「入札参加者が一社しかいない」
「落札率が99%を超えてしまった」
こんなとき、会計実務担当者の胸をよぎるのは「官製談合」を疑われるのではないかという強烈な不安です。
マスコミ報道などで問題視されることの多い「一社入札」ですが、実はそれ自体が直ちに違法となるわけではありません。むしろ、一社入札を避けようとして無理な調整を行うことこそが、本当の不正(談合)への入り口となってしまう危険性があります。
本記事では、なぜ一社入札がなくならないのかという構造的な原因を解き明かしつつ、担当者が不当な疑いをかけられないために日頃から準備しておくべき「鉄壁の防衛策」を解説します。仕様書の作成から予定価格の積算、そして会計検査院への説明ロジックまで、実務経験に基づいた具体的なノウハウを公開します。正しい知識を武器に、自信を持って業務に取り組みましょう。
「一社入札」は悪なのか?その法的有効性
まず大前提として、一社入札(参加者が一社のみの入札)は、法的に有効なのでしょうか?それとも無効(やり直し)なのでしょうか?
結論から言えば、現在の多くの制度において、一社入札は「有効」です。
昔は無効だった?制度の変遷
かつては、入札参加者が一人しかいない場合、競争性が確保されていないとして「入札不成立」とし、再度公告入札を行う運用がありました。しかし、再度公告入札でも再び一社入札になることがあり、これでは調達の遅れが生じ、行政事務の効率が著しく低下してしまったのです。そのため、現在では多くの自治体や国の機関において、一般競争入札の場合、一社入札であっても、入札手続き自体が適正に行われている限り、有効な入札として取り扱うようになっています。
一社入札を問題視することの弊害
実は、一社入札を過度に問題視すること自体が、逆に不正を招く原因になることがあります。 「一社しか参加していないとまずい」と考えるあまり、担当者が親しい業者に頼んで、形だけ入札に参加してもらう(いわゆる「当て馬」や「付き合い入札」)をお願いしてしまったらどうなるでしょうか。これこそが、偽装された競争であり、官製談合(入札妨害)そのものです。
「一社入札は悪だ」という思い込みが、担当者を犯罪行為へと走らせるリスクがあることを、まずは強く認識してください。「一般競争入札では、一社入札は問題ない、むしろ無理に複数社を集めようとする方が危険である」というのが、実務上の正しいスタンスです。
なぜ「一社入札」はなくならないのか
担当者がどれほど広く参加を呼びかけても、一社入札はなくなりません。そこには、官公庁の調達特有の構造的な理由があります。
特殊すぎる仕様書(スペック)
官公庁の仕様書は、公平性を保つために特定のメーカー名を記載せず、「同等品以上」といった表現を使うことがあります。しかし、実質的にその仕様を満たせるのが、特定のA社製品しか存在しないというケースが多いのです。 特に、研究機器や特殊なシステム開発においては、特許技術や著作権など、独自のノウハウが必要となり、物理的に他社が参入できない「オンリーワン」の状態になっていることがあります。これを無理やり一般競争入札にかけても、結果として一社しか手を挙げられないのは当然の帰結です。
地理的・時間的な制約
例えば、離島や山間部での小規模な工事や、緊急を要する修繕業務などの場合です。 遠方の業者がわざわざコストをかけてまで参加するメリットがない場合、地元の業者一社しか応札しないことになります。これは「競争がない」のではなく、「市場原理として、そこしか供給できない」という状況です。 また、年度末の繁忙期に、極端に短い納期で発注された案件も同様です。「そんな短期間では対応できない」と他社が辞退すれば、無理を聞いてくれる、いつもの業者だけが残ることになります。
ベンダーロックイン
システム保守などでよく見られる現象です。最初にシステムを開発したA社でなければ、内部の構造がわからず、効率的な保守や改修ができないケースです。 他社が参入しようとしても、解析に膨大なコストがかかるため、価格競争でA社に勝つことができません。形式上は一般競争入札を行っても、実質的にはA社以外に参加するメリットがなく、一社入札となります。
「落札率99%=談合」という巨大な誤解
一社入札とセットで批判されるのが「高すぎる落札率」です。「落札率99%なんて、予定価格が漏れているに違いない」と短絡的に批判されることがありますが、契約実務を知る者からすれば、これは大きな誤解です。
正しい予定価格を設定すれば、落札率は100%に近づく
予定価格とは、官公庁が「この金額までなら契約できる、支払える」と設定した上限価格であり、適正な市場価格(実勢価格)に基づいて設定されるべきものです。 担当者が事前にしっかりと市場調査を行い、実勢価格を正確に把握して予定価格を設定したとします。入札に参加する企業も、適正な利益を含んだ実勢価格で見積もります。 両者が正しく「実勢価格」を見ているなら、予定価格と入札価格がほぼ一致するのは当然のことです。つまり、落札率100%に近いということは、官公庁側の価格調査が極めて正確だったという証明でもあるのです。
批判を恐れた「価格操作」こそが不正
マスコミや議会からの「落札率が高い」という批判を恐れるあまり、担当者が意図的に予定価格を吊り上げたり、業者に対して「もっと安く入札してくれ」と圧力をかけたりすることは、許されない不正行為です。 一社入札であろうと、落札率が高かろうと、そのプロセスと価格設定の根拠が正当であれば、堂々と胸を張るべき結果なのです。
官製談合を疑われないための鉄壁の防衛策
一社入札自体は違法ではありませんが、外部から「怪しい」と見られるリスクは残ります。会計検査院や内部監査、外部監査、さらには住民訴訟などのリスクから身を守るために、担当者が講じるべき具体的な防衛策を解説します。 キーワードは「プロセスの透明化」と「証拠の保存」です。
