旅費法の宿泊料についての解説です。実家や知人宅へ宿泊したときに、宿泊料を支給できるでしょうか。宿泊料は定額支給です。固定宿泊施設を利用しないときも宿泊料が支給されます。しかし実家や知人宅へ宿泊したときは宿泊料は支給できません。
宿泊料の減額調整とは
旅費法(国家公務員等の旅費に関する法律)では、宿泊料の減額調整について具体的に記載されていません。そのため旅費の実務担当者は判断に悩むことがあります。最初に、旅費の減額調整を定めた条文を確認します。
国家公務員等の旅費に関する法律
第四十六条 各庁の長は、旅行者が公用の交通機関、宿泊施設等を利用して旅行した場合(略)には不当に旅行の実費をこえた旅費又は通常必要としない旅費を支給することとなる場合においては、その実費をこえることとなる部分の旅費又はその必要としない部分の旅費を支給しないことができる。
旅費法第四十六条は、次の旅費は支給しないことができると定めています。
不当に旅行の実費をこえた旅費
通常必要としない旅費
旅費法第四十六条は義務ではありません。「・・できる」です。例えば、「・・できない」あるいは「・・しなければならない」なら義務になります。つまり「できる」という表現は、条文を適用しなくても構わないと思ってしまいます。具体例が記載されておらず、任意の条文なので実務上適用すべきなのか判断に苦しむのです。
旅費法の宿泊料は、事務簡素化を目的とした定額支給です。航空賃などの実費支給とは異なります。宿泊料を支払ったときの領収書は提出する必要はありません。宿泊料は、役職や地域毎に定められた一定額(東京都内は10,900円など)を夜数に応じて支給します。
国家公務員等の旅費に関する法律(部分抜粋)
第六条 旅費の種類は、鉄道賃、航空賃、日当、宿泊料・・・とする。
7 宿泊料は、旅行中の夜数に応じ一夜当りの定額により支給する。
実家や知人宅に宿泊したときの宿泊料
では、出張先に自宅や実家があるとき、あるいは知人や友人宅に宿泊した場合、宿泊料は支給されるのでしょうか。
旅費が必要になるのは、通常の勤務場所を離れる場合です。自宅から離れた場所で、ホテルや旅館に宿泊することを想定しています。
例えば、東京で勤務していた人が他県へ単身赴任になったとします。通常の勤務場所である他県から東京へ出張する場合は、ホテルに泊まらず、家族が住む東京の自宅に宿泊するのが普通です。このようなケースでは宿泊料を必要としません。宿泊料が必要ないとき、旅費として受領できるか解説します。
固定宿泊施設に宿泊しない場合とは
旅費法の別表第一には、日当、宿泊料、食卓料についての単価一覧表があります。そして説明書きの備考欄に次の記載があります。
固定宿泊施設に宿泊しない場合には、乙地方に宿泊したものとみなす。
ホテルや旅館などの固定宿泊施設に宿泊しない場合には、乙地方の宿泊料を支給するという規定です。この解釈を誤解してしまうのです。宿泊料は夜数に応じて定額を支給します。固定宿泊施設に宿泊しない場合でも宿泊料が支給できます。つまり実際に宿泊料を支払わなくても夜数に応じて支払いできると勘違いしてしまうのです。
固定宿泊施設に宿泊しない場合とは、例えば野外実験などでテントや車の中で徹夜(車中泊)するようなケースです。野外でも夕食や朝食は必要です。通常のホテルに宿泊するよりも準備が大変です。テントや寝袋、食料、食器などを準備するのに費用がかかります。その分が宿泊料として支給されるのです。
宿泊施設を無料で利用したときは、宿泊料の全額を支給しないと定めた「国家公務員等の旅費に関する法律の運用方針」に次の記載があります。
国家公務員等の旅費に関する法律の運用方針
第四十六条関係(読みやすいように部分抜粋)
旅行者が、宿泊施設を無料で利用して旅行したため正規の宿泊料を支給することが適当でない場合には、宿泊料の全額を支給しないものとする。
つまり自宅や実家、知人や友人宅であれば、普通に考えて無料です。そのため宿泊料は、全額支給しません。実際にはお土産を買ったりするでしょうが、それは個人の気持ちです。手ぶらではお世話になれない、でも、お土産で赤字になるのも嫌だ、と自分勝手に考えるなら、きちんとしたホテルへ宿泊しましょう。
