官公庁の契約担当者が自分の身を守る方法です。入札手続きには常に危険性が潜んでいます。特に高額な入札では、予定価格に関する情報を得ようとする誘惑が多くなります。予定価格漏洩、贈収賄、談合、これらの危険から身を守るための解説です。
予定価格に潜む危険性
官公庁の契約手続きは一般競争入札が原則です。一般競争入札を実施するときは、予定価格の作成が法令で義務付けられています。予定価格の作成は契約担当者の宿命ともいえます。
そして残念ながら予定価格に絡んだ事件は極めて多いです。YahooやGoogleなどの検索サイトで「入札 逮捕」というキーワードで探すと実に100万件以上の記事があります。
官公庁の契約手続きに関係する不正事件は、官製談合と贈収賄、情報漏えいが多いです。
官製談合と予定価格
談合の目的は、入札に参加する企業が不当に利益を得るためです。価格競争を逃れ利益を確保することが目的です。予定価格を事前に知ることができれば、最大限の利益を確保できます。入札へ参加する企業同士で事前に金額を調整すれば、予定価格ギリギリの金額で落札が可能です。落札金額に合わせて、出来レースとして競争を装こともできます。
入札に参加する企業が談合を行う場合、予定価格を事前に知っているケースと知らないケースを見分けるのは比較的容易です。複数回の再度入札を実施していれば、入札金額の経緯から談合の有無を推測できます。開札会場で表情を見てもわかるものです。
予定価格を事前に知っている談合は、落札率(落札金額 ÷ 予定価格 × 100)が90%以上になるケースが多くなります。また再度入札が複数回実施されたときに、それぞれの最低入札金額の企業がまちまちになります。書類を見ただけでは談合とはわかりません。
予定価格を事前に知らない場合の談合は、落札率は90%以下になることが多いです。また入札金額の経緯を見ると、複数回の再度入札でも、最低価格を提示した企業が毎回同じになります。
もし談合の可能性が高ければ上司に相談し入札を停止します。参加企業に対しても聞き取り調査が必要です。もし予定価格を事前に知っていたとなると内部の職員から情報が漏れた可能性が高くなります。
もちろん偶然に、再度入札を繰り返しても最安値の企業が同じこともあります。しかし別の入札でも参加企業が同じで、同じような状態が出現すれば談合を疑った方が良いでしょう。
談合は法律に違反する不正事件です。当然、良くないことですが、入札に参加する企業としては、過当競争を防ぎ適正な利益を確保する手段として止むを得ないともいわれてます。「談合は必要悪」という言葉もあります。
参考に、談合を禁止した法律です。
私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律
第三条
事業者は、私的独占又は不当な取引制限をしてはならない。(私的独占、不当な取引制限、事業者団体による競争の実質的制限の罪)
第八十九条
次の各号のいずれかに該当するものは、五年以下の懲役又は五百万円以下の罰金に処する。一 第三条の規定に違反して私的独占又は不当な取引制限をした者
二 第八条第一号の規定に違反して一定の取引分野における競争を実質的に制限したもの
(2) 前項の未遂罪は、罰する。
官製談合については次の法律があります。
「入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律」(平成十四年七月三十一日法律第百一号)
贈収賄と予定価格
談合よりも、さらに良くない事件として贈収賄があります。
入札に参加しようとする企業は、談合の有無にかかわらず、予定価格を事前に知ることで利益を最大限に確保できます。そのため入札が実施される前に契約担当者を頻繁に訪ねて情報収集します。
用件があるわけでもないのに、担当者と会話しながら机の上の資料を見たり、入札に関係する情報がないか偵察にやってきます。机の周りで普通に世間話をしながら情報を得ようとします。
悪質な手法としては、仕事が終わった後に飲み会に誘うことがあります。一次会や二次会、三次会まで誘います。居酒屋で軽く飲み、少し雰囲気の良い酒場で飲みなおし、最後にきれいなお姉さんのいるクラブなどに誘われると、もう、かなりやばいです。犯罪に片足突っ込んでいる状態です。
これらの接待は、現在、国家公務員倫理規程で禁止されています。地方公務員は職員倫理条例で禁止です。
最初は割り勘で誘っても、飲み代は企業の営業担当者が払ってしまいます。この時点で接待を受けたことになります。さらにビールやウィスキーで意識が朦朧となり、入札に関係することを話してしまうこともあります。帰り際にタクシー代として金一封を受け取ると、もう完全に真っ黒の収賄事件です。
