官公庁の契約実務では、請負契約、委託契約、雇用契約の選択が重要なポイントになることがあります。本記事では、これらの契約形態の違いと適切な利用シーンについて詳細に解説し、読者が正しい契約形態を選べる参考にします。これにより、法令遵守と効率的な契約実務の両立が可能となり、官公庁の契約担当者にとっての知識向上と日々の業務に役立ちます。
請負契約の根拠法令と特徴: 民法第632条を基にした実務適用と区分基準
請負契約の根拠法令は、民法第六百三十二条です。
民法
(請負)
第六百三十二条 請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
仕事に対して報酬を支払うのは、委託契約や雇用契約と同じです。請負契約のポイントは、仕事の結果として何かを完成させることです。何かを依頼して、それが完成した場合に報酬を支払うのが請負契約です。つまり完成品が存在します。もし完成品が存在しなければ契約不履行となり、契約代金(報酬)は支払いません。
また請負契約を締結するときは、派遣契約でないことを明確にしなければなりません。偽装請負にならないよう注意します。派遣と請負を区分する基準が、厚生労働省から通知されてます。
「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号)
請負契約の条件
1.完成品を引き渡すこと。
2.仕事の完成について、事業主として財政上及び法律上のすべての責任を負うこと。
3.自らの機械、設備、資材等を使用し作業を行い、単に肉体的な労働力を提供するものでないこと
4.発注者からの指揮命令を受けないこと
つまり請け負った仕事について、専門的な知識・経験に基づき、独立して完成できることです。独立という意味は、作業内容について発注者から指揮命令を受けないということです。
請負契約の例として、工事請負契約があります。例えば道路工事の「仕事の完成」という意味は、道路を完成させる(または道路の補修工事を完了させる)ことです。建物の建築工事なども請負契約です。建物を完成させることが契約内容になります。なお工事請負契約は、一定の品質が求められるため、工事を実施できる資格が法律で定められています。専門的な知識や技術がなければ施工できません。
委託契約の根拠法令: 民法第643条・第656条に基づく準委任契約の実務適用と理解
委託契約(業務委託契約)の根拠法令は、民法第六百四十三条と第六百五十六条です。委任の規定が準用されます。委任は法律行為が対象ですが、準用規定で、法律行為でない事務(仕事)を委託することと定めています。
最初に、委任の法律を確認します。
民法
(委任)
第六百四十三条 委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。
法律行為とは、民法などの法律で定められた強制力を持つ行為ということです。違反した場合に相手方へ強制的に損害賠償などを請求できる行為です。この法律行為が次のように準用されます。委任を準用するので、準委任といいます。委託契約は準委任契約です。
民法
(準委任)
第六百五十六条 この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。
わかりづらい部分は、「法律行為でない事務」という部分です。逆に考えるとわかりやすいです。法律行為の事務とは、契約の締結を誰かに委任したり、裁判のときに弁護士へ委任する行為などです。違反したときに強制力を持つ内容を任せる行為です。これら以外が法律行為でない事務の委託です。事務と記載されてますが、ここは広い意味です。事務処理などのデスクワークに限らず、何かを依頼して作業してもらうことです。何かの仕事をお願いすることが、「法律行為でない事務の委託」です。
委託契約は、民法上、準委任契約に分類されます。委託者が業務の処理を依頼し、受託者が引き受けることで成立する契約です。
この委託契約のポイントは、仕事の完成を求めてないところです。一定期間、何かを行なってもらったことに対して代金を支払います。完成品は必要なく、継続的な性質のものが準委任契約です。しかし実際の契約では、請負契約と委託契約の区別が困難な場合もあります。両方の内容が含まれる混合契約が多数存在します。
雇用契約の根拠法令: 民法第623条と労働契約法における実務理解
雇用契約の根拠法令は、民法第六百二十三条です。
民法
(雇用)
第六百二十三条 雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。
雇用契約は、労働に従事することを約束し、その対価として報酬を支払うことを約束することで成立する契約です。指揮命令下で働くことに対して給与が支払われます。
注意が必要なのは、労働契約法が2007(平成19)年から施行されたことです。民法上の雇用契約という形式に関係なく、総体的に判断して、労働者に該当すると看做されるときは、労働契約になります。労働契約の概念は広く、請負契約、委託契約であっても、働く人が労働者としての実態を備えていると、労働契約になります。
労働者かどうかの判断は次の2点です。
1.その者がその事業に使用されるかどうか(指揮監督、拘束性)
2.報酬が労務提供の対償としての賃金の性格を有するかどうか
まとめ 請負契約、委託契約、雇用契約
以上を簡単にまとめました。
請負契約と委託契約(準委任契約)の違い
請負契約は、仕事を完成させることが目的、完成品がある
委託契約は、仕事を行うことが目的、完成品はなく、継続的なもの
請負契約の例 建物を完成させること(完成しないと意味がない)
委託契約の例 清掃契約、警備契約、保守契約、事務処理の代行など、継続して行う仕事
ただし実際の契約では区別が困難なこともあります。両方が混ざっている契約も多いです。
契約書を締結するときに注意する点
請負契約を締結するときは、最終的な完成品の姿を詳細に決めておくこと。
委託契約を締結するときは、仕事のプロセス(継続的に行う作業内容)を詳細に決めておくこと。
民法では、売買契約の代理など、法律行為を依頼する契約が委任です。法律行為以外のものが準委任です。準委任も、民法上の委任の規定が準用されるので、考え方は実質的に同じです。
雇用契約は、個人に対して、上司の指揮命令の下で働くことを約束してもらい、対価として報酬を支払う契約です。指揮命令下で働くので、就業規則などの社内規則が適用されます。
業務、仕事、作業の違い
業務、仕事、作業の意味は、人によって様々です。区別する意味もないかもしれません。しかし契約書などへ記載するときは、なるべく誤解のないよう記述したいものです。参考情報です。
業務・・遂行すべき目標
仕事・・業務を遂行する手段
作業・・業務を細分化したもの、それぞれの細かい部分
なかなか使い分けはむずかしいですが、参考に記載しました。余計わかりづらいかも!
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