契約書を省略できる場合、「契約の成立」と「契約の確定」

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会計法令の解説
2022年6月 お台場海浜公園
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契約書を省略する場合の根拠法令、民法の契約成立と契約確定の違いです。官公庁を当事者とする契約は、原則として契約書を作成します。一定金額以下の場合のみ契約書を省略できます。地方自治体は、契約書を省略できる金額が、それぞれで異なります。

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契約書の作成省略

 

日本の民法では、当事者間の合意があれば、口頭のみで契約が成立します。契約書の取り交わしは必要ありません。しかし官公庁を当事者とする契約では、支払財源が国民の税金であることから、より慎重な契約手続きが求められます。官公庁の契約では、原則として契約書の取り交わしを義務付けています。

 

しかし、すべての契約について、契約書を作成し当事者が記名押印するのは現実的ではありません。例えば、3万円程度のプリンター1台を購入するだけでも契約書の取り交わしが必要となれば、官公庁側の契約担当者のみでなく、供給者である民間企業にとっても大きな事務負担になってしまいます。

 

契約書の取り交わしができるのは、会社の代表権を持つ社長です。契約書を取り交わすとなれば、ひとつひとつの条文を確認し、社長までの決裁手続きが必要になります。3万円程度の売買契約で、いちいち社長の判断を仰ぐようであれば、商売にならないでしょう。官公庁側としても、すべて契約書を取り交わすとなれば、契約担当者の人員を10倍以上に増員しなければなりません。ほとんど税金の無駄使いになります。そのため事務手続きの簡素化を目的として、契約金額の小さいものは契約書の作成を省略することができる旨を定めています。

 

会計法

第二十九条の八  契約担当官等は、競争により落札者を決定したとき、又は随意契約の相手方を決定したときは、政令の定めるところにより、契約の目的、契約金額、履行期限、契約保証金に関する事項その他必要な事項を記載した契約書を作成しなければならない。ただし、政令で定める場合においては、これを省略することができる。

 

予算決算及び会計令

第百条の二  会計法第二十九条の八第一項 ただし書の規定により契約書の作成を省略することができる場合は、次に掲げる場合とする。

一  (略)一般競争契約又は指名競争契約若しくは随意契約で、契約金額が百五十万円(外国で契約するときは、二百万円)を超えないものをするとき。

 

地方自治体は、それぞれで契約書の作成省略を定めています。

 

東京都契約事務規則

第三十八条 契約担当者等は、次に掲げる場合においては、(略)契約書の作成を省略することができる。

一 工事又は製造その他についての請負又は委託で、契約金額が百五十万円未満のものをするとき。
二 物品の買入れで、契約金額が百五十万円未満のものをするとき。
(略)

 

 

大阪府財務規則

第六十五条 契約担当者は、(略)次の各号のいずれかに該当するときは、契約書の作成を省略することができる。

一 一般競争入札、指名競争入札又は随意契約の方法により、契約金額が百五十万円を超えない契約を締結しようとするとき。
(略)

 

横浜市契約規則

第34条
3 (略)次のいずれかに該当する場合は、契約書の作成を省略することができる。

(1) 契約金額1,000,000円以下の契約(物品の買受け及び物品の製造の請負契約にあっては、契約金額1,600,000円以下の契約)を締結する場合
(略)

 

大阪市契約規則

第 34 条 次の各号のいずれかに該当するときは、契約書の作成を省略することができる。
(1) 有資格者による指名競争入札及び随意契約において、契約金額 1,000,000 円以下の請負契約(工事又は製造の請負契約にあつては契約金額 1,500,000 円以下のものとする。)又は契約金額 1,000,000 円以下の物品の買入契約をするとき
(略)

 

上記は、ほんの一例ですが、まとめると次のとおりです。

契約書省略基準額(購入契約の場合)

国、大阪府・・150万円以下
東京都・・150万円未満(150万円は含まれない)
横浜市・・160万円以下
大阪市・・100万円以下

 

地方自治体の契約書省略の基準額は、それぞれの自治体で異なることがわかります。契約件数、契約規模、職員の配置数により基準額は変わります。

 

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契約の成立

 

民法では、当事者同士の合意で契約が成立します。口頭のみで契約が成立するのです。民法も確認しておきましょう。

 

なお、新しい民法が、2020(令和2)年4月1日から施行されました。1896(明治29)年から、ほとんど改正されていなかったので、なんと120年ぶりの改正です。改正された部分がわかるように、新民法と旧民法の両方を掲載します。

 

新民法

(契約の成立と方式)
第五百二十二条 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。

2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。

 

旧民法

(承諾の期間の定めのある申込み)
第五百二十一条  承諾の期間を定めてした契約の申込みは、撤回することができない。

2  申込者が前項の申込みに対して同項の期間内に承諾の通知を受けなかったときは、その申込みは、その効力を失う。

 

新民法第五百二十二条は、「契約の申込み」に対して「承諾」することで、契約が成立することを明記しています。「契約の申し込み」とは、見積書や入札書を提出することです。「承諾」とは、官公庁側が、見積書や入札の内容を確認し、「これでお願いします」と発注することです。

 

一方、改正前の旧民法は、条文が逆説的で読みづらいです。一項と二項にわかれていて、両方を読まないと「契約の申込み」と「承諾」の関係がわかりづらいです。改正によってわかりやすくなりました。

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契約の確定

 

民法では上述のように当事者の合意のみで契約が成立します。しかし官公庁を当事者とする契約では、民法の原則よりも厳しくなっています。会計法や各地方自治体の規則で、契約書へ記名押印しなければ契約が確定しないことを定めています。

 

会計法

第二十九条の八
(略)
○2  (略)契約書を作成する場合においては、契約担当官等が契約の相手方とともに契約書に記名押印しなければ、当該契約は、確定しないものとする。

 

地方自治法

第二百三十四条
5 普通地方公共団体が契約につき契約書(略)を作成する場合においては、当該普通地方公共団体の長(略)が契約の相手方とともに、契約書に記名押印し(略)なければ、当該契約は、確定しないものとする。

 

つまり、民法では契約書の取り交わしを求めていませんが、官公庁の契約では、一定金額以上の(契約書を省略できない)契約では、記名押印を義務付けているのです。

 

しかし、そうなると契約の成立日がいつになるのか疑問になります。例えば、競争入札では、予定価格の範囲内で落札決定になります。入札書の提出が「契約の申込み」であり、落札決定が官公庁側の「承諾」です。民法では、落札決定のときに契約が成立したことになります。

 

ところが、契約書を取り交わす場合には、記名押印しなければ契約が確定しません。契約の成立と、契約の確定をどのように考えればよいのでしょうか?

 

契約が確定するまでの間は、「部分的に成立している」と考えます。部分的という意味は一部分ではなく、おおむね契約が成立している状態です。(停止条件付契約のようなイメージです。条件が満たされた場合に契約が完全に有効になります。)競争入札で契約が確定するまでの流れは次のようになります。

 

1.入札・・契約の申込み

2.落札決定・・承諾、契約が部分的に成立

3.契約書へ記名押印・・契約が確定

 

なお、契約書を作成しない場合は、発注したときに契約が成立します。

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