入札の不調(ふちょう)と不落随契(ふらくずいけい)についての解説です。入札が不調になる3つのケース、不落随契との違いを正しく理解しましょう。入札者がない場合、落札者がない場合、再度入札と入札打ち切りの判断方法です。
官公庁の契約手続きの原則
官公庁の契約手続きは、会計法令などのルールに基づいて手続きを進めなければなりません。ルールは、国会や地方議会で議決した法律や規則、条例などです。官公庁は、国民から強制的に徴収する税金を使うので、その使い方も会計法令に従わなければならないのです。会計法令に基づく手続きによって、公平・公正な税金の使い方ができるわけです。
そのため、官公庁における契約手続きの原則は、一般競争入札です。これは会計法や地方自治法により明確に義務付けられています。
会計法(国の場合)
第二十九条の三
契約担当官等は、売買、貸借、請負その他の契約を締結する場合においては、第三項(指名競争契約)及び第四項(随意契約)に規定する場合を除き、公告して申込みをさせることにより競争に付さなければならない。
都道府県や市町村などの地方自治体は、地方自治法で定めています。
地方自治法
第二百三十四条 売買、貸借、請負その他の契約は、一般競争入札、指名競争入札、随意契約又はせり売りの方法により締結するものとする。
2 前項の指名競争入札、随意契約又はせり売りは、政令で定める場合に該当するときに限り、これによることができる。
いずれも例外である指名競争入札と随意契約に該当する場合を除き、原則である一般競争入札を義務付けています。
指名競争入札と随意契約の例外に該当する条件は、政令(予算決算及び会計令、地方自治法施行令)で定めています。契約金額が基準額以下の場合や、競争できない場合などです。
なぜ競争入札が原則なのか
官公庁の運営財源は、国民の税金です。税金は、本人の意志に関係なく強制的にお金を国に納めます。そして公共サービスを実施するために必要な財源になります。強制的に国民全員からお金を集めているので、税金を使用するときも公平・公正でなければなりません。
例えば、特定の民間会社だけに税金が流れてしまうのは不公平です。一部の会社の役員だけが、不当に大儲けして豪遊していたら、ほとんどの国民は許さないでしょう。そのため一般競争入札によって、誰もが競争に参加できる機会を確保した契約手続きが、契約方式の原則になっています。
税金を納めることは、国民全員の義務であることが憲法第30条で定められているので、税金を使う方法も公平・公正に行うための法律(会計法、地方自治法)が定められているわけです。
日本国憲法
第30条 国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。
第83条 国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない。
第94条 地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。
他方、民間会社の運営財源は、物品やサービスを購入する顧客のお金(売上金)です。お客様が、任意に支払うお金です。顧客が、どの民間会社の物品やサービスを選択するかは、個人の自由です。自分自身の意思で支払うか判断できます。「支払う、支払わない」の選択の自由があるので、民間会社の運営財源(売上金)の使用方法を、法律で義務付ける必要はありません。自由に稼いだお金なので、使うのも自由なわけです。この収益事業(自由に稼ぐこと)が、官公庁と民間会社の大きな違いです。
入札不調(にゅうさつ ふちょう)とは
競争入札では、価格競争によって契約の相手方を決定します。しかし開札の結果、落札者がないときは入札不調になることがあります。入札不調とは、落札者(契約の相手方)がなかったことを意味します。入札が不調になる原因は、主に3つのケースです。
入札が不調になる原因
〇入札に誰も参加しない。
〇再度入札で、予定価格に達しない。
〇再度入札で、全員から辞退札が提出された。
入札公告を掲載して、不特定多数の者が入札に参加できる機会を確保しても、利益が少ない契約や、すでに他の大口契約を受注している会社などは、自社の営業戦略として「入札に参加しない」ことがあります。また予定価格を超えてしまい、落札しないケースがあります。
官公庁が実施する競争入札では、開札前に契約金額の妥当性(適正な金額であるかどうか)をチェックするために、入札の上限価格として予定価格調書を作成しています。入札金額が、予定価格の範囲内のときに落札となります。開札の結果、予定価格の範囲内(購入契約であれば予定価格以下の金額)に達しない場合は、すぐに再度入札を実施します。
予定価格の範囲内になるまで再度入札を繰り返すのが理想です。しかし入札金額と予定価格の開きが大きい場合は、3回程度で入札を打ち切ります。そして最安値の会社と個別に価格交渉を行います。予定価格以下の金額で交渉が成立すれば不落随意契約(ふらく ずいいけいやく)になります。不落随意契約は、不落(ふらく)、不落随契(ふらく ずいけい)ともいいます。
もし価格交渉が合意できなければ、仕様書と予定価格をリセットして、最初から入札手続きを行うことになります。入札手続きをやり直すことになるので、契約担当者としては最も避けたい事態です。