刑法
百九十七条 公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、五年以下の懲役に処する。この場合において、請託を受けたときは、七年以下の懲役に処する。
酔っ払って予定価格を話してしまうと、もう働く場所がなくなるのは間違いありません。予定価格を漏らすと、次の法令違反になります。注意が必要なのは、金銭などのやりとり(贈収賄)がなくても、秘密情報の予定価格を漏らしただけで罪になることです。
「入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律」(官製談合防止法)
第二条第五項
入札又は契約に関する情報のうち特定の事業者又は事業者団体が知ることによりこれらの者が入札談合等を行うことが容易となる情報であって秘密として管理されているものを、特定の者に対して教示し、又は示唆すること。
刑法(公契約関係競売入札妨害)
第九十六条の六 偽計又は威力を用いて、公の競売又は入札で契約を締結するためのものの公正を害すべき行為をした者は、三年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
2 公正な価格を害し又は不正な利益を得る目的で、談合した者も、前項と同様とする。
マスコミや第三者に飲み会の現場を見られたら、解雇となり退職金もなくなります。人生が終わるくらいの危険性を秘めています。契約実務を担当する職員、特に入札で予定価格作成を担当する職員は、このような危険性を十分認識しておくことが重要です。
契約担当者が守るべきこと
予定価格は、第三者へ絶対に話さない。
同じ職場の人でも、直属の上司以外には話してはいけません。家族へも話しません。もし友人や他部署の同僚から聞かれたときは、金額は覚えてないとか、まだ積算を終えてない、作成中なのでわからないと答えます。秘密だから教えないと正直に答えると、間違いなく友人を失います。いやなやつ、と思われます。
- 予定価格作成中は、常に回りに注意して、民間企業の人たちが訪問している時は、契約についての会話はせず、関係書類は伏せて見えないようにします。
- 予定価格関連の資料は、帰る前に必ず整理して、目につかない場所に置きます。引き出しの中とか封筒に入れて見えないようにします。
- 予定価格関連資料を破棄するときは、必ず、自分でシュレッダーを使います。ごみ箱に捨ててはいけません。(悪質な企業は、職場のゴミ置き場までチェックします。手で破ったものは復元されてしまいます。)
以上のことに注意して、自分の身を守りましょう。
本記事の内容を初心者向けに簡単にまとめてあります。復習として読むと理解を深めることができます。
コメント
管理人です。
コメントありがとうございます。
申し訳ございません、工事契約については、建築士や土木施工管理技士の資格など、工事ごとの専門知識が必要なので、本サイトの対象外になります。
お役にたてず、申し訳ありません。
ただ、専門知識を必要としない小規模な工事契約であれば、仕様書の作成は次の手順が多いと思います。
1.複数の工事会社から参考見積書を取り寄せる。(正式契約の前段階です。)
2.最安値の工事会社へ、工事内容を文書で提出してもらう。
(工事の概要、工事の手順、使用する材料、工事期間など、可能なら図面も作成してもらう。)
3.仕様書は、工事会社から提出してもらった資料をベースに作成することになります。そして、仕様書が完成した段階で、見積もり合わせ(あるいは入札)を実施して契約の相手方を決定します。
また、大規模な工事契約は、一般的に次のように処理します。
1.補助金の出資元省庁の工事契約の手続きに準じる。
各省庁では工事契約の標準仕様書や積算基準を設定しています。
2.国土交通省が定めた契約手続きに準じる。
例 国土交通省 関東地方整備局
http://www.ktr.mlit.go.jp/gijyutu/gijyutu00000041.html
これら大規模な工事契約は、仕様書の作成、予定価格の作成に際して、専門知識が必要です。
補助金を受けて水路改修をする農業者団体の事務をしている農業者です。
水路改修工事費を積算できないので、談合されないよう別々の日程で業者を呼んで現地で説明をして見積書をもらい、契約者を決めています。水路工事の仕様書をどう作れば良いのか分かりません。?