官公庁が毎年締結する契約の仕様書の作り方です。庁舎を維持管理する清掃契約や警備契約、設備の保守契約などは毎年契約を締結します。前回の仕様書を基に、どの部分をチェックして作成するのか、わかりやすく解説します。仕様書の作り方の基本です。
この解説の仕様書とは、官公庁が競争入札や随意契約を締結する際に作成する仕様書です。入札書や見積書を提出してもらうときの契約内容を提示する書類です。
官公庁が毎年締結する契約とは
官公庁が毎年締結する契約は、さまざまな種類のものがあります。特に建物を維持管理するための契約が多いです。清掃契約や警備契約は、ほとんどの官公庁で毎年必要です。
その他に設備の保守契約などもあります。エレベーターの保守管理、空調機の保守管理などです。
仕様書が必要になる契約は、一般競争入札や見積もり合わせに該当する契約です。どの契約が該当するか、基準額を把握しておくことも大切です。
例えば国の契約では、年間 100 万円以上の役務契約に該当すれば一般競争入札になります。地方自治体では、それぞれの条例で基準額が設定されています。
仕様書を作るときの心構えと考え方
仕様書の目的は、官公庁側が必要とする契約内容や契約条件を、わかりやすく提示することです。不公平にならないよう、誰に対しても同じ条件が提示できるよう書面にしています。
仕様書は、わかりやすい表現で書きます。法律や規則の条文のように難解な語句を使う必要はありません。法律の条文は、記述方法が厳密に定められています。法律用語の項とか号は典型です。
しかし仕様書は、一般の人が読むものです。弁護士や裁判官などの法曹関係者しか理解できないような難解な表現は必要ありません。むしろ法律用語のように難解な表現を使ってしまうと、間違って理解してしまい大きなトラブルになります。
仕様書の表現は、わかりやすいこと、これが最重要です。
基本となる記述方法は話し言葉です。誰かに説明するように記述します。
いくつかの条件を並べたり、抽出する際には、必ず箇条書きにします。文章のみで表現しようとすると、法律の条文のように難解な表現になってしまいます。誰も理解できない文章では意味がありません。
例えば、どれか一つの条件を満たせば良いのであれば次のようにします。
次のうち、ひとつ以上の条件を満たすこと。
◯・・
◯・・
すべての条件が必須であれば、次のようにします。
次に掲げる条件は、すべて必須です。
あるいは
次に掲げる条件をすべて満たさなければなりません。
◯・・
◯・・
また仕様書には、必要とする条件を書きます。あった方が良い、あるいは必須でないようなあいまいな条件は書きません。どうでも良い内容を書いてしまうと、逆にトラブルになります。
例えば、◯◯が望ましいと書いてしまうと、次のようなトラブルになります。
望ましい条件を満たした会社が契約を取れなかったときに、クレームが出てくるのです。望ましい条件を満たさない会社が契約を獲得したときです。
うちは望ましい条件を満たしているのに、契約できないのはおかしい!納得できない!
あいまいな条件が原因でクレームがついてしまうのです。契約を取り消す事態になることさえあります。
仕様書には必要な条件を書きます。なくても支障のない、あいまいな条件は極力排除します。
◯◯が望ましい、という条件を記載できるのは、例えば色見本で、同じ青だけれども、気持ち的に明るい青の方を選びたいなどです。どちらを選んでも影響ないような場合のみです。どの会社も簡単に対応できる場合です。
くどいようですが、仕様書の記述方法は、誰が見てもわかりやすい表現を使います。そして余計なことは書きません。
仕様書の作成を始める時期
毎年実施している契約であれば、仕様書の作成はそれほど大変ではありません。ただ日常の業務を行いつつ、 1 日のうちで半日とか 2 時間とか、自分で時間を工夫して作成することになります。余裕を持って入札公告予定日の 1 か月ぐらい前から開始しましょう。随意契約の場合は、契約締結伺い起案日の 1 ヶ月前から始めます。
2 週間で仕様書を作り上げ、その後 1 週間で決裁をとってWEBサイトへ入札公告を掲載します。
残業して集中的に仕様書を作るのであれば、入札公告の決裁を起案する日から一週間前に始めれば作成できます。
仕様書の作成は考えながら行います。集中して行なった方が断然効率的です。途中で電話に出たり、誰かから話しかけられると、作業が元に戻ってしまいます。途中までチェックが終わっていても、最初からやり直すことになります。
そのため私は、仕様書の作成は時間外に行うことが多かったです。残業手当になってしまうので、おすすめできませんが、日中は様々な仕事が舞い込んでくるので集中できません。周りの人が少なくなってから、なるべくひとりの状態で仕様書を作り始めることが多かったです。3 時間ぐらい残業できるのであれば、 5 日間程度で仕様書が完成します。
仕様書を作成する手順
毎年実施する契約は、次の手順で仕様書を作成します。
1 前回の電子ファイルを探しプリントアウトする。