辞退札(じたいふだ)は、入札に参加した会社が再度入札の段階で、「これ以上安い金額では赤字になってしまい採算が合わない」と判断し、入札書の金額欄に「辞退」と記載して提出するケースです。「これ以上値引きできない」という意思表示です。(しかし、不落随意契約の交渉に入ると、会社の上層部と再検討し、さらに値引きしてくれることが多いです。)
これらの落札者がいない状況を「入札が不調になった」といいます。
入札不調と不落随意契約の違いは、時系列で考えると、次の流れになります。
1.入札
2.開札 (落札せず)入札不調
3.値引き交渉が合意できれば、不落随意契約
不調になった後、値引き交渉で合意できれば不落随意契約になります。ただ不落随意契約は、例外的な任意の手続きです。手続き期間に余裕があるときは、不落随意契約せずに、もう一度入札をやり直すことになります。
不落随意契約の根拠法令
入札を行った結果、落札しなかったときは予決令第九十九条の二を適用して随意契約することができます。
予算決算及び会計令
第九十九条の二
契約担当官等は、競争に付しても入札者がないとき、又は再度の入札をしても落札者がないときは、随意契約によることができる。この場合においては、契約保証金及び履行期限を除くほか、最初競争に付するときに定めた予定価格その他の条件を変更することができない。
不落随契(ふらくずいけい)と呼ばれる随意契約は、この予決令第九十九条の二が根拠法令です。地方自治法施行令では第百六十七条の二第一項に同様の規定があります。
予決令第九十九条の二をくわしく解説します。
前提は一般競争入札の場合です。指名競争入札での不落随契は、考え方が異なります。
そもそも、この予決令第九十九条の二で定めている不落随契は、一般競争入札の例外規定です。入札手続きを再度行う(リセットして最初の入札公告からやり直す)には、期間が不足して手続きが間に合わなくなるなど、契約の締結が遅れてしまい、官公庁の業務に支障が生じる場合に適用するものです。
例えば、単年度予算(予算自体が3月31日までしか有効でない、通常の予算)による高額な契約手続きが該当します。公告期間を含めた入札手続きに3ヶ月を必要とし、さらに納入期限が3ヶ月以上かかる契約などです。海外からの高額機器の輸入契約や、製造期間が長い契約などの場合には、契約手続きを完了するのに6ヶ月以上必要になります。
入札公告を5月に公開し、9月に開札したところ落札者がいなかったとしましょう。再度リセットして入札手続きをやり直すと、契約が成立しない恐れが出てきます。納入期限が間に合わないので契約を辞退するリスクがあります。契約の締結時期が遅れることで、契約内容を履行できず、支障が生じてしまうのです。簡単にいうと、入札手続きをやり直すと、間に合わない場合です。
当然のことながら、1週間程度で簡単に入札公告を掲載でき、納入期間も2週間ほどの短期間であれば、最初から入札手続きをやり直しても、年度内に納品が可能です。手続きをリセットしても支障がない場合は、入札をやり直すのが望ましい処理です。
では、上記の予決令第九十九条の二で定める、次の二つのケースをさらに詳しく見てみましょう。
予決令第九十九条の二
1.「入札者がないとき」
2.「再度の入札をしても落札者がないとき」
入札者がないとき
入札公告を掲載して、入札への参加機会を広く確保しても、入札に誰も参加しない状態です。入札書の提出期限までに、入札書の提出がなかった場合です。
入札公告を見て、入札説明書などの仕様書を取り行き、最初は入札に参加しようと思っていたけれども、その後社内で検討した結果、「今回は参加しない」という判断になるケースです。提出書類が複雑で間に合わなかったり、契約内容そのものがむずかしかったり、思うほど利益にならない、と判断して参加しないこともあります。
しかし実際の契約実務では、仕様書や予定価格の作成段階で、市場調査を行います。複数の会社から参考見積書を取り寄せたり、仕様書の技術内容について確認することが多いです。なるべく多くの会社が入札へ参加できるように仕様書を作成します。そのため「入札者がない」という状況は極めて稀です。(私は数百回入札を担当しましたが、一度も経験ないです。競争性を確保するために十分な市場調査を行えば、必ず誰かが入札へ参加します。そもそもが、複数の者で競争できるように入札するのですから・・)
再度の入札をしても落札者がないとき
1回目の開札を行ったところ予定価格を超えていて、2回目、3回目と再度入札を繰り返しても予定価格以内の入札金額がなく、落札者がいなかった場合です。通常、不落随契になるのは、こちらのケースが圧倒的に多いです。予定価格の設定が厳しすぎた結果ともいえます。
実際の開札で悩むのが、再度入札の回数です。予算決算及び会計令と地方自治法施行令に再度入札の規定があります。
予算決算及び会計令
第八十二条
契約担当官等は、開札をした場合において、各人の入札のうち予定価格の制限に達した価格の入札がないときは、直ちに、再度の入札をすることができる。
地方自治法施行令
第百六十七条の八
