官公庁が予算を使うときは、会計年度を守らなければなりません。3月から4月にかけて会計年度が切り替わるときに、契約代金を支払うときには、新年度と旧年度の区別が必要です。会計年度の判断は、期間で判断する方法と、検収日で判断する方法があります。
会計年度所属区分とは
官公庁の会計実務では、会計年度についての知識が必須です。会計年度は4月から翌年3月までの一年間です。そして官公庁の予算は、会計年度ごとに国会や議会で承認されます。ひとつの会計年度のみで有効な予算を単年度予算といいます。
官公庁が民間企業と契約するときも、単年度予算かどうか、常に意識して事務手続きを進めなければなりません。単年度予算であれば、翌年度にかかる契約はできません。
官公庁の予算は、原則として会計年度ごとに使用します。特に3月の年度末から4月の新年度にかけて支払手続きを行うときは、歳出の会計年度所属区分を守らなければなりません。
会計年度は、4月から翌年の3月末までと財政法第十一条で定められています。そして支払処理をするときは、予算決算及び会計令(予決令)第二条の会計年度所属区分に基づきます。予決令第二条は、歳出の会計年度の区分方法です。
予算決算及び会計令
第二条 歳出の会計年度所属は、次の区分による。
四 使用料、保管料、電灯電力料の類はその支払の原因たる事実の存した期間の属する年度
五 工事製造費、物件の購入代価、運賃の類及び補助費の類で相手方の行為の完了があつた後交付するものはその支払をなすべき日の属する年度
上記の予決令 第二条 第一項 第四号と第五号は、3月から4月にかけて支払手続きを行うときに、ぜひとも意識したい条文です。旧年度の予算から支払うのか、新年度の予算で支払うのか、根拠法令を確認しながら手続きを進めましょう。単年度会計(会計年度毎に収支決算を完了させるという意味。)の基本的な考えです。
歳出予算を使用して、物品を買ったり、工事をしたり、何かの業務を依頼し、代金を支払う場合には、必ずこの条文を確認しましょう。
期間で会計年度を判断する第四号
最初に上記の予決令 第二条 第一項 第四号の解説です。
「使用料、保管料、電灯電力料の類」は、その支払の原因たる事実の存した期間で会計年度を区別します。「支払の原因たる事実の存した期間」とは使用期間のことです。
この条文の判断は、期間単位で考えます。例えばレンタル物品の賃貸借契約では、3月31日まで借りたレンタル料金は、3月分として旧年度予算から支払います。検収日や支払日がレンタルを終えた4月以降になったとしても、3月の旧会計年度の予算で支払います。電話料なども同様に期間で判断します。3月1日から3月31日までの電話料であれば、請求書が4月に届いて使用量を実際に確認したのが4月であっても、3月分の旧会計年度で支払います。
主な例として、電気料、電話料、水道料、レンタル料、倉庫での保管料などがあります。これらは期間として捉え、その期間の属する会計年度に区分されます。3月分であれば旧年度予算、4月分であれば新年度予算で支払います。
検収日で会計年度を判断する第五号
次に第五号の「工事製造費、物件の購入代価、運賃の類」です。多くの契約が該当する条文です。
上述の第四号は期間で会計年度を判断していました。しかし第五号は検収日で判断します。予決令 第二条 第一項 第五号の「支払をなすべき日」とは、給付の完了を確認した検査完了日(検収日)です。物品購入契約であれば納品検査を行った日、工事契約や製造契約、役務契約であれば、契約内容が完了したことを確認した検査日です。検収日が、支払をなすべき日です。検収が完了することで契約代金を支払わなければならないという債務が発生するからです。
検収完了日 = 代金支払義務発生 = 支払をなすべき日
例えば納入期限が年度末の物品購入契約で、3月31日に物品が納品され、納品検査(検収)日が4月1日になった場合は、新年度予算で支払うことになります。納品日3月31日の会計年度で区分するのではなく、検収日4月1日の新年度に区分されます。検収日が4月以降であれば新年度の歳出予算で支払うことになります。旧年度の歳出予算は使えません。
具体例としては、注文した商品が宅配便で3月31日にダンボールに入って届いたとしましょう。契約担当者が3月31日に外出していて不在でした。担当者が不在なのでダンボールはそのまま開封されずに机の横に置いたままです。翌日の4月1日になって担当者が出勤してから商品が届いていることに気付き、ダンボール箱を開けて中身の商品を確認しました。注文どおり(契約内容どおり)の商品であることを4月1日に確認したのです。すると4月1日が検収日になります。
