官公庁の契約手続きに必要な委任状の解説です。そもそも委任状は、どのような書類なのでしょうか?委任の根拠法令である民法を確認しながら、わかりやすく解説します。委任と代理の違い、委任状の書き方、委任と代理、代理人と復代理人の違いです。
官公庁の契約手続きに必須!委任状の法的根拠とその重要な役割
見積書や入札書を、民間企業が官公庁へ提出するときや、契約書の取り交わし時に、委任状が必要になることがあります。委任状の様式(フォーマット)が指定されていれば、悩まなくてすむのですが、「任意様式で提出してください」などと言われてしまうと困ります。委任状の書き方がわからなくて悩んでしまいます。初めて委任状を作成するときは、どのように作成するのかわかりません。そこで委任状の役割や書き方を具体的に解説します。
なお、ここで解説する「委任状」は、官公庁の一般的な契約手続きで使う書類のことです。一般競争入札では、様式を定めている場合が多いです。
委任状の作り方は、学校の授業にはありませんでした。社会人になってから委任状を作成したり、使うことが多いです。最初に、そもそも委任状とは何なのか、なぜ必要なのか確認します。
最初に、「委任」についての根拠法令です。
民法
(委任)
第六百四十三条 委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。
(受任者の注意義務)
第六百四十四条 受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。
上記、民法第六百四十三条の「・・法律行為・・」とは、契約を締結する行為のことです。売買契約や製造契約、役務契約などです。法律行為とは、民法などの法律が適用されて、相手方に対して権利や義務を持つ行為です。これらのうち、見積書や入札書を提出する権限など、特定のことを誰かにやってもらうことが委任です。契約権限を持つ上司が、一部の権限を部下へ任せる場合に委任を使います。
契約の成立は、当事者同士の合意に基づきます。民法を確認しましょう。
民法
第五百二十二条 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
契約は当事者同士の合意なので、意思を持つ人間のみが行えます。例えば、株式会社自体は、社員や役員が集まって組織されています。組織自体は、人間ではないので意思を持っていません。人が集まる組織では、誰かが判断することになります。そこで、株式会社を代表する人が権限を持つことが会社法で定められています。
会社法
(株式会社の代表)
第三百四十九条
4 代表取締役は、株式会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。
つまり株式会社であれば、契約を締結する権限は、代表取締役が持っています。見積書や納品書、請求書などへ「代表取締役」という役職名が記載してあるのは、契約権限を持っていることを証明するためです。正しい権限を持つ人が作成した書類であるということを証明しているわけです。代表取締役が契約権限を持っているので、会社として契約することができます。権限を持つ人が作成することで、見積書や入札書を官公庁へ提出できるわけです。
しかし日常の仕事では、代表取締役が自ら行うことはなく、部下の社員へ任せています。社内規則などで委任されていたり、あるいは社長や上司から命じられて書類作成を行っています。
通常、官公庁が実施する一般競争入札へ参加するのも、代表取締役ではなく営業担当者です。このような場合に委任状が必要になります。特に競争入札では、入札金額が予定価格を超えているときに、入札会場内で再度入札をすぐに実施します。会社を代表した契約権限を持っていないと、入札書を提出できません。この契約権限を証明するために委任状が必要になります。競争入札では、代表取締役社長から、入札へ参加する営業担当者に対して、見積書や入札書を提出する権限が与えることになります。(委任の範囲に見積書が含まれるのは、不落随契もあり得るからです。)
委任と代理の違いを徹底解説!契約手続きで混乱しないために
少しややこしい話になりますが、委任と代理の違いを理解しておきましょう。
「委任」によって、一定の権限を持つ代理人が選ばれます。「委任」は、特定の法律行為(入札書や見積書の提出、契約の締結権限など)を特定の人へ任せる行為です。
「代理人」は、本人に代わって行うことを表すことです。代理人として行った意思表示の効果を、本人に帰属させるときに「代理人」を用います。第三者に対する法的効果を明確に示すときに使います。代理人であることを明示しないと効果がありません。民法第百条では、代理人と示さないで行った行為は、代理にならないことを定めています。
民法
(本人のためにすることを示さない意思表示)
第百条 代理人が本人のためにすることを示さないでした意思表示は、自己のためにしたものとみなす。(略)
