官公庁の一般競争入札へ「参加させないことができる者」についての解説です。一般競争入札は、不特定多数の者が参加できますが、一定の基準があります。契約を安全に履行するために、過去に不正行為を行った人は排除されてしまいます。正当な理由なく契約を履行しなかった場合などです。
入札へ参加させない任意規定
一般競争入札への参加資格は、次のとおり法令で定められています。国の場合は予算決算及び会計令(予決令)、地方自治体は地方自治法施行令(施行令)です。
〇入札へ参加できない者・・予決令 70、施行令167-4-1
〇入札へ任意に参加させない者・・予決令 71、施行令167-4-2
〇さらに特別な資格が必要な場合・・予決令 73、施行令167-5-2
ほとんどの入札では、安全に契約を行うために、上記三つのすべてを入札参加条件としています。この解説では、「入札へ任意に参加させない」ことができる場合を解説します。予算決算及び会計令第七十一条、地方自治法施行令第百六十七条の四第二項です。
なお、参考情報ですが、入札へ参加する企業は、「競争参加者」や「入札参加者」と法令上は記載されています。「者」として個人を表しているのは、契約できるのが意思判断を持つ人間のみだからです。法人自体は意思を持っていません。法人や公的組織は、人の集まりに過ぎません。バーチャル的な存在です。
そのため法人としての会社は、代表者が最終的に意思決定することになります。代表取締役社長のみが会社の契約権限を持っているので、「者」となります。「者」とは、会社を代表して権限を有する人を指しています。会社自体は、人間ではないので意思を持っておらず判断できないからです。
それでは最初に法令を確認します。
予算決算及び会計令
第七十一条 契約担当官等は、一般競争に参加しようとする者が次の各号のいずれかに該当すると認められるときは、その者について三年以内の期間を定めて一般競争に参加させないことができる。その者を代理人、支配人その他の使用人として使用する者についても、また同様とする。
一 契約の履行に当たり故意に工事、製造その他の役務を粗雑に行い、又は物件の品質若しくは数量に関して不正の行為をしたとき。
二 公正な競争の執行を妨げたとき又は公正な価格を害し若しくは不正の利益を得るために連合したとき。
三 落札者が契約を結ぶこと又は契約者が契約を履行することを妨げたとき。
四 監督又は検査の実施に当たり職員の職務の執行を妨げたとき。
五 正当な理由がなくて契約を履行しなかつたとき。
六 契約により、契約の後に代価の額を確定する場合において、当該代価の請求を故意に虚偽の事実に基づき過大な額で行つたとき。
七 この項(この号を除く。)の規定により一般競争に参加できないこととされている者を契約の締結又は契約の履行に当たり、代理人、支配人その他の使用人として使用したとき。
2 契約担当官等は、前項の規定に該当する者を入札代理人として使用する者を一般競争に参加させないことができる。
地方自治法施行令
第百六十七条の四
2 普通地方公共団体は、一般競争入札に参加しようとする者が次の各号のいずれかに該当すると認められるときは、その者について三年以内の期間を定めて一般競争入札に参加させないことができる。その者を代理人、支配人その他の使用人 又は入札代理人として使用する者についても、また同様とする。
一 契約の履行に当たり、故意に工事、製造その他の役務を粗雑に行い、又は物件の品質若しくは数量に関して不正の行為をしたとき。
二 競争入札又はせり売りにおいて、その公正な執行を妨げたとき又は公正な価格の成立を害し、若しくは不正の利益を得るために連合したとき。
三 落札者が契約を締結すること又は契約者が契約を履行することを妨げたとき。
四 地方自治法第二百三十四条の二第一項の規定による監督又は検査の実施に当たり職員の職務の執行を妨げたとき。
五 正当な理由がなくて契約を履行しなかつたとき。
六 契約により、契約の後に代価の額を確定する場合において、当該代価の請求を故意に虚偽の事実に基づき過大な額で行つたとき。
七 この項(この号を除く。)の規定により一般競争入札に参加できないこととされている者を契約の締結又は契約の履行に当たり代理人、支配人その他の使用人として使用したとき。
上記条文は、いずれも「・・参加させないことができる。」と定めています。「・・できる」なので任意です。任意なので、適用しなくても違法ではありません。この条文を入札公告へ記載せずに、入札へ参加させることも法令上は可能です。
