科研費の人件費不足は運営費交付金で補填OK!合算使用と遡及払いの最新ルール

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科研費の人件費不足 科研費
科研費の人件費不足
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研究現場で頻繁に発生する「人件費の予算不足」問題。特に年度末や雇用契約の遡及(そきゅう)手続きが発生した際、確保していた科研費(科学研究費助成事業)の予算だけでは足りなくなるケースは少なくありません。

かつて2018年頃までは、科研費とその他の経費(運営費交付金など)を混ぜて人件費を支払う「合算使用」は、事務手続きの煩雑さや明確な区分け(切り分け)の難しさから、「原則不可」あるいは「極めて慎重に扱うべき」とされていました。ご質問にある2018年の回答でも、「合算使用は問題がある」と明確に否定的な見解が示されています。

しかし、この数年で国の競争的研究費に関する制度は劇的に改革されました。結論から申し上げますと、2025年現在、科研費の人件費不足分を運営費交付金などの「使途に制限のない経費」で補填することは、公式に認められています。

この記事では、かつての常識がどのように変わり、現在はどのような運用が可能になっているのか、実務担当者や研究者が知っておくべき最新ルールを詳しく解説します。

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2018年頃とはココが違う!人件費合算使用のルール変更点

まず、昔(2018年頃)の状況と、現在の状況の決定的な違いについて整理しましょう。

「使途に制限のない経費」との合算は原則OKに

かつて科研費の直接経費は、「単独で使用すること」が強く求められていました。他の経費と混ぜて使う(合算使用)ことは、資金の出所と使途の対応関係(トレーサビリティ)が不明確になるとして、厳しく制限されていたのです。

しかし、内閣府主導による「競争的研究費の制度改善」が進み、現在はルールが大きく緩和されています。具体的には、「直接経費に、使途に制限のない他の経費を加えて補助事業に使用すること」は、合算使用の例外として明確に認められるようになりました。

ここで言う「使途に制限のない他の経費」の代表格が、国立大学法人等の運営費交付金や、民間企業等からの寄附金です。これらは特定のプロジェクトのみに使用が限定されているわけではないため、科研費の補助事業遂行のために必要な経費(人件費含む)の不足分を補うために使用することが可能です。

つまり、昔の「単なる予算消化を疑われてしまうリスク」という懸念は、制度上クリアされています。「科研費が足りないから、不足分を大学の運営費交付金で出す」という処理は、正当な手続きとして行えるようになったのです。

複数の科研費同士の合算も可能に(令和2年度〜)

さらに大きな変化として、令和2年度(2020年度)からは、一定の要件を満たせば「複数の科研費の研究課題同士」で経費を合算して使用することも可能になりました。

以前は、研究者Aさんが持っている「基盤研究(B)」と「挑戦的研究」という2つの科研費があった場合、それぞれで雇用するRA(リサーチ・アシスタント)や研究補助者の給与は、明確に業務を分けて支払う必要がありました。「午前中は基盤(B)の実験、午後は挑戦的研究のデータ整理」といった具合に、時間の切り分けが求められていたのです。

しかし現在は、「合算使用による共用設備等の購入」だけでなく、人件費についても柔軟な運用が可能になっています。複数の研究課題に関連する業務を行う場合、それぞれの課題のエフォート(従事比率)などに基づいて按分し、合算して支払うことができます。

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遡及支払いで予算超過した場合の具体的な対処法

それでは、ご質問にある具体的なシチュエーション、「遡及して賃金を支払うことになり、予算を超過してしまう場合」の実務的な対応について解説します。

不足分のみを運営費交付金で支払う「合算使用」の手順

例えば、ある研究補助者の雇用契約手続きが遅れ、4月分からの給与を6月にまとめて支払う(遡及支払い)ことになったとします。当初予定していた科研費の残額では足りず、10万円の不足が出たとしましょう。

この場合、現在のルールでは以下の処理が可能です。

  1. 科研費の残額を全額充当する
    まず、使用可能な科研費の直接経費を支払いに充てます。

  2. 不足分(10万円)を運営費交付金等で支出する
    不足した10万円分について、所属機関(大学等)の運営費交付金や寄附金などの「使途に制限のない経費」から支出します。

この処理を行う際、以前のように「科研費で支払った分はどの時間の業務か、運営費交付金で支払った分はどの時間の業務か」を、1分単位で物理的に切り分ける必要はありません。一つの業務(雇用契約)に対して、複数の財源を組み合わせて支払ったという整理で問題ありません。

ただし、重要なのは「なぜ運営費交付金を使用したのか」という理由付けです。今回は「科研費の予算不足を補填するため」という明確な理由がありますが、伝票の摘要欄や内部決裁文書には、「科研費残額不足のため、差額を運営費交付金にて支出」といった記載を残しておくことが望ましいでしょう。

エフォート管理と労働条件通知書の書き方

2018年の回答では、「労働条件通知書に補助事業の内容等が明記されること」がハードルとして挙げられていました。これは現在でも重要ですが、その運用はより柔軟になっています。

複数の資金(例えば科研費と運営費交付金)を使って雇用する場合、労働条件通知書や雇用契約書には、従事する業務の内容を包括的に記載しつつ、資金ごとの負担割合(エフォート率)を管理する方法が一般的です。