代理人という表示がなければ、代理ではなく、その人自身が行った行為になります。極端な例ですが、〇〇組織の代理人として購入すれば、〇〇組織の所有物になります。しかし代理人という表示がなければ、個人で購入することになってしまうのです。組織ではなく個人のものになります。人間は意思を持っていますが、「代理として行うのか、自分のために行うのか」は、明示しなければわからないのです。
つまり、「委任」と「代理」は、厳密に考えると別になります。結果的には同じことを意味するのですが、流れで考えると、委任手続きによって代理人が選ばれます。そして委任状が提出された後に、「代理人」と表示することで、委任の効果が現れます。ここは少しややこしいです。おおまかな流れは次のとおりです。「代理人」という表示の有無で、委任の効果が変わってしまうことを意識しましょう。
委任状提出 ➡ 代理人と表示 ➡ 委任になる
委任状提出 ➡ 代理人の表示なし ➡ 委任にならない
委任された後に、「代理人」という表示をしないと、委任にはなりません。「代理人」という記載がないと、「委任された行為なのか、委任とは関係ない本人の行為なのか」判別できないからです。
委任者と受任者という視点で考えると、委任者が受任者に対して権限を委任します。受任者が、代理人と表示して委任者の行為を行います。
ここまで深く考えなくても実務上は同じかもしれません。信頼できる相手なら「代理人」と表示されていなくてもわかるでしょう。しかし、万が一トラブルになってしまい、裁判になると大きく影響するので注意が必要です。
失敗しない委任状の書き方!官公庁指定のフォーマットと自由形式
官公庁によっては、委任状の様式(書式、フォーマット)を定めていることがあります。委任状の書式がある場合は、それほど悩みません。しかし任意様式のときはドキドキします。間違えた内容の委任状を提出し、契約が無効になったら大問題です。そこで委任状の様式について解説します。
委任状へ必ず記載しなければならない項目は、次のとおりです。
委任状の必須項目
〇 委任状であることの記載「委任状」
〇 作成年月日(委任開始年月日)
〇 委任事項(委任する内容、復代理人まで含むか)
〇 委任者と受任者の「住所・氏名・使用する印鑑」
参考に、一般的な委任状の記載例です。ひとつの入札(契約)に関してのみ委任する場合です。(一定期間委任する場合は次で解説します。)
委 任 状
令和 年 月 日
官公庁名 御中
(または、支出負担行為担当官 殿など)
委任者(会社の代表者)
所 在 地
商 号 等
代表者 職・氏名 印私は、〇〇〇〇を代理人と定め、下記に掲げる権限を委任します。
記
1. 令和 年 月 日に開札する「件名〇〇〇〇 一式 」に係る次の事項
入札及び見積に関する一切の件
契約締結に関する件一切の件
代金の請求及び受領に関する一切の件
復代理人選任の件
その他前各事項に付随する一切の件
2. 受任者(代理人)の使用印鑑 印
長期委任のための委任状作成ガイド!契約手続きに備える
個別の入札案件だけでなく、一定期間委任するケースです。役職指定などで特定の人に対して任せている場合です。支店長、部長や課長などが多いです。
委 任 状
令和 年 月 日
官公庁名 御中
(または、支出負担行為担当官 殿など)
委任者(会社の代表者)
所 在 地
商 号 等
代表者 職・氏名 印
私は、下記の者を代理人と定め、貴省との間における下記の権限を委任します。
記
受任者(代理人)
(住 所)
(商号・役職等)
(氏 名)
委 任 事 項
1.入札及び見積に関する一切の件
2.契約締結に関する件一切の件
3.代金の請求及び受領に関する一切の件
4.復代理人選任の件
5.その他前各号に付随する一切の件
委任期間 令和 年 月 日から令和 年 月 日
受任者(代理人)の使用印鑑
復代理人の選任と委任状の書き方!官公庁契約手続きの重要ポイント
復代理人を選任する委任状は、代理人への委任事項の中に「復代理人の選任」が含まれている場合のみ可能です。代理人の委任状を確認してから作成します。
会社の代表者が契約権限を委任するときは、その人を信頼して委任します。信頼できる人に委任しているわけです。そのため代理人が、さらに他の人へ委任するときは、本人(代表者)が、あらかじめ了承していることが前提になります。民法第百四条で本人の許諾を得ていないと復代理人を選任できないと定めています。
民法
(任意代理人による復代理人の選任)
第百四条 委任による代理人は、本人の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復代理人を選任することができない。
復代理人の委任状記載例は次のとおりです。
委 任 状
令和 年 月 日
官公庁名 御中
(または、支出負担行為担当官 殿など)委任者(競争加入者の代理人)
