で行えば、お互いが緊張し、より厳しく正しい手続きになるのです。
厳格な雰囲気の中で開札を実施すれば、誰もおしゃべりなどしません。目つきも真剣になり、不正も起こらないのです。お互いが顔を見ることで、不正を防止できます。不思議なもので、表情を見れば、正しく入札しているかわかるものです。
入札者の立ち会いを事前に確認
入札書を事前に提出してもらっている開札手続きでは、開札日の前日に参加の有無を電話で確認します。開札した結果、1 回目の入札金額が予定価格を超えて落札しない場合に、直ちに 2 回目の再度入札を行うためです。
一部の入札者が参加しないと、2 回目の再度入札をその場で実施することができません。入札参加者全員が揃っていない場合は、再度入札を保留し、あらためて入札参加者全員の日程を調整した上で、別の日に2回目以後の再度入札を実施することになります。これは官公庁側だけでなく、入札に参加する人にとっても相当な負担です。契約締結時期も遅れてしまい、極めて効率の悪い入札手続きになってしまいます。そのため前日には、開札に立ち会うことができるか、必ず確認しておきます。
開札日当日に入札書を提出してもらう場合は、立ち合いの事前確認は必要ありません。当日参加しないということは、入札を辞退したことになります。参加者だけで入札を実施します。
開札日前に入札書を提出してもらうケースは、同等品の入札を認めている場合など、開札前に技術審査を実施することが多いです。
入札説明書は名刺と引き換えに渡す
入札公告を見て尋ねてきた営業担当者へは、入札説明書を渡すときに、必ず名刺を受け取ります。営業担当者の名刺は、入札参加資格の事前確認、入札関係書類を修正した場合の連絡に必須です。
会社名と営業担当者を確認せずに、入札関係書類を渡してはいけません。隣の係も含めて、周りの人へ「名刺と引き換えに入札説明書を渡す」ことを徹底しておきます。入札関係書類を取りに来た人がいたら、必ず、名刺と交換で渡すように周知しておきます。
実際には、入札公告が公開される前日に、入札説明書と仕様書の配布分をセットしておきます。入札公告を見て、入札関係書類を取りにくる人の人数を想定し、予備も3セットくらい含めて準備します。配布資料が入る大きな封筒に入れ、封筒の表紙に「必ず名刺と引き換えに書類を渡してください。」と赤のマジックで注意書きしておくと忘れません。
社名を手書きでメモする一覧表も入れておくとわかりやすいです。資料を渡すときに社名と日時をメモしておくと安全です。もし名刺を忘れた人がいたら、(かなり怪しい営業担当者ですが)白紙の用紙に、会社名、住所、営業担当者名、電話あるいはメールを手書きしてもらいます。
入札者の連絡先が不明で取りやめに
万が一、名刺を受け取らずに入札関係書類を渡してしまうと、次のような悲しい事態になります。
入札関係書類を持ち帰った会社が、矛盾している内容に気付き、確認のため電話してきたとします。官公庁側で仕様書の内容を再確認したところ、勘違いして間違った内容を記載していることが判明し、文言の修正が必要になりました。
修正後の内容であれば、当初の内容よりも安い金額で入札できます。
このような事態が発生すれば、入札金額を積算するための前提条件が変わってしまいます。内容が変更になったことを知らないで入札に参加すれば、公平な入札ができないことになります。
一部の入札者だけに修正内容を伝え、有利になる状況で入札を実施すれば、修正内容を知らない入札者にとって不公平です。完全に公平性が失われ、正しい価格競争ができません。
入札前の修正であれば、入札に参加しようとする営業担当者全員へ、メールあるいはFAXで一斉に修正内容を伝えなければなりません。修正内容を送信した後は、電話などで相手方が修正内容を把握したか確認します。もしメールで連絡するときは、「修正内容を確認しました」と返信してもらいます。
入札手続きでは、公平性が最重要です。修正内容を全員に伝えるのは当然の手続きです。
では、修正が必要なときに、もし連絡先が不明だった場合、どうなるでしょうか?
修正の連絡ができなかった会社が落札できず、落札した他社の安い金額を不信に思い、問い合わせしてきたとします。次のようなことになるでしょう。
落札できなかった会社
「この仕様では、落札者の入札金額では実施不可能なはずです、癒着や出来レースではないですか?」
官公庁側
「いや、仕様書が変更になりましたので、安い入札金額でも可能です。」
落札できなかった会社
「え、私の方はそんな話は聞いていないし、修正後の仕様なら、私の会社の方がもっと安く入札できました。変更の連絡もなく、特定の会社へ有利な状態で入札を行うのは公平とはいえず、無効な入札ではないですか」
こうなると、もう入札手続きの公平性・公正性が完全に失われてしまいます。契約手続きを中止し、関係者へ謝罪して入札をやり直すしかありません。大変な思いをした入札手続きが徒労に終わり、悲しい事態になります。
さらに落札した会社が発注の手配を進めていれば、今度は契約手続きを中止することが問題になります。入札をやり直すことにすれば、落札した会社の方から契約を中断できないとクレームが入り、損害賠償として訴えられる可能性さえもあります。
もう泥沼状態に陥ります。名刺 1 枚もらい損ねただけで、甚大な被害を被ることがあるのです。
なお、入札説明書や仕様書などの関係書類を手渡しせず、WEB上からダウンロードする場合も、仕様変更等の連絡方法を具体的にアナウンスしておかないと同様なトラブルになります。特に電子メールは、システムの不具合で相手方へ届かない場合があるので、とてもリスクがあります。やはり電話が一番安全です。
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