官公庁が実施する「国際入札」についての解説です。国や地方自治体、公的機関などは、国際協定の「政府調達に関する協定」が適用されます。基準額を超える高額な契約を計画するときは注意が必要です。制定経緯や基準額の推移、特定調達と政府調達の違いなどの解説です。
政府調達に関する協定
国際入札は、1979(昭和54)年から始まった比較的新しい契約手続きです。一定金額以上の大規模な契約手続きを、「政府調達に関する協定」という国際協定(国際条約)に基づいて実施するものです。
官公庁などが契約の相手方を選ぶ競争入札へ、外国の企業が参加できるようにするための手続きです。内外無差別原則(外国の企業の参入)と、手続きの透明性(公開入札)を基本理念としています。
国と地方自治体(都道府県と大都市)、独立行政法人などの税金で運営している規模の大きい組織が対象になってます。略称もさまざまで、特定調達、政府調達、国際入札、特例政令などと呼びます。
国際入札の目的は、簡単にいえば、海外企業への「門戸の開放」です。日本の企業だけが儲かるような仕組みを許さないということです。「海外企業がもっと官公庁と契約できるようにしなさい」という、海外からの圧力によって実施されている政策です。「政府調達に関する協定」は国際条約なので、日本の法律よりも優先されます。憲法の下に位置しますが、通常の法律より上です。
国際入札の制定経緯
国際入札制度の簡単な制定経緯をまとめました。
1979(昭和54)年4月 GATT(旧協定)により「政府調達に関する協定」が作成される。中央政府による政府調達が対象、内国民待遇、無差別待遇
1979(昭和54)年12月14日閣議決定
1980(昭和55)年4月23日 国会承認
1980(昭和55)年4月25日 協定受諾
1981(昭和56)年1月1日施行「国の物品等又は特定役務の調達手続の特例を定める政令」中央政府が対象
1987(昭和62)年8月「政府調達に関する協定を改正する議定書」国会承認、10月受諾
新協定は、旧協定の改正ではなく、新たな協定として策定された、適用機関の拡大、サービスを含めることとなった
1994(平成6)年4月「WTOを設立するマラケシュ協定」
これが、現在(2023年)の「政府調達に関する協定」
1995(平成7)年5月31日 国会で承認され、1996(平成8)年1月1日から発効。
1996(平成8)年1月1日施行 「地方公共団体の物品等又は特定役務の調達手続の特例を定める政令」都道府県や大都市などの適用対象機関が大幅に拡大された。
特定調達と政府調達の違い
官公庁の契約方式は、一般競争入札が原則です。その中でも、契約金額が大きいものが、「政府調達に関する協定」の対象になり、国際入札を実施しなければなりません。国際入札は、いろいろな呼び方があり、組織によって異なります。主な呼び方と、なぜ、そのように呼ばれるようになったか解説します。
特定調達契約、特例政令の根拠
「国の物品等又は特定役務の調達手続の特例を定める政令」(略名・・特例政令)が根拠になっています。第四条で、「特定調達契約」と定義しています。また第十条で「特例政令」という用語があります。
国の物品等又は特定役務の調達手続の特例を定める政令
第四条 各省各庁の長又はその委任を受けた職員は、その事務につきこの政令の規定が適用される調達契約(以下「特定調達契約」という。)の締結が見込まれるときは(以下略)・・・
第十条
2 ・・・(略)「入札者に対する通知」とあるのは「国の物品等又は特定役務の調達手続の特例を定める政令(昭和五十五年政令第三百号。以下この条において「特例政令」という。)(以下略)・・・
政府調達契約
国際条約の名称から、「政府調達契約」が使われるようになりました。「政府調達に関する協定に基づく契約」を簡略化して「政府調達契約」としています。
このように、特定調達契約、特例政令、政府調達契約という用語は、いずれも国際入札という意味です。通常の一般競争入札に比べて、外国企業が参入できるように手続きが厳格に定められています。国際条約に基づいて実施される手続きです。原文は英語のため解釈も難解です。本サイトでは、わかりやすいように「国際入札」と記載するようにしてます。
国際入札基準額の推移
金額の大きい大規模な契約を計画するときは、「国際入札に該当するか」検討が必要です。基準額を超えるものは国際入札の適用対象になります。国際入札に該当する基準額は、外務省のサイトで公表してます。地方自治体等の基準額は、中央政府の2倍くらいです。(基準額が高いと、対象範囲が狭くなります。)
過去の国際入札基準額の推移(物品、役務)
(主なもの・・中央政府が締結する物品や役務契約の例)
1998(平成10)年度 ~ 2001(平成13)年度 2,100万円以上
2014(平成26)年度 ~ 2015(平成27)年度 1,300万円以上
2016(平成28)年度 ~ 2017(平成29)年度 1,600万円以上
2018(平成30)年度 ~ 2019(令和元)年度 1,500万円以上
2020(令和2)年度 ~ 2021(令和3)年度 1,500万円以上
2022(令和4)年度 ~ 2023(令和5)年度 1,500万円以上
国際入札に該当する基準額は、2023(令和5)年度を例にすると、中央政府が1,500万円以上、地方政府が3,000万円以上、その他の機関は1,900万円以上です。細かく定められているので、最新の情報を上記外務省のサイトで確認しましょう。
国際入札は、入札公告期間を長く設定
通常の一般競争入札と、国際入札の主な相違点です。
まず最初に、契約手続きの期間に注意が必要です。特に、入札公告期間を比較すると、通常の一般競争入札は、入札の前日から起算して10日前です。国際入札では、入札の前日から起算して40日前に官報により公告しなければなりません。公告掲載期間が長いと、その間は待機期間になってしまいます。待機期間が長いということは、その間は手続きを進められず、制限が厳しいです。
通常の入札手続きよりも、4倍もの長期間、入札公告を掲載しなければなりません。これは外国企業が入札へ参加するための期間を考慮したものです。日本の代理店と、外国の本社との間で情報を伝達したり、提出書類を準備するのに時間がかかります。国によっては、日本在住の大使館から情報が翻訳されて、本国の業界団体へ伝えられていることもあります。
「入札公告期間が長い」ということは、その分早く手続きを始めないと契約締結が遅くなってしまうことを意味しています。「国際入札に該当しそう」だとわかれば、1年以上前から動き始めた方が良いです。
国際入札は、郵便入札を禁止できない
通常の一般競争入札は、郵便による入札を禁止できます。しかし国際入札では郵便による入札を禁止できません。外国の企業が入札へ参加しやすくしてます。また随意契約できる条件が厳しくなってます。
郵便による入札は、到着時刻がわかりづらいこと、契約担当部署以外への到着(郵便は庶務係が受理することが多いです。)など、予想しえないリスクが存在します。(極端な例ですが、郵便担当の職員が急病で休暇になり、業務が停滞することもあります。)
また、予定価格を超えた場合の再度入札ができないなど、手続きをスムーズに進めることができません。そのため、通常の一般競争入札では、業務を効率的に進めるため、郵便による入札は禁止しています。郵便入札を禁止することで、契約手続きを早くできるのです。
その他にも、国際入札では次の手続きが必要です。
落札者の公示(72日以内)
落札決定通知(7日以内)
契約の記録、苦情処理職員の指定
特定銘柄の禁止
さらに国際入札を複雑にしているのは、各省庁や組織により、独自の取扱いが定められているところです。契約金額が高額になりそうなときは、事前に担当部署へ確認しましょう。
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