旅費法の基本的な考え方です。旅費は交通費と日当・宿泊料から構成されます。日当と宿泊料は定額です。しかし交通費は、経路や方法によって金額が大きく変わります。経路が複数あるときに、どれを選んで交通費を計算するのか基本的な考えを解説します。
間違った、最も経済的な通常の経路及び方法とは
旅費法(国家公務員等の旅費に関する法律)の第七条は、旅費計算の基本原則を定めています。しかし読み方を間違えてしまうことがあります。旅費法を確認します。
国家公務員等の旅費に関する法律
第七条 旅費は、最も経済的な通常の経路及び方法により旅行した場合の旅費により計算する。但し、(略)
最も経済的な通常の経路とあります。文の最初に、最も経済的、と書いてあるため多くの人が勘違いしています。素直に、一番安い経路で計算すると読んでしまうのです。
しかし、これは間違いです。旅費法の趣旨は、最も安い旅費を払うことではなく、実際に必要だった交通費や宿泊費などを旅費として支給するものです。
旅行命令権者が出張命令を発することができるのは、旅費予算が十分に確保されている場合です。旅費予算が足りないときには、そもそも旅行命令を発することはできません。旅費予算が確保されていて、現地へ行かなければ公務を達成できないときに出張命令するのです。
旅費法 第四条 第二項
2 旅行命令権者は、電信、電話、郵便等の通信による連絡手段によつては公務の円滑な遂行を図ることができない場合で、且つ、予算上旅費の支出が可能である場合に限り、旅行命令等を発することができる。
もし旅費予算が少ない状況であれば、出張を命令できないわけです。つまり旅費法には、節約して出張するという考え方はありません。安い経路を使って、旅費を安くしろという考え方自体が間違っています。
正しい、最も経済的な通常の経路及び方法とは
旅費法第七条の、最も経済的な通常の経路及び方法とは、通常の経路が複数ある場合、その中から安い方を選びなさいという意味です。通常の経路とは、多くの人が使うと予想される経路です。方法とは、電車にするかバスにするかなどです。
例えば東京から京都まで出張するとします。東京駅から京都駅まで行くのに、多くの人は新幹線を利用します。在来線の普通列車を乗り継いたり、急行列車や特急列車を使うことはありません。一部の鉄道マニアや旅行マニアであれば、ゆっくりと普通列車を乗り継いで旅行するかもしれません。しかし多くの人は、東京駅から京都駅まで新幹線を利用します。最も経済的な通常の経路及び方法は、東京駅から京都駅まで新幹線利用です。
もしこのケースで、最も経済的と考えてしまうと、高速バスや在来線の普通電車になってしまいます。
参考に料金を比較します。(東京駅 ⇒ 京都駅)
新幹線 運賃 8,360円 特急料金 5,490円 片道合計 13,850円(所要時間 3時間)
在来線の普通電車 片道合計 8,360円(所要時間 9時間)
高速バス 片道合計 7,800円(所要時間 7時間)
最も経済的な交通費と考えてしまうと、高速バスと在来線の普通電車です。しかし所要時間を考えれば多くの人は使いません。ゆっくりと旅を楽しみたい人は別ですが、出張では使わないです。鈍行の普通電車は安いですが、乗り継ぎの手間や出張者の負担が相当大きくなってしまいます。
つまり旅費法の第七条は、通常使うと思われる経路が複数あるときは、最も経済的なもので計算することになります。通常の経路及び方法を優先的に考えます。
通常の経路及び方法とは
次に、旅費法第七条の、通常の経路及び方法です。通常という表現は、深く考えるとよけい悩んでしまいます。何が通常なのか迷ってしまいます。
通常の経路及び方法とは、多くの人が使うと予想できる交通手段です。多くの人という意味は、半分以上であれば、もちろん問題ないわけです。しかし半分以下であっても、他の経路と比較して、それほど差がなく、出張者にとっても負担が少なく便利な場合であれば通常の経路に該当します。
例えば割合で考えてみましょう。経路が4つあって、それぞれの利用割合が3割、3割、2割、2割だったとしましょう。このような場合には、すべてが通常の経路及び方法と考えられます。この中で、どの経路を選ぶか、という判断のときには、まず第1に、出張者の意向が最優先されます。そもそも旅費は、出張者が経路を決めた後に、旅費の支給を請求するものです。出張者の請求行為に基づいて支給します。
出張者が、2割の人が使っている経路を使いたいのであれば、その経路で旅費を計算することになります。もし出張者から、経路はどれでも良いので任せる、というような申し出があれば、旅費事務担当者の方で、4つの経路をそれぞれ計算し、その中から一番安い経路を選びます。
料金が高い経路で請求してきたときの対応
もし出張者が、高い方の経路を請求してきた場合の対応方法です。
例えば、新幹線と在来線が平行している経路で、新幹線なら一駅だけの用務先へ行く場合です。在来線であれば、時間もかかり何駅も停止することになります。
旅費法で、新幹線が支給できるのであれば問題ありません。しかし距離数が不足して新幹線料金が支給できない場合は、どのように対応すればよいでしょうか。
出張者本人としては、新幹線料金を使い効率的に出張を終わらせたいわけです。時間が節約できれば他の仕事もできます。しかし旅費法では、新幹線料金が支給できません。
しかも普通に考えて、多くの人が使う経路は在来線です。新幹線料金を負担するほどの距離でもありません。ほとんどの人が在来線を使います。具体例で考えてみます。
品川から新横浜まで、片道29kmを出張するとします。片道の料金で比較します。
新幹線 運賃 420円 特急料金 870円 合計 1,290円 (10分)
在来線 運賃 470円 (40分)
このようなケースでは、旅費担当者として、新幹線は使えないことを出張者へ伝えるしかないです。在来線で旅費を計算するのが正しい処理です。理由としては、多くの人が使うであろう、通常の経路及び方法が優先されるからです。また特急料金は、距離数が少ないため旅費法で認められてないからです。
旅費法の第七条はわかりにくいです。旅費法は 1950(昭和25)年に制定された法律です。現在(2020年)のように、公共交通網が発達していなかった時代です。もしかしたら通常の経路が複数できるとは想定できなかったのかもしれません。何しろ新幹線が開業したのは1964年(昭和39年)です。新幹線より前に旅費法が制定されていたのです。
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