「契約書の省略」と「契約成立日」についての解説です。国を当事者とする契約は、原則として「契約書」の作成が義務付けられています。例外として150万円以下のときに省略できます。また、契約成立日は、口頭のみで契約が成立する民法と異なります。
「契約の成立」と「契約書の作成省略」
日本の民法では、「契約の成立」は、当事者間の合意があれば口頭のみで有効に成立します。契約書の取り交わしなど、文書は必要ありません。しかし、国を当事者とする契約では、支払財源が国民の税金であることから、より慎重な取り扱いを定めています。原則として「契約書」を作成することを義務付け、例外として省略できるよう定めています。契約書の作成を省略できる根拠法令を確認します。
予算決算及び会計令
第百条の二 会計法第二十九条の八第一項 ただし書の規定により契約書の作成を省略することができる場合は、次に掲げる場合とする。
一 第七十二条第一項の資格を有する者による一般競争契約又は指名競争契約若しくは随意契約で、契約金額が百五十万円(外国で契約するときは、二百万円)を超えないものをするとき。
会計法
第二十九条の八 契約担当官等は、競争により落札者を決定したとき、又は随意契約の相手方を決定したときは、政令の定めるところにより、契約の目的、契約金額、履行期限、契約保証金に関する事項その他必要な事項を記載した契約書を作成しなければならない。ただし、政令で定める場合においては、これを省略することができる。
覚え方は、次のとおりです。
原則は「契約書の取り交わし」 会計法第二十九条の八
例外として150万以下は省略可能 予決令第百条の二
民法では、当事者同士の合意で契約が成立します。口頭のみの合意で契約成立です。
新しい民法が、2020(令和2)年4月1日から施行されました。1896(明治29)年から、ほとんど改正されていなかったので、なんと120年ぶりの改正です。
2017(平成29)年5月26日「民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)」が成立し、2020(令和2)年4月1日から施行されました。改正された部分がわかるように、「新民法」「旧民法」と記載します。
新民法第五百二十二条では、契約の「申込み」(見積書の提出、入札書の提出など)に対して「承諾」(発注者が正式に依頼)することで、「契約が成立」すると定めています。
新民法
第五百二十二条 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
参考に改正前の旧民法も記載します。表現が逆説的で読みづらいですが、「申込み」に対して「承諾」すると「契約が成立する」という意味です。
旧民法
(承諾の期間の定めのある申込み)
第五百二十一条 承諾の期間を定めてした契約の申込みは、撤回することができない。2 申込者が前項の申込みに対して同項の期間内に承諾の通知を受けなかったときは、その申込みは、その効力を失う。
国の契約では、さらに「記名押印」が必要
民法では当事者の合意のみで契約が成立します。しかし、国を当事者とする契約では、民法よりも厳しく、会計法第二十九条の八で、契約書を作成しなければならないこと(第1項)、さらに契約書に記名押印しなければ「契約が確定」しないこと(第2項)を定めています。
会計法
第二十九条の八 契約担当官等は、競争により落札者を決定したとき、又は随意契約の相手方を決定したときは、政令の定めるところにより、契約の目的、契約金額、履行期限、契約保証金に関する事項その他必要な事項を記載した契約書を作成しなければならない。ただし、政令で定める場合においては、これを省略することができる。
○2 前項の規定により契約書を作成する場合においては、契約担当官等が契約の相手方とともに契約書に記名押印しなければ、当該契約は、確定しないものとする。
しかし、すべての契約について、契約書を作成し記名押印することは、現実的ではありません。例えば、3万円程度のプリンターを購入するときにも契約書の取り交わしが必要となれば、官公庁側の発注者のみでなく、契約の相手方である民間企業にとっても相当な負担になってしまいます。通常、契約書の名義人は社長など、組織で代表権を持つ人です。社長までの決裁手続き等が必要になります。3万円程度の契約締結について、社長の判断を仰ぐような会社は少ないでしょう。そのため、事務の簡素化を目的として、契約金額の小さいものは、「契約書の作成を省略する」ことができる旨を定めています。
上述した予決令第百条の二第一項第一号では、契約金額が150万円以下のもの、あるいは海外で契約するものは200万円以下であれば契約書の作成は省略できることを定めています。任意規定ですから、契約内容が複雑なときは、150万円以下でも契約書を作成して問題ありません。
実務上は、一定金額以上の「取扱い」を別に定めています。各省庁や組織によって異なりますが、契約金額が100万円以上の場合は、契約書に代わる「請書」を提出してもらうことが多いです。
また、契約内容が複雑なもの(主に役務契約や製造契約など)は、後日トラブルになるのを防ぐため、一定金額(50万円など)以上は、契約書を作成する例が多いです。
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