仕様書の作成プロセスを透明化する
最も疑われやすいのが、「特定の業者にしか対応できない仕様書をわざと作ったのではないか?」という点です。 これを防ぐためには、以下の点に注意してください。
- カタログの丸写しを避ける 特定のメーカーのカタログ数値をそのまま仕様書に記載すると、そのメーカーしか入札できなくなります。本当に必要な機能(スペック)だけを抽出し、幅を持たせた(他社製品が参入できる)記載にすることが重要です。
- 「同等品」の承認プロセスを明確にする 特定の製品名を例示品として挙げる場合は、「または同等品」と記載し、何をもって同等とするかの基準を数値で明確にします。入札前に同等品の確認申請を受け付ける期間を設けることで、他社の参入機会を確保したという「アリバイ」ではなく「実績」を作ります。もし同等品での提案があれば、技術審査委員会を開催し、議事録や会議資料も残します。
- 仕様書作成の経緯を残す なぜそのスペックが必要なのか、業務上の理由を明確にした「機種選定理由書」や「仕様策定の検討資料」を必ず決裁文書に残してください。「前任者のコピペです」は通用しません。
「参考見積」と「実例価格」で予定価格の根拠を固める
落札率が高くなったときに、「予定価格が高すぎたのではないか(甘かったのではないか)」と指摘されるのを防ぐ方法です。 大規模な契約の予定価格を作成する際は、一社だけの見積もり(参考見積書)に依存せず、以下の方法で「市場価格の妥当性」を証明する資料を揃えます。
- 複数の会社から参考見積書を取る 可能であれば2社以上から参考見積書(通常の取引価格を示す見積もり)を取得し、市場価格の相場を確認します。一社からしか取れない場合でも、カタログ価格やWeb上の販売価格などの資料を添付し、「この価格が適正である」という根拠を残します。一般競争入札の場合には、参加条件として、入札前に一般的な取引価格を示す参考見積書の提出を義務付けましょう。
- 「下見積書」という言葉を使わない 「下見積」や「概算」という言葉で業者に依頼すると、適当な高い金額を出されるリスクがあります。「参考見積書」として、正式な取引実例価格に近いシビアな金額を出してもらうよう依頼します。実勢とかけ離れた高い参考見積を鵜呑みにして予定価格を作ると、結果として落札率が下がり(業者は実勢価格で入札してくるため)、逆に「予定価格の積算が甘い」と指摘されます。
- 取引の実例価格を重視する 過去の類似契約の契約実績や、他自治体の事例などを調査し、それらと比較しても妥当な金額であることを記録します。納入実績の照会文書などを保存します。
入札公告期間と周知方法を見直す
「一社しか参加しなかったのは、周知期間が短すぎて他社が準備できなかったからではないか?」という指摘への対策です。
- 公告期間の確保 法令で定められた最低限の日数(例:10日間など)ギリギリではなく、可能な限り余裕を持った期間を設定します。特に仕様が複雑な案件では、入札参加希望者が積算するための十分な時間を与えることが、競争性を高める努力として評価されます。
- 積極的な呼びかけの記録 Webサイトへの掲載だけでなく、可能性のある営業担当者へ「入札公告を掲載しましたので、ぜひご検討ください」と電話やメールで案内した記録(送信履歴や電話メモ)を残しておきます。これは「特定の業者を優遇した」のではなく、「競争性を確保するために広く周知した」という証拠になります。
会計検査院への説明ロジック
もし、会計実地検査で「なぜ一社入札になったのか」「落札率が高すぎるのではないか」と調査官に問われた場合、どのように答えるべきでしょうか?
(緊張すると思いますが、)動揺せず、事実に基づいて論理的に説明することが重要です。
プロセスの正当性を主張する
「結果として一社でしたが、手続きとしては広く門戸を開いていました」と主張します。 「入札公告は1ヵ月間行い、5社に周知の連絡を入れました。仕様書についても、特定のメーカーに限定せず、機能要件を中心に作成しました。その結果、市場の判断として一社の応札となりました」と、プロセスに不備がなかったことを説明します。
価格の妥当性を主張する
「予定価格の作成にあたっては、A社だけでなくB社からも参考見積を徴取し、さらに過去の取引実例やWeb上の市場価格と比較検討しました。その結果設定した予定価格であり、今回の落札価格は市場価格として適正なものです。落札率が高いのは、予定価格が実勢価格を正確に捉えていた結果です」と説明します。
構造的な要因を説明する
「本件は、基幹業務のシステム改修作業のため、特許製品の端末や、プログラムの著作権という特殊な事情(地理的要因、特許技術、緊急性など)があり、他社の参入が困難な市場環境にあります」と、担当者の努力ではどうにもならない市場の限界を説明します。ただし、これは言い訳ではなく客観的な事実として説明する必要があります。実際に調査した結果、一社になってしまったという状況です。
まとめ:恐れずに「正しい手続き」を積み重ねる
一社入札や高落札率そのものは、決して悪ではありません。本当に怖いのは、それを隠そうとしたり、批判を恐れて数字を操作しようとしたりする「担当者の心の弱さ」が引き起こす不正です。
- 仕様書は公平に作ったか?
- 予定価格の根拠は客観的か?
- 手続きは透明性を確保したか?
この3点を自信を持って「YES」と言える書類を残しておくこと。これこそが、あなた自身を守る最強の防衛策です。会計実務のプロとして、結果に一喜一憂せず、プロセスを積み重ねていきましょう。
会計検査院の目を気にして仕事をするのではなく、自分が正しいと判断して仕事を進めましょう。

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