例えば、以下のような管理が考えられます。

  • 業務内容: ○○研究プロジェクトにおける実験補助およびデータ解析業務
  • 財源内訳:
  • 科研費(基盤C):90%
  • 運営費交付金:10%(予算不足補填分)

このように、全体として一つの業務を行い、その対価(給与)を複数の財布から出し合っているという形をとります。予算超過による補填の場合、実質的には「科研費で100%雇いたかったが、資金が足りないので一部を大学の経費で肩代わりした」という構図になりますので、業務内容自体を無理やり分ける必要はありません。

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実務担当者が注意すべき「落とし穴」とは

制度上は「可能」になりましたが、現場の実務担当者が注意しなければならないポイントはいくつか残っています。これらを見落とすと、事務手続き上のトラブルや、会計検査での指摘につながる恐れがあります。

大学・研究機関ごとのローカルルールを確認せよ

これが最も大きな障壁です。国の指針や文部科学省のルールでは「合算使用OK」「補填OK」となっていても、大学や研究所の内部規程(ローカルルール)が改定されていないケースがあります。

特に会計システムが古い場合や、事務処理の煩雑さを避けるために、機関独自の方針として「人件費の合算は認めない」「財源は一つに絞ること」と定めている場合があります。

  • 「国のルールではOKはずです」と主張しても、大学の会計システムが複数の財源コード入力を受け付けなければ処理できません。

  • まずは所属機関の契約担当や人事担当に、「科研費の不足分を運営費交付金で補填したいが、システム上の処理はどうすればよいか」を確認してください。

最近は多くの大学で柔軟な運用が進んでいますが、まだ対応しきれていない組織もあるのが現状です。

「説明責任」は消えていない!従事実績の証明方法

合算使用が認められたからといって、「どんぶり勘定」で良いわけではありません。むしろ、複数の資金が混ざることで、説明責任(アカウンタビリティ)の重要性は増しています。

特に注意すべきは、従事実績簿(勤務管理表)の扱いです。

  • 科研費で雇用されている期間(または時間)は、確かにその研究補助業務に従事していたこと。

  • 運営費交付金で補填した分も含め、雇用契約に基づいた業務が適切に行われたこと。

これらを証明するために、日々の出勤簿や業務日誌への記録は必須です。「予算が足りないから適当に他の予算から出した」と見られないよう、「当初の計画通り研究業務を行い、その対価として正当に賃金が発生し、結果として財源内訳を調整した」というロジックと証拠書類(決裁文書や勤務記録)を整えておく必要があります。

研究代表者自身の人件費支出(バイアウト制度など)

関連するトピックとして、令和2年度から導入された「バイアウト制度」や、研究代表者(PI)自身の人件費を直接経費から支出できる制度も知っておくべきでしょう。

以前は「科研費は研究のために使うもので、自分の給料にはできない」というのが常識でしたが、現在は一定のルール下で、研究代表者が自分の研究時間を確保するために、代わりの業務を行ってくれる人を雇う費用(バイアウト経費)や、PI自身の人件費を科研費から出すことが可能になっています。

これらも「人件費の弾力的な運用」の一環です。予算超過時の補填とは少し文脈が異なりますが、「科研費=人件費には使いにくい」という古いイメージは払拭されつつあります。

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運営費交付金の「性質」を理解しておく

最後に、財源となる「運営費交付金」の性質についても触れておきます。

ご質問には「使用制限のない経費(運営費交付金等)」とありますが、運営費交付金は確かに使途の自由度は高いものの、大学や研究機関にとっては「虎の子」の基礎的経費です。年々削減傾向にある機関も多く、決して「余っているお金」ではありません。

科研費の不足分を運営費交付金で補填するということは、本来、大学の光熱費や図書館の書籍購入、教育環境の整備などに使われるべきお金を、特定の研究プロジェクトの人件費に回すことを意味します。

そのため、事務担当者としては以下の視点を持つことが重要です。

  1. 安易な補填は避ける: 最初から「足りなくなったら運営費交付金で出せばいい」という計画は推奨されません。あくまで科研費の範囲内でやり繰りするのが原則です。

  2. 学内手続きの確認: 学長や学部長の裁量経費を使うことになる場合が多いため、事前の承認プロセス(補正予算の申請など)が必要になることがあります。勝手に経理担当者の判断で振り替えることはできないケースがほとんどです。

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まとめ:制度は柔軟化したが、管理は引き続き慎重に

2018年当時は「問題がある」とされていた科研費人件費の合算使用や補填は、2025年現在では制度上「可能」になっています。

  • 結論: 遡及支払いや予算超過時に、不足分を運営費交付金等の「使途に制限のない経費」で補填することは認められています。

  • 理由: 競争的研究費の制度改善により、合算使用の制限が大幅に緩和されたためです。

  • 注意点: 大学ごとのローカルルールや会計システムの仕様、従事実績の証明方法については、機関ごとの取り扱いに従う必要があります。

「科研費は使いにくい」という感想は、多くの研究者や事務担当者が抱いていたものでしたが、国もその声を汲み取り、使い勝手を向上させる改革を続けています。最新のルールを正しく理解し、適正かつ柔軟に研究費を運用することで、研究活動を止めることなくサポートしていくことが、今の実務担当者には求められています。

まずは、所属機関の「競争的資金の適正管理に関するガイドライン」や「ハンドブック」の最新版(令和6年度や令和7年度版)を確認してみてください。きっと数年前とは異なる記載が見つかるはずです。

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