つまり、条文を適用するかどうか、裁量の余地が残されている点に注意してください。しかし条文の内容を見ると、どれも危ないです。とても信頼できる相手とはいえません。怖すぎてリスクが高いので、通常は入札へ参加させません。もし入札へ参加させ、トラブルが発生したら、「それ見たことか!」と契約担当者はものすごく責められるでしょう。
不正行為の具体例
それでは、条文の中でわかりづらい部分を解説します。上段に国の予算決算及び会計令(国)、下段に地方自治体の地方自治法施行令(地)を並べて掲載します。
(国)
二 公正な競争の執行を妨げたとき又は公正な価格を害し若しくは不正の利益を得るために連合したとき。
(地)
二 競争入札又はせり売りにおいて、その公正な執行を妨げたとき又は公正な価格の成立を害し、若しくは不正の利益を得るために連合したとき。
第二号は、マスコミ報道で不正事件として報道される談合や贈収賄事件です。刑法の競争入札妨害罪に該当しなくても、悪い宣伝などを流し特定の者が有利になるような行為も該当します。また談合罪の判決を受けなくても、談合の事実が明らかであれば該当します。
(国)
三 落札者が契約を結ぶこと又は契約者が契約を履行することを妨げたとき。
(地)
三 落札者が契約を締結すること又は契約者が契約を履行することを妨げたとき。
第三号は、契約の締結や履行が妨害されたときに、ペナルティを課す条文です。実際の事例は、私も経験がありません。ほんとに稀な珍しいケースです。官公庁との契約を、第三者が妨害する行為です。落札できなかった腹いせに、落札者が契約を締結することを妨害したり、契約の履行に必要な材料の仕入れの妨害などです。間接的な嫌がらせまで含みます。よほど恨みがある場合なのでしょう。
(国)
五 正当な理由がなくて契約を履行しなかつたとき。
(地)
五 正当な理由がなくて契約を履行しなかつたとき。
ときどき判断に迷うのが、この第5号です。 実際の契約でも問題になることがあります。契約の期限が守られない場合などです。
物品の売買契約や製造契約で契約書を取り交わし、納入期限を定めているのに守られない場合です。よくある例は、当初の計画に比べ、他からの受注が増えてしまい、期限までに納入できないケースです。経営的な判断から、利益の多い他の契約相手を優先するために納入期限を延長したいとの申し出があった場合です。
他の客を優先するような場合は、正当な理由とはいえません。正当な理由がなくて納入期限を守らなければ、この第5号を適用し、次回以降の入札に参加させません。
正当な理由の判断
ここで判断に悩むのが、「正当な理由」とは何かということです。
「正当な理由」とは、契約の相手方に責任がないことです。誰が考えても仕方がないと判断できる場合です。いくら努力しても無理な状況です。例えば天災などの自然災害です。地震や風水害、隣家からの火事などに被災し、契約が履行できなくなった状況です。2020年の新型コロナウイルスの感染拡大も該当します。従業員が感染し業務ができなければ契約も困難になります。
自然災害などの明確な理由であれば、契約の相手方から納入期限の延長願いを提出してもらいます。災害の起こった状況を時系列にまとめ、被災状況のわかる新聞記事などを証拠書類とします。相手方に責任がないことが確認でき、正当な理由による納入期限の遅延であれば、この第5号は適用されません。
勘違いしやすいのが、上述したような「儲けるために他の取引先を優先する場合」です。契約を締結したときには予想していなかった他からの受注を多く受けてしまい、本来は納入期限を守れるのに、他の取引先を優先するケースは、正当な理由には該当しません。経営判断という責任が明確に存在するからです。もし「他の取引先を優先させたいので納入期限を延長して欲しい」との申し出があれば、官公庁は拒否するしかありません。
その他のケースとして、発注者である官公庁側の事情によって、納入期限が遅延する場合があります。当初想定していなかった仕様書の変更、納入場所の変更などが生じるケースです。この場合は、契約の相手方には責任はありません。正当な理由が存在します。
官公庁側の事情により、納入期限を延長する場合には、理由書を作成します。契約の相手方には責任がないことを明確に書面に残しておかないと、この第5号の規定により後日トラブルが生じてしまいます。
また、冷たいように感じるかもしれませんが、正当な理由がない場合の中に、民間企業の経営悪化も含まれます。経営や資産状態の悪化は、まさしく自己責任です。自然災害のような不可抗力ではありません。
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