重要な点は、第五号の「支払をなすべき日」です。納品日ではなく、発注者である官公庁側の契約担当者が契約内容を確認し、検収を完了した日です。
官公庁の契約手続きは、民間企業同士の取り引きとは異なります。国民の税金を使用するため、手続きが厳格に法令で定められています。納品されただけでは代金を支払うことになりません。検収(給付の完了の確認検査)が必須です。検収を完了することで支払の義務が発生します。
納品検査(給付の完了の確認、検収)については、別記事で解説しています。(会計法29-11、予決令101-4、契約事務取扱規則20、遅延防止法5)

そのため契約書や請書には、給付の完了の確認のための検査に関することを明記しなくてはなりません。納品時に、発注者が納品検査(給付の完了の確認、検収)を行なうことを明記します。
実務上、判断に迷う例としては年度末納品が多いです。次のように考えるとわかりやすいです。
物品の購入契約や役務契約は、納品日でなく発注者の検収日で年度が区分される。
例
納品日が3月31日で、検収日が4月1日なら新年度予算
3月分の清掃業務の検収日が4月1日なら新年度予算
3月分の保守契約の検収日が4月1日なら新年度予算
3月31日配達の雑誌について、検収日が4月1日なら新年度予算
新聞の会計年度所属区分
新聞の場合には、擬制的に検収日を設定することが一般的に認められています。
新聞は、毎日届くのが社会的な常識です。3月31日が土曜日あるいは日曜日などの閉庁日であっても、必ず配達されています。(家庭でも土日や休日、留守中にも配達されています。)
配達された新聞を実際に目で見て検収確認するのが4月1日であるとしても、検収日を擬制的に3月31日として、旧年度予算で支払う方が多いです。(実際には3月31日に出勤していなくても、誰が考えても新聞は配達されていると看做せるからです。)
しかし当然ながら、3月31日に配達された新聞について、検収日を4月1日と記載して支払処理すれば、旧年度での支払いは認められず、新年度の予算で支払うことになります。
新聞の検収日について、以下の質疑応答が過去にありました。著作権の関係で全文は記載できませんが、参考に一部を抜粋します。
「会計検査情報」昭和62年7月2日 第1720号
タイトル「新聞購読料の年度所属区分及び検査確認について」
質問内容
(略)例えば、三月三一日納入で検収が四月一日に行われたとき、当所の場合、当該契約期間の翌月の初日に検収を行っていますが、その検収の日付は擬制的に前月の末日の日付を記入しており、(略)このように検収日付を擬制化しでもよいものでしょうか。(略)
答
(略)新聞の購読契約のように全体として単一の基本的債権関係が存し、これより時間的に区切られた個々の部分給付をなすべき支分的債権関係が派生するとみられるような契約の場合、当該契約期間の末日又は翌日に、全体の債権関係につき検査を行うとすることも、適正な予算執行の管理に支障を及ぼさない限度内にある限り認められるものと考えられます。(略)
もし新聞の検収のためだけに休日出勤しているなら、公務員として本末転倒です。税金を無駄に使わないという観点からも、新聞の検収(常識的に配達されているのに)のために休日出勤するのは疑問です。他に重要な用務があって、ついでに新聞の検収をするならわかりますが、新聞の検収のためだけに休日出勤手当を支払うのは非常識でしょう。
保守契約や修理契約の会計年度区分
エレベータや機械設備などの保守契約や修理契約は、第四号ではなく第五号に該当します。期間ではなく検収日で会計年度を区分します。
例えば3月分のエレベータ保守契約の支払を考えてみましょう。年間契約を締結していたとしても第5号が適用されます。そのため3月分の検収日を4月1日と記載してしまうと、新年度の予算からしか支払いできません。旧年度予算で支払えなくなります。
土日には閉庁するためエレベータを使う人がいなくて、保守の必要がなければ検収日を3月29日などにすることも可能かもしれません。しかし休日の3月31日夜中12時までエレベータを運転し、契約担当職員がその時点では不在であれば、翌日が実際の検収日です。そのため検収日を犠牲的に3月31日とし旧年度予算で支払うことになります。エレベータの保守は24時間体制であることが常識として認められているからです。