所 在 地
商 号 等
職・氏名 印
私は、(復代理人名) を(代表者名)の復代理人と定め、下記に掲げる権限を委任します。
記
1. 令和 年 月 日に開札する「件名〇〇〇〇 一式 」に係る次の事項
入札及び見積に関する一切の件
契約締結に関する件一切の件
代金の請求及び受領に関する一切の件
その他前各事項に付随する一切の件2. 受任者(競争加入者の復代理人)の使用印鑑
復代理人は、慎重に確認しましょう。最初(代表者から)の委任状の中で、「復代理人選任の件」が記載されていないと、復代理人は選定できません。委任行為自体が、相手方を信頼して行うものなので、どこまで委任するか本人が判断しているからです。日常の一般的な取り引きであれば「復代理人選任の件」まで委任事項の対象とするでしょう。しかし会社の経営に重大な影響を及ぼすような内容であれば、社長としては信頼できる相手にしか委任しません。会社の存亡に関わるような重要な契約内容であれば「復代理人選任の件」は記載しないでしょう。
復代理人への委任がある一般的な例は、会社の支店に属する営業担当者の場合です。本社の社長から支店長あてに委任状が提出され、支店長が社内の営業担当者を復代理人とするケースが多いです。
本社 社長 → 支店長 (代理人)
支店長(代理人) → 営業担当者 (復代理人)
コメント
いつもお世話になっております。
代理人、復代理人について1点質問です。
公立病院で契約を担当しており、委任状を日常的に受け付けておりますが、一般的に支店を持たない会社や県内に本店を有する会社は「代表者→営業担当(代理人)」の委任状1枚を提出し、県外に本店を有するような会社は「代表者→支店長(代理人)」「支店長(代理人)→営業担当(復代理人)」の委任状2枚を提出しています。
後者の場合に、支店長を代理人として経由せず、代表者から営業担当に直接委任するのはNGなのでしょうか。
あまり疑念を抱いてきませんでしたが、ふと考えたときに必要性がいまいちわからなかったため、質問させて頂きました。
コメントありがとうございます、管理人です。
入札の際などに、支店長を代理人として経由せず、代表者から営業担当へ直接委任するのは問題ありません。本社の社長から、支店の営業担当者へ直接委任するケースは、わりと多いです。
復代理人よりも手続きが簡単ですし、直接委任の方がわかりやすいです。
ただ会社内で、支店ごとに営業地域を分けていると、契約書を締結するのが支店長になるので、その場合は支店長を代理人とすることが多いです。
委任は、代表者の判断で行うので、いろいろなケースがあります。
いつも大変お世話になっております。
たびたびコメントにて質問させていただき、その都度ご丁寧に回答いただき大変参考になっております。
委任について1点質問がございます。
A社の代表取締役からA社B支店の支店長へ契約期間中の以下の権限を委任する委任状が提出されている契約において、契約期間中に請求書が代表取締役名にて発行されることとなった場合、問題となりますでしょうか。
【委任事項(記事に記載されている例と同様です)】
1.入札及び見積に関する一切の件
2.契約締結に関する件一切の件
3.代金の請求及び受領に関する一切の件
4.復代理人選任の件
5.その他前各号に付随する一切の件
あくまで支店長は代表取締役の代理人であるため、代表取締役においても請求書を発行する権限はあるものと考えているのですが、上司から委任期間中は支店長のみが請求書発行の権限を有しているため、代表取締役からの請求書発行は問題であると指摘を受けております。
請求書にただし書きをすることにより、許可をいただいているのですが、委任者と受任者の権限について、整理できず混乱しております。
ご教示いただけますと幸いです。よろしくお願いいたします。
コメントありがとうございます、管理人です。
委任者と受任者の権限につきましては、委任したとしても本人の権限は残ります。つまり、支店長へ権限を委任していても、本店の社長が請求権限を行使することは可能です。
ただ、契約代金を支払うときは、正当な請求権限を持っているか確認しなければなりません。ひとつの請求権限を二人が持つということは、どちらが正当なのか判断できなくなってしまいます。
次のように対応することをおすすめします。
契約の相手方へ連絡し、どのような場合に本人(社長)が請求するのか、あるいは支店長が請求するのか、確認した方が良いです。会社としての方針を整理してもらい、実態に合わせて委任状を新しく提出してもらう方が安全です。現状のままですと、社長が請求するのか、支店長が請求するのか不明になってしまい、正当な請求権限を確認できません。
なお、過去に代理人が行った行為を、社長が取り消すことはできません。委任行為は、将来に向かっての変更のみ可能です。今後の請求権限について、委任を解除したり、委任内容を変更することができます。