2 新しいフォルダを作成し、前回の電子ファイルをコピーしておく。ファイル名を会計年度などで変えておくとわかりやすいです。
3 前回の契約関係書類を手元に置き、プリントアウトした仕様書を手作業でチェックする。
4 仕様書の修正が完了したら、全体的に眺めて、他の契約と記載項目を比較する。記載漏れがないか確認します。
5 前回の仕様書のチェックが完了したら、電子ファイルを修正する。
具体的な仕様書の作り方
最初に、前回の仕様書最終版の電子ファイルを探します。WORDや一太郎などの文書作成ソフトで作成してあります。まれに Excel などの表計算ソフトを使っていることがあります。ファイル形式や契約件名で探します。
前回の電子ファイルが見つかったら、コピーを作成して新しいフォルダーに入れます。前回の仕様書をプリントアウトします。電子ファイルは必ずコピーしてください。ファイルを移動させてしまうと過去のデータが消失してしまいます。
プリントアウトした前回の仕様書を、手作業で確認しながら修正していくことになります。手作業でないとミスします。電子ファイルを直接修正するのは危険です。どこを修正したかわからなくなり、結果的に修正不能に陥ります。チェックは、紙の書類を手作業で行います。
前回の契約関係書類を脇に置き、仕様書を1文字1文字確認しながら、ゆっくり読み進めていきます。
修正や追加するときは、必ず赤のボールペンを使います。主なチェックポイントは次のとおりです。
仕様書の日付を修正する
新しい日付に修正します。注意したいのは、一般競争入札を実施するときのスケジュールです。入札公告日、書類提出期限、開札日などを最初に設定します。スケジュールは上司とも相談します。大きなイベントと重なると関係者が不在になるなど契約手続きに支障が生じます。また随意契約の場合にも、契約締結までのスケジュールを上司と相談します。無理のないスケジュールを組み、それに合わせて仕様書の日付を修正します。
事前に予定しておく日
一般競争入札を実施するときは、最初に次の予定日を確定します。関係者が集まるときは会議室の予約も同時に行います。
〇入札公告日
〇入札書等の提出期限
〇技術審査の開催予定日
〇開札日
紙ベースの開札では、入札執行者が開札します。それぞれの組織によって入札を執行する官職名が定められているので確認しておきましょう。入札執行者へ相談しながら、早い時期に開札日時を設定します。開札時刻は午後2時がおすすめです。
また開札日までに予定価格を作成することになります。入札関係書類の提出期限から開札日までの間で予定家格を作成するので、2周間以上開けた方が余裕が出ます。
〇契約締結予定日
業務を開始するために準備期間が必要な場合があります。業務開始日から逆算して契約締結日を設定します。
日付が設定できたらメモしておき、仕様書の修正に入ります。
意味のわからない文章を直す
日付のチェックと並行して仕様書の文章をじっくり読みます。一字一句、句読点まで確認しながら読みます。そして頭の中で内容をイメージします。すぐに明確にイメージできるのであれば、修正の必要はありません。
何を言ってるのかわからない部分、すぐに理解できなくて、少し考え込んでしまうような表現は、わかりやすく修正したり補足説明を追加します。
文章を修正するときは、必ず赤のボールペンを使います。プリントアウトした前回の仕様書へ手書きで書き込みます。修正の必要のない部分は、チェック済としてレ点を記しておきます。
文章をチェックするときのコツは、頭の中でイメージしながら、ゆっくり読むことです。少し考えないと理解できない部分や、意味不明な文章は書き換えます。
意味がわからないところは、前任者に確認するのが一番です。文章は、作成した本人しか意図がわかりません。もし文章を作った人にも特別な意図はなく、修正しても影響ないようであれば、自分なりに、わかりやすく書き換えてしまいます。仕様書の内容でわからない部分をなくします。もしわからない部分があると、入札参加者にもわかりません。開札直前に必ず質問してきて仕様書の修正などで大騒ぎになります。
毎年実施するような契約は、仕様書を毎回見直すのが原則です。内容を見直さないまま日付だけ変えた仕様書は、会計検査院なども怪しい仕様書として不信感を持ちます。杜撰な契約書類としていろいろ指摘されることになるでしょう。
最終仕上げ、電子ファイルを修正する
日付と文章の修正が完了したら、次に全体的に見て、記載項目に漏れがないか確認します。種類が違う契約の仕様書と比較しながら、記載していない項目がないか確認します。
すべての修正が完了したら、赤字で修正した前回の仕様書を見ながら電子ファイルを修正します。赤字で修正した前回の仕様書は、そのまま大切に保存しておきます。後日何かトラブルが発生したときに役立ちます。また修正箇所がわかると、外部からの問い合わせにも対応しやすいです。自分の引き出しの中に保存しておけば、修正経緯がわかる貴重な勉強資料になります。
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