4 普通地方公共団体の長は、(略)開札をした場合において、各人の入札のうち予定価格の制限の範囲内の価格の入札がないとき(略)は、直ちに、再度の入札をすることができる。
では、実際の再度入札を想定しましょう。
予定価格が600万円の物品売買契約と仮定します。
第1回目入札書(予定価格600万円)
A社 1,000万円
B社 1,100万円
C社 900万円
1回目の入札は、C社が900万円で最安値です。しかし、予定価格の制限(600万円)を大幅に超えています。すぐに再度入札を行います。再度入札を実施するときは、開札結果を発表した後に、各入札者へ次のようにアナウンスします。
「1回目の入札の結果、C社が最も安い入札金額ですが、当方(発注側)で作成した予定価格の制限に達していません。予定価格を超えているので2回目の再度入札を実施します。入札参加者は、1回目の最安値900万円未満での入札をお願いします。もし、これ以上、入札金額を下げるのが無理な場合には、配布した入札書様式の金額欄に「辞退」と記載して提出願います。2回目の入札は900万円未満でお願いします。」
アナウンス後に入札書の様式を配布し、入札価格を検討し書く時間(5分程度)待ち、入札者の様子(まだ入札金額を書き終えていないようなら待つ)を見て、入札書を提出してもらいます。
ここで全員が「辞退札」を提出するようなら、予決令第九十九条の二、地方自治法施行令第百六十七条の二第八号の「再度の入札をしても落札者がないとき」に該当するので、入札を打ち切り、1回目の最安値の会社と交渉し随意契約することが可能です。(随意契約の交渉としては、予定価格以下になるように価格交渉します。価格交渉は、他の会社と行うこともできます。)
では2回目の入札者があった場合です。
2回目の入札(予定価格600万円)
A社 850万円
B社 辞退
C社 860万円
入札の結果、B社は辞退札が提出されたので2回目の入札結果発表後に入札会場から退出してもらいます。2回目も予定価格に達しないので落札せず、1回目と同様に「再度入札のアナウンス」をして3回目の入札に入ります。
入札打ち切りの判断
3回目の入札(予定価格600万円)
A社 辞退
C社 840万円
C社1社が残りましたが、まだ予定価格を超えています。そして予定価格と入札価格の金額の開きが大きいです。
今まで1回目から3回目のC社の入札状況を見ると次のとおりです。
900 → 860 → 840
値引き額も少なくなっていて、このまま再度入札を続けても、落札価格(600万円未満)に達する可能性は低いと考えられます。
予定価格との開きが少なくて、あと1~2回で落札しそうな金額であれば、さらに再度入札を繰り返すこともあります。また今回のように、予定価格と入札価格に大きな開きがある場合は、入札会場でC社に対して再度入札を継続できるか意向を聞くこともあります。しかし予定価格を「秘密扱い」としている場合は、絶対に予定価格を教えてはいけません。
3回目の入札結果を発表し、A社は辞退札が提出されているので入札会場から退出してもらいます。4回目の入札に入る前にC社へ「再度入札の意向」を確認します。
「まだ、予定価格との差が大きいのですが、再度の入札(値引き)は可能ですか?これ以上は本社に戻って上層部と協議が必要であれば、入札はここで打ち切り、随意契約の交渉に入ることも可能ですが?」
ここで、注意しなければならないのは、もしC社から予定価格の金額を聞かれても、秘密扱いにしている予定価格は絶対に教えません。
C社が「まだ値引き可能なので、再度入札を続けたい」という意向があれば再度入札を続けることも可能です。しかし「この場では、これ以上値引きは無理です」との申し出があり、入札金額と予定価格との金額差が大きい場合は、入札を打ち切り(入札不調)、随意契約(不落随契)として契約金額の交渉へ移行します。
通常、入札金額は、社内で値引きの限度額を事前に検討しています。「いくらまでなら値引きして良い」と委任されて入札します。上層部から指示されている限度額を超えた値引きは、再度、社内で検討が必要になります。
随意契約へ移行しても、入札手続き自体は有効に成立しています。3回の入札(再度入札)を実施した結果、落札者がいないので、その後は法令で認められている不落随意契約(不落随契)の交渉に入ることができます。
入札を終え、C社には会社へ戻ってもらい、ギリギリの価格(これ以下の契約金額では無理という金額、ただし利益相当分は確保するのが適正な契約であることは当然です。)を検討してもらいます。3日~1週間程度の検討期間を設けて、最終金額をメールや電話で提示してもらいます。
提示された最終金額が、予定価格の範囲内であれば、正式な見積書を提出してもらい、(見積書は、最後の入札書より低い金額になるはずです。)随意契約として契約を締結します。
不落随意契約は、競争性を確保した競争入札の結果として(落札者がいなかったので)随意契約するものです。「競争性のない随意契約」と異なり、後日、会計検査等で契約の相手方の選定経緯や契約金額について問題になることは少ないです。不落随意契約は、競争入札と同じ正式な手続きを経た結果です。入札関係書類を全て保存しておきます。
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