定額支給と実費弁償の判例
旅費法は、実費弁償が原則です。旅費は、実際の交通費などの実費部分と、日当や宿泊料などの定額部分から構成されています。定額部分の解釈についての判決があります。旅費の定額主義による支出の違法性が争われた事件で、東京地裁昭和63年10月25日(昭和62(行ウ)119)の判決です。これは日額旅費の中に交通費が含まれているので、官用車を利用したのなら、交通費相当部分が二重支給になると争われました。当時の判例を抜粋します。二重支給ではないとの判決です。
—-判例の抜粋—
費用の弁償の方法として、費用を要した都度その実費を計算してこれを支給すること(実額方式)は、実費を対象としてこれを弁償するという費用の弁償の本来の建前には忠実であるものの、費用の中には実費の算定が困難なものもあり、また、個々の支出について旅行者に証拠書類の確保を要求し、事務担当者にもその確認の手数の負担を負わせることになつて、当該費用の額や支出の頻度によつてはいたずらに手続を煩雑にし、そのための経費を増大させることになりかねない。
そこで、費用の弁償の方式としては、あらかじめ一定の事由又は場合を定め、それに該当するときに一定額を費用として弁償することとし、各個別の場合に実際に費消した費用がその額より多くとも少なくともそのような個別の事情は考慮しないこととする方式(定額方式)も考えられるところであり、右に述べた、実額方式を採る場合における手続の煩わしさ、経費の増大等といつたその短所を合せ考えると、右の定額方式も、それが社会通念上、実費を対象としてこれを弁償するとの費用弁償の本来の建前を損なうとはいい難いものである限り、地方自治法二〇三条三項の費用弁償の方法としてこれを採用することが許されるものと解すべきである。
実費弁償を本質とすると解される国家公務員の旅費等についても、定額方式が導入されている(旅費法参照)ことも、右見解を支持するものといつてよい。
本件条例七条一項、二項の規定によると、議長が議員として議会や委員会に出席すれば、定額六〇〇〇円の日額旅費が支給されるのであつて、右の出席の際に公用車の利用という事実があつたとしても、その支給が許されないものとはされていない。
そして、右の日額旅費の支給の対象となる職務の内容、支給される金額等のほか、右の日額旅費には、交通費だけではなく少なくともいわゆる日当も含まれるものと解されること(旅費法二六条参照)に鑑みると、右の日額旅費は、右に述べたとおりに支給されるとしても、社会通念上、実費を対象としてこれを弁償するとの費用の弁償の本来の建前を損なうとはいい難いものというべきである。
ものすごく長文で難解ですが、簡単にいえば、定額支給の部分は、ひとつひとつ内容を精査しなくとも、違法とはいえないという解釈です。
自宅で宿泊料支給は会計検査院が不当事項
上述のように、旅費の減額調整は任意規定であること、旅費の定額部分は精査する必要がない判例があることを考えると、自宅や知人宅に宿泊しても、宿泊料を支給できるように思えます。しかし、社会常識として認められません。
会計検査院で不当事項として国会に報告された事例があります。
平成18年度の会計検査院の検査報告
単身赴任している職員が出張の際に自宅に宿泊しているのに宿泊料が支給されていたもの(金融庁)
検査報告の抜粋
単身赴任者が出張の際に自宅に宿泊した場合には、旅費法の規定により宿泊料を支給しないよう調整を行うべきものとされている。したがって、上記の出張者が自宅に宿泊していて宿泊代の支払を必要としていないにもかかわらず、この間の旅費として宿泊料が支給されていたのは適切でなく、3,735,160円が過大に支給されていて不当と認められる。
普通に考えて、自宅や知人宅に宿泊すれば、宿泊料を支払う必要がないのだから減額すべき、という会計検査院の見解が明記されています。これを旅費法に明記して欲しいと個人的に思いますが。
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