しかしエレベータの修理であれば、検収日で会計年度を区分します。4月1日以後の検収日であれば新年度予算になります。
歳出の会計年度所属区分のまとめ
電気、ガス、水道、レンタルなどは期間で会計年度を判断します。検収日が4月以降でも3月分は旧年度予算で支払可能です。
売買契約、製造契約、工事契約、役務契約、保守契約などは検収日で会計年度区分を判断します。3月31日までに検収を完了しないと旧年度予算では支払えません。
物品購入契約などでは、納入期限を3月31日の年度末に設定せず、3月30日とか3月29日に設定し、翌日に検収を行えるようにする方が安全です。
地方自治体の会計年度所属区分
上記の予決令 第二条は、国(各省庁)についての会計法令です。都道府県や市町村などの地方自治体は、地方自治法施行令で同様に定めています。
地方自治法施行令
第百四十三条 歳出の会計年度所属は、次の区分による。
(一号、二号は略)
三 (略)、賃借料、光熱水費、電信電話料の類は、その支出の原因である事実の存した期間の属する年度。ただし、賃借料、光熱水費、電信電話料の類で、その支出の原因である事実の存した期間が二年度にわたるものについては、支払期限の属する年度
四 工事請負費、物件購入費、運賃の類及び補助費の類で相手方の行為の完了があつた後支出するものは、当該行為の履行があつた日の属する年度
国の予決令と同じように、会計年度の所属区分として、期間で判断するもの、検収日で判断するものを定めています。ただし地方自治体では、第三号のただし書きで「支払期限の属する年度」が明記されています。国の会計法令よりも緩やかに支払い処理できます。
毎日配達される新聞は、やはり検収日で年度区分することになっています。毎日届くことが常識であれば、期間として判断できるよう、会計検査院も明確な指針を出して欲しいものです。
そもそも新聞の検収をするために休日出勤するような法令解釈は、いかがなものかと思います。官公庁の組織だけで数千以上ありますから。たぶん新聞の検収のために休日出勤しているとなれば、時給3千円の人件費だけでも年間3千万円ほど税金が無駄になるでしょう。(官公庁すべての組織で1人出勤するだけで、1万人×3千円の試算、実際は半日くらい時間外手当で数倍の無駄になるかもしれません。)
コメント
記事を楽しく拝見させて頂いております。
新聞の年度所属区分の記事に記載されていることについて質問がございます。
新聞の検収日については、擬制的に検収日を設定することが認められているとのことですが、それが記載されている根拠のようなものはあるのでしょうか。
平成30年度末は土曜日でしたが、当庁においては、新聞の検収のために出勤している者もいたようです。
休日出勤する必要がないのであれば、それにこしたことはないと思っております。
何卒、よろしくお願い致します。
コメントありがとうございます。
新聞の検収日につきましては、明確な記憶がないのですが、かなり昔、「会計検査情報」の質疑応答欄にも記載されていたような気がします。見つけました、下記参照。
新聞の検収日が犠牲的に許容されているのは、一般社会において誰もが理解できるからです。土日の休日でも自宅に配達される新聞を読むことができますので、許容されることと思います。
逆に、新聞の検収のために休日出勤するというのは、勤務日を振り替えるにしても、国民の税金を使用するという意味から避けたいものです。
本来、会計検査院や財務省などから、明確な運用通知が欲しいです。
当然配達されている新聞を確認するために休日出勤して、超過勤務を支出するのは、本末転倒と考えます。
新聞の検収日について、以下の質疑応答が過去にありました。著作権の関係で全文は記載できませんが、参考に抜粋します。
「会計検査情報」昭和62年7月2日 第1720号
質問内容
タイトル「新聞購読料の年度所属区分及び検査確認について」
(略)例えば、三月三一日納入で検収が四月一日に行われたとき、当所の場合、当該契約期間の翌月の初日に検収を行っていますが、その検収の日付は擬制的に前月の末日の目付を記入しており、(略)このように検収日付を擬制化しでもよいものでしょうか。(略)
答
(略)新聞の購読契約のように全体として単一の基本的債権関係が存し、これより時間的に区切られた個々の部分給付をなすべき支分的債権関係が派生するとみられるような契約の場合、当該契約期間の末日又は翌日に、全体の債権関係につき検査を行うとすることも、適正な予算執行の管理に支障を及ぼさない限度内にある限り認められるものと